やりすぎハイスペックな俺が行く 異世界チートな旅路

とやっき

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1章 異世界の魔王 一つ目の危機

幕間1-2 俺の名はアレックス

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(少し先の話の内容が含まれている可能性があります。一応、ネタバレ注意です)


 俺の名はアレックス。

 ようやく王都に帰ってきた貧乏貴族だ。


「全く、あのチビ忍者め。俺を元いた場所に戻しやがって・・・命があったからマシか」

 魔王やチビ忍者のレベルを見てしまったアレックスには、逆らう気力など残っていなかった。

 眠らされて忍者に運ばれ、目覚めた時はさっきまで戦いが繰り広げられていた戦場だった。

 彼は溜め息をつき、動く気も起きなくて、一晩そこで眠ってしまったのだ。


 翌朝になってミューストリア王都に帰ると、人々はいつも通りであった。

 いつもと何も変わらない。
 ただ平凡な日常の風景だ。

「おいおい、どういうこった。兵士たちの悪魔憑きとかいう状態が解除されてやがる。つまり、あの魔王様がやってくれたってことか?」

 それも事後処理まで完璧に行ったのだろうか。

 昨日まで悪魔に取り憑かれていた兵士たちが、元気に笑いながら過ごしている。

 いや、一部ぶつぶつと「ヤギ、少女、影・・・」と呟いている連中もいるが、見た感じは元気そうだ。
 深層にトラウマでも植え付けられたみたいな感じだろう。


「あ、あり得ない。死んだはずの、死んだはずの娘が!?」

 どこかの家の中から声が聞こえてきた。

 アレックスは考えた。

「死んだはずの娘・・・まさか家の中に、死んだはずの娘が、アンデッドになって出てきたのか!?」

 これでも一応、腕に自信はあるアレックス。
 低級、いや中級アンデッドくらいなら軽く倒せるほどの実力は持っている。

 声の聞こえた家に飛び込むアレックス。

「おい! 大丈夫か! 何があった・・・へ?」

 そこには涙を流しながら抱き合う母と娘の姿があった。

 娘は一糸纏わぬ姿ではあったが、アンデッドには全く見えない。

「お、お貴族様!? 我が家にどんなご用件でしょうか!?」
「キャッ! お母さん、私何も着てないよっ! 見られちゃったよっ! もうお嫁にいけないよっ!」

 混乱し過ぎて訳が分からない。

「す、すまない。とりあえず娘さんに何か着せてやってくれ」

 色恋沙汰に免疫がないアレックスは、音速を超えるスピードで目を逸らした。

 彼には権力もなければ金もない。
 ルックスは悪くはない、いやむしろ世に言うイケメンの部類には入るのだろうが、前の二つが原因で、縁談の話など一切無かったのだ。

 顔がそこそこカッコいいだけの男には、縁談など舞い込んでこないのだ。
 ちなみにこの世界の顔面偏差値は男女問わず高水準なので、アレックスくらいの容姿であれば、ザラにいるのだ。

 そういう訳で彼は女性に恵まれず、免疫も全然ない。

 それは女性の裸の姿を見て、卒倒してしまいそうになるほどである。

「えっと、お貴族様。お見苦しい姿をお見せいたしてしまいました。申し訳ありませんでした」

「え、あ、いや、謝らないでください。こっちが見てしまったのが悪いですから。こちらこそ、深くお詫びします」

 おずおずと謝罪する娘さんに対し、思いつくばかりの紳士な対応を心掛けるアレックス。

 もしこれがカイであれば、いいものを拝めましたよ、とか笑いながら冗談の一つでも言って、変なフラグを立ててしまうであろうが、彼にそんな度胸など無かった。

「それで、お貴族様はどうしてこんな貧相な我が家にお越しになったのですか?」

 自分の娘の裸を見られてしまったからか、ピリピリと張り詰めたような態度をしている娘の母親。

「いえ、死んだはずの娘がというフレーズが聞こえてきたので、アンデッドが出たと勘違いしてしまって飛び込んでしまったのです。それより、娘さんは伝説の復活魔法でも使われたのですか? 死んでいたのに、アンデッド以外で蘇るなんて、あり得ないですよね?」

「まあ、そうだったのですか。たしかに娘は昨日病気で息を引き取り、王国に死亡届けも提出しました。しかし朝起きたときには、何ごともなかったように娘がいて、さらには病気まで治っていたんです! もう私は驚いて驚いて、信じられなくて叫んでしまったんです」

 なるほど・・・いや、分かるかそんなこと!

 何で復活してるんだよ!?

 娘さんフェニックスかなんかか?

 それとも一度死んでも復活できるスキルを持っていたとかかも。いいや、そんなスキル聞いたことがない。

「俺にはまるで理解できませんね。同様の現象が起きていないか、こちらでも確認しておきます。あ、もう一度謝りますが、娘さんの、その、あの、見てしまって申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げるアレックスを見て、親子は顔を見合わせて目をまんまるにしてしまった。

 貴族は横柄な態度の者や、ある程度尊厳高い態度を取る者が多い。

 最初こそ勢いで謝っただけだと思っていたものの、改めてこうして頭を下げられると、彼が貴族ではなくただの好青年にしか見えなかった。

「あ、頭を上げて下さい、お貴族様!」
「こちらこそ謝らなければなりません。心配して下さったのに、先ほどは無礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、本当に悪いのは俺ですから。では、調べることがありますのでお暇いたします。娘さん、本当に申し訳ない。後日、謝罪の品をと言いたいところだが、うちは貧乏だから大したものは用意できないんだ。でも一応、謝罪の品を送らせていただくので、受け取って下さい」

「そんなことまでなさらないで下さい! それと、私はエリーゼと言います。あの、失礼になるかもしれませんが、エリーと呼んでくださいませんか? 謝罪は十分いただいので、今度は軽い気持ちで遊びに来て欲しいです」

「え、エリー!? あんた、相手はお貴族様なんだよ!? しかも病み上がりなのにそんな約束して・・・」

 なんだ。なんなんだ。

 俺の対応がいけなかったのか?

 なんか間違ったことをしたか?

 アレックスは自分に春が訪れているなど気づきもせず、女性から好印象を持たれていることに警戒心をマックスまで引き上げていた。

 彼の常識の中に、自分はモテないのだという概念が刷り込まれてしまっているのだ。

「えっと、分かりました。エリーさん。では少ししたら、遊びに伺いますね」

「もう、貴方様のお名前を聞かせてくださいよ。それにエリーと、呼び捨てにしてくださいませ」

 なんなんだ!?
 マジでどうしちまったんだ!?

 いや、これは俺の勘違い。

 俺がモテるわけがないんだと、心に言い聞かせるアレックス。

「分かったエリー。俺はアレックス。一応は貴族だけど、財力も権力もないただのお飾り貴族だよ。じゃあ、また伺います。今日は失礼いたしました」

「ありがとうございます、アレックスさん!」
「アレックス様、今後とも娘を宜しくお願いします」

 あれー?
 ちゃんと言ったよな俺?

 金も権力もないこと、しっかり言ったよな?

 この親子は、そんなことを気にしないのだろうか。

 理解できないので、そのまま立ち去るとしよう。

 あれは社交辞令のつもりだったが、本当に遊びに行っても・・・いいかもしれないな。





 アレックスは役場に来ていた。

 ここには「死亡届け」という物を提出する場所がある。

 実際に出生だったり死亡だったりの届けを出しているのは、正規に王都に住んでいる住民だけだ。
 つまりはスラムのような不法滞在者の間で子が生まれたり、誰かが死んだりしても把握できていないのが現状だ。

「あ、アレックス様!? 本日はどのような御用でこちらにいらしたのでしょうか?」

 あー、やっぱり貴族だったな、俺。と、アレックスは自嘲気味に笑う。

 腐っても貴族。いや、腐ってはないので、落ちぶれても貴族、といったところか。

 彼らは役人として己の立場と相手アレックスの立場を理解しているのだ。さっきの親子もそうであったように。

 俺の方が貴族としての心構えがまるでできていないんだな、と彼は考えて自嘲気味に笑ったのだ。

 精進しないといけない。
 逃げようとするばかりじゃいけない。

 そう、心に軽く言い聞かせてから、アレックスは役人がしてきた質問に答えた。

「昨日死亡した者の中で、何というか、死亡届けが間違ってましたっていう連絡が入ったということはなかったか?」

「っ!? ・・・アレックス様、この件は陛下からのご命令でトップシークレットになっているとお聞きしております。この件について詳細を知る者が、説明いたします。ささ、こちらにどうぞ」

 声にならない声で驚いた役人は、すぐにトップの上司の元へとアレックスを案内した。

 いち下っ端の彼には、秘匿事項とされていることが多いのだろう。

 アレックスは素直について行った。


「やぁ、アレックス君。良く来たね」

「マジですか。貴方ですか。まあ、説明が分かりやすい人で良かったですけど」

「はっはっはっ。君からお褒めに預かるとはね、光栄だよ。では、話を進めようか。とは言っても、これから君の家に召喚状が届くだろうね。詳細を知りたかったら、王城に来なさい。いや、行かないとだめだったね。結局君は、真実を知ることになるだろう。一人でかなりのところまで嗅ぎつけるなんて、やはり君は優秀な人材だ。権力も財力も女運も、そもそも運そのものがまるで無い君だが、私は高く評価しているよ。同じ貴族としてではなく、一人の人間として君をね」

 散々な言われようだ。

 まあ、王城に呼ばれて絶対に行かないといけないらしいし、非常に行きたくないけど行くしか選択肢はないだろう。

 ゲームで言うところの・・・

 城に行きますか?

  はい
→ 行く (ポチッ)
  了承する
  強制連行

こんな感じの選択肢しか、アレックスにはないのだ。

「では、後で王城で会おう、アレックス君」

「結局説明は無しなんですね。はい、分かりましたよ。行くしかないなら行きますよ・・・伯爵」

 溜息をつきながら、王城からの召喚状を待つことにするアレックスであった。


 ちなみに、彼の出番は結構あとになることだろう・・・。

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