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1章 異世界の魔王 一つ目の危機
12話 消えたぜ 井瀬 海
しおりを挟むセラファルが目を覚ましたとき、隣にマスターの姿はなかった。
どこに行ったのだろう。
私のせいだろうか。
昨晩はマスターの隣で寝られることが嬉しくて、ついつい悪戯をしてしまった。
それが原因なら、急いで謝らないといけない。
まだスヤスヤ眠るリーサさんとウルリルさんをおいて、テントの外に出た。
辺りは薄暗く、肌寒い。
まだ朝とは言えない時間帯だ。
「マスター、どこですか?」
心細くて、つい呟いてしまった。
いくら周囲を見ても、人影はない。
不安になってきた。
マスターがリーサさんやウルリルさんを見捨てるはずがない。
頭で分かっていても、段々と不安は膨らんでいく。
「マスター、いるんですよね? イジワルしないで出てきてください」
セラファルの声は虚しく消えていく。
頭がどうにかなりそうだ。
マスターはいない。
いなくなってしまった。
「マスター! マスター!」
声を張り上げても、何の返答も聞こえない。
辺りは静寂に包まれている。
このままでは、発狂しそうだ。
マスターを早く見つけないと。
自分の存在価値は、マスターの役に立つことで生まれる。
今は自分が、少しずつ消えていくような感覚がする。
勿論、マスターと離れたところで死ぬわけでもないし、消えるわけでもない。
だが、もう限界に近い。
本当に狂ってしまいそうだ。
一度頭を冷静にする。
離れていても、話せる手段があることを思い出した。
そうだ。何度もこれで、マスターと会話していたんだった。
〈マスター! どちらにいらっしゃるんですか?〉
返答は・・・ない。
〈マスター! マスター!!〉
いくら強く念じても、何も返ってこない。
そんな中、テントから出てくる二人の人物がいた。
「セラファルさん、おはよー。どしたの?」
「セラファルさん。おはようございます」
リーサさんとウルリルさんだ。
私は今、どんな顔をしているのだろうか。
二人は駆け寄ってきて、私の身を案じてくれた。
◇
「カイが居なくなったのね」
セラファルさんから聞いて驚いた。
あのカイが、居なくなったなんて。
カイは魔王も倒しちゃうくらい、強い人だ。
そんなカイが居なくなった。
まず考えるのは、自分で居なくなったのか?
それとも、何者かが・・・。
自分で居なくなるのは、信じられない。
私のことは兎も角、ウルリルを放っておけるはずがない。
セラファルさんもいるのだし、尚更だ。
じゃあ、何者かが仕組んだことなのか。
いくらカイが魔王を倒すほど強いとは言え、油断していたらどうなるか分からない。
私はセラファルさんに、カイの居場所を探すことができないか尋ねた。
セラファルさんは何かに気づいたようで、スキルを使ってすぐに居場所を特定した。
その場所は・・・。
◇
ゼルドス領にある地下要塞ゼルディスト。
魔王軍の四大要塞の一つで、その中でも1番敷地が広い要塞。
カイさんはそこに居るみたいです。
ゼルドスさんが治めるゼルドス領は、亜人種の割合が高いと記憶しています。
ゼルドスさんも狂牛族という、牛のような外見をした魔族で、魔王軍の四天王をも凌駕する実力を持っています。
カイさんは、ゼルドスさんに捕まってしまったのでしょうか?
もしそうなら、ゼルドスさんを説得しに行かなきゃいけません!
私は自国の領土や要塞内の地図は、全て頭に入っています。
カイさんの役に立てるならと思い、今まで勉強してきた知識をフル活用して考える。
地理の確認、ここからの距離の目安。ゼルディストの戦力。色んなことが、頭をぐるぐる回っていく。
今、急いで救出に向かいますから!
カイさん、どうか無事でいてくださいね!
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