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異世界の勇者
第一話、勇者の望むもの
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「勇者よ! 此度の魔王討伐、誠に大義であった!」
「はっ」
煌びやかな装飾に彩られた王座の間。
一段高い場所に座すエーギル王国の国王、エーギル13世の言葉に、片膝をついたひとりの青年が答えた。
「勇者よ、我が国はお主に返しきれぬ恩を受けた。一国の王として、国の受けた恩義には報いねばならぬ。
そこで、お主に贈り物があるのだ。…………コーネリア!」
「…………はい、お父様」
王の呼び声に応え、現れたのは絶世の美少女。
透き通るような白い肌と、絹のような金色の髪、そして空のように青い瞳を持つこの少女こそ、エーギル王国の第一王女、コーネリア姫その人だった。
「勇者よ、お主には国の宝であるわが娘、コーネリアを授けよう」
おぉぉっ、と王座の間に立ち並ぶ貴族たちから声が漏れる。
それもその筈、男の世継ぎを持たぬエーギル王国の第一王女を娶るということは、つまり王位継承権第一位を授かるのに等しいのだ。
勇者が立ち上がり、コーネリア姫の方を見る。
視線を向けられたコーネリア姫はその白い頬を薔薇色に染め、はにかむように微笑んだ。
誰もが理解した。
エーギル王国に新しい時代が来たのだと。
魔王を倒した勇者が統治し、その傍らに絶世の美姫が華を添える、黄金の時代が到来したのだと。
皆の期待を一心に背負い、勇者が口を開いた。
「とてもありがたい申し出なのですが…………僕としては是非、そちらの女性をいただきたいと思います」
「…………ん?」
「…………え?」
王と姫が同時に疑問の声を上げる。
そして、勇者が指し示す方向に目を向けた。
そこに立っていたのは、コーネリア姫を凌駕する美貌の持ち主…………ではない。
ただのメイドだった。
長い黒髪という、この世界の女性としては最もポピュラーな髪を三つ編みにし、あまり特徴のない顔立ちにはワンポイントとして丸メガネを装備している。
胸は大きいが、その重みのせいかやや垂れ気味であり、体のラインもコーネリア姫に比べれば胴体の部分が太めであった。
ぶっちゃけ、胸が大きいことを加味したとしても、どこにでもいるような女だったのである。
驚いているのは、この国の支配者父娘だけではない。
指名された当の本人────王宮でメイドとして働くメイにしても、晴天の霹靂であった。
「え…………えぇっ!? わ、私ですか!?」
多分なにかの間違いだろうと思って、メイは勇者に確認した。
だが、返ってきたのはいい笑顔と大きな頷き。
どうやら、勇者が求めているのは間違いなく自分なのだと理解し、メイは体中から血の気が引いていくのを感じた。
「ちょ、ちょっと待て、勇者よ!」
納得できないのはエーギル13世である。
勇者が指名したのは外見がパッとしない上に、確かどこぞの男爵の五女とかいう政略結婚的にもまるで旨みのない少女なのだ。
このままでは、この国一番の美少女である自分の娘を娶らせてまで、『魔王を倒した勇者』という外交的切り札を手に入れようとした計画が水の泡になってしまう。
「そ、そうだ勇者よ。コーネリアを正妃として、この…………なんとかというメイドは妾にしてはどうだ? ん? それに、この国の王になればこのくらいの女など…………コホン、ど、どのような女性でも好きにハーレムに迎え入れることができるのだぞ?」
頬を引きつらせながら、女衒かポン引きのように女で勇者を釣ろうとするエーギル13世。
しかし勇者は、
「あー…………すいません、正直言って、コーネリア姫はあまり好みじゃないんです」
そう、悪びれもせずハッキリと言い放った。
ショックで気を失い、崩れ落ちるコーネリア姫。
「コ、コーネリア!? だ、誰か回復魔法を使える神官を! 誰か早く!」
一気に王座の間が慌ただしくなる。
そんな中、勇者は普通に歩いてメイの前に立った。
「さ、それじゃ行きましょうか」
「え、あ、あの、その、私…………」
キョドるメイ。
だが、勇者はにっこりと微笑むとメイの手を取ると、
「空間転移」
誰にも何も告げず、メイとともに王座の間から姿を消したのだった。
「はっ」
煌びやかな装飾に彩られた王座の間。
一段高い場所に座すエーギル王国の国王、エーギル13世の言葉に、片膝をついたひとりの青年が答えた。
「勇者よ、我が国はお主に返しきれぬ恩を受けた。一国の王として、国の受けた恩義には報いねばならぬ。
そこで、お主に贈り物があるのだ。…………コーネリア!」
「…………はい、お父様」
王の呼び声に応え、現れたのは絶世の美少女。
透き通るような白い肌と、絹のような金色の髪、そして空のように青い瞳を持つこの少女こそ、エーギル王国の第一王女、コーネリア姫その人だった。
「勇者よ、お主には国の宝であるわが娘、コーネリアを授けよう」
おぉぉっ、と王座の間に立ち並ぶ貴族たちから声が漏れる。
それもその筈、男の世継ぎを持たぬエーギル王国の第一王女を娶るということは、つまり王位継承権第一位を授かるのに等しいのだ。
勇者が立ち上がり、コーネリア姫の方を見る。
視線を向けられたコーネリア姫はその白い頬を薔薇色に染め、はにかむように微笑んだ。
誰もが理解した。
エーギル王国に新しい時代が来たのだと。
魔王を倒した勇者が統治し、その傍らに絶世の美姫が華を添える、黄金の時代が到来したのだと。
皆の期待を一心に背負い、勇者が口を開いた。
「とてもありがたい申し出なのですが…………僕としては是非、そちらの女性をいただきたいと思います」
「…………ん?」
「…………え?」
王と姫が同時に疑問の声を上げる。
そして、勇者が指し示す方向に目を向けた。
そこに立っていたのは、コーネリア姫を凌駕する美貌の持ち主…………ではない。
ただのメイドだった。
長い黒髪という、この世界の女性としては最もポピュラーな髪を三つ編みにし、あまり特徴のない顔立ちにはワンポイントとして丸メガネを装備している。
胸は大きいが、その重みのせいかやや垂れ気味であり、体のラインもコーネリア姫に比べれば胴体の部分が太めであった。
ぶっちゃけ、胸が大きいことを加味したとしても、どこにでもいるような女だったのである。
驚いているのは、この国の支配者父娘だけではない。
指名された当の本人────王宮でメイドとして働くメイにしても、晴天の霹靂であった。
「え…………えぇっ!? わ、私ですか!?」
多分なにかの間違いだろうと思って、メイは勇者に確認した。
だが、返ってきたのはいい笑顔と大きな頷き。
どうやら、勇者が求めているのは間違いなく自分なのだと理解し、メイは体中から血の気が引いていくのを感じた。
「ちょ、ちょっと待て、勇者よ!」
納得できないのはエーギル13世である。
勇者が指名したのは外見がパッとしない上に、確かどこぞの男爵の五女とかいう政略結婚的にもまるで旨みのない少女なのだ。
このままでは、この国一番の美少女である自分の娘を娶らせてまで、『魔王を倒した勇者』という外交的切り札を手に入れようとした計画が水の泡になってしまう。
「そ、そうだ勇者よ。コーネリアを正妃として、この…………なんとかというメイドは妾にしてはどうだ? ん? それに、この国の王になればこのくらいの女など…………コホン、ど、どのような女性でも好きにハーレムに迎え入れることができるのだぞ?」
頬を引きつらせながら、女衒かポン引きのように女で勇者を釣ろうとするエーギル13世。
しかし勇者は、
「あー…………すいません、正直言って、コーネリア姫はあまり好みじゃないんです」
そう、悪びれもせずハッキリと言い放った。
ショックで気を失い、崩れ落ちるコーネリア姫。
「コ、コーネリア!? だ、誰か回復魔法を使える神官を! 誰か早く!」
一気に王座の間が慌ただしくなる。
そんな中、勇者は普通に歩いてメイの前に立った。
「さ、それじゃ行きましょうか」
「え、あ、あの、その、私…………」
キョドるメイ。
だが、勇者はにっこりと微笑むとメイの手を取ると、
「空間転移」
誰にも何も告げず、メイとともに王座の間から姿を消したのだった。
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