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幼年期編

1-10 魔王様、無双する

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「全方位から上位アンデッドの軍勢! その数、およそ百万! 繰り返す! 王都を包囲するように全方位からアンデッドの軍勢! 数はおよそ百万だ!」

「嘘だろ、上位アンデッドって、最低でもBランクモンスターじゃねぇか!」
「それが百万で、しかもどっからも逃げられないのかよ」
「終わりだ! もう終わりだぁぁぁ!」

 はいはいうるさいよー、君たち。

 騒いでないで、家帰って飯食って風呂入って寝てなさい、まったくもう。


「ひゃ、百万ですか。エルリック様、本当に大丈夫そうですか?」

「んー、アンデッドは聖系統と光属性の魔法に弱いから、何とかなるかな。まあまあ覚えてるし」

 しかし、カッコいいからという理由で闇属性ばっかり覚えてたから、光属性の魔法はレパートリーが少ないんだよな。

 ついでに火属性と風属性と水属性と雷系統と圧系統と空間系統と影系統魔法はコンプしている。闇属性も、もちろんコンプしてるぞ。
 全部、何となくカッコいいからという理由で習得した。

 一応、人間に転生してからもレパートリーを増やし続けたし、加えて魔力も以前より上がっているからな。

 どうやら赤ちゃんの頃から魔力量を底上げし続けたことで、今現在で前世まおうのときよりおよそ十万倍くらいの魔力量になっている。最近では魔力の自然回復スピードが尋常じゃない早さにまでなっている。

 魔力量もまだまだ上がり続けていて怖いくらいだ。しっかり隠蔽はしてるが、バレたら大変だよな。

 俺、何を目指しているんだろう。
 いよいよ神にでもなれるんじゃないかとか、思い始めてくるレベルだ。


「坊やとお嬢ちゃん。今は大変なことになっているから、お家に帰りなさい。怖いモンスターがいっぱいやって来るからね。でも大丈夫! お家に帰ってる間に、お姉さんたちが怖いモンスターをやっつけてあげるから。今はお家に帰ろうね?」

 俺たちが呆然としているように見えたのか、まだ二十代前半くらいで綺麗な赤髪の、若い女冒険者が話しかけてきてくれた。

 こんなときにパニックにならず、進んで子供を助けようとするなんて、良い人だなー。


「ありがとうお姉さん! 悪いやつをいっぱいやっつけてね! 応援してるよ!」

「坊やありがとね! お姉さんたちが、頑張るからね!」

 こういう人って早死にしそうだなー、などと不謹慎なことを考えながら、帰るふりをしながらその場を離れた。


「しかしまあ、幼児だと逆に目立つよな」

「はい。先ほどの方のように、エルリック様がそのまま戦場に行かれたら、大人たちみんなに心配されてしまうかと思います」

「こうなったら、アレだな」

「アレ、ですか?」

「そうだ、いくぞ。変身!」

「め、目がぁぁぁ!」

 いや、プリュム。君はどこの大佐だよ。

 ということで、変身完了!


「フード付きマントですか?」

「はっはっは! その通り。身長が変えられないなら、顔も服も見られなければ個人は特定されないのだ!」

「流石はエルリック様! 完璧なお考えです!」

「そうだろう? そうだろう! ではプリュム。汝は屋敷に戻っているといい。ここからは、俺・・・我のターンだ!」

「かしこまりました! ご武運をお祈り申し上げます!」


 パタパタと屋敷の方向へ帰っていくプリュム。
 ちなみに護衛の気配は全く感じられない。

 多分、鐘の音を聞いてパニックにでもなったんだろうな。

 護衛としてどうなんだろうか。すぐに逃げなかったプリュムを見習ってほしいよ。


 それじゃあ、初の王都襲撃イベントをクリアするとしますかね!





 地面を覆い尽くすほどの、骨、骨、骨。

 その全てが上位以上のアンデッドであり、中にはSランクに匹敵する最上位アンデッドまでもが存在している。

 大量のアンデッドの数は、百万はくだらない。

 それを差し向けている者は正確な数までは把握していないものの、合わせて五百万以上だということは理解しているようだ。


 冒険者たち、そして王都の兵士たちは絶望していた。

 一体だけでも何十人と被害が出るであろう上位アンデッドが、大地を埋め尽くすほどの数で進行しているのだ。

 その様子は、まさに大陸が震撼しながら、地面そのものが揺れ動いて迫ってきているようであった。

 白い骨にまとわりついたドス黒いオーラを持つ、上位アンデッドの大軍勢。

 王都にSランク冒険者が百人いればアンデッドの軍勢だけは何とかなったかもしれないが、残念ながらレクレイスター王都といえど、Sランク冒険者は三人しかいないのだ。


 三人は、一人は渇いた笑いを、一人は涙を浮かべて怯え、一人は唇を噛み締めて頭を抱えていた。


 押し寄せてくるのは、圧倒的な死。

 自分の力では、決して逃れられない死なのだ。

 付け加えるならば、押し寄せてくる中にいるのはアンデッドだけではない。

 そのアンデッドを操る者も、その中にはいるということだ。


 だが、冒険者たちよ。兵士たちよ。

 どうか、希望を捨てないで欲しい。


 圧倒的な数をも凌駕する世界最強の存在が、この王都にひっそりと潜んでいるのだから・・・。





「ははっ。今回ばかりは皆殺しだぜ! 俺様でも逃げられはしねぇな!」

 隆々とした筋骨たくましい大男が叫んだ。
 彼はSランク冒険者の「鉄筋のガイツ」だ。

 幾度となく死線を乗り越えてきた彼であったが、今回のアンデッドの軍勢を見て、わずかに体が震えるほどに恐怖を覚えていた。


「死んじゃうです! 逃げられないです! もーやだです!」

 身の丈に合わない大きな杖を抱えている貧乳幼女は、涙を流しながらその場にへたり込んでしまっている。
 彼女もまたSランク冒険者の「稀代の天才土魔導師ナーネレイア」で、ナーネと呼ばれることが多い。

 彼女は見た目に反して百歳を超えるエルフの少女なのだが、その知性と魔法の腕を持ってしても、この状況は絶望的であった。


「くっ、ここまで数が多いか。何とか女子供だけでも逃がす方法はないだろうか」

 まだ希望を捨てずに、唇を噛み締めながら思考を巡らす彼女が呟いた。
 同じくSランク冒険者の「灼熱の美姫エーリンテ」だ。

 道すがら幼い子供に悪いモンスターをやっつけると約束してしまったが、彼女の力を持ってしても、どうすることができないのが現状だった。


「エーリンテさん。全方位、囲まれているのであれば、一点突破してはどうでしょうか。一人でも多く生き残れる可能性があるのは、これしかないと愚考致します」

 何とか策をひねり出したのは、この王都で(エルリックを除いて)最も聖系統と光属性魔法が得意な者だ。
 彼は慈神レシャスターという神様を信仰するレシャスター教の「慈悲深き司教レナード」だ。ちなみにこの二つ名は彼にとって恥ずかしいものらしい。


「学園生や未来ある若者を逃がすためにも、一点突破の案に儂は賛成じゃよ」

 レナードに賛成したのは、レクレイスター王立魔法学園の学長「美髯びぜんのレイブン」だ。彼も二つ名を気に入ってないらしい。


「国王陛下、いかがいたしましょうか?」

 レクレイスターの国王に向かって問うたのは、国王の一番の側近と言える「近衛騎士団長モール・ド・レイカー」だ。


「モール。そして皆よ。レナードの案だけが、この絶望的状況にわずかな希望を見出せるものだろう。全冒険者、そして我が国の全兵士の力を結集して、少しでも多くの民が生き残るための血路を拓け!! これは王命であると同時に、余の最後の願いである!」

「男の最後の願いだ。聞くしかねぇよな!」
「もーやだです。でも死んじゃうのは怖いです! るです!」
「この命に代えましても、無辜の民をお救い致します」
「悪しき死者に慈悲を。生ある者に救済を」
「学園生は皆家族じゃからな。儂が守って見せようぞ」
「こ、国王様・・・王命、承りました・・・」

「ガイツ殿、ナーネレイア殿、エーリンテ殿、レナード司教、レイブン学長、そしてモール。皆の協力、心より感謝する。余も前線に立ち、兵や冒険者を鼓舞しようぞ!」

 国のトップたちが一丸となったその瞬間、王都は太陽が間近にあるほどの眩しい光に包まれた。

 誰もが目を塞ぐ中、一人レナード司教だけが、目を見開いて驚愕していた。


「アンデッドの軍勢が、溶けていく・・・まさか、光属性と聖系統の混合魔法にして、高位魔法よりも更に高みに位置するあの魔法。あの聖女様でさえも使うことができなかった『天なる国の聖光ヘヴンズライト』なのか?」

 彼の呟きを聞いたその場のメンバーは、皆戦慄を覚えた。

 そして沈黙が部屋を支配するのであった。





「おー、面白いくらいに溶けていくなー」

 空中に浮いている小さな物体。

 フードを被った幼児にしか見えない何か。

 それは先ほど、考え無しで気軽に超位魔法をぶっ放したエルリックであった。


「あ、ちょっと弱めすぎたか。まだ残ってるのが何体かいるなー」

 かなり抑え気味に魔法を撃ったせいで、生き残っちゃった敵がいたようだ。

 エルリックの目の前にいるのは、Sランクに匹敵するほどのモンスター、最上位アンデッドだ。

「ホーリーバレット・マシンガン」

 そんなことをエルリックは知る由もない。

 彼にしてみれば生き残っただけで、ちょっと頑丈なモンスターくらいの認識だろう。

 非常識なまでに聖魔法を撃ちまくり、残りを綺麗に片付けていくエルリック。

 そして最後に残ったのは、このアンデッドたちを差し向けたであろう首謀者だけとなった。


「やるわね。人間さん」

 あでやかな女性の声。いわゆるセクシーボイスと言ったところであろうか。

 彼女は黒装束のマントを身に纏い、顔も体も隠していた。

 まあ、こっちもマントを羽織ってるし、マント仲間か、とエルリックはどうでもいいことを考えた。


 しかし、どこかで聞き覚えがあるような声だ。


「あー、誰かに似てる声かと思ったら、四天王の『不運のカレノア』に似てるだけか。確かあいつもネクロマンサーだったし、アンデッド操るの得意だったよなー、ってあれ?」

「ビクッ!」

 俺はそこまで無意識に言っていたが、止まった思考を巡らす。

 この世界にどれだけ、あれほどの軍勢を用意できる最強クラスのネクロマンサーがいるのだろうか。
 もはや片手に収まるほどしかいないであろう。

 そんな都合よく同じ大陸に、最強クラスのネクロマンサーが二人もいるのだろうか。


 だが、カレノアは死んだはずだ。

 勇者に殺されたのを、確かに確認した。


 しかし、わずかな可能性を考慮するならば、四天王最強の「片翼のティファーナ」が、蘇生魔法まで使えたはずだ。


 もしや、彼女のことを復活させたのではなかろうか。


 そこまで推理が進んだと思ったら、顔面が弾力のある何かに挟まれ、背中には少し冷たい腕が回っていた。


 あ、カレノアは冷え性だったな。と、そこでふと思い出した。




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