やりすぎハイスペックな俺が行く 異世界チートな旅路

とやっき

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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機

79話 力を解き放って 神と天使と仲間たち

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「姉様、姉様が負けるはずがない・・・」

「動揺は大きな隙になります」

 姉のマチホが倒れたことで、弟のイチリは愕然としていた。

 自分が戦っていたことさえ忘れて姉に駆け寄ろうとする少年に、無慈悲にも全力で攻撃を叩き込むセラファル。

 無防備な状態ゆえ避けることも、ダメージを軽減することもできずに、少年は数メートル先に吹き飛ばされた。

「邪魔・・・しないでよ!!」

 立ち上がったイチリは、抑え切れない怒りに染まっていく。
 怒りに身を任せた彼は、痛みも何もかも忘れて自らの力を解放した。

 全身に赤と紫色のオーラをまとい、周囲の魔力を少しずつ吸収していく。

 セラファルの頭に警鐘が鳴り響く頃には、イチリの顔には狐のお面のような物が張り付いていた。

 この面は狐人族の種族スキルの一つ、神降かみおろしの効果で出現するものだ。

 狐人族の祭事でも、1分ほどしか神を降ろすことはしない。
 本来ならただの魔族が神を取り込むことなど不可能なのだ。

 それを無理やりやっている以上、体への負担は大きいなんてものではないほど酷い。

 神を取り込んでも何とかなっている例外的な魔族もすぐそこいるようだが、普通は許容範囲を超えた力に耐え切れずに自我が崩壊してしまうことになる。

 その場合、もちろん体の主導権は身に宿った神に移ってしまう。
 たとえうつわが貧弱な魔族であろうと、神の力を持った者であることに変わりがない。

 そう。セラファルは目の前の少年ではなく、少年の姿をした神と戦うことになるということだ。

「こちらの勝率が2%にまで下がりました。非常に良くない状況です。ですが、ここで引いてはマスターの従者として失格ですね」

「姉様・・・あ、あぁぁぁ」

 イチリの自我はどんどん崩壊し、体は絶えずむしばまれていく。

 狐人族が崇める神は怨憎えんぞうと念力をつかさどる神であり、イチリがいだいた姉を倒されたことによる負の感情は、格好のえさとなった。

 その様子を見たメルフィナは、血相を変えてセラファルの元へと駆け寄ろうとする。

「セラファルさん! その子から離れてください! 神を取り込んで暴走した者は、邪神に堕ちてしまいます! いくらセラファルさんが強くても勝てませ・・・」

 しかしセラファルは、メルフィナに微笑みを向けて言葉を制止させた。

 余裕などなさそうに見えるのに、メルフィナはセラファルの顔を確認したとき、言い知れぬ安心感を覚えてしまった。

「マスター。セラファルはちょっぴり悪い子になってしまいます。悪い子になった私でも、マスターはお側に置いてくれますか?」

 少し遠くにいるカイに、どこか悲しげな声音で語りかけるセラファル。

 どうやらカイからの答えはすぐに返ってきたようで、セラファルは安心したように顔を綻ばせた。

「私には勿体無きお言葉、感謝致します」

「セラファルさん? 何をする気なんですか?」

 どんどん力を増していく暴走状態のイチリを前にして、静かに天を見上げるセラファル。
 そのまま片膝をつくと、小さな小さな声で一言だけ、天に向かって呟いた。


堕天フォールン


 瞬間、セラファルの体に変化が生じる。
 普段は隠している純白の翼が、闇にのまれたような漆黒に染まっていく。

「マジですか。流石の私でも、天使が堕天する瞬間なんて初めて見ましたよ。それとセラファルさん、雰囲気がエロくなりましたね。大人の色気が凄いです。これは負けていられません」

 メルフィナの言葉を軽く聞き流し、カイへ想いを馳せるセラファル。
 この姿を見られて嫌われないか不安になりながらも、眼前の敵に集中していく。

「相手はまがいなりにも神の名を持つ者。天上神とは大きく異なりますが、手を抜かずに全力で対処します」

 後で上司かみさまから叱られることを覚悟しつつ、セラファルは堕天使となって狐の神と対峙する。

 イチリの意識は既に無く、そこに在るのは抜け殻のような少年の体を操る狐の神。

 仮面に空いた穴からセラファルを注意深く見つめ、今に飛びかかってもおかしくないくらいの低姿勢で構えている。

 メルフィナはイチリとセラファルを交互に見てから、これはセラファルが圧勝すると考え、この場は彼女に任せることにした。

「セラファルさんなら大丈夫そうですね。じゃあ私はリーサさんの様子でも見に行きましょうか」

「我以外の神と戦える珍しい機会かと思ったが、上位天使の堕天状態には我も敵わない。あの神とて長くは持たんな」

「へー、クロ君はセラファルさんが上位天使だって分かるんですね。そんな凄い方だったとは知らなかったです」

「我とて神だ。天上に住まう天使のことは少し詳しい程度だが、知ってはおるぞ」

 クロとお喋りしながらリーサの元へと向かうメルフィナだったが、途中にエミュの姿を発見した。


「にゃぁぁぁ! 全部水で飲み込んであげるの! 世界を水で沈めてやるのぉぉぉ!」

「た、助けてくれぇ! 溺れる! 死ぬ! ゴボボボ」


 全然平気そうだったのでエミュをスルーしたメルフィナは、ようやくリーサの元までやってきた。


「あれ? リーサさん何してるんですか?」

「あらリーサちゃんのお友達? なかなか可愛い子じゃない? 貴女もガールズトークに混ざる?」

「あ、メルフィナちゃん。紹介するわね、こちらキャミントさん。仲良くなったから、お話ししてたのよ。美容のこととか詳しくて、頼れるお姉さんって感じよ」

「え、敵と仲良くなったんですか? それにお姉さんじゃなくて、この人はだんせ・・・」

「あ゛? おのれ何か言ったかコラ? ゴホン、何か失礼な言葉聞こえたような気がしたけど、気のせいよね?」

「ひっ、何でもないです。リーサさんとキャミントさん、ガールズトーク楽しんでください」


 逃げるようにその場を離れたメルフィナは、今度はマヤネの様子を見に行った。

 マヤネを発見したのは良かったが、2人とも同じ方向を向いていて、何やら手をついてしゃがみ込むような体勢をしている。

 カイがこの姿を見たらクラウチングスタートの姿勢だな、とでも言うだろうがメルフィナはそんな単語も構えも知らないので困惑しているようだ。

「えっと、2人は何をしてるんですか?」

「あ、メルフィナ殿。今、負けられない戦いをしているでござるよ。ちょうど、99勝99敗でラスト勝負をするところでござる」

「一番早いのは・・・俺だ」

「あ、はい。かけっこですか。そうですか。まあ、頑張って下さいね」

 呆れ顔になったメルフィナを置いて、2人は最後のレースを始めたようで走り去って行った。

「小娘よ、我の出番ってまだ残っておるか?」

「多分ないんで帰って下さい。全くこれはどんな状況ですか、このやろぅ」

「このやろうと言いたいのは我なんだが・・・。まあ、面白いが見れたから良しとしよう。さらばだ小娘よ。また何か面白いことがあれば我を呼び出すと良い、いや絶対に我を呼び出すのだぞ。他の神を呼び出すなよ? 我を指名しろよ?」

 体の中から去っていく神を無視しつつ、メルフィナはそのままカイの元へと向かった。

 邪魔にならないようにカイの姿が見えるギリギリのところにスペースを確保し、カイとゼルドスの戦いを静かに見守るメルフィナであった。



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