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第一章
8話 下等生物の逆襲
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「……………………」
チロは、槍を構えることも忘れ、呆然としていた。
目の前には、この世界に転生して初めて見る『生物』がいる。
水色で、
透き通っていて、
地面をヌルヌルとゆっくり移動している、粘液状の物体。
そう────スライムだ。
「これは……あれだな、リアル系のスライムだな」
その見た目は某有名RPGに出てくるようなオッパ○形のスライムではなく、ハリウッド映画とかに出てくるような人間を溶かす系のスライムだった。
愛嬌などはまるでなく、まさに動く粘液といった感じである。
となると、敵を認識した瞬間にしてくる行動は体当たりとかではないだろう。
むしろもっといやらしい感じの、毒とか溶解液とかを吐きかけてくるタイプだ。
毒ならば大丈夫だろうが、溶解液だと洒落にならないので、チロは木の幹を盾にしながらスライムを槍の反対側でつついてみた。
…………特に、反応する気配はない。
何かを吐きかけてくるでもなく、急に素早く動いて襲いかかってくるでもなく、同じ方向に、進んでいるとも言えないような速度で、ゆっくりと移動を続けるだけである。
ならばと意を決して、チロは素手でスライムに触れてみることにした。
もしかしたら、触れた瞬間に指が溶かされるかもしれないと思いながらも、恐る恐る触ってみる。
ぷにっ
「…………」
指は溶けなかった。
そしてスライムの感触は思ったよりもゲルっぽくはなく、むしろしっかりとした弾力があった。
例えるなら……そう、壁に投げてくっつけて遊ぶおもちゃみたいな感じだろうか。
チロはあれの正式名称を知らないので曖昧な感想になってしまったが、ともかくそんな感じだ。
「…………えや」
観察していてもらちがあかないので、チロはスライムを槍で突いた。
すると陶製の穂先はあっさりと突き刺さり、ほんの数秒でスライムは動かなくなった。
超弱い。
こんなの倒しても経験値なんて入らないだろう、と思うくらいに弱い。
「…………」
そのスライムの死体(?)を前に、チロは思案する。
もちろん、スライムを食うか否かだ。
数分間、チロはスライムの死骸を見つめ続け────
────結局、食うことにした。
ぱっと見は陸に打ち上げられたクラゲのようだし、クラゲが食えるのだからスライムも食えるんじゃないかと思ったのだ。
それに生き物である以上、タンパク質があるかもしれない。
望んでいた肉とは違うが、これもまた経験である。
チロは陶製ナイフでスライムの端を切り取ると、口の中に放り込んだ。
「…………」
滑らかな舌触り。
クニクニとした食感。
味は……
クニクニクニクニクニクニクニ……
味は、なかった。
どれだけ噛んでも、舌に刺激が来ない。
鼻に抜ける匂いも皆無。
完全に無味無臭である。
これでは、栄養も期待できないだろう。
クニクニクニクニクニクニムニムニムニムニ……
(…………ん?)
だが、噛み続けていると、食感が微妙に変わってきた。
ムニムニムニムニウニョウニョウニョウニョウニョ……
(…………うん?)
ウニョウニョウニョウニョウニョムッタムッタムッタムッタムッタ……
(………………うん……)
ムッタムッタムッタムッタムッタニッチャニッチャニッチャニッチャ……
(………………………………)
ニッチャニッチャニッチャニッチャグッチャグッチャグッチャグッチャ……
「…………っ!? オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
(っ!?!?!?!?!?)
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
苦い!
いやすっぱい!
でもほんのり甘い!?
そしてドブ臭い!
しかもボンドみたいに粘ついて、歯や舌や喉に絡みつく!
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
……………………
「はーっ、はーっ、はーっ……」
…………
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
チロは、槍を構えることも忘れ、呆然としていた。
目の前には、この世界に転生して初めて見る『生物』がいる。
水色で、
透き通っていて、
地面をヌルヌルとゆっくり移動している、粘液状の物体。
そう────スライムだ。
「これは……あれだな、リアル系のスライムだな」
その見た目は某有名RPGに出てくるようなオッパ○形のスライムではなく、ハリウッド映画とかに出てくるような人間を溶かす系のスライムだった。
愛嬌などはまるでなく、まさに動く粘液といった感じである。
となると、敵を認識した瞬間にしてくる行動は体当たりとかではないだろう。
むしろもっといやらしい感じの、毒とか溶解液とかを吐きかけてくるタイプだ。
毒ならば大丈夫だろうが、溶解液だと洒落にならないので、チロは木の幹を盾にしながらスライムを槍の反対側でつついてみた。
…………特に、反応する気配はない。
何かを吐きかけてくるでもなく、急に素早く動いて襲いかかってくるでもなく、同じ方向に、進んでいるとも言えないような速度で、ゆっくりと移動を続けるだけである。
ならばと意を決して、チロは素手でスライムに触れてみることにした。
もしかしたら、触れた瞬間に指が溶かされるかもしれないと思いながらも、恐る恐る触ってみる。
ぷにっ
「…………」
指は溶けなかった。
そしてスライムの感触は思ったよりもゲルっぽくはなく、むしろしっかりとした弾力があった。
例えるなら……そう、壁に投げてくっつけて遊ぶおもちゃみたいな感じだろうか。
チロはあれの正式名称を知らないので曖昧な感想になってしまったが、ともかくそんな感じだ。
「…………えや」
観察していてもらちがあかないので、チロはスライムを槍で突いた。
すると陶製の穂先はあっさりと突き刺さり、ほんの数秒でスライムは動かなくなった。
超弱い。
こんなの倒しても経験値なんて入らないだろう、と思うくらいに弱い。
「…………」
そのスライムの死体(?)を前に、チロは思案する。
もちろん、スライムを食うか否かだ。
数分間、チロはスライムの死骸を見つめ続け────
────結局、食うことにした。
ぱっと見は陸に打ち上げられたクラゲのようだし、クラゲが食えるのだからスライムも食えるんじゃないかと思ったのだ。
それに生き物である以上、タンパク質があるかもしれない。
望んでいた肉とは違うが、これもまた経験である。
チロは陶製ナイフでスライムの端を切り取ると、口の中に放り込んだ。
「…………」
滑らかな舌触り。
クニクニとした食感。
味は……
クニクニクニクニクニクニクニ……
味は、なかった。
どれだけ噛んでも、舌に刺激が来ない。
鼻に抜ける匂いも皆無。
完全に無味無臭である。
これでは、栄養も期待できないだろう。
クニクニクニクニクニクニムニムニムニムニ……
(…………ん?)
だが、噛み続けていると、食感が微妙に変わってきた。
ムニムニムニムニウニョウニョウニョウニョウニョ……
(…………うん?)
ウニョウニョウニョウニョウニョムッタムッタムッタムッタムッタ……
(………………うん……)
ムッタムッタムッタムッタムッタニッチャニッチャニッチャニッチャ……
(………………………………)
ニッチャニッチャニッチャニッチャグッチャグッチャグッチャグッチャ……
「…………っ!? オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
(っ!?!?!?!?!?)
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
苦い!
いやすっぱい!
でもほんのり甘い!?
そしてドブ臭い!
しかもボンドみたいに粘ついて、歯や舌や喉に絡みつく!
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
……………………
「はーっ、はーっ、はーっ……」
…………
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロッ!」
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