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2章 ゼルドスの反乱 二つ目の危機
45話 少女は魔剣を愛でて 殺戮の幕開け
しおりを挟む「あのー、カイ様? セラファルさんと良い感じの雰囲気になって、ラーグルさんと手を握り合って、完全に私のこと忘れてないですか? 見せつけられて、私は放置プレイですか? 興奮しちゃいますけど」
あ、いや、忘れていたわけでは・・・ちょっと忘れてたな。
「とりあえず方針が決まったのでしたら、皆さんを呼んできますね。カイ様は怪我してるんですから、大人しく待っていてください。動いちゃダメですからね」
軽くおでこにツンとされ、そのままメルフィナがパタパタと走っていくのを眺めていた。
メルフィナって、こういうときは本当にいい女だよな、と、カイはしみじみと感じていた。
◇
セラファル説明の元、仲間たちに現状が伝えられた。
それぞれの反応はあったものの、とりあえず和解したことを伝えたので、騒ぎにはならなかった。
「なるほど、ラーグルさんがねー。仲直りしたなら、私は何も言わないけど」
「カイさんは今、能力が使えないんですね。うぅ、心配です」
「そうなってくると、私たちだけであの軍勢を倒さないといけませんね。これはカイ様からとびっきりのご褒美を用意していただかないと・・・」
「うう。拙者は殿が窮地のとき、お側にいなかったとは。かくなる上は切腹を!」
「ご主人様弱ってるの? エミュは全然分からないの。ご主人様の魔力はいつも通りビンビンなの!」
魔力はビンビン?
つまり魔力は失われていないということか。
「セラファル。俺を魔力タンクにするとかどうだ? リーサとエミュは魔力を使って戦ってるから、俺さえいれば魔法撃ち放題だろ?」
セラファルはコクッと頷くと、みんなを見渡してそれぞれの役割分担を決め始めた。
「マスター、とても良い案です。ではリーサさんとエミュは、マスターの護衛をしつつ、魔法で敵を攻撃してください。マヤネさんとメルフィナさんは、今まで通りでお願いします。私は敵が来る前に罠を仕掛けましょう。ウルリルさん、手伝っていただけますか?」
「あ、えっと、その・・・」
モジモジして何か言いたげなウルリル。
恐らくこの戦いが怖くなったのだろう。
敵は多いし、罠を仕掛けるだけといっても危険なときはある。
まだまだ子供なウルリルにとっては、今回の戦いはキツイかもしれないな。
「ウルリル。無理しなくていい。安全そうな場所に避難しててもいいぞ?」
「あ、カイさん。違うんです。私も戦いたいんです! 皆さんが一所懸命に戦っているとき、私だけ戦えなくて、それが悔しくて。だから、私もやれるだけのことをしたいんです」
ウルリルも戦いたかったのか。
でもウルリルが魔法を使ったら、自爆しちゃうからなー。
魔法以外に何か特技とかがあるのだろうか?
「私、魔剣を操るのが得意なんです。今は一本も持ってないですが、もしかしたらこの王都のどこかに、魔剣を売ってるお店があるかもしれません。魔剣さえ手に入れば、私もちょっとは戦うことができるんですよ!」
肩の高さでキュッと小さく両拳を握り、やる気をアピールするウルリル。
真剣な目をしているのだが何分上目遣いのため、子供がおもちゃをおねだりしているように見えてしまう。
「分かった、じゃあ魔剣を手に入れようか。武器屋とかにあるのかな?」
「マスター。魔剣ならインベントリ内にいくつか所持していますが、お出ししましょうか?」
なんで俺、魔剣なんて物騒なものを持ってるんだ?
買った覚えなんてないんだが、いつの間に・・・。
「魔王城にあったものはドロップアイテムと認識されて、自動回収しています」
なるほど。そういえば前にセラファルたちと一緒に寝たテントとかも、魔王城のものだったっけ。
「それじゃあ、とりあえず全部出してもらえるか? ウルリルが使いやすいのもあるだろうからな」
「合計24本です。ウルリルさん、どうぞ」
セラファルは空間の裂け目から、剣を次々に取り出し始めた。
インベントリってどういう仕組みなのだろうか。
今度調べてみたいところだ。
「これって私が没収された・・・じゃなくて、前に使っていた剛魔剣ガトゥラン。あ、こっちもそうです。空魔剣メリノーラ。竜魔剣フラドラークに、聖魔剣ティトランタって・・・8本全部揃ってる!」
興奮して鼻をスンスン鳴らせながら、ウルリルは魔剣を1本ずつ手に取って、ウットリした顔で撫でている。
そんな様子を苦笑いしながら見ているカイの元に、ラーグルが近づいてきて耳元で囁く。
「魔王様。ウルリル様に魔剣持たせるのは、ちぃとヤバイですぜ。あの方は剣の扱いは凄いんだが、一度剣を使うと最後に何かやらかすって、噂を聞いたことがあんですよ」
「ちなみに、前に何をやらかしたと?」
「魔王城の庭の植物が一つ残らず刈り取られたとか、魔王城の東の見張り塔が斬り倒されてたとか、魔王城近辺に生息する大量のモンスターの皮が剥ぎ取られてたとか。毎回毎回、アワアワしてるウルリル様が目を背けてたたずんでたんで、犯人が分かったらしいんですよ」
ウルリルはそんな危険人物だったのか。
ただの可愛い女の子にしか見えないのにな。
だが話を聞く限り、彼女に剣を持たせたのは失敗だったかもしれない。
「カイさん、この子たちを使ってもいいんですよね! ありがとうございます!」
目をキラキラと輝かせながら、満面の笑みでお礼を述べるウルリル。
子犬を拾ってきた少女が、飼っていいわよとお母さんに許可をもらったときのような表情を見せている。
もはや彼女から剣を取り上げることなど誰ができようか。
そう、誰もできやしないのだ。
というか、魔剣をこの子たち呼ばわりとは驚いたな。
剣に対する愛情なのかは分からんが、心配になってくる。
もしかすると剣の名前は、ウルリルが自分で付けたのかもしれない。そうであって欲しくないが。
「あー、ウルリル。剣は危ないからな。取り扱いには、十二分に気をつけてな」
「はい! 手入れもちゃんとできますよ!」
分かってくれたよな? 大丈夫だよな?
「カイさん! 早速この子たちを動かしてあげますね!」
「いやー、ちょっと待ってもいいんじゃないかな?」
「そうですぜウルリル様。敵が来るまで力を温存しときましょうぜ」
俺とラーグルが必死の説得を試みる。
だが、その程度では彼女を止められない。
ウルリルに魔剣を渡したことで、すでにアウトだったのだ。
「大丈夫ですよカイさん、ラーグルさん。遠くに見えてる敵さんたちなら、いっぱい斬ってもいいですよね? 早速、試し斬りしてみないといけません!」
言うや否や、8本の魔剣全てを敵の方向に飛ばしたウルリル。
「あのー、ウルリル? 許可とかしてないんだけど?」
「カイさんはまったりと休んでいてください! 私もできる女の子だと証明してみせますから! ついにカイさんのお役に立てます・・・えへへ」
これまでにない張り切り具合を見せるウルリルに、かける言葉が見つからなかった。
ツッコミたいことはいくつがあるが、もうウジウジ言っても仕方がない状況だ。
「敵が少しでも減ればいいか・・・」
カイの呟きは、魔剣が飛んでいった方角の空に消えていくのだった。
◇
1人の魔族が偶然空を見上げた際に、こちらに飛んでくる何かを発見した。
彼は亜人族で構成された、魔王討伐部隊の伝令兵であった。
「な、何だありゃ? 剣か? 剣が飛んでくるのか?」
投擲された剣にしては、おかしな軌道で向かってくる。
操っているにしては近くにそれらしい魔力反応はない。
次第に近づいてきた剣を見て、彼は少しずつ焦りの色を見せるようになった。
剣には明らかに魔力が込められている。
つまり、誰かが操っていることになる。
しかし近くに魔力を操るものは見当たらない。
「こんなことができるやつは、この大陸で一人しかいない。やべぇ! みんな逃げろ! 八剣之悪魔が出たぞ!」
彼の叫び声が終わるよりも早く、1人の魔族が断末魔の悲鳴を上げた。
その声を皮切りに、次から次へと痛々しい悲鳴が上がっていく。
あどけない少女が贈る、殺戮という名の蹂躙劇が幕を開けた瞬間であった。
◇あとがき◇
漢字を変更しました。八剣舞踏→八剣之悪魔。
加えて37話も修正します。
最近投稿があまりできず、すみません(´・ω・`)
あ、次話は、ほんのちょぴっとだけえっちぃかも。お気をつけください。
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