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1章 異世界の魔王 一つ目の危機

12話 消えたぜ 井瀬 海

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 セラファルが目を覚ましたとき、隣にマスターの姿はなかった。

 どこに行ったのだろう。

 私のせいだろうか。


 昨晩はマスターの隣で寝られることが嬉しくて、ついつい悪戯いたずらをしてしまった。

 それが原因なら、急いで謝らないといけない。


 まだスヤスヤ眠るリーサさんとウルリルさんをおいて、テントの外に出た。


 辺りは薄暗く、肌寒い。

 まだ朝とは言えない時間帯だ。


「マスター、どこですか?」


 心細くて、つい呟いてしまった。

 いくら周囲を見ても、人影はない。


 不安になってきた。

 マスターがリーサさんやウルリルさんを見捨てるはずがない。

 頭で分かっていても、段々と不安は膨らんでいく。


「マスター、いるんですよね? イジワルしないで出てきてください」


 セラファルの声は虚しく消えていく。

 頭がどうにかなりそうだ。


 マスターはいない。
 いなくなってしまった。


「マスター! マスター!」


 声を張り上げても、何の返答も聞こえない。
 辺りは静寂に包まれている。


 このままでは、発狂しそうだ。

 マスターを早く見つけないと。


 自分の存在価値は、マスターの役に立つことで生まれる。

 今は自分が、少しずつ消えていくような感覚がする。

 勿論、マスターと離れたところで死ぬわけでもないし、消えるわけでもない。

 だが、もう限界に近い。
 本当に狂ってしまいそうだ。


 一度頭を冷静にする。

 離れていても、話せる手段があることを思い出した。

 そうだ。何度もこれで、マスターと会話していたんだった。


〈マスター! どちらにいらっしゃるんですか?〉


 返答は・・・ない。


〈マスター! マスター!!〉


 いくら強く念じても、何も返ってこない。


 そんな中、テントから出てくる二人の人物がいた。


「セラファルさん、おはよー。どしたの?」
「セラファルさん。おはようございます」


 リーサさんとウルリルさんだ。

 私は今、どんな顔をしているのだろうか。

 二人は駆け寄ってきて、私の身を案じてくれた。





「カイが居なくなったのね」

 セラファルさんから聞いて驚いた。

 あのカイが、居なくなったなんて。


 カイは魔王も倒しちゃうくらい、強い人だ。
 そんなカイが居なくなった。

 まず考えるのは、自分で居なくなったのか?

 それとも、何者かが・・・。


 自分で居なくなるのは、信じられない。

 私のことは兎も角、ウルリルを放っておけるはずがない。

 セラファルさんもいるのだし、尚更だ。


 じゃあ、何者かが仕組んだことなのか。


 いくらカイが魔王を倒すほど強いとは言え、油断していたらどうなるか分からない。


 私はセラファルさんに、カイの居場所を探すことができないか尋ねた。


 セラファルさんは何かに気づいたようで、スキルを使ってすぐに居場所を特定した。


 その場所は・・・。





 ゼルドス領にある地下要塞ゼルディスト。

 魔王軍の四大要塞しだいようさいの一つで、その中でも1番敷地が広い要塞。

 カイさんはそこに居るみたいです。

 ゼルドスさんが治めるゼルドス領は、亜人種の割合が高いと記憶しています。

 ゼルドスさんも狂牛族という、牛のような外見をした魔族で、魔王軍の四天王をも凌駕する実力を持っています。

 カイさんは、ゼルドスさんに捕まってしまったのでしょうか?

 もしそうなら、ゼルドスさんを説得しに行かなきゃいけません!

 私は自国の領土や要塞内の地図は、全て頭に入っています。


 カイさんの役に立てるならと思い、今まで勉強してきた知識をフル活用して考える。

 地理の確認、ここからの距離の目安。ゼルディストの戦力。色んなことが、頭をぐるぐる回っていく。


 今、急いで救出に向かいますから!

 カイさん、どうか無事でいてくださいね!



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