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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機
58話 少女の思いに心打たれて ルーネの決意
しおりを挟む「殿、お召し物が血だらけでござるよ!? お怪我はないでござるか!?」
「カイ、また何かやられたの?」
キルティーは縄でぐるぐる巻きに拘束し、ルーネをメルフィナに頼んで治療してもらったところで、マヤネとリーサがやってきた。
「おう、大丈夫だ問題ない。2人は何してたんだ?」
「リーサ殿にお願い申して、別室でダンスを教えてもらっていたのでござるよ。拙者も殿と踊ってみたかったのござる。しかし、今はそれどころじゃなさそうでござるね」
「こんな状況じゃ無理ね」
辺りを見回してみると、パーティー会場はめちゃくちゃになっていた。
グラスや皿の割れた破片がいたるところに散乱し、テーブルや椅子は倒れてしまっている。
この会場には護衛であっても武器の持ち込みが許されていないため、剣を見てビビった貴族たちが一目散に逃げ、こんな状況になっているのだろう。
料理とかも飛び散っていて、非常にもったいない。
俺は踊ってばかりであんまり食べることができなかったから残念で仕方ない。
せっかく高級そうな料理だったのに。
「あの、魔王様。キルティーはいったいどうなるんですか?」
不安な顔をしているルーネが話しかけてきた。
明るいイメージからは想像できないような暗い表情に、少しばかり困惑してしまう。
「さあな。俺じゃなくてこの国の人が決めるんじゃないか? 法律がどうなってるか知らないから何とも言えないな」
「その件なら、カイ殿に託そうと思う」
渋めの声が聞こえてきたため振り向くと、リーサの父でありこの国の王でもあるグイーザが、護衛をゾロゾロ引き連れて立っていた。
「託すというのは?」
「その者は我が国の法では犯罪奴隷となる。所有権は特別措置として、カイ殿に渡そう。煮るなり焼くなり、売るなり殺すなり、好きにしてくれて構わない」
「そんな、キルティーが奴隷って・・・」
この国は奴隷がいるのか!
ということは奴隷市とかがあったりして。
いつかお金を貯めて行ってみよう。
あ、お金は有り余るほどあったな。
じゃあみんなに黙ってこっそり行ってみようか。
セラファルとメルフィナとウルリルの監視網さえ突破できれば行くことができる。
あれ、なんかこの3名の目をかいくぐるのは無理な気がするのは俺だけだろうか。
「このようなことになり、本当に申し訳なく思っている。感謝しきれぬ恩をもらったというのに、我が国の兵がすまぬことをした。どうか我が国に敵意を抱かないでいただきたい」
おっと、思考が盛大に脱線していたな。
俺的にはなかなか楽しめる体験だったから、敵意を抱くなんてことは全くない。ナニがとは言わないが。
それに個人にされたことで、国を責めても仕方ないしな。
「別に気にしてないぞ。それより借りた服を酷い状態にしちゃってすまんな。これっていくらぐらいするんだ?」
ちょっとおどけた口調で話してみると、グイーザの固い表情がくだけて優しい笑みに変わった。
「カイ殿は何とも気さくな方だ。服など気にせずともよいのに。城のものであれば、何でも渡そうと思っていたところであるからな。それほど感謝してもしきれぬということだ」
マジですか。
じゃあ食べられなかった料理とか注文しても良いのだろうか。
「それなら、ちょうどお腹空いてきたから料理とか頼んでもいいかな? ダンスばっかで食べられなかったんだよな」
「く、はっはっはっ! カイ殿は欲がないな。そんなことで良ければすぐに用意させよう!」
高級な料理が食べられるって、贅沢じゃないのか。
思考が庶民すぎるのだろうか。
「マスター、この女はどういたしますか? 奴隷ということですが、非常に危険な能力を持っていますので、早めに処分した方が良いと提案します」
会話の隙を見てセラファルが意見を言ってくれた。
それを聞いたルーネが、顔を真っ青にしたあと急いで俺の元に駆け寄ってきた。
「魔王様お願いします! キルティーの命だけは助けてあげてください! キルティーは、本当はいい子なんです。さっきおかしくなっちゃったのには、理由があると思うんです!」
俺的にはセラファルの意見に従いたいとこだが、流石に殺すまではしたくない。
かと言って奴隷として近くに置いとくのは危険だし、ちょっと困ったな。
「カイ殿。奴隷は主人の命令に従うように強制することが可能だ。能力を使わぬように命令すれば逆らうことはできぬぞ」
悩んでいる俺を察して、グイーザが色々と教えてくれた。
どうやら奴隷と主従の契約をした際、魔法で逆らえないようにするのが一般的のようだ。
主人の命令に従わなかった場合、魔法が発動して奴隷は死に至ることもあるらしい。
「まあそれなら大丈夫そうかな。セラファル、どう思う?」
「少々心配は残りますが、私はマスターに従います。マスターの御心のままに」
能力さえある程度治っていればどうにかなるだろうし、危険なのは俺が回復するまでか。
「じゃあキルティーは俺が預かる。傷つけたりしないから安心してくれ」
ルーネに語るように宣言した。
彼女はそれを聞いて、一度顔を伏せ、少し考えた込む様子を見せた。
そして顔を上げると、意を決したような表情になる。
「魔王様、お願いです。あたしも魔王様の奴隷にしてください!」
ちょっと予想外の展開に、セラファル以外のみんなが目を丸くしてしまう。
グイーザや周りの護衛たちも驚いているようだ。
みんな当たり前の反応だと思う。
たとえ友人のためとはいえ、自分も一緒に奴隷になるだなんて言えるやつはどの国を探しても少ないだろう。
しかもその友人は今日裏切られて、腹を躊躇いなく刺されたばかりなのだ。
なおさらそんな友人のために、我が身を犠牲にするなど考えられないよな。
「ルーネ、どうして友達のためにそこまでするんだ?」
「キルティーは本当に優しくて、本当に健気な良い子なんだ。あたしはいっぱいキルティーの笑顔に助けられてきた。だから今度は、あたしがキルティーを助けたいんだ。2人いれば、奴隷の仕事は半分こできる。キルティーとは楽しいことも辛いことも、一緒に背負いたいんだ」
俺だったら、全てを捨ててまで友人のためにそこまでできるだろうか。
そこまで決意を固くして、少し笑いながら言えるのだろうか。
「ルーネ、お前凄いよ」
拙い俺の語彙力では、彼女にかける言葉はこれくらいしか見つからなかった。
心の底から凄いと思う。俺には到底真似できない。
「ダメだよルーネちゃん! これは私がやったことだから、ルーネちゃんには関係ないよ! だから今すぐ撤回して! お願い!」
首から下をグルグルに巻かれているキルティーが、必死な形相で涙を浮かべながらルーネに向かって叫ぶ。
話している間に気を取り戻したらしい。
「ふん、だ。あたしを刺したキルティーの言うことなんて聞くもんか」
口を少し膨らませてそっぽを向いたあと、キルティーに見えない角度で自嘲的な笑みを浮かべるルーネ。
まだあどけない少女が見せるものとは思えないほどの、憂いを帯びている笑みだった。
「ダメだよ。ダメだよルーネちゃん・・・」
どんどん言葉が弱くなっていくキルティーは、すでに涙が溢れて止まらなくなっていた。
つられてしまったのか、ルーネの目から少しばかりの雫がこぼれ落ちる。
バレないように急いで拭き取ったルーネは、もう一度俺の方に向いて真剣な表情になった。
「魔王様。あたしをキルティーと一緒に、奴隷にしてください」
「分かったよ。こんなの見せられたら断るに断れないからな」
ひと段落ついたところで、カイの元に頼んでいた料理が運ばれてきた。
料理はちょっぴりしょっぱい味がしたそうだ。
◇あとがき◇
2018/2/6 誤字修正しました。
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