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1章 異世界の魔王 一つ目の危機
24話 まさかのショタだぜ アンチャウス
しおりを挟む魔王国を統一して欲しいと、西の領主ゼルドスさんに頼まれた俺は、期限付きの魔王になり、魔王国の各地に足を運んでいるところだ。
現在、フィーストン領を出た俺たちは、東の領に高くそびえるアンチャウス山を登っている。
この山に来るまでに精霊たちが住む別の霊域を通り、また大精霊たちに襲われたのだが、今回はメルフィナが説得してくれた。
メルフィナは、北のフィーストン領の領主の妹で、何故か俺のことを気に入ったらしく、旅に同行することになったマーメイド種の魔族だ。
ちなみに水中に入らなければ、陸上での外見は人間とほとんど変わらない。
しいて違う点を挙げるとすれば、ウロコだろうか。
身体の一部に魚の鱗が薄っすらと見てとれるが、意識しなければ気にならない程度だ。
メルフィナは大精霊の登場にかなり驚いてはいたものの、臆することなく説得していた。
どうやら彼女は姉と違って脳筋タイプではないみたいだ。頭脳派なのだろう。
「やっぱりカイ様はさすがですね。大精霊を平伏させちゃうなんて」
精霊たちの間でこの前の一件が噂になっていたようだ。
噂の魔王だと気づいた大精霊たちが、途中で顔を蒼くしてひれ伏した。
それもあり、メルフィナの説得もあり、霊域はすんなり通ることができたのだ。
うん、平和が一番だ。
「っと、ここまでか。魔王様、もうすぐ頂上ですぜ。こっから馬車は使えねぇんで、歩いてもらいます」
ラーグルに言われて徒歩に切り替えた。
山と言っても道は整備されていて、傾斜も緩やかで歩きやすい。
途中までの道も、ここまで馬車で来られたくらいだ。揺れは多少あったが、支障は全くなかった。
しばらく歩いているうちに頂上が見えてきた。
頂上にいる見張りがこちらに気がついた。
その後ろには、大きな魔方陣。
聞いた話では、これは高度な転移魔法陣らしい。
これで転移して、浮遊都市アントゥラへと行くようだ。
都市が浮いていると聞いて、某「空に浮かぶ城」を思い出したのは言うまでもない。
都市に到着しても呪文は言わないぞ?
言わないからな?
小声で呟きたくなりそうだけど。
「止まれ! それ以上近づくな! 不審な奴らめ!」
転移魔法陣の見張り兵が遠くから話しかけてきた。
「こちらのお方は魔王様ですよ! バカなんですか? 死ぬんですか?」
メルフィナがちょっと怖い。
「は、魔王? そこの人間が魔王? 片腹痛いわ! そんな貧弱そうな人間を、屈強なる我ら飛天魔族の住まう、空都へと近づかせてなるものか!」
セラファル、ウルリル、メルフィナが殺気を放ち始めた。
エミュも威嚇態勢に入って爪を出し始める。
そしてその爪が、俺の肩に突き刺さる。
イタイ。ダメージ無効なのに、イタイ。
散々な言われ方をした張本人の俺は、逆に冷静になってしまった。
誰かが怒っているのを見ると、自分の怒りって冷めるものなんだなー。
いや、そもそも馬鹿にされたくらいじゃ、怒りはしないけどな。
「待って! 止めてください! 皆さんそんなに殺気を出さないで!」
そんな数名の殺気に満ちた場の中、空から翼の生えた幼い少年が飛んできた。
その顔は必死そのもので、今にも泣きそうな表情をしている。
「ぜ、ゼスタ様!? このような場所に貴方様がいらっしゃるとは。本日はよくいらしてくださいま・・・ぶぉふぉぁ!?」
ゼスタと呼ばれた少年は、見張りの兵を蹴り飛ばし、こちらにマッハ2.5くらいの速さで飛んできた。
君は戦闘機かとツッコミたい。
「ごめんなさい! 僕のところの兵士が、失礼なこと言っちゃったみたいで・・・」
目の前までやってきた少年は、深々と頭を下げて謝罪した。
なんでこんな少年が謝る必要があるんだ?
「マスター。ゼスタと言うと、この領地の領主の名前です。ゼスタ・アンチャウスだったと記憶しています」
「領主? この少年が?」
とてもゼルドスさんやハルティナよりも、強いようには見えない。
まあ神眼で見るのが早いか。
個体名 ゼスタ・アンチャウス
性別 男
年齢 78歳
レベル 1758
タイプ 魔法戦闘特化型
種族名 飛天魔族
称号 〈アンチャウス領 領主〉
〈飛天魔族 族長〉
〈天駆ける支配者〉
スキル 風属性魔法超特化
圧系統魔法超特化
魔法ダメージ無効化
継続スキルダメージ無効化
空中戦闘時ステータス上昇
半神化
超速回避 etc
まさかのロリバ○アならぬ、ショタジ○イだった。
魔族は歳を取る速度が遅いみたいだな。
まさか、ウルリルも12歳ではなく・・・。
まあ重要なのはそこじゃない。
このスキル。これは強いな。
魔法が効かないのに、超速回避とかいう能力もあるから、物理攻撃が当たりにくい。
それとよく分からない半神化なんてスキルまである。
あれか? 神の血でも引いてるのか?
総じて、彼は不死の能力を持っていた四天王サリエルに次ぐ強さと言っても過言ではない。
「何でもしますから許してください!」
そんなゼスタ君は土下座して許しを求めている。
「俺は君に話があって来たんだ。聞いてもらえるかな?」
「はい、勿論です! 魔王様!」
素直ないい子じゃないか。
それに免じて、さっきの兵士のことは水に流してあげよう。
セラファルとメルフィナを含めて、話し合いは始まった。
ちなみに山の上でテーブルと椅子を出して話している。インベントリは偉大だ。
さて、まずゼスタ君は物凄い魔力を持った何者かが近づいていることに気付き、それが魔王様じゃないかと思って飛んで来たらしい。
俺の魔力はセラファルが隠してくれているみたいだが、大精霊たちのように特殊な力があれば分かってしまうみたいだ。
ゼスタ君に魔王国を統一するという話をしたら、快く協力を受け入れてくれた。
話が早く進んでよかった。
しかし、ハッキリさせておくべきことが一つある。
アンチャウス領が人間の国を襲ったと、ゼルドスさんから聞いている。
もしゼスタ君が犯人だとか指示を出したとかなら、キツイお仕置きが待っている。
見た目が子供だろうが、容赦はしない。
「ゼスタ君、人間の国を襲ったやつは誰か分かるか? まさか君じゃないよな?」
「あ、それ、僕の兄が・・・」
「ほう。詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
巨人の襲撃の二日前、ゼスタの兄グラスタ・アンチャウスは、ゼスタを倒して兵を奪ったそうだ。
実力的にはゼスタが上だが、兄という身内に攻撃ができなかったため、負けてしまったそうだ。
グラスタは魔王国から東に位置する、ミューストリア王国を襲撃。一つの領を滅ぼして、行方をくらませたらしい。
噂では、途中で人間に返り討ちにあったとか、仲間の魔族が裏切ってグラスタを殺しただとか言われている。
真実は分かっていないらしいが、そいつはきっと生きてると思う。死体も見つかっていないらしい。
「兄を止められなかった責任は僕にあります。僕はどうなってもいいですから、領民には手を出さないでもらえませんか!」
いやいや、領民は別に悪くないでしょ。
俺は酷い魔王とでも、思われているのか?
「大丈夫だ。領民に手を出すつもりはない。だがゼスタ君、身内が相手だと戦えないようじゃ、領主として厳しいぞ。優しさは大事だが、公私を混同させちゃいけない。心を鍛えた方がいいかもな」
「はい。反省してます・・・」
暗い顔を見せるゼスタ君。
心から反省しているようだ。
「まあ、反省はそこそこにな。これからも領主として頑張ってもらわないと困るからな。仕事に力を入れてもらわないと」
「え? 良いのですか?」
少しだけ明るい顔に戻った。
目には希望の光が差し込んでいる。
「ああ。だが、このようなことはないようにな。それと、もしグラスタが生きていたなら、倒す。ゼスタ君には悪いが、生かしてはおけないと思う」
「はい。そのときが来たら、あまり苦しめずに逝かせてあげてください。兄をお願いします」
少し瞳を潤ませていたが、すぐにきっちりした表情になった。
覚悟を決めた強い目で、真っ直ぐに俺を見ている。
「ああ。君の覚悟は受け取った。任せてくれ」
「はい!」
うん、なんか弟ができたみたいだ。
素直で優しくて良い子だな。
つい甘やかしたくなる。
「カイ。あのさ、ちょっと私も話があるんだけど、いいかな?」
ひと段落ついたところで、話し合いに参加してなかったリーサが、話があると申し出た。
セラファルに椅子を用意させ、みんなで聞くことにした。エミュはまた寝てるけどな。
「私はね、ミューストリア王国の第二王女。リーサ・ミューストリア。魔族の襲撃当時、サウィリア領というところにいたわ」
リーサはポツポツと、これまでの経緯について語ってくれた。
曰く、グラスタに襲われたサウィリア領に隠れ住んでいたらしい・・・。
リーサは兄に命を狙われ、領主サウィリアに匿われていたところで魔族の襲撃に遭う。
大勢の人の死が、眼前に広がっていた。
領主や王都から付き従って来ていたものたちは、リーサを懸命に逃した。
魔族の攻撃がくる度に、一人、また一人と護衛は死んでいった。
気がつけば一人、魔王国をさまよっていた。
護衛はみんな死んでしまい、サウィリア領は一夜にして滅びた。
魔族への怒りと同時に、何もできなかった自分の無力さを悔やんだ。
目に焼きついた光景は、今でも鮮明に覚えている。
魔王国内を歩いているうちに、リーサは別の魔族に捕らえられた。
王女だからという理由で、利用価値がありそうだと前魔王が判断したらく、そのまま牢に入れられたそうだ。
話終わったリーサは、意を決したように立ち上がった。
そして俺の方を向いて、肩を震わせながら言葉を口にした。
「カイ、お願いがあるの。グラスタは、私を助けてくれたサウィリアさんや、私を必死になって守ってくれたみんなを殺した・・・許せないの。だからお願いします。グラスタを、グラスタ・アンチャウスを倒してください!」
溢れそうな怒りや悲しみを押し殺し、リーサは耐えてきた。
しかし話を聞いた今、彼女の怒りは頂点に達していたのだと思う。
何の罪もないサウィリア領の人々を皆殺しにしたグラスタ。
そいつを俺に倒してもらいたいと、リーサはお願いしてきたのだ。
リーサの気持ちを察してか、みんな黙って俺とリーサを交互に見ている。
「リーサ、辛かったんだな。罪のない人々が、グラスタによって殺されたのか。そいつがやったこと、本当に酷いよな」
「カイ・・・」
そしてカイはスッと立ち上がり、リーサの目をしっかり見て・・・。
「だが断る!」
と、言ったのだった。
◇
2018/1/9 話の繋がりがおかしかったので、修正しました。(リーサのセリフを変更しました)
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