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第二章
28話 肉
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「ぬっ、うぐっ、ぐっ…………だはぁっ!」
「キュアァッ、キュアァッ」
金色トカゲ────もとい『キング』との友情が芽生えてから、約三時間後。
チロは三十分かけて移動した距離を、その六倍の時間をかけてようやく戻ってきていた。
なぜそんなに時間がかかったのかといえば、もちろん大蛇の死骸を引きずりながら帰ってきたからである。
と言っても、実際に持ってきたのは尻尾の方から三分の一くらい。
『筋力F』のチロでは、自分を丸呑みにできるような大きさの大蛇をまるまる引きずることなど不可能だったのだ。
頭ではなく尻尾の方だった理由は、上の方には内蔵とか詰まっていてグロかったからである。
「ふぅ……」
一息つき、チロは泉の近くに腰を下ろした。
体には疲労がたまっているが、その心は晴れ晴れとしている。
なにせやっと、ようやく、待ちに待った、念願の、『肉』が手に入ったのだ。
「お前のおかげだな。ありがとう、キング」
「キュアァ」
チロが礼を言うと、金色トカゲのキングが頭の上で誇らしげに鳴いた。
そしてそれと同時に、
くぅっ
と、チロとキングの腹が同時に鳴った。
「さて、じゃあ腹も減ったし…………早速、肉を食うか!」
「キュアァッ」
気合をいれてチロが立ち上がると、キングは頭から飛び降りた。
調理の邪魔にならないようにだろう。
陶製のナイフを手に持ち、大蛇を捌いていく。
全体の三分の一を持ち帰るため切断した時に分かったのだが、鱗はナイフよりも硬く刃が通らないので、まずは鱗を剥がさなければならない。
ナイフで隙間を開けてそこに棒を突っ込み、テコの原理で一枚一枚剥がしていく。
食べる部分だけ剥がし終わると、中の身は柔らかいので、陶製のナイフでも十分に切り裂くことができた。
自分用には拳大の大きさで、キング用にはその四分の一位の大きさで肉を切り出し、木の枝に刺して焚き火の傍に突き立てた。
「…………」
「…………」
じりじりと肉が焼けていく様子を、チロとキングは無言で見続けた。
表面に焼き色が付き、肉汁が滴り落ち、いい匂いが漂ってくるのを、ヨダレを垂らしながら見続けた。
そして────
肉は、焼きあがった。
「いただきます!」
「キュアッ、キュアァッ」
キングの分を皿に乗せてパラリと塩を振ると、チロは自分の肉にも塩を振り、枝に刺さった肉に勢いよく齧り付く。
「…………っ、うまい!」
「キュアァッ」
大蛇の肉は、この世界に来てから食べた、どんなものよりも美味かった。
いや、前世で食べた、どんな肉よりも美味く感じた。
「うまいっ、うまいなぁ、キング」
「キュアッ、キュアッ」
味は鶏のササミに近く、食感はやや弾力のある魚肉のようだ。
実際に食べ比べれば、前世で食べた焼き鳥や、焼肉や、ステーキの方が美味いのかもしれない。
だが、空腹が最高のスパイスであるように、食事をする環境や状況もまた、食べる者の味覚に大きく影響する。
異世界への転生、試行錯誤したスキルの使い方、死を予感したスライムの味、角ウサギへの挑戦と敗北、ヒルヒルとの遭遇、キングとの出会い…………
その全ての経験が、肉を噛み締めるたびに感動すら覚えるような美味さに変化して、チロの舌を、胃を、脳を喜ばせているのだ。
「…………っ!」
「…………ッ!」
二人は夢中で、肉を頬張り続けた。
何度も追加で肉を焼きながら、満腹になって動けなくなるまで、ずっと。
「キュアァッ、キュアァッ」
金色トカゲ────もとい『キング』との友情が芽生えてから、約三時間後。
チロは三十分かけて移動した距離を、その六倍の時間をかけてようやく戻ってきていた。
なぜそんなに時間がかかったのかといえば、もちろん大蛇の死骸を引きずりながら帰ってきたからである。
と言っても、実際に持ってきたのは尻尾の方から三分の一くらい。
『筋力F』のチロでは、自分を丸呑みにできるような大きさの大蛇をまるまる引きずることなど不可能だったのだ。
頭ではなく尻尾の方だった理由は、上の方には内蔵とか詰まっていてグロかったからである。
「ふぅ……」
一息つき、チロは泉の近くに腰を下ろした。
体には疲労がたまっているが、その心は晴れ晴れとしている。
なにせやっと、ようやく、待ちに待った、念願の、『肉』が手に入ったのだ。
「お前のおかげだな。ありがとう、キング」
「キュアァ」
チロが礼を言うと、金色トカゲのキングが頭の上で誇らしげに鳴いた。
そしてそれと同時に、
くぅっ
と、チロとキングの腹が同時に鳴った。
「さて、じゃあ腹も減ったし…………早速、肉を食うか!」
「キュアァッ」
気合をいれてチロが立ち上がると、キングは頭から飛び降りた。
調理の邪魔にならないようにだろう。
陶製のナイフを手に持ち、大蛇を捌いていく。
全体の三分の一を持ち帰るため切断した時に分かったのだが、鱗はナイフよりも硬く刃が通らないので、まずは鱗を剥がさなければならない。
ナイフで隙間を開けてそこに棒を突っ込み、テコの原理で一枚一枚剥がしていく。
食べる部分だけ剥がし終わると、中の身は柔らかいので、陶製のナイフでも十分に切り裂くことができた。
自分用には拳大の大きさで、キング用にはその四分の一位の大きさで肉を切り出し、木の枝に刺して焚き火の傍に突き立てた。
「…………」
「…………」
じりじりと肉が焼けていく様子を、チロとキングは無言で見続けた。
表面に焼き色が付き、肉汁が滴り落ち、いい匂いが漂ってくるのを、ヨダレを垂らしながら見続けた。
そして────
肉は、焼きあがった。
「いただきます!」
「キュアッ、キュアァッ」
キングの分を皿に乗せてパラリと塩を振ると、チロは自分の肉にも塩を振り、枝に刺さった肉に勢いよく齧り付く。
「…………っ、うまい!」
「キュアァッ」
大蛇の肉は、この世界に来てから食べた、どんなものよりも美味かった。
いや、前世で食べた、どんな肉よりも美味く感じた。
「うまいっ、うまいなぁ、キング」
「キュアッ、キュアッ」
味は鶏のササミに近く、食感はやや弾力のある魚肉のようだ。
実際に食べ比べれば、前世で食べた焼き鳥や、焼肉や、ステーキの方が美味いのかもしれない。
だが、空腹が最高のスパイスであるように、食事をする環境や状況もまた、食べる者の味覚に大きく影響する。
異世界への転生、試行錯誤したスキルの使い方、死を予感したスライムの味、角ウサギへの挑戦と敗北、ヒルヒルとの遭遇、キングとの出会い…………
その全ての経験が、肉を噛み締めるたびに感動すら覚えるような美味さに変化して、チロの舌を、胃を、脳を喜ばせているのだ。
「…………っ!」
「…………ッ!」
二人は夢中で、肉を頬張り続けた。
何度も追加で肉を焼きながら、満腹になって動けなくなるまで、ずっと。
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