ゴブリン飯

布施鉱平

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第二章

33話 ヒナ

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 少女の名前は、『ヒナ』といった。

 今年で三歳になるという。

 驚いたが、考えてみればチロは生後ひと月ちょいである。

 その辺のことを尋ねてみると、ヒナはたどたどしい口調ではあるが、自分の知る限りのことを教えてくれた。

 その結果分かったのが、次のことだ。

 1.ゴブリンは基本的にオスだけの種族であり、他種族のメスに子供を産ませることで増える生き物である。

 2.成長は早く、生まれてから二年もすれば成体になるが、寿命は人間とさほど変わらず80年ほど。
 
 3.外見からチロの年齢を計るのは難しいが、少なくとも成体にはなっているように見えるらしい。


 ……と、ここまで聞いて、チロにはすでに疑問があった。

 一つは、自分には両親らしい存在もなく、生まれ変わってからまだひと月くらいしか経過していないというのに、すでに成体だということ。

 だがこれについては、そもそもチロが『異世界から転生してきた』という訳の分からない存在である以上、気にするだけ無駄なのだろう。

 気になるのは、もうひとつの方。

『ゴブリンは、基本的にオスだけの種族だ』ということだ。

「でも君はメス……女の子、なんだよね」

 チロが尋ねると、ヒナは悲しげにうつむき、「わ、わたしは、出来損ない、だから……」と震える声で答えた。

 ゴブリンが他種族のメスとの間に子をなした場合、生まれるのは必ずゴブリンなのだそうだ。

 それは、相手が人間だろうと、ドワーフだろうと、エルフだろうと変わらない。

 違うのは、人間の母親から生まれれば『手先が器用で応用力に長けた』ゴブリンが生まれ、ドワーフの母親から生まれれば『頑丈で力の強い』ゴブリンが生まれ、エルフの母親から生まれれば『賢くて魔力の強い』ゴブリンが生まれる、ということだった。

 ゴブリンは母親となる種族の『性質』を受け継ぐことで、『より優秀なゴブリン』を作り出す種族なのだ。


 ────だが、例外もある。


 それが、ヒナのように母親の『血』を受け継いで生まれてしまった子供だ。

 血を受け継いでしまった子供は『マガイモノ』と呼ばれ、通常は生まれてすぐに殺されてしまうらしい。

 なぜなら、マガイモノはその肉体が母親の種族に寄ってしまうため、厳密に言えば『ゴブリンではない』からだ。

『より優秀なゴブリン』を生み出すことことこそが種族全体の目的であるゴブリンにとって、『ゴブリンではない』マガイモノが仲間と見なされないのは、当然といえば当然のことだった。

 それでもヒナが殺されることなく生きているのは、ヒナの父親が種族を束ねる族長であり、またヒナのことをちゃんと自分の子供として認め、愛してくれているからなのだそうだ。

「そ、それでもやっぱり、お父さん以外のみんなは、わたしのこと、苦手みたいだから……」

 父親が抜きん出て強い力をもつ族長なので、虐められたりすることはない。

 しかし、自分たちとは違う異質な存在であるヒナと、積極的に仲良くしてくれるゴブリンもいない。

 だから、一緒に遊ぶ友達のいないヒナは、父親が狩りに出ている間は一人で探検をしたりすることが多いのだという。

 おどおどした言動の割に、なかなかアグレッシブな少女だ。

「それで洞窟に入ろうとして、ヒルヒルに襲われてたのか」
「う、うん。怖かった……」

 思い出したのか、また胸の前で手を合わせて震えるヒナの手を、チロが握った。

 するとヒナは、潤んだ瞳でチロを見つめ、

「で、でも……チロに会えて、よかった。チロは、優しいし、すごく……か、かっこいい、から……」

 顔を赤らめながら、そんなことを言った。

 ゴブリンの美的感覚は一体どうなっているんだと思いながらも、美少女に褒められて、悪い気はしないチロであった。
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