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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機
幕間2-1 奴隷を買いに商会へ
しおりを挟む遡ることミューストリア王都。
王城で知り合った奴隷商人のレードナーと待ち合わせをしていたカイは、彼のいる商会に足を運んだ。
「魔王様、良くお越しくださいました。改めて自己紹介させていただきますが、奴隷商人のレードナー・グラニアルと申します。この度は当商会をお選びいただき誠に有難うございます」
「先日はお世話になりました。それで今日来たのは、実は奴隷を買おうと思ったんですよ。初めてなんで色々教えてもらえると助かります」
「もちろんでございます。では初めてということで軽くルールの方から説明させていただきますね」
レードナーは愛想を振りまきながら、人の良さそうな笑みで説明をしてくれた。
一連の流れやこの場のルール。奴隷購入の手続き等をそこそこ分かりやすく教えてもらい、商館の中を案内された。
「こちらが屈強な男性の奴隷たちです。肉体労働や護衛をさせるために購入する方が多いですね。お値段もなかなかお高くなってしまいますが、労働力は保証いたします」
まず見せられたのは筋肉が逞しい漢たちだった。
こういうムキムキした男性を見てると兄貴と呼びたくなるな。もちろん俺にそっちの趣味はない。
まあお店を経営する上では、運搬とかの力仕事をする人が必要そうだからな。
購入を検討しておこうかと思うが、キルティーとルーネの意見も参考にしたいところだ。
「2人も遠慮なくどんどん意見を言ってくれ。一応2人の部下的なポジションにするつもりだからな」
「それなら、できれば女の子でお願いします。ちょっと筋肉隆々の男性は怖くて・・・」
「魔王様すみません。キルティーってちょっと男性が苦手なんです。でもでも、力仕事ならあたしに任せて下さい! 男には負けませんから!」
意気込むルーネを見て任せても大丈夫そうかと思ったが、ルーネだけに任せるというのは酷なので他の手段を考えようかな。
次に一階から二階に上がり、女性の奴隷たちを見て回った。
「こちらの部屋は算術スキル持ちの奴隷を集めております。魔王様はお店を開かれると伺いましたので、2人か3人ほど購入されてはいかがでしょうか? 全員処女ですし、オススメでございます」
「旦那様、どうか私を買って下さい!」
「私は何でもします! ご飯を食べる量も少ないです!」
「私もどんなことでもします!」
部屋に入るとほとんどの女性たちが必死に言い寄ってきた。
アピールしたいのは分かるが、俺に胸を当ててくるのはやめてほしいな。
ぷにゅんとして実に素晴らし・・・じゃなくてけしからん。
「コラ! お客様に無礼な態度を取るな! いやはや、申し訳ございませんでした魔王様。お詫びとしてこの部屋の奴隷を購入されましたら、料金を1割引きいたしましょう」
なるほどな。お詫びと言って割引きをチラつかせて客に奴隷を売る商法か?
お金には全く困ってないけど、せっかくだからレードナーの小芝居に乗るか。
「本当ですか? じゃあこの部屋の奴隷全員買いますね」
「へ? え、いや、全員ですか?」
「いやーだって1割引きしてくれるんですよね? 大人買いしてみたかったんで丁度いいですね。ありがとうございます」
「あ、いや・・・ま、まあ良いか。あいつを売れるなら・・・」
レードナーが小さく呟いた声を、耳聡く聞き逃さなかったカイ。
部屋の隅に目を向けると、小さく蹲った少女が体育座りをしてじっとしていた。
この子のことかと思い、カイは優しい笑みを浮かべながら少女に近づいた。
透き通り、どこか病的にも思えるほど白い肌。
光を失ったように焦点を合わせない瞳。
ボサボサになって傷んだ長い髪。
彼女を見たときにパッと思い浮かんだ言葉は、絶望の底に沈む美少女。
「君、名前はなんて言うのかな?」
「消えて・・・」
弱々しく、小さなかすれ声。
しかし確かな殺意のこもった言葉に、背中がぞくりとしてしまう。
「魔王様。その子は算術の他にもかなり有能なスキルをいくつか持っているのですが、非常に態度が悪く食事もろくにとろうとしないのです。私も反抗的な奴隷には慣れているのですが、その子は特に厄介でして・・・」
レードナーは頭をポリポリと掻きながら、申し訳なさそうに説明してくれた。
俺は返事をしようとふり向こうとしたとき、少女の手が服の裾を引っ張った。
「待って・・・凄く、綺麗」
綺麗と言われて頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになってしまう。
彼女の目はしっかりとこちらを見つめていた。
「スィーです、魔王様。スィーは魔王様にお仕えしたいです」
目には光が差し、少しかすれはしているが力強い声でスィーは言葉を発した。
何を綺麗と言っていたのかは分からなかったものの、どうやら懐いてくれたようで良かった。
「スィーちゃんか。今日から君も含めて、ここにいるみんなとお店を経営してもらう。君にはお金の計算とかをしてもらうけど、できそうかな?」
「はい、魔王様。お仕事頑張って覚えます。だからあの、ちょっとだけギュッとしてもらっても良いですか?」
何を言われたのか分からなかった俺は5秒ほどフリーズしてしまい、チラッと後ろで待機中の女性陣の方を見た。
みんな「まあそれくらいは」と言っていそうな顔つきだったため、苦笑いしつつ少女に軽く手を回す。
一歩間違ったら即、檻の中にでも入れられそうなシチュエーションだが、本人から言ってきたことだし大丈夫だろう。
「魔王様、一緒に人間を滅ぼしましょうね」
「へ?」
耳元で小さく囁かれた言葉はとても少女のものとは思えなかったが、気のせいだと聞き違いにして忘れるカイ。
この言葉の意味を知るときが意外と早く来るかもしれないなどとは、考えることなどないカイであった。
◇
「こちらには亜人奴隷を集めております。値は張りますが、女性の亜人でも護衛としては十分な強さを発揮いたしますよ。中でもオススメなのは獣人やドワーフです。エルフも取り扱っていますが、力仕事を任せるならオススメはできませんね」
「エルフ? ちょっと待ってください。エルフがいるんですか、レードナーさん?」
「お、魔王様。興味がおありですか? しかしエルフは胸の小さいのばかりで・・・おっと、失礼しました。魔王様には是非オススメするべきでしたね」
おいちょっと待て。
今、俺の仲間たちを一通り見てから言ったよな?
違う、違うんだ。
気がついたらこんなロリロリしたメンバーが多くなっていただけで、決して俺が貧乳好きというわけでは・・・。
「魔王様、こちらになります。あ、女性の方は一度部屋の外に出ていただきましょうか。魔王様にはしっかりと選んでいただきましょう」
にやけ顔でついてきた女性陣を部屋の外に出すレードナー。
「あ、魔王様。もちろん大きい方のエルフも、取り扱いはございます。じっくりご覧の上、お決めになってください」
「え、あ、ちょっと・・・」
そそくさと退散していくレードナーを引き止められなかったカイは、そのままエルフたちを見ていくことにした。
「旦那様、えっと、あたしを買ってもらえませんか! 買わなきゃ絶対後悔します! あたし魔法も使えますし、結構強いですよ!」
「旦那様。こんなまな板を選ぶよりも、私を選んだ方が良いのですよ。ほら、ポヨンポヨーンです」
ちょっとしつこい奴が2名いるが、やっぱりエルフは良いものだ。
特徴的な尖った耳を見て触りたくなる欲求を抑えつつ、俺はエルフの部屋を後にして次は獣人奴隷の集められた部屋へとレードナーに案内された。
◇
「さて魔王様、いかがでしたか?」
一通り見終わったところで、レードナーから感想を聞かれた。
想像以上で大満足だったと素直に言える。
今回はルーネとキルティーのためにも人手は多い方が良いから、財布の紐を緩めようかと思う。
「めちゃくちゃ良かったですね。モフりたい獣人奴隷はたくさんいましたし、やっぱりエルフは最高でした」
サラッと感想を述べただけのつもりだったが、レードナーは目を光らせていたようで俺の言葉を聞き逃さなかった。
「それはそれは、ありがとうございます。でしたら魔王様がお気に召された獣人奴隷に加え、エルフも2名ご用意させていただきます」
2名という単語に引っかかり、俺はレードナーに鋭い視線を向けた。
しかしレードナーは余裕の表情を浮かべ、カイがしまったと思うよりも早く話を進め始めた。
「いやー、あの2人は中々買い手がつかず困っていたところでして良かった良かった。魔王様、それではササっとお会計の方を済ませましょう。本日は大量の商品をご購入いただき誠に有難うございます」
レードナーの勢いに負けて一気に50人ほど購入してしまったが、まあこれも良しとしよう。
「魔王様! ルーネちゃんと仲間の奴隷さんたちと一緒に、お店の経営頑張りますね!」
「他の奴隷たちの面倒なんかも、あたしたちに任せてください! しっかりやってみせます!」
キルティーとルーネの笑顔を鑑賞しつつ、支払いの額にヒヤヒヤさせられるカイであった。
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