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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機

73話 本拠地へ攻め込んで ラーグルと兵士 ウルリルの本気

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 地下要塞の入り口に黄色の龍が降り立った。

 美しい龍鱗をキラキラと輝かせ、大地へ降り立つ姿はまるでおとぎ話のような世界観だ。

 みんなが美しい光景に見惚れている中、ハッとした1人の指揮官が危機感を抱いて声を張り上げる。

「総員、戦闘態勢に入れ! 敵は黄龍! 繰り返す、敵は黄龍だ!!」

 要塞内に緊急の警鐘が鳴り響く。
 兵士は次々と地上の入り口へと向かう。

 そんな張り詰めた空気の中、龍の背中からただならぬ気配を持った者たちが飛び降りた。

 一人は人間。
 美しい白銀の髪をなびかせ、武器を一切持たずに優雅に着地した。

 一人は亜人の魔族。
 巨大な柄のついた武器を背中に背負い、いかつい顔がさらにいかつく見えるほど、周りに睨みをきかせている。

 一人は可愛らしい魔族の少女。
 頭に小さな角を二つちょこんと生やしていて、体の周りにはプカプカと8本の剣が浮いている。

 他に3名のヴァンパイアが悠然と立ち、命令が出るまで少女の後ろで待機している。


「ちょっと聞いてくれるか? 俺はあいつらをまだ敵だと思ってるわけじゃねぇ。もちろんあいつらの味方をするわけじゃねぇけどよ、ただ殺しまくるっていうのは好かねぇんだ」

 山羊のような亜人の魔族が、銀髪の女性に声をかける。

「お前は奇襲に向かないやつだな。まあ好きにしろ。私はザイルバーグの民さえ救えれば、それで構わん」

 素っ気なくも、一応了解の返事を出す銀髪の女性。

「私も一方的に攻めるのは好きじゃないです。逃げる人は追わないようにようにしますよ」

 少女は顔に優しげな笑みを浮かべているのだが、いまにも魔剣を使いたくてウズウズしていた・・・。


 二人の言葉を聞き、ラーグルは少し安心した表情を見せた。

 かつての仲間たちを傷つけるというのは、やはり彼にとっては辛いものなのだろう。


「貴様ら、そこで止まれ・・・ら、ラーグル様!? 帰ってこられたというわけでは、ないのですね?」

 一番早く到着した兵士が、ラーグルに悲しそうな目を向ける。

「ああ、すまねぇな。ソゼストンはいるか? ゼルドス様がいねぇってことは、あいつがここを仕切ってるんだろ?」

 この兵士はラーグルを慕っているようだ。
 彼は小さく頷いたが次々と後ろからやってくる兵士に気がついて、咄嗟に腰に差している剣を抜いた。

「侵入者に教えることは何もない! さっさと立ち去れ! さもなくば、この場で斬り捨てる!」

 兵士は必死の形相で叫ぶ。
 彼の想いはラーグルに届いたものの、どちらも引くことはできない。

「ありがとよ。でも俺は引けねぇんだ、すまねぇ」

 ラーグルは軽く頭を下げ、彼の腹部に拳を食い込ませた。

「ぐ、ラーグル、さま・・・」

 倒れる彼の体を支え、ゆっくりと地面に横たわらせると、迫る亜人の軍勢に向かって大きく息を吸い込んだ。

「てめぇら! 死にたくねぇやつは消え失せろ! こっからは命の保証はしねぇぞ!」

 一瞬だけ止まる兵士たち。

 しかし彼らはときの声を上げ、先ほどよりも勢いを増して突撃してきた。

「ったく、逆にひぃつけちまったか。あいつら喧嘩っ早いからなぁ。おい、姫さんは俺に付いてきな。地下牢までの道は案内するぜ。ウルリル様は、できれば手加減してやってください」

「分かった。お前に付いて行こう」

「では私はここの兵士たちを足止めしますね。ヴァンパイアさんたちもお手伝いをお願いします」

「かしこまりました」
「おー! ヤるデスよー!」
「なるべく殺さずに、敵を始末しましょう」

 ラーグルとハウランは要塞の地下六階に行き、ザイルバーグの民を救出。
 ウルリルとヴァンパイアたちは、敵を無力化しつつ要塞内を進行し制圧。

 それぞれの目的のために、一旦別れて行動を開始した。


 ラーグルとハウランが敵を蹴散らしつつ要塞内に侵入した後、地上にはかなりの亜人たちが集まっている。

「敵が多い。不殺を貫くのは無理そうだな」
「うー、ちょっと厳しいネー」
「数で押されているか。そろそろ我らの力を見せるときが・・・」

「あ、私に任せてください。ちょっとだけ本気出しますね」

 ウルリルはそう言うと、一本の魔剣を天高く飛翔させた。

 魔剣は唸りを上げ、大気を震わせながらぐんぐん上空へと昇っていく。

「空しきを駆れ。虚しきを狩れ。空と虚構の魔神メリノーラの名の下に、その怒りを雷轟に乗せて解き放て。空魔剣メリノーラ!」

 大量の黒雲が群がり、真昼の空は闇に染まっていく。

 空から大地へと稲妻が走った瞬間、耳をつんざくような音が辺りに響き渡る。

 落雷は亜人の魔族たちに直撃し、一人一人を媒体にして隣の者に伝わっていく。

 その光景に開いた口が塞がらないヴァンパイア3名は、ウルリルには絶対に逆らわないようにしようと固く誓ったのであった。





「おい、今のは何だ? ちょっとピリッとしたぞ」

 走りながら問いかけられたラーグルは、足を止めずに後ろを振り返る。

「多分だが、ウルリル様の魔剣だろうよ。この技は、空魔剣メリノーラの奥義だったか。麻痺耐性が高い奴でも麻痺らせることができる大技だ。手加減してくれてんだな」

 流石に要塞内までは麻痺の効果はこなかったようだが、余波が内部まで届くということは、かなり広範囲の技なのだと言える。

 ちなみにヴァンパイアたちも仲良く麻痺状態になっているのだが、ゼルドスもハウランも知る由はない。

「あのような少女にできるとは思えんな。全く、魔王の仲間は強者が揃い過ぎだ。カイ殿が悪人ならこの大陸は滅びているところだぞ・・・」

 ラーグルも同じことを思いつつ、カイが悪い人でなかったことに少し安堵する2人であった。

 その後2人は無言で階段を駆け下り、見張りを倒しつつ地下牢に到着した。

「ここが地下牢だが、やけに少ねぇな。お前の国の住民ってのは、千人くれぇしかいねぇのか?」

「なわけないだろ。ここに集められたはずだが、どうなっているんだ?」

 動揺を隠せないハウランは、近くの牢に入れられていた貴族の1人に気が付いた。

「クレヴェンス卿ではないか。他の者たちはどこへ行ったか知っておられるか?」

「おお、ハウラン皇女殿下。ご無事で何よりでございます。ハウラン様がいなくなった後、他の者たちは二つに分けられてしまいました。若い男たちは兵士として戦争に駆り出されまして、技術者や手先の器用な女性たちは兵器の開発にまわされました。ここには見ての通り、我々のような無力な老いぼれしか残っておりません」

 遅かったかと、ハウランは下唇を噛み締めた。

 恐らくはゼルドス軍の本隊の方に配属されてしまい、既にこの要塞にはいないと思われる。
 もしかしたら、カイたちと一戦を交えてやられてしまっているかもしれない。

「女性たちはどこに集められている? まさか戦場について行っているわけではあるまい?」

「そのような話をしているのを、見張りの者たちがしておりました。確か・・・そうそう、地下三階です。三階の東広間です」

「感謝する。そっちを助けた後で、こちらに戻ってこよう。しばし待っていてくれ」

「ほっほっほ。無理をなさらないでくださいませ。我々老いぼれは気長に待つと致しますよ」

「よし、話はまとまったみてぇだな。三階の東広間に行くなら抜け道がある。近道すっから行くぞ」


 ハウランとラーグルは東広間まで見張りのいない細道を通って行き、敵とあまり遭遇せずに難なく辿り着くことができた。

 扉を開けて2人が広間に入ると、そこには大勢の兵士たちが待ち構えていた。


「おいおい、これはどう言うことだ?」

「ちっ、嵌められたか。どうやら、後にも引き返せねぇみてぇだぞ」

 袋の鼠状態の2人の元に、亀のような魔族のおじいさんが姿を見せる。

「ラーグルよ。間抜け面を晒しに戻ってきよったのか? 裏切り者の分際で!」

「ソゼストン、ちょうどいい。手間が省けたみてぇだな」

 不利な状況は変わらないが、ラーグルは口角を少しばかり上げた。
 ハウランもやれやれと言わんばかりの表情で、拳を構える。

「ほう、この状況で抵抗するとは何とも無謀な奴らじゃな。良かろう。望み通りに地獄へと葬ってやろう!」

 しかしソゼストンは、少し間違っていたのかもしれない。
 自分たちが圧倒的に有利な状況であるという誤認は、彼にとって大きな痛手だろう。

 何千人もの兵士の包囲網。
 その中にいるのは2匹の猛獣と言って過言ではない者たちだ。

 網ごとき、猛獣にとっては造作も無く噛み切れる。
 ラーグル彼女ハウランを確実に仕留めるのであれば、このような弱き兵士たちだけでは足りなかったのだ。

 今にも戦闘になろうとしている状況下。

 もはや彼ら兵士たちの命はもう尽きてしまうと思われたところで、彼らの助けとなるものが飛んできた。

 それはまるで生きているかのような剣であったのだが、それを剣と認識する前に彼らは気を失ってしまった。


「ちょっと待ってくれ・・・これ、俺たちもくらってねぇか?」

「ああ、なんか、眠くなってきた・・・ぞ・・・」


 そしてそのまま、謎の剣の乱入によって部屋の中にいた全員は眠ってしまったのであった。




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