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1章 異世界の魔王 一つ目の危機
35話 ござるだぜ マヤネ
しおりを挟む「ちょっと待って欲しい!」
いざ町を出発というときに、ちっこい忍者が走り寄って来た。
彼女は魔王国で捕まっていた罪人だが、別に大したことをやってなかった。
魔族は大量に返り討ちにしたらしいが、大したことではないだろう。
というわけで、昨日俺が無罪判決を言い渡し、無罪となった女の子だ。
もし彼女を罪人とするなら、俺はそれ以上の刑になってしまうよな。
巨人がやったことだとはいえ、魔族を大量に殺してしまったからなぁ。
で、女の子の名前は、確かマヤネだったか。
最近色んな人の名前が出てくるから、覚えるのが辛く感じる。
記憶能力が上がるスキルでもないだろうか。なんでもスキルに頼るのは良くないかもだけど。
「拙者、魔王様の慈悲深さに感激いたしました! 拙者の忠誠を魔王様に捧げたいと思って、馳せ参じました!」
凛とした瞳で俺を見つめてきた。
どこか子犬のような、つぶらな瞳。
その目には、尊敬とも憧憬とも取れる感情が見え隠れしていた。
「好きに生きていいと言ったんだがな」
「これが拙者が選んだ、好きな生き方です!」
なんだろう。
何か違うんだよな。
そうか、語尾だ。
忍たるもの、語尾はござるだよな。
え? そこじゃない?
語尾って重要じゃない?
「忍者なら語尾をござるにして欲しいんだがな。もしくはニンニンとか付けるか?」
「え!? あ、えっと、拙者も魔王様について行きたいござる! ニンニン!」
ダブルで盛り込んでくるなんて、やるじゃないかこの子。
「素晴らしい。マヤネを仲間に加えよう」
「いや、どんな基準で決めてるのよ」
「マスター。マヤネさんは戦力になるとは思いますが、これ以上女性を増やすおつもりでしょうか? さすがに女性ばかりになってしまいますが」
リーサの的確なツッコミのあと、セラファルが現実を突きつけてきた。
確かに、おっしゃる通りでござる。
セラファルには頭が上がらないでござる。
「ダメでござるか? これでも少しは腕に自信があるのでござるよ。あ、ニンニン」
たどたどしい口調で、少しシュンとした表情になりながら、マヤネはリーサたちに向かって話しかけた。
「カイがいいなら別に良いんじゃない?」
「マスター。良く考えてご判断ください。どういたしますか?」
「んー、迷うな。ウルリルとかにも聞いてみるか」
というわけで、みんなに意見を求めてみた。
「また増えるんですね。カイさんなら、うん、しょうがないですよね。私は賛成しますよ」
「ありがとう、ウルリル」
ちょっと呆れ混じりに、理解を示してくれたようだ。
「カイ様のお好きにしてください。ついでに私のことも好きにしてください。もちろん、ベッドの中で」
「そうか」
難色を示しそうだと予想していたメルフィナは、意外とあっさりしていた。
後半はスルーだ。
「んー、ご主人様にナデナデしてもらう時間が減っちゃうの。もっとエミュをナデナデすることを要求するの」
「このこの、愛いやつ、愛いやつめ」
「あーれー! なの!」
エミュ。それはちょっと違う。
少し視線を感じたので振り向くと、羨ましそうな目で見つめてくるマヤネと目が合った。
マヤネは素早く目を逸らしたが、バレバレ過ぎだな。
「なんだ? マヤネもなでられたいのか?」
マヤネは無言で近づいてきて、そっと頭を差し出してきた。
ナデろということか?
「よしよし。みんなの許可が取れたから、ついてくるか?」
「は、はい。ついていきます、でござる」
ウットリと気持ち良さそうな表情になったマヤネが、仲間になった。
さて、今マヤネをナデていたら違和感を感じた。
何だろうか。こう、いやーな感じがするというか、何というか。
スキルの神眼でマヤネを見ても、特に状態異常になっているわけではない。
というわけで、困ったときのセラファル。
なんか分かる?
「マスター、マヤネさんの周りを神眼でご覧になってください」
周りを?
マヤネから少し離れて、マヤネの周りに意識を向ける。
そうすると、周りに禍々しい気配が漂っているのが見えた。
とりあえず良くない雰囲気だな。
「セラファル、どうする?」
「悪魔が憑依しようとしていますが、憑ききれていない状況のものですね。誰かが使役している可能性もありますので、倒しておきましょう。マスター、スキルの使用の許可をお願いします」
「許可する」
俺が言い終わる前に、何らかのスキルを発動させたセラファル。
神々しい光がマヤネを包み込み、マヤネの周りに漂う邪気はきれいさっぱりになくなってしまった。
さすが天使だ。
やっぱりすごいな。
「今のはマスターのスキルですよ?」
あ、はい。そうでした。
確かサリエルを浄化したスキルだっけか。
「拙者は、何をされたのでござるか? ピカってなってポワーンと暖かくなったでござる」
「実体のないものの命を消滅させるスキルです。マヤネさんに取り憑ききれずに、周囲を漂っていた悪魔を消しました」
「悪魔でござるか!? 監獄から出たあと、ずっと黒い気配がしていたのでござるが、まさか悪魔だったなんて・・・あ、ござる。ニンニン」
ん? 監獄?
「脱獄するときに誰かに会ったか?」
「見た目が道化師のような、変わった魔族を見たでござる。そういえば、あの時から黒い気配が・・・」
おいおい、明らかに犯人そいつだよな。
俺たちが会うことはないかもしれないが、会ったときは一発くらいポコっておこうか。
事の次第によっては、ポコからボコになるだろうけど。
「あのー、カイさん。私も頭、ちょっとだけナデて欲しいです」
「カイ様、私は身体中のどこでも構いません。いや、むしろナデまわしてください」
「エミュももっとなの! おかわりなの!」
マヤネのことが羨ましかったのだろうか。
よし、それなら順番にナデてあげよう。
「はう。カイさんの手、あったかいです」
「頭ですか。意気地なしですね。まあ、愛してますから許しちゃいますけど」
「今日はいい日なの~。ごくらくなの~」
一通り頭をナデてあげたところで、今度はセラファルの視線を感じた。
「じー」
「セラファル、ナデようか?」
「マスターのお手間ではなければ、お願いいたします」
そう言ってかなり近づいてきたセラファル。
わざとかは分からないが、色々当たっている。
「よしよし」
「マスター。幸福量が一定以上になったため、理性が解除されてしまいそうです」
セラファルも少しずつ危なくなっているな。
やはり、メルフィナの影響か?
「リーサはどうする?」
「え? わ、私は別にいいわよ」
赤くなって顔をプイッと逸らしているようじゃ、説得力がないな。
「ほら、よしよし」
「な、なな、何してるのよ!? ちょ、ちょっと・・・」
少ししたら借りてきた猫のように、大人しくなった。
リーサは意外と、こういうのが好きなのかもしれない。
「別に嬉しいってわけじゃないけど、お礼くらい言っておくわ。その、ありがと」
「お、おう」
リーサがちょっとデレたことに驚きつつ、なんか変な空気になってしまった。
そして、それをジッと見ていたウルリルがまたナデて欲しいと言い出して、もう一周みんなをナデることになったのだった。
◇あとがき◇
ナデナデ回?
メルフィナはどこをナデて欲しかったのだろうか。分かりません。分からないのでござる。
次回はようやく王都です。
戦いの火蓋が切られる・・・?
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