13 / 64
第一章
13話 強すぎた力の代償
しおりを挟む
ドリンギの毒性は、予想以上に強烈だったようだ。
そしてチロの『毒耐性』も、思っていたより強力だったようだ。
ドリンギの毒は、少し目に入っただけでも角ウサギの体をドロドロに溶かほど強いというのに、チロは舌がピリピリするだけですんでいるのだから、すごいものである。
…………なにはともあれ、角ウサギの肉を食うことは、できなくなってしまった。
正攻法で倒すことができない以上、角ウサギを倒そうとすれば、チロはドリンギの毒を使わざるを得ない。
しかしそれをやってしまえば、角ウサギの体は液状化してしまうのだから、本末転倒である。
チロは角ウサギを倒したいのではなく、肉が食べたいだけなのだ。
もしかしたら、目の前にヘドロ状なってに広がっている『かつて角ウサギだったもの』を飲めば、なんとなく肉の味はするかもしれないが、そういう問題ではない。
飲みたいのではなく、食いたいのだ。
肉を、肉々しく噛み締めたいのだ。
「…………うぅ」
orzと崩れ落ち、チロはうめき声を上げた。
命をかけた挑戦が無為に終わったのだから、致し方のないことだろう。
得られたものといえば、ドリンギの毒と『毒耐性』の効果、そして肉体と精神の疲労感だけだ。
「…………いや、まだだ」
しかし、チロは地面の土ごと拳を握り込むと、呟いた。
「ウサギがいたんだから、探せばリスとか、ネズミとか、もっと弱い生き物だっているかもしれない。それに…………」
と、一度言葉を切り、立ち上がったチロは近くに生えている幅の広い葉を持つ植物に近づくと、その葉っぱをつまんで裏返した。
「…………タンパク質なら、とりあえずは、ある」
葉っぱの裏には、テントウムシの黒丸の部分を全部トゲにしたような、厳つい姿の甲虫がくっついていた。
実は、目立つ外見をしているので、これまでにも探索中に何度か見かけたことがある虫だ。
しかし前世では都会っ子だったチロは、虫があまり好きではない。
いや、むしろ嫌いだった。
見るくらいなら我慢できるが、触りたくなどないし、ましてやそれを食べるなんて狂気の沙汰だと思っていた。
だからこそ、虫はタンパク質が豊富だということを知っていながらも、あえてその存在を無視し続けてきたのだ。
だが、もはや苦手だとか嫌いだとか言っている場合ではない。
ゴブリンの生態がどうなっているのかは知らないが、食事というのは栄養バランスを考えて摂取しなければ、いずれ体を壊してしまうものなのだから。
「肉を手に入れられるようになるまでの、我慢だ」
自分に言い聞かせるように呟くと、チロは葉っぱの裏にくっついているナナホシテントウ────ならぬ『ナナトゲテントウ』を捕まえた。
そして、同じことを何度か繰り返して数匹のトゲテントウを捕まえると、トボトボと自らの住処である池の畔へ帰っていくのだった。
────その夜。
『テントウムシは、鳥でも食わないほどクソ不味い』という前世の知識を、チロは嘔吐とともに思い出し、散々な一日を締めくくることになるのだった。
そしてチロの『毒耐性』も、思っていたより強力だったようだ。
ドリンギの毒は、少し目に入っただけでも角ウサギの体をドロドロに溶かほど強いというのに、チロは舌がピリピリするだけですんでいるのだから、すごいものである。
…………なにはともあれ、角ウサギの肉を食うことは、できなくなってしまった。
正攻法で倒すことができない以上、角ウサギを倒そうとすれば、チロはドリンギの毒を使わざるを得ない。
しかしそれをやってしまえば、角ウサギの体は液状化してしまうのだから、本末転倒である。
チロは角ウサギを倒したいのではなく、肉が食べたいだけなのだ。
もしかしたら、目の前にヘドロ状なってに広がっている『かつて角ウサギだったもの』を飲めば、なんとなく肉の味はするかもしれないが、そういう問題ではない。
飲みたいのではなく、食いたいのだ。
肉を、肉々しく噛み締めたいのだ。
「…………うぅ」
orzと崩れ落ち、チロはうめき声を上げた。
命をかけた挑戦が無為に終わったのだから、致し方のないことだろう。
得られたものといえば、ドリンギの毒と『毒耐性』の効果、そして肉体と精神の疲労感だけだ。
「…………いや、まだだ」
しかし、チロは地面の土ごと拳を握り込むと、呟いた。
「ウサギがいたんだから、探せばリスとか、ネズミとか、もっと弱い生き物だっているかもしれない。それに…………」
と、一度言葉を切り、立ち上がったチロは近くに生えている幅の広い葉を持つ植物に近づくと、その葉っぱをつまんで裏返した。
「…………タンパク質なら、とりあえずは、ある」
葉っぱの裏には、テントウムシの黒丸の部分を全部トゲにしたような、厳つい姿の甲虫がくっついていた。
実は、目立つ外見をしているので、これまでにも探索中に何度か見かけたことがある虫だ。
しかし前世では都会っ子だったチロは、虫があまり好きではない。
いや、むしろ嫌いだった。
見るくらいなら我慢できるが、触りたくなどないし、ましてやそれを食べるなんて狂気の沙汰だと思っていた。
だからこそ、虫はタンパク質が豊富だということを知っていながらも、あえてその存在を無視し続けてきたのだ。
だが、もはや苦手だとか嫌いだとか言っている場合ではない。
ゴブリンの生態がどうなっているのかは知らないが、食事というのは栄養バランスを考えて摂取しなければ、いずれ体を壊してしまうものなのだから。
「肉を手に入れられるようになるまでの、我慢だ」
自分に言い聞かせるように呟くと、チロは葉っぱの裏にくっついているナナホシテントウ────ならぬ『ナナトゲテントウ』を捕まえた。
そして、同じことを何度か繰り返して数匹のトゲテントウを捕まえると、トボトボと自らの住処である池の畔へ帰っていくのだった。
────その夜。
『テントウムシは、鳥でも食わないほどクソ不味い』という前世の知識を、チロは嘔吐とともに思い出し、散々な一日を締めくくることになるのだった。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。
「私ね、皆を守りたいの」
幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/20……完結
2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位
2022/02/14……アルファポリスHOT 62位
2022/02/14……連載開始
異世界ハーレム漫遊記
けんもも
ファンタジー
ある日、突然異世界に紛れ込んだ主人公。
異世界の知識が何もないまま、最初に出会った、兎族の美少女と旅をし、成長しながら、異世界転移物のお約束、主人公のチート能力によって、これまたお約束の、ハーレム状態になりながら、転生した異世界の謎を解明していきます。
もうすぐ死ぬ悪女に転生してしまった 生き残るために清楚系美女を演じていたら聖女に選ばれました
来須みかん
ファンタジー
父に頬を激しく打たれた瞬間にメアリーは前世の記憶を思い出した。ここは前世にハマっていた乙女ゲームの世界で、自分は主人公を陥れる悪女メアリーだった。
やり直したくても、もう全てが遅く、明日になれば身に覚えのない殺害未遂容疑でメアリーは拘束されてしまう。
「とりあえず、生き残ろう……まず、それだ」
毒々しい悪女メアリーが、前世の記憶を使い、清楚系美女を演じて媚びて好かれて、時々、癒して救って、乙女ゲームの世界を変えるお話。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
私はヒロインを辞められなかった……。
くーねるでぶる(戒め)
恋愛
私、砂川明は乙女ゲームのヒロインに転生した。どうせなら、逆ハーレムルートを攻略してやろうとするものの、この世界の常識を知れば知る程……これ、無理じゃない?
でもでも、そうも言ってられない事情もあって…。ああ、私はいったいどうすればいいの?!
始まりは最悪でも幸せとは出会えるものです
夢々(むむ)
ファンタジー
今世の家庭環境が最低最悪な前世の記憶持ちの少女ラフィリア。5歳になりこのままでは両親に売られ奴隷人生まっしぐらになってしまうっっ...との思いから必死で逃げた先で魔法使いのおじいさんに出会い、ほのぼのスローライフを手に入れる............予定☆(初投稿・ノープロット・気まぐれ更新です(*´ω`*))※思いつくままに書いているので途中書き直すこともあるかもしれません(;^ω^)
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる