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3章 フィスタシアと第二の魔王 三つ目の危機
88話 焦りを抱く皇女 仲間となった王女
しおりを挟む「なるほどね。じゃあ、フィスタシア王国の教皇って人が関わっている可能性が高いのね?」
「まだ推測の域を出ないんですけどね」
話の内容を全然理解できなかったリーサに、メルフィナが丁寧に分かりやすく説明してくれたみたいだ。
今回の襲撃事件の犯人はフィスタシア王国の軍で間違いなさそうだが、その命令をしたのはパリナス教という宗教のトップ、パリナス教皇ではないかという話になっている。
難しい話は、メルフィナとウルリルとセラファルが力を合わせてくれれば済むだろうな。
このあとは三人に任せるとしようか。
つまり俺はノータッチでいこう。うん。
「カイ殿。全く関係ないかもしれないが、一つだけずっと疑問に思っていることがあるのだが、質問しても良いだろうか?」
そんなことを考えていたら、ハウランが俺に何かを聞きたいと言ってきた。
何かおかしなことでもあっただろうか?
「会議が始まる前から気になっていたのだが、カイ殿の後ろで控えているメイド服の女性は何者なんだろうか?」
ん? 誰のことだ?
「マスター、新しく仲間にして連れてきたリゼッタのことを聞いているのかと。リゼッタは、鏡の中に入っていた少女で、今回の元凶です」
そういえば、そんなやつを仲間にしたな。連れて来ていたような気もしたが、俺の後ろには誰もいないぞ?
「あ、姿を見せた方がいいでしょうか?」
突如部屋の中にリゼッタの声が聞こえてくる。
しかし部屋のどこにもリゼッタの姿はなく、声のみが部屋に反響した。
「え、マジでどこにいるんだ?」
「マスターの後ろで影を薄くしておくように言いつけておきました」
「カイ様、見えてなかったんですかね?」
「拙者は見えていたのでござるが、空気を読んであえて触れない方が良いと思っていたでござるよ」
どうやらメルフィナやマヤネ、そして指摘したハウランにも見えていたようだ。
「まさか心が純粋なやつにしか見えないとか、そんなオチじゃないよな? それならメルフィナは見えないか」
だとしたらリゼッタは妖精的な存在なのか?
いや、それなら子供にしか見えないだろうからハウランは見えないよな。ハウランの年齢を知らないが。
「カイ様? 私でも流石に傷つきますよ、このやろぅ。許しちゃいますけどね」
「あの、セラファル様に影を薄くするようご命令を受けたので、精神魔法を全力で使って存在感を消していました」
「マスターがリゼッタを認識できないのは、専用のスキルを使えない状態にあるからです」
なるほど、精神魔法は便利なんだな。
俺もミューストリアで何度か精神魔法を使った覚えがあるが、やはり使い方一つで恐ろしいことができてしまう。
存在感を消せるなら、女湯とかも覗きたい放題か・・・いやいや、やらないぞ。
いくら男のロマンが詰まっていようと、やらないからな・・・。
「マスター。存在感を消す精神魔法を、リゼッタに、教えるよう命令しましょうか?」
セラファル、そういうところで俺の心を読んで気を使わなくてもいいぞ。
と、いけないいけない。リゼッタをハウランやウルリルに紹介ないといけないよな。
「マスター。ここは私が紹介いたします」
お、セラファルがやってくれるのか。
どう紹介していいのかよく分からなかったし、ちょうどいいな。きっとセラファルなら完璧にこなしてくれるだろう。
リゼッタが精神魔法を解いて姿を見せたことで、リーサやラーグルも少なからず驚いた表情になっていた。
「こちらがマスターの新しい下僕として働くことになったリゼッタです」
「はい、新しい下僕・・・って、ええ!? 仲間じゃないのですか!?」
俺も初めて聞いた。
少し働いてもらうという話にはなっていたが、しもべにするほどではないんじゃないだろうか。
「マスターの友人であるゼルドスさんを精神魔法によって操り、マスターの殺害を計画した張本人です。まだ幼い容姿であるためマスターは罪に問いませんでしたが、勝手ながらこちらの方で更生プログラムを用意いたしました。まずはマスターの下僕として精神魔法等を役立ててもらいます」
ほう、ゼルドスさんは俺の友人だったのか。
てっきり雇い主とか、恩人だとか思っていた。
「反省しているんですが、やっぱり言葉ではなく態度でということですね! 分かりました、セラファル様! 宜しくお願いします!」
「はい。しっかりと更生させます。マスター、ここは私に任せていただけないでしょうか?」
あ、うん。頑張って。
とりあえずリゼッタの更生については関わらないでおこう。嫌な予感がするからだ。
「ありがとうございます。リゼッタ、一緒にマスターに尽くしましょう」
「は、はい! 頑張ります!」
うん、嫌な予感しかしないな。
「カイ様。きっと1週間後くらいには、リゼッタさんはカイ様ラブになってそうなんですが、気のせいですかね?」
メルフィナの言う通りにならないことを祈ろう。リゼッタ、あんまり洗脳されてくれるなよ。
「もし、魔王様。わしも一つ質問よろしいですかな?」
「ん? なんだ?」
今度は亀のような魔族のソゼストンに、質問があると言われてしまった。
「わしだけが気になってるんですかね。魔王様の後ろに、もう一人幼子がおりませんか?」
えっ、誰だ?
リゼッタ以外は仲間に加えた覚えがないんだが、まさか見えてはいけない系のあれか?
ホラー耐性はあんまりないんで勘弁してほしいな。
「な、バレてしまっては仕方ないんよ!」
ん? この声はまさか・・・。
「妾こそは大陸の主、黄龍神と呼ばれ数々の種族から崇められているフェバルシア・ゲルバイドなんやよ! じゃなくて、なのじゃ!」
取ってつけたかのように語尾が「のじゃ」になったゲルバイド。
てっきり黄龍山脈に残っていると思っていたんだが、いつの間についてきていたんだろうか。
「というか、お前のやってることはストーカーだからな。まさか着替えとかまで覗いてたわけじゃないよな?」
「そ、そんなことしてないんよ! そもそも神様には性欲という概念がない者が多いんよ!」
この慌てっぷりは黒だな。後で何かしらの形でお礼をしてあげないといけない。
「神様を虐めるのは良くないと思う・・・のじゃ」
「黄龍神ゲルバイド様!? 魔王様、本物なのですか!?」
リゼッタは会うのが初めてか。
ちなみにゼルドスとソゼストンは口をパクパクさせ、驚き過ぎて声もでないようだ。
「一応、本物なんじゃないか? 龍の姿も見たからな」
「一応でなくて、本物じゃ。今は訳あって人間の姿を取っているが、魔力さえ手に入れば神々しい光を放つ黄龍神へと戻れるんじゃよ!」
そこで俺をチラリと見るな。これ以上、勝手に魔力を奪われるのは癪だ。
「ご主人様の魔力はエミュのものなの! 他の女には渡さないの!」
「よく言ったエミュ! 偉いぞ!」
「エミュは偉い子なの? それならいっぱい撫でて欲しいの!」
さて、エミュは後でめちゃくちゃに撫でるとして、この和テイストなロリ神様をどうするか決めよう。
流石に一緒にいられたら魔力を奪われそうで怖いから、山に強制送還ことにしようか。
「いっぱいあるんやから、ちょっとくらい分けて欲しいんよ」
こうは言っているものの、大量の魔力を吸い取ることは目に見えてるんだよな。
「前科があるからダメだ。まあとりあえず山に帰ったらどうだ? 他の龍たちを放っぽっとくわけにはいかないんじゃないか?」
「何と言われても魔力を取り戻すまでは、ずっと付きまとってやるんよ!」
いやいや、堂々とストーカー宣言か。
正直、魔力がいくら奪われようが困りはしない。
しかし、これ以上見た目ロリが増えると俺がロリコンと勘違いされないかと不安になるよな。
おっと、話が脱線し過ぎた。
ゲルバイドもリゼッタも、取り敢えず放置しておこう。
攫われたザイルバーグ帝国民たちの、救出の話が先だ。
「今は話を進めよう。それで、パリナス教皇ってやつが犯人の可能性が高いってことは分かったが、結局どうするんだ?」
「パリナス教皇は人柄も良く、熱心なパリナス信者だと耳に入ってはくるが、実際の性格など誰にも分かるまい」
ハウランの言葉に、皆小さく首肯した。
「ですが、パリナス教が関わっているという確証があるわけではありませんよね。証拠が無いので攻め入ることはできません。門前払いされちゃいますよ」
メルフィナの言う通りだ。部屋の空気が、ほんの少しだけ重みを増した。
「あ、あのぅ・・・」
そんな中、存在感を薄めて目立たないようにしつつリゼッタが手を挙げた。
いやいや、発言したいならもっと存在感を出してくれ。何故そこで消えそうな感じに手を挙げるのか。
「マスター。リゼッタの発言を許可してもよろしいでしょうか?」
「ん? 別にいいぞ」
「かしこまりました。リゼッタ、マスターから発言の許可をいただきましたので、発言を許可します」
「あ、はい!」
俺がリゼッタの発言の許可をセラファルに許可すると、許可されたセラファルがリゼッタに発言の許可を・・・ややこしいわ!
「あーもう、言いたいことあったら皆んな発言していいからな」
「ん? 妾も良いのか?」
「ただしゲルバイド、お前はダメだ」
「ひ、酷いんよ! 差別反対なんよ!」
いや、言ってみたかっただけだから発言くらいは良いけど、面白そうだからこのまま放置しよう。
ゲルバイドは涙目になりながら、いじけて部屋の隅で体育座りして何かぶつぶつ呟きはじめた。
「それでリゼッタは何か意見があるのか?」
「えーっと、私、何とかできると思います」
あ、うん。説明がまるでないわ。
まさか考えるより感じろタイプさんか?
感覚派の言っていることを理解するのは至難の技だぞ。
「リゼッタさん。説明を求めます。具体的に何をどうやって何とかするのですか?」
「精神魔法で、えいっとやって、返してもらえばいいんじゃないでしょうか! 私、お役に立ちたいんです!」
自信満々に説明の足らずの作戦を言い放ち、役立ちたい宣言をして胸を張るリゼッタ。
皆リゼッタの姿を見て、ある者は親近感を覚え、ある者は祖父母のような優しい眼差しになり、またある者は無いなーと思いながらリゼッタからそっと目を逸らすのであった。
「マスター、何をご覧になっているのですか?」
「壁を見たから、壁を見ているだけだ」
そっと目を逸らした者は壁を見つめるのであった。
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