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告白
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「…………」
「…………」
アマンダさんと僕は、玄関で無言のまま見つめ合っていた。
アマンダさんは相変わらずの無表情で、その凛々しい顔から感情を読み取ることはできない。
でも、それに対する僕はといえば、心臓が飛び出るくらいにドキドキと胸を高鳴らせていた。
もしかしたら、もう会えないかもしれないと思っていたのだ。
だって、家具もほとんどないアマンダさんの家は寝に帰るだけの仮住まいにしか見えなかったし、事実、アマンダさんはここだけではなく他の様々な国で活躍している人だからだ。
それにもし、アマンダさんがこの街にしばらく滞在するのだとしても、一度抱いてもらっただけの関係でしかない一般人の僕が、それを理由に世界的な英雄であるアマンダさんを訪ねていくのはあまりにも図々しい。
めんどくさい男だとか、金や地位目当ての男だなんて思われたくなかった。
だからきっと、僕は自分からアマンダさんに会いに行くことなんてできなかっただろう。
それなのに、まさかアマンダさんのほうから僕を訪ねてきてくれるなんて……
嬉しさと、戸惑いと、驚きがごちゃ混ぜになったような、自分でも理解できない感情が体の奥から湧き上がってくる。
「……大丈夫か?」
「えっ……? あ、あれ、おかしいな……」
気づけば、僕は泣いていた。
こんな顔をアマンダさんには見られたくなくて、下を向いて必死に目を擦る。
でも、涙はどれだけ拭っても、後から後から溢れ出してきて、いっこうに止まる気配がない。
「……私が、怖かったのか?」
俯いて涙を流す僕の上から、アマンダさんの心配そうな声が降ってきた。
顔を上げると、そこには少しだけ悲しげな表情をしたアマンダさんの顔が見えて────
「そんなことありませんっ!」
僕は、思わず叫んでいた。
いつも凛々しいアマンダさんが、僕のせいでそんな表情をしているのが悲しくて、悔しくて、叫ばずにはいられなかったのだ。
「僕は……っ、アマンダさんにまた会えたのが、すごく嬉しくて……ひぐっ……でも、いきなりだったから、びっくりして……それで……うぅ……っ」
けど、情けない僕は結局しゃくり上げるばかりで、自分の気持ちすらちゃんと伝えることもできないでいた。
それなのに……
「……そうか…………なら、よかった」
アマンダさんは、ほのかに微笑みながら、そう言って僕の頭を撫でてくれた。
優しい。
…………嬉しいっ。
「う…………うわぁぁあああああん! アマンダさぁぁあああああんっ!」
そして、感情の蓋が決壊した僕は、大声で泣きながらアマンダさんに抱きついてしまったのだった。
◇
「……落ち着いたか?」
「う、うぅ……っ、ぐすっ……す、すいません、いきなり泣いたりなんかして……」
情けなくも泣き出してしまった、その後。
僕は初めて会った時のように、アマンダさんに『王子様抱っこ』をされながらリビングへと運ばれていた。
本当なら冷たいお茶でも出しておもてなししたいところなんだけど、それはできそうにない。
なぜなら、アマンダさんが僕を抱きかかえたまま、椅子に腰掛けてしまったからだ。
少し嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
でも、アマンダさんの逞しい腕と柔らかな胸に包まれていると、それだけでなんだか幸せな気持ちになってしまって、「下ろしてください」という言葉は頭に浮かんですら来なかった。
「……君の名前は、リュートと言うんだな」
僕を抱きかかえたまま、アマンダさんが静かな声でそう聞いてきた。
きっと、僕のことを探してくれている時に、誰かから名前を聞いたんだろう。
「はい……あっ、すいませんでした……あの時は、名乗りもせずに黙って出て行ってしまって……」
あの日のことを思い出して顔を熱くしながら、僕はアマンダさんに心から謝った。
「……いや、リュートが謝る必要はない。……それよりも聞きたいのは……あの日、リュートが私に抱かれたのは、二人連れの冒険者たちから助けた礼としてか?」
「それは……」
言いかけて、僕は言葉に詰まった。
確かに最初はそのつもりだったのだ。
でも、途中から……いや、たぶん初めて見た時から、僕は強くて、優しくて、かっこいいアマンダさんのことが……
「……好き、だからです」
「…………」
……言った。
「僕なんかじゃ、アマンダさんに全然釣り合わないことはわかってます。でも、それでも僕は、アマンダさんのことが好きなんですっ! 好きになってしまったんですっ!」
僕はとうとう、自分の気持ちをアマンダさんに伝えた。
情けなくて泣き虫な僕だけど、ちゃんと好きな人の目を見て、自分の言葉で好きだと言うことができたんだ。
だから、たとえどんな答えが返ってきたとしても、僕はもう泣いたりしない。
僕は覚悟を決めて、アマンダさんの返事を待った。
アマンダさんの青い瞳が、何かを決意したような光を帯びて、そして────
────ちゅっ
「!!!?」
ちゅるっ、むちゅっ、れろっ、ちゅぅぅぅぅぅっ
「んぅっ!? …………んっ、ふっ、ちゅっ、ちゅぅっ……♡」
アマンダさんからの返答は、貪るようなキスだった。
「…………」
アマンダさんと僕は、玄関で無言のまま見つめ合っていた。
アマンダさんは相変わらずの無表情で、その凛々しい顔から感情を読み取ることはできない。
でも、それに対する僕はといえば、心臓が飛び出るくらいにドキドキと胸を高鳴らせていた。
もしかしたら、もう会えないかもしれないと思っていたのだ。
だって、家具もほとんどないアマンダさんの家は寝に帰るだけの仮住まいにしか見えなかったし、事実、アマンダさんはここだけではなく他の様々な国で活躍している人だからだ。
それにもし、アマンダさんがこの街にしばらく滞在するのだとしても、一度抱いてもらっただけの関係でしかない一般人の僕が、それを理由に世界的な英雄であるアマンダさんを訪ねていくのはあまりにも図々しい。
めんどくさい男だとか、金や地位目当ての男だなんて思われたくなかった。
だからきっと、僕は自分からアマンダさんに会いに行くことなんてできなかっただろう。
それなのに、まさかアマンダさんのほうから僕を訪ねてきてくれるなんて……
嬉しさと、戸惑いと、驚きがごちゃ混ぜになったような、自分でも理解できない感情が体の奥から湧き上がってくる。
「……大丈夫か?」
「えっ……? あ、あれ、おかしいな……」
気づけば、僕は泣いていた。
こんな顔をアマンダさんには見られたくなくて、下を向いて必死に目を擦る。
でも、涙はどれだけ拭っても、後から後から溢れ出してきて、いっこうに止まる気配がない。
「……私が、怖かったのか?」
俯いて涙を流す僕の上から、アマンダさんの心配そうな声が降ってきた。
顔を上げると、そこには少しだけ悲しげな表情をしたアマンダさんの顔が見えて────
「そんなことありませんっ!」
僕は、思わず叫んでいた。
いつも凛々しいアマンダさんが、僕のせいでそんな表情をしているのが悲しくて、悔しくて、叫ばずにはいられなかったのだ。
「僕は……っ、アマンダさんにまた会えたのが、すごく嬉しくて……ひぐっ……でも、いきなりだったから、びっくりして……それで……うぅ……っ」
けど、情けない僕は結局しゃくり上げるばかりで、自分の気持ちすらちゃんと伝えることもできないでいた。
それなのに……
「……そうか…………なら、よかった」
アマンダさんは、ほのかに微笑みながら、そう言って僕の頭を撫でてくれた。
優しい。
…………嬉しいっ。
「う…………うわぁぁあああああん! アマンダさぁぁあああああんっ!」
そして、感情の蓋が決壊した僕は、大声で泣きながらアマンダさんに抱きついてしまったのだった。
◇
「……落ち着いたか?」
「う、うぅ……っ、ぐすっ……す、すいません、いきなり泣いたりなんかして……」
情けなくも泣き出してしまった、その後。
僕は初めて会った時のように、アマンダさんに『王子様抱っこ』をされながらリビングへと運ばれていた。
本当なら冷たいお茶でも出しておもてなししたいところなんだけど、それはできそうにない。
なぜなら、アマンダさんが僕を抱きかかえたまま、椅子に腰掛けてしまったからだ。
少し嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
でも、アマンダさんの逞しい腕と柔らかな胸に包まれていると、それだけでなんだか幸せな気持ちになってしまって、「下ろしてください」という言葉は頭に浮かんですら来なかった。
「……君の名前は、リュートと言うんだな」
僕を抱きかかえたまま、アマンダさんが静かな声でそう聞いてきた。
きっと、僕のことを探してくれている時に、誰かから名前を聞いたんだろう。
「はい……あっ、すいませんでした……あの時は、名乗りもせずに黙って出て行ってしまって……」
あの日のことを思い出して顔を熱くしながら、僕はアマンダさんに心から謝った。
「……いや、リュートが謝る必要はない。……それよりも聞きたいのは……あの日、リュートが私に抱かれたのは、二人連れの冒険者たちから助けた礼としてか?」
「それは……」
言いかけて、僕は言葉に詰まった。
確かに最初はそのつもりだったのだ。
でも、途中から……いや、たぶん初めて見た時から、僕は強くて、優しくて、かっこいいアマンダさんのことが……
「……好き、だからです」
「…………」
……言った。
「僕なんかじゃ、アマンダさんに全然釣り合わないことはわかってます。でも、それでも僕は、アマンダさんのことが好きなんですっ! 好きになってしまったんですっ!」
僕はとうとう、自分の気持ちをアマンダさんに伝えた。
情けなくて泣き虫な僕だけど、ちゃんと好きな人の目を見て、自分の言葉で好きだと言うことができたんだ。
だから、たとえどんな答えが返ってきたとしても、僕はもう泣いたりしない。
僕は覚悟を決めて、アマンダさんの返事を待った。
アマンダさんの青い瞳が、何かを決意したような光を帯びて、そして────
────ちゅっ
「!!!?」
ちゅるっ、むちゅっ、れろっ、ちゅぅぅぅぅぅっ
「んぅっ!? …………んっ、ふっ、ちゅっ、ちゅぅっ……♡」
アマンダさんからの返答は、貪るようなキスだった。
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みんなの感想(7件)
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どこまでも醜い と 女戦士 どっちも読みたいです。
両方更新してくれるとうれしい!!
高梨 克則さん、感想ありがとうございます。
はいっ! すいませんっ!
本当にすいません!
ずっとほったらかしにしちゃって、ほんと、ねぇ。
申し訳ないとしか言えないです。
か、書きます!
頑張って書きますっ!
そのためにも、一回自分で読み直します!
大女最高です。本当に最高です
クーファさん、感想ありがとうございます。
長らく更新せずに申し訳ない。
現在、メインで書いている『どこまでも醜い私は~』の展開やなんかを考えるのにエネルギーと時間を吸い取られ、他の連載もののストーリーを考えられずにおります。
大女好きの同士には、本当に申し訳ない次第です。
すみません、今ハマってしまいました!
まだ続きは書いてもらえるのでしょうか?この四角関係はどうなってしまうのか気になって仕方がないのです(//∇//)
naomaoさん、感想ありがとうございます。
そして更新せずに申し訳ありません。
なんだかんだあって半年ほどのブランクがあるのですが、メインで書いてる『どこまでも~』以外の作品も、近いうちに書いていこうとは思っております。
思っているばかりで、なかなか筆は進まないのですが……
お待たせしてばかりで、本当に申し訳ありませんです。