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1章 異世界の魔王 一つ目の危機

3話 脱出するぜ 魔王城

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 どこからか爆音が響く。


「ど、どど、どうなってるの!?」

 隣にいるリーサが思わず声をあげた。


 ここは魔王城の牢屋。

 俺は魔王軍の四天王サリエルに捕らえられたが、とりあえず牢からの脱出を試みている。

 どうやら、スキル『モンスター召喚』によって召喚されたモンスターが、外で暴れているようだ。

 爆音も、恐らくそいつが何かをやった音だろうな。


「カイ、見て!牢の格子が崩れ始めたわ!」


 碧魔石で作られていた格子が崩れ落ちた。
 ちなみに碧魔石は、魔法を打ち消す強力な石らしい。ファンタジー鉱石か何かだ。


〈召喚したモンスターが、この牢を作った者を無事に倒したようです。マスター、今が好機ですので脱出しましょう〉


 なるほど。とりあえず今はここを出よう。


「リーサ、出るぞ!」

「わ、分かったわ!」



 外に出ると、そこには目を覆いたくなる光景が広がっていた。

 遠くには山よりも大きな巨人がゆっくりとこちらに向かって歩いている。
 その足下には、夥しい数の魔物。

 魔物たちは巨人に攻撃をしているようだが、そんなものなど気にも止めずに歩き続ける巨人。

 魔物たちは悲鳴を上げる。巨人は蟻でも踏んでいるかのように、何も気にせず歩いているようだ。

 巨人は、一歩、また一歩、魔王城に近づいている。


「な、何なのよ、あの化け物。それに魔王城が大変なことになってるじゃない。なんなのよ、何が起きてるのよ・・・」


 魔王城の3分の1は溶けて、地面がガラス状になっている。

 まさか、巨人の攻撃でこうなったのか?


〈その通りです。牢屋を作った術者を狙い、一撃だけ魔法を撃たせました。うまくいったようで一安心です〉


 そうなのか。距離はかなりあるのに、大したもんだな。


「臆するな! 敵はデカイだけでノロマな巨人。総力でかかれ!」


 あ、サリエルだ。
 頑張れー。


「ちょっとカイ、見つからないうちに逃げるわよ。あんなやばいの、私たちじゃ一瞬で殺されちゃうわ!」

 一応聞くけど、巨人って俺を攻撃しないよな?


〈はい。巨人の攻撃はマスターに直接当たることはありませんが、間接的に被害が出る可能性はあります〉


 つまり?


〈例を挙げると、巨人が魔王城を崩してしまったとき、降り注ぐ瓦礫の下にマスターがいる場合は、少しばかり被害を受けます〉


 よし、さっさとここから逃げよう。


「ちょ~~っと待つのだよ。あれをやったのは君かね?」

 逃げようとしたら、壮年だけど良い男感あふれるやつが登場した。
 ハンサムというか、ダンディーというか、中世の英国で上流階級にいそうだな。


 こいつ、俺を犯人だと思っているのか。

 だが、真犯人は別にいる。

 それは俺の中の・・・あれ、そういえばお前って誰?


〈自己紹介が遅れました。大天使のセラファルと申します。転生神ペリッサ様の御下命により、これから井瀬海様のサポートをさせていただきます。宜しくお願い申し上げます〉


 お、おう。
 お前、天使だったのか。

 自己紹介遅れすぎだな。
 まあ、こちらこそ宜しく。


「あれは流石の私でもヤバイのだよ。責任を取って、この子を頼むのだよ」

 あ、ダンディなおじさんのこと忘れてたな。

 で、こいつは何を言ってるんだ?

「ほいっ」

「なっ!?」

 女の子を投げてきやがった。

 間一髪キャッチには成功したが、小学生くらいの女の子を投げるなんて、こいつは悪魔か?

「それは吾輩の娘だよ。名をウルリルと言うが、気に入らなければ名前など適当につけてやってくれたまえ。それでは、あとは任せたのだよ」

 へ? 任せた?

「何を言ってるかサッパリ分からない」

「それではこうしよう。それを母親の元まで連れていってくれたまえ。それの母はユニカレア王国のセシーラ女王だよ。後は君に託したよ。殺さなければ、好きに扱ってくれて構わない。では、娘を宜しく頼んだのだよ」

「ちょ、待て! どういうことだ!?」

 自分勝手なことばかり言った挙句、娘を残して巨人の方へと飛んで行ってしまった。

 あのおじさん、何者なんだよ。


〈先ほどの魔族は魔王ヴァイファールです〉


 それを早く教えて欲しかった。

 って、スキル使って確認すれば良かったのか。慣れないなぁ。


 ということはこの子は魔王の娘なのか。

 で、どうしたらいいんだ?


〈マスターの御心のままに〉


 それって都合の良い丸投げセリフじゃないか?

 マジでどうしようか。


「ま、ままま、魔王なんて、大したことなかったわね! ち、チビってなんかないんだからね! はははは、は、はは」

 何を強がってるんだ、リーサ。

 さて、ひとまずは魔王城から逃げようか。


「この子は・・・ほっとくわけには、いかないよな」


 腕の中の幸せそうな表情で眠る女の子に目を向け、軽く溜め息をついてしまった。



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