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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機

76話 新たな幹部が動き始めて ゼルドスと未知数の戦力

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 マヤネがフィスタシア王国軍の魔導兵器を文字通り倒したあと、戦局は一気に傾いたかと思われた。

 しかし現在、両者の交戦はピタリと止んでしまっていて戦場には静寂が訪れている。


「さっきまで魔族が勢いづいてたのに、急に静かになったな。何かあったのか?」

「あー、カイ。どうやらみんなこっちを見て固まってるみたいよ」

 リーサの答えに、カイは訳が分からずに首をひねった。

 彼らの心情にカイが気付くことはないだろう・・・。





 ある者はそれらを天空の覇者と呼ぶ。

 地に住まう者たちがその姿を見れば命の危機を感じ逃げ惑うしかない存在。

 そう、彼らはカイの乗ってきた龍を見てフリーズしているのだ。

 人間ごときでは決して敵わない存在。
 人間よりも遥かに高い身体能力を持つ魔族でさえ、龍と戦うともなれば大勢の命をかけなければならないほどなのだ。


 フィスタシアの兵士の中には、ブツブツと天を仰いで神に祈る者までいる。

 魔族たちの顔色も、敵わない相手を前に蒼ざめていく。

 人間たちも魔族たちも、龍を見るのが初めてのものが大半を占めているであろう。いや、龍を自らの目で見たことがある者など、片手で数えきれるほどであった。

 そんな彼らでも地に降り立った龍が普通ではないことに、何となくではあるが気が付いていたようだ。

 もし視界に映る龍が、幼龍や子龍であれば彼らも対処はできたはずだ。
 だが、彼らの前に現れたのは異様なほどの存在感を放つ一際ひときわ大きな黄龍。

 それは成龍と呼ばれている大人の龍が何万年もの時を生き、最も神に近いと言われているほどの実力を身につけた「古龍」と呼ばれている存在であった。

 更に彼らを追い詰めることになる情報を付け加えるとするならば、その古龍の背に魔王と呼ばれる世界最強の人物が乗っているということが挙げられる。

 だが幸いなことに、1人以外はそこまでは気付いてないようだ。

 絶望の中の狂気に打ち震えている者は、この戦場にたった1人しかいない。


「そうか、いつわりの魔王が来たのか。古龍を仲間に引き入れるなど、大それたことを仕出かしよる」

 静かで冷酷な笑みを浮かべつつ、ゼルドスはゆっくりと立ち上がる。

 表情には見せていないが、彼の胸中には言い知れぬ不安感と、絶対的な使命感の二つが渦巻いていた。

 それは魔王カイに対する恐怖と、謎の鏡リゼッタに対する忠誠心であるが、ゼルドスは今更そんなことを気にしている余裕はなかった。

「軍を後退させよ! 幹部たちはわしに付いてこい。龍と魔王カイを討つ! 皆、心せよ!」

「畏まりました! 全軍後退!」

 ゼルドス軍の撤退を確認したフィスタシア軍も、全力で本陣に後退し始めた。
 中には前を走る仲間を、殴り飛ばしてまでも逃げ惑う者もいたようだ。

 そして両軍がある程度の撤退を終えた頃、ゼルドスの前には新たに幹部として頭角を現した者たちが5名集まった。

 彼らは謎の鏡リゼッタの能力によって強化され、ラーグルやソゼストンといった旧幹部よりも違った力を得た者たちだ。

「やっと俺たちの出番ってわけだ。ゼルドス様に新幹部の力を見せつけねぇとな!」
「姉様、僕も戦っていいんだよね? 敵をいっぱいやっつけようね!」
「ああ、弟よ。我ら狐人族の力を世に知らしめるときがきたようだ。」
「・・・・・・敵コロス」
「ねぇちょっと、アタシの隣の黒いやつ何か怖いんですけど。一緒に行くの何かやだわぁ」

「集まったな。敵は魔王を称する者と古龍だ。厄介な戦いになりそうだが、お前たちの働きに期待する」

 新幹部たちはそれぞれの思いと覚悟と殺意を抱きつつ、古龍のいる場所へと歩みを進める。





「カイ様。敵が来ちゃう前に、いつものように私とイチャイチャしましょうか」

「メルフィナ? 俺がいつお前とイチャついたことがある? 嘘は良くないぞ」

「何度か言ってたらそのうち嘘も事実になっちゃうかもしれませんよ。というわけでイチャイチャしましょう。私は心も体も準備万端です」

「はぁー、そんなんで騙されんわ。全く、戦闘前なのに緊張感なさすぎだろ」

 手をわきわきさせながらにじり寄るメルフィナを少し長めの溜息を吐きつつ追い払ったカイは、隣で遠くを見ているセラファルに目を向けた。

 横顔はいつも以上に真剣な表情であり、なぜかいつもよりも綺麗に思え、少し顔が熱くなってしまうカイ。

「いつか拙者も殿に熱い視線を送られてみたいものでござるな。しかし拙者は何分なにぶん胸が小さいでござるからな。せめてリーサ殿くらいは欲しいでござるよ」

「私? 私も小さいけど、この中だとまだマシな方になるってことかしら。マヤネちゃんはまだまだ成長するんだから、そのうち大きくなるわよ。私もいつかはハウランさんくらいには・・・」

 うん無理だろうな、と思いながらカイは何となくゼルドス軍の方向に目を向けた。

 その時、ちょうど赤やら黄色やらの球体が出現し、セラファルが急にカイの方向を振り向いた。

「マスター! 魔法での攻撃です!」

 目で追えないほどのスピードで接近してくる魔法弾が、カイたちの方に飛んでくる。
 いきなりの攻撃で驚いたカイは、反応が遅れて呆然としてしまっていた。

 そんなときカイの前に水の壁が出来上がり、魔法弾を飲み込んで消滅させていった。
 何が何だか分からずに頭が混乱するカイの前で、可愛い猫がピョンピョン跳ねている。

「ご主人様、大丈夫なの? 魔法ならエミュにお任せなの! 全部ボッチャンしてやるの!」

「お、おう。エミュだったのか。ありがとな」

 助けてくれたのは、カイの使い魔であるエミュのようだ。
 エミュの活躍で時間が稼げたところで、戦闘態勢に入る仲間たち。

「マスター、現在敵が急速に接近中です。ご指示をお願いします」

 セラファルの言葉を聞いて、心の準備をしたカイは口を開く。

「よし、それじゃあ俺はこれからゼルドスと戦うことになると思う。みんなには周りに邪魔な敵とかいたら助けてほしい。お願いできるか?」

 カイの言葉に、仲間たちは大きく頷く。

「もちろん良いわよ」
「頑張ったらカイ様からご褒美がもらえるんですね、分かります。それなら頑張っちゃいますよ!」
「邪魔者は拙者たちに任せるでござるよ」
「エミュも頑張っちゃうの!」

「マスター。私も微力ながら、精一杯尽力致します」

「みんなありがとな。よし、最終目標はゼルドスの説得か拘束。邪魔する敵とかは倒しちゃってくれ。それじゃあ戦闘開始だ。張り切って行くか! あ、ドラ助はここでいい子に待っててくれよ」

 スキルが使えないことに僅かな不安が残るものの、努めて明るく振る舞うカイ。

 カイはドラ助を使ってしまえば楽に勝てるということに気づくことなく、このまま仲間たちと共にゼルドスとの戦いを始めるのであった。




◇あとがき◇
最近多忙で、全然投稿できずに申し訳ありません。
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