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1章 異世界の魔王 一つ目の危機

28話 やっつけるぜ 盗賊たち

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「ここが、サウィリア領にあった町。グラスタに滅ぼされた、私の隠れ家があった場所よ」


 リーサは力のない声で言うと、悔しそうな表情のまま辺りを見回した。

 どこも酷い有り様だ。
 そこら中に家の残骸が散らばり、町だったときの面影は薄れてしまっている。

 グラスタは慈悲などなく、サウィリア領内の町を潰しながら、住民たちを皆殺しにしていった。
 襲われなかった村がいくつか残っているらしいが、町との交流がなくなった今、どこも生活に困窮していることだろう。

「同じ魔族として、ここまでむごいことをしたグラスタという男は生かしておけませんね。断罪すべきです」
「メルフィナさんの言う通り、こんな酷いことをしたグラスタという魔族には、罪を償って欲しいです」

 メルフィナもウルリルも憤慨している。

 グラスタは早めに倒しておきたいが、リーサはまだまだ力不足だ。

 リーサが強くなる前に遭遇したら、俺とメルフィナで倒すことになりそうだな。
 もちろん、セラファルの助けは借りる。

「グラスタは見つけ次第、倒すことにしようか。リーサが無理だった場合は、俺とメルフィナでなんとかしよう。今はリーサの国をどうにかしないといけないから、出会わない方がいいんだが、その時はその時だ」


 リーサの国では、第一王子のレーザが狂乱しているらしい。
 だが影で操っているのは、災いの魔術師どうけしと言われているノワルトンだろう。

 その証拠にミューストリアの王都には、大規模な魔法陣が展開されつつあるとのことだ。

 この魔法陣は生命力や魔力を吸収するタイプのもので、結界が完成してしまえば王都の住民たちが、魔法陣に吸収されて死亡してしまうらしい。

 何としてでも阻止しなくてはならない。

 ちなみにノワルトンや魔法陣のことは、ラーグル経由、ゼルドス情報だ。


「マスター、プランを考えました。皆様に説明してもよろしいですか?」

 セラファルが王都奪還の作戦を考えてくれたみたいだ。
 ちなみに猫メイドのままである。実に良いんだが、頭を撫でたくなる衝動と戦わないといけない。

「よし、じゃあみんな聞いてくれるか。セラファルから作戦の案が出た」

 皆が神妙な面持ちになる中、前に立つ猫メイド、もといセラファル。なんか、シュールだな。


 一通り作戦の内容を確認した後は、グラスタに滅ぼされなかった町に寄ってみることにした。

 リーサが、この領の現状を知りたいと言い出したためだ。
 この国の姫として、思うところがあるのだろう。





「カイ様。こちらに敵意を向ける気配が9つ感じ取れます。気を付けてください」

 町へ向かう途中、メルフィナが敵の気配を察知したと言い出した。
 どうやら、友好的じゃなさそうだ。

「調べます・・・マスター、相手は盗賊のようです。いかがいたしましょう?」

 盗賊だと?
 なるほど。馬車を狙っているのか。

「盗賊って本当にいるんだな。普通はどっかの国のお姫様とかが乗る馬車が狙われたり・・・ハッ! 待てよ、もしかして」

「あの、私はミューストリア王国の姫なんだけど」
「あ、私も前魔王の娘なので、姫という立場です」

 リーサとウルリル。
 二人も姫がいるだと!?

 単純計算で盗賊ホイホイ率2倍!
 まさか姫がこんなに身近にいるなんて、全然意識してなかった。

「魔王様、あんたがそれを言ったらダメじゃないですかね。俺たちの国の王様ですぜ」

「何!? そっか、俺って魔王じゃん!」

 盗賊ホイホイ率3倍!
 いや、1倍に3人を足すから4倍か?

 思考がこんがらがってきた。

 いやいや、落ち着け。冷静になるんだ。

 よく考えればこのメンバーがおかしい。

 魔王になっちゃった俺。
 ミューストリア王国の姫のリーサ。
 魔王国の姫のウルリル。
 ゼルドス領の幹部、つまり貴族のような存在のラーグル。
 フィーストン領の領主の妹。思いっきり貴族なメルフィナ。

 そして我らが天使のセラファルと、可愛いマスコット的ペットのエミュ。

 いや、最後の一人と一匹は関係ないけど、ラーグルさんとメルフィナを合わせれば盗賊ホイホイ率5倍、いや6倍だ。

「もはや俺たちは、盗賊を寄せ付けるための集団だったのか。これは盗賊が襲ってきてもしょうがないよな、うん」

「あの、マスター。そろそろ盗賊をどうするかお決めになってもらわないと、メルフィナさんが根絶やしにして首だけ持って帰ってきそうな顔をしています」

 おっと、盛大に脱線していたみたいだ。

「普通なら盗賊ってどうするんだ?」

 人間のことは人間に聞こうと、リーサに聞いてみた。

「一般常識なら、なんとか退けるか逃げるのが普通ね。殺すのは全然構わないわよ。むしろ盗賊たちを倒せるくらい強い騎士とか冒険者は、率先して倒すようにしている感じね」

 ふむふむ。
 これはリーサにとって、いい機会かもしれない。

「じゃあ、リーサやってみるか? 特訓の成果が見たいし、危なくなったらメルフィナに介入させるから」

「え、いいの? ボコボコにしちゃうわよ?」

「おう、やっちゃえ。相手は9人だ。気をつけてな」

 一旦馬車を止めると、わらわらと盗賊たちが集まってきた。
 数は7人。多分2人は、様子見かなんかだろうか。

「おお、なかなかいい馬車じゃねぇか。俺たちに恵んでくれよ、全部置いてけば命は助けてやるぜ」

 ちなみに馬車を引いている馬が魔物だと、全く気付いていない様子だ。
 間抜けな盗賊たちだな。

 タイミングを見計らって、リーサが馬車から飛び降りた。
 リーサを見て、盗賊たちは歓喜の声を上げる。

「お~! なかなか可愛い嬢ちゃんじゃねぇか。決めた。嬢ちゃんは俺が可愛がってやるよ」
「お頭、独り占めずるいですぜ。後で俺たちにも!」

 やばい。俺がイラッとしてしまった
 ちょっと俺も参加しようか?
 魔王が戦闘に参加しちゃおうか?

「本当、盗賊ってクズよね。それじゃあ、あたしの魔法の実験に付き合ってもらうわ。逃げないでね?」

 盗賊の下卑た視線を浴びたことで、リーサもかなりおかんむりのようだ。

 そして挑発された盗賊たちも、青筋を立てている。

「あ!? 大人しくしてたら優しくしてやろうと思ったんだが、俺を怒らせちまったみたいだな!」
「そうだそうだ! お頭やっちまいましょう!」

 周りの盗賊たちが野次馬に見えてきた。

 もはや盛り上げ役だな。

「もう魔法かけちゃってるけど大丈夫? 私、無詠唱の素質があったみたいなのよね。教えて・・・くれたセラファルさんには感謝しないと」

「は? 何を言って・・・ぐっ、身体が、言うこと聞かねぇ! このアマ、何しやがった!?」
「お、お頭ぁ。俺もっ、動けないっす~」

 急に盗賊たちは動かなくなり、その顔に苦悶の表情が浮かび始めた。

 リーサには無詠唱魔法の練習と同時に、魔法の勉強をさせて、使える魔法のバリエーションを増やさせた。

 ちなみに、リーサに勉強を教えるために、俺はセラファルとメルフィナから魔法について教わっていた。

 俺だって、魔法を覚えたいじゃん?
 一応、リーサの師匠っぽい感じになったし、恥をかかないようにしたいじゃん?

 建前はこれくらいで、本音はセラファルもメルフィナも可愛いし、勉強するのが楽しかったからなんだが、まあ結果良ければ何とやらだ。

 話が逸れてしまった。
 そうそう、リーサの無詠唱はかなり上達しているようで、今盗賊たちに何の魔法を使ったか分からなかった。

 まあ神眼で見れば魔力の流れを捉えられるから、やろうと思えば判別できるんだけど、そこまですることでもない。

「麻痺と毒をブレンドした魔法と、毒の継続ダメージを上げる魔法を使っておいたわ。メルフィナちゃんには全く効かないから練習で使わなかったけど、人間相手なら効果あるわね」

 聞いてるだけだとエグい内容だな。
 まるで拷問だ。死ねるだけマシだけど。

「くっ、この程度!」

 お頭と呼ばれていた盗賊が無理矢理に身体を動かして、ポケットに入れていたポーションを飲み干した。

 顔色は次第に良くなり、斧と思われる武器を両手に構えてリーサと対峙した。斧盗賊なのか。
 二刀流ならぬ、二斧流?
 その斧、二つ合わせだったりするのか?

 ちなみに他の6名は天に召されてしまったようだ。
 同じ人間だし、おててのしわとしわを合わせて、ご冥福をほんのちょっとお祈りしておこう。な~む~。

「くそ、仲間が! スキル『両斧挟撃』!」
「あのねー、防御結界ぐらい張るわよ普通。結界張らなきゃメルフィナちゃんに瞬殺されちゃうわよ。はあ、もうちょっと頭使って戦って欲しいわね」

 リーサが言い終わる前に斧が透明な壁に当たり、斧盗賊がよろめく。

風切スラッシュ

 すかさずリーサは風魔法で攻撃したが、勢いの調整を誤ったのか盗賊の首を吹っ飛ばしてしまった。

「あ・・・。メルフィナちゃん相手だと全く効かないから、威力の加減ができないのよね。ごめんなさいね」

 首からピューピュー液体が噴出してるし、もう聞こえてないだろうから謝る意味はない。
 だがなんとなくバツが悪い気になって、謝ったのだろう。

「ヒィ、ば、化け物だ! 逃げるぞ!」

 遠くから様子を見ていた、残りの盗賊2人が逃げ出したようだ。
 リーサを化け物扱いするとは酷いやつらだ。

 中身はツンケンしてるが、外見はさすが姫と言いたくなるくらい美人なんだがな。


「よし終わり。魔法を発動しておいたから、あとは待つだけで大丈夫・・・よ」

 リーサは馬車に戻ってくるなり、いい笑顔を見せながらパタリと倒れてしまった。

「極度の魔力切れです。一体どんな魔法を使ったんだか」

 メルフィナがリーサを優しく寝かせると、何やら凄い音が聞こえ始めた。


「おい、ちょっと待て。リーサお前、何の魔法使いやがった?」

 スヤスヤと気持ち良さそうに眠るリーサには、答えさせることはできない。


 皆が空を見上げ、誰もが見る見る青い顔になっていく。


 そう、空の真上から数えきれないほどの隕石が、地上へと降り注ごうとしているのだった。



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