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少年期・学園編

2-2 魔王様、武術でやらかす

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「それでは、解答始め」

 よよよ、よし。頑張るぞ。


 どうやら受験人数が多いため、三班に分かれて別々に試験をやっているらしい。

 俺は座学→武術→魔法の順番で試験を受けることになった。

 これはかなりラッキーだな。
 記憶力が関係ある座学を最初にできるのは、大きなアドバンテージと言えるだろう。

 見たところ特に難易度が高い問題もなさそうだ。
 ケアレスミスを無くしていけば、高得点を取るのも夢じゃないぞ!

「あ、魔法と魔術の違いを例を交えながら説明しなさい。自然魔法と魔術の根本的な違いを答えなさい。おぅ! スラスラ解けるぞ!」

 小声で呟きながら、心の中でガッツポーズをした。
 ちゃんと予習しておいたところが、出題されるときの嬉しさったら最高だな。

「歴史もかなり勉強したし、数学はまだ算数レベルだから楽勝だな。ベクトルの計算とか求められたら白目になりそうだったが、かけ算割り算まででよかった。言語はなぜか日本語に見えるから余裕。このままなら合格できるかもな。ホッ」

 少し気を張りつめ過ぎたかもしれない。
 難しく考えていたが、これから新しいことを学んでいくんだ。ここで求められるのは基礎的な内容なんだろう。


「試験終了! 解答やめ!」

 おっと、勢いで羽ペンを机に置いてしまった。
 インクのところに挿して置かないとな。

「では、君たちは次に武術実技を受けてもらう。もちろん全員受けてもらうが、武術実技で合格を狙っていない者は途中で棄権しても構わないから、無理はしないように。次の魔法実技で合格を狙っている者は特にだな」

 教員の指示を聞いて一同はグラウンドに移動した。
 そこには前の班の最後の一人、姉のアイリスが鎧を纏った男性と剣を交えていた。

「そこまで! なかなか筋が良い。将来は立派な騎士になれそうだ」

「は、はい。ありがとうございました!」

 あれ、なんか俺の中の何かが騒いでいる。

 あの男の剣技、少ししか見られなかったが、知っている流派の剣技にそっくりだった。

 そう、あれは勇者の従者だった女騎士の剣技だ。あの女騎士は技の精度よりも威力を重視していたようだが、この男は技を磨いてきたという印象が強い。

 これが血が騒ぐというやつだな!
 もうあいつと戦いたくてたまらない!

「あ、エルく~ん! お姉ちゃん頑張ったよ! でもお姉ちゃんじゃ、この強い人に勝てなかったからエル君仇をとってね! オ・ネ・ガ・イ・ネ!」

 あー、こいつは 母さん エリーゼの子供だったな。
 まあいいや、言われずとも全力でぶつかってやる。

「ああ、アイリスも残りの魔法と座学。真面目に頑張りなよー」

「う、そこそこ頑張るよ。じゃあね!」


 少し説明を受けた後、体力に自信がある者と腕に自信がある者と、棄権組の三つに分かれた。

 体力の方は、学園側のスペシャルコースに耐え抜いたら合格らしい。走ったり、筋トレしたりだな。キツイらしいから俺には無理だろう。

 そして腕に自信がある者は、教官と模擬戦の形で実力を示すようだ。

「今回の受験では国王陛下が視察に訪れています。そして特別に、腕に自信がある者は近衛騎士団長のモール様と戦うことができますよ! 皆さんはラッキーですね!」

 さっきアイリスが手合わせしていた、三十代後半くらいの人がモールらしい。

 近衛騎士団長になら、全力で向かっていっても軽くあしらわれるだけで終わりそうだが、やるだけやってみよう。

「モールだ。半端な覚悟で俺と手合わせしたら死ぬからな。相当自信のあるやつ以外はやめておけ」

 あー、俺、自信はないわ。

 だがまあ、あのアイリスでも大丈夫だったし、アイリスくらいなら俺でも勝てるレベルだから大丈夫だろう。

 あ、いや、体格差とか問題かもしれない。
 さすがに重い一撃くらったら、吹き飛ばされる未来しか見えないな。


「では試験を開始する」

 槍を武器にしている受験生が、槍を持っている先生と戦い始めた。
 それを皮切りに各々手が空いている先生の元へ行き、戦闘を始めていく。

 俺はちょっと様子を見ていたが、モールの元へ行く受験生は一人もいない。


「さっきの班ではモール様に挑まれたのはお二人でしたね。どうでしたか?」

「最初の少年は弱過ぎて半殺しにしちまったが、さっきの少女はなかなか楽しめたな。あいつは将来化けそうだ。近衛騎士団に入ってくるかもな。楽しみだ」

 モールと近くの先生の会話を聞いて、俺はポカンとしていた。

 え、あのアイリスが騎士団に入る?

 いやー、ナイナイ。アイリス弱いぞ?

 そうか、これはきっと逆のことを言って馬鹿にしているんだ。

 弱過ぎて話にならなかったから、強かったとか言って笑いものにする気だな?

 アイリスはあんな姉だが、馬鹿にされるのを黙っているわけにはいかない。

 よし。あの野郎、ぶちのめしてやる。


 と、エルリックは勘違いに勘違いを重ねて腹を立ててしまっていた。


「すみません。手合わせお願いできますかね?」

「いやいや君。モール様を相手にしたら死んじゃうよ? さっきだって半死半生の怪我人が出たくらいだからね? まだ小さいんだから、やめとき・・・」

「いいぞ。戦おう。俺はこの学園出身だ。身分や見た目、年齢で差別はしない。俺に挑むということは、覚悟はあるんだな?」

「はい。姉があなたに負けて悔しがっていたので、仇を取りたいと思います。そっちこそ、覚悟してくださいね」

 冗談混じりに、少し殺気を込めてモールを睨みつけた。

「良い目だ。俺にはお前が、立派な戦士に見えるぞ」

 スッと音を立てることなく模擬戦用の木剣を構えたモール。

 負けじと音を立てないように木剣を構えるエルリック。

「いきます」

「こい!」

 そこから、強者と強者のぶつかり合いが始まった。





 他の教師と模擬戦をしていた者も、怪我人が出たときのための救護班も、そして視察に来てグラウンドの近くの席に座っている国王も、そこにいる全員の視線が同じ場所に集まっていた。

「奥義『桜花玉砕』!」
「奥義『乱桜』!」

 二人が戦っているグラウンドには、ところどころいびつな穴が空くほどになってきている。

 モールの持つ模擬戦用の木剣は早々に壊れ、今は彼が普段から愛用している剣を使っている。
 もちろん刃など潰していない、実戦用の真剣だ。

「くそっ。良い武器使うとか汚ぇぞ」

 エルリックは誰にも聞こえない小声で不平を漏らし、木剣を魔法で強化して壊れないように保った。

 互いの技の精度は同等といったところ。

 ならば力でも武器でも勝るモールが有利だが、エルリックは必死に食らいついている。

「出し惜しみしてる場合じゃないか」

 彼の流派、すなわちあの女騎士の流派の剣技のみで勝利したかったエルリックだが、流石に負けそうとあっては他の手段を講じないといけない。

「仕方ない『一閃』」
「なっ!? ぐぅっ!」

 体に慣れ親しんだ勇者の剣技を放つ。

 急に剣の流派を変えたことにより、対応ができなかったモールが一瞬の隙を見せる。

「終わりだ『紫電一閃』」
「ちょ、おまっ! 降参だ!」

 技を当てようとした瞬間、武器を手放して両手を上に挙げたモール。

 勢いのそのまま当ててやろうかとも思ったエルリックだが、ここは自重してグッとこらえた。

 そして周囲に数秒の沈黙が訪れる。

 エルリックはそこでようやく、自分とモールに周りの視線が集中していることに気がついた。

 エルリックは考えた。
 さっき自重したが、もはや手遅れじゃね? と。

「え? モール様が降参? え?」

「はあ。お前、何者だよ。その歳で俺に勝つとか、化け物過ぎるだろ」

「あ、いや。手合わせありがとうございました! いやぁ、モールさんに手加減・・・してもらえたおかげでちょっとだけ勝てましたよ! でもモールさんが本気を出したら、俺なんて瞬殺ですし! これ試験ですから手加減してもらうのは当たり前ですからね! それに子供相手にモールさんが本気出すわけないですし!」

 モール気づけ!
 王様に負けたと思われたら洒落になんないぞ!
 俺に合わせろ!

 と、目で必死に訴えかけるエルリック。

「お、おお! そういうことだ! 手加減した俺に勝ったからって調子に乗るんじゃないぞー! あは、あははは」

「もちろん分かってますよ! はははは」

「なんだぁ。手加減ですか。良かった良かった」

 頭の弱い教師のおかげで、その場を何とか誤魔化し通したエルリックとモール。


 乗り切った二人の間で謎の男の友情が芽生え始める中、モールが負けたことを完璧に理解している王は、顎が外れそうなほどに口を大きく開けていたのであった。



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