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十二、柊さんは嘘をつかない
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「触んじゃねぇ」
柊さんの鋭く思い声が響いた。聞いたことがないくらい攻撃的な声色だった。流石のヒカル君も柊さんの変わりように目を丸くしている。少し顔色も悪い。周りも静まり返っている。
「…あ」
ヒカル君が何かに気付いてその場から逃げる様に駆けて行った。そのヒカル君が向かったのは、その場の空気をものともせず、こちらに歩いてくる集団。僕はその集団の中に竜ちゃんを見つけた。
ヒカル君が何か必死に竜ちゃんやその周りにいる人に訴えかけている。
柊さんが僕の手を引いてその場から離れようとすると、その集団の中の一人から声がかかった。
「如月、どういうつもりですか? ヒカルがこんなに怖がっているなんて、何をしたんですか」
「関係ねぇよ」
柊さんが僕を隠すようにしてその集団を避けて通ろうとするけれど、他にもいた数人の人に囲まれる。柊さんがチッと舌打ちした。
「え~なにこの子?」
「シュウの新しいおもちゃ?」
どこかで見たことがある様な顔ぶれが僕の顔を覗いてくる。僕は必死に顔を逸らした。
「そういう事ですか。また理由をつけて休んでいたのは」
眼鏡をかけた人は眼鏡を指で持ち上げながら、わざとらしくため息をついた。柊さんは少しの沈黙の後、おもむろに口を開いた。
「………まぁ、こいつ可愛がってたのは本当の事だし否定はしねぇよ」
「柊! もうそんなことばっかりしたらダメだって言ってるのに!」
「…なぁ、勘違いすんなよ? こいつは俺の恋人」
「っ! 恋人…?!」
「そ。恋人とセックスして何が悪い? おまえらにとやかく言われる筋合いねぇよ」
「「えええー! シュウが恋人とかありえないし!」」
同じ顔をした——多分双子の生徒が僕の顔を覗こうと、両側からグイグイ顔を近づけてくる。柊さんに助けを求めるために顔を上げれば、その双子にも顔を見られることになってしまった。その双子の目が驚いたように見開かれる。
「…こ、こんな子見たことないけど…?」
「当たり前だろ。前まで野暮ったいカッコさせられてたんだからよ」
「それどういうこと?」
「有名だろ? 『サキモトミドリ』。おまえのストーカー——だったよな、北條?」
傍観するように立っていた竜ちゃんを柊さんが一睨した。
「サキモトミドリ…? ってあの…? 嘘…」
ヒカル君まで僕の顔を見て目を丸くしている。柊さんは可愛いって言ってくれるけれど、やはり僕は酷い顔をしているみたいだ。僕は胸が苦しくなって、鼻の奥が痛くなるのをぐっと我慢しながら俯いた。こんな大勢の前で泣くなんて嫌だった。
「実際はストーカーなんかじゃねぇ。北條の性処理させられてたんだからな」
「な…っ?! 竜哉、ホントなの!? ウソだよね!?」
竜ちゃんは無表情で僕に視線を投げてよこした。竜ちゃんが怒っている。怖い。震えそうになるのを柊さんの制服を掴んで必死に抑えた。柊さんがそんな僕の肩に手を乗せて引き寄せてくれる。
「ヒカル。おまえは俺より如月を信じるのか?」
「そういう訳じゃないよ! でも…」
「それに、如月。どこの馬の骨ともわからないやつの言うことをよく聞くな? おまえ」
「あ? 言うことを聞かせてたのはおまえだろ?」
「そうか? 勝手に思い込んでたんじゃないのか? 俺の事を幼馴染と勘違いして、ストーカーするぐらいだからなぁ?」
竜ちゃんは余裕の表情で、口に笑みを浮かべている。竜ちゃんはこの学園で偉い立場にあると言っていたから、柊さんや僕よりも発言力が大きいのは当然だ。拳を握りしめた柊さんは一歩前へ出た。
「北條、てめぇ…」
「そうだよね! 竜哉がそんなことするはずないよ! 竜哉も柊も喧嘩はやめて、ね? 仲直りしよう?」
「ヒカル。こんな平然と人を陥れようとしてくる奴と仲良くなんてできない。わかるだろう?」
「竜哉…」
竜ちゃんは優しい笑顔でヒカル君を諭すように語り掛けている。
でも僕は信じられなかった。
——柊さんが人を陥れる?
そんなわけない。僕は柊さんが嘘をつかないって知ってるから。
「柊さんは嘘なんて吐かないよ…っ!」
僕は自分が出せる一番大きな声で叫んだ。柊さんがそんな人だと思われたくなかった。
「竜ちゃんとするとすごく痛かったのに、柊さんはセックスは気持ちいいものなんだって、本当のこと教えてくれた! 僕の顔、すごく不細工だけど、柊さんは顔を出していいって、自信を持っていいって言ってくれた! そんな柊さんが人を陥れるようなことしないよ…!」
一気に声を発したせいで、息切れが起こる。肩を上下させて、肺に必死に空気を取り入れた。
すると隣で、ぷ、と柊さんが噴き出した。それから、あはは、と声を上げて笑い始める。
「柊さん…?」
「碧、ホント、おまえサイコーだわ」
「え…?」
ヒカル君も、周りにいた双子とか眼鏡の人もどうしてか目が点になっている。多分僕の表現は間違っていないと思う。
けれど、それとは反対に柊さんはどうしてかお腹を抱えている。
この対極な光景が僕にはよく理解できなかった。
隣でひぃひぃと息も苦しそうに笑っている柊さんに恐る恐る声をかけると、「わり」と息の合間に短く発した柊さんにきゅっと腰を引き寄せられ、ぴったりと体が引っ付く。
「はぁ、笑える…。な? わかるだろ? 碧は自分が酷い顔してるって思っててよ、俺が教えるまで北條としてた行為がセックスだってことも知らなかった。しかも北條が好きだと思い込まされてた。…ま、おまえらが信じようが信じまいが俺はどっちでもいい。俺は碧を信じてる。それだけでいい」
「そ、それ本当に…? 竜哉、どういうこと? ねぇ、ホントなの?!」
「黙れ! 俺がそんなことするはずないだろう。そんな奴の——」
「なあ、碧の今の顔を見て、周りはどう思うだろうな? 北條」
ふん、と柊さんは竜ちゃんを鼻で嗤った。それから周りの面々を見渡してから、行くぞ、と僕の背中をそっと押して、歩くように促した。
一歩踏み出せば、その場の停止していたような時間が動き出し、急に騒がしくなる。
背後で竜ちゃんを責めるような声が聞こえてきたけれど、柊さんは立ち止まらずに前を向いていた。僕がその横顔を見上げていると、柊さんはふと視線を僕に落として、優しく目を細めた。
柊さんの鋭く思い声が響いた。聞いたことがないくらい攻撃的な声色だった。流石のヒカル君も柊さんの変わりように目を丸くしている。少し顔色も悪い。周りも静まり返っている。
「…あ」
ヒカル君が何かに気付いてその場から逃げる様に駆けて行った。そのヒカル君が向かったのは、その場の空気をものともせず、こちらに歩いてくる集団。僕はその集団の中に竜ちゃんを見つけた。
ヒカル君が何か必死に竜ちゃんやその周りにいる人に訴えかけている。
柊さんが僕の手を引いてその場から離れようとすると、その集団の中の一人から声がかかった。
「如月、どういうつもりですか? ヒカルがこんなに怖がっているなんて、何をしたんですか」
「関係ねぇよ」
柊さんが僕を隠すようにしてその集団を避けて通ろうとするけれど、他にもいた数人の人に囲まれる。柊さんがチッと舌打ちした。
「え~なにこの子?」
「シュウの新しいおもちゃ?」
どこかで見たことがある様な顔ぶれが僕の顔を覗いてくる。僕は必死に顔を逸らした。
「そういう事ですか。また理由をつけて休んでいたのは」
眼鏡をかけた人は眼鏡を指で持ち上げながら、わざとらしくため息をついた。柊さんは少しの沈黙の後、おもむろに口を開いた。
「………まぁ、こいつ可愛がってたのは本当の事だし否定はしねぇよ」
「柊! もうそんなことばっかりしたらダメだって言ってるのに!」
「…なぁ、勘違いすんなよ? こいつは俺の恋人」
「っ! 恋人…?!」
「そ。恋人とセックスして何が悪い? おまえらにとやかく言われる筋合いねぇよ」
「「えええー! シュウが恋人とかありえないし!」」
同じ顔をした——多分双子の生徒が僕の顔を覗こうと、両側からグイグイ顔を近づけてくる。柊さんに助けを求めるために顔を上げれば、その双子にも顔を見られることになってしまった。その双子の目が驚いたように見開かれる。
「…こ、こんな子見たことないけど…?」
「当たり前だろ。前まで野暮ったいカッコさせられてたんだからよ」
「それどういうこと?」
「有名だろ? 『サキモトミドリ』。おまえのストーカー——だったよな、北條?」
傍観するように立っていた竜ちゃんを柊さんが一睨した。
「サキモトミドリ…? ってあの…? 嘘…」
ヒカル君まで僕の顔を見て目を丸くしている。柊さんは可愛いって言ってくれるけれど、やはり僕は酷い顔をしているみたいだ。僕は胸が苦しくなって、鼻の奥が痛くなるのをぐっと我慢しながら俯いた。こんな大勢の前で泣くなんて嫌だった。
「実際はストーカーなんかじゃねぇ。北條の性処理させられてたんだからな」
「な…っ?! 竜哉、ホントなの!? ウソだよね!?」
竜ちゃんは無表情で僕に視線を投げてよこした。竜ちゃんが怒っている。怖い。震えそうになるのを柊さんの制服を掴んで必死に抑えた。柊さんがそんな僕の肩に手を乗せて引き寄せてくれる。
「ヒカル。おまえは俺より如月を信じるのか?」
「そういう訳じゃないよ! でも…」
「それに、如月。どこの馬の骨ともわからないやつの言うことをよく聞くな? おまえ」
「あ? 言うことを聞かせてたのはおまえだろ?」
「そうか? 勝手に思い込んでたんじゃないのか? 俺の事を幼馴染と勘違いして、ストーカーするぐらいだからなぁ?」
竜ちゃんは余裕の表情で、口に笑みを浮かべている。竜ちゃんはこの学園で偉い立場にあると言っていたから、柊さんや僕よりも発言力が大きいのは当然だ。拳を握りしめた柊さんは一歩前へ出た。
「北條、てめぇ…」
「そうだよね! 竜哉がそんなことするはずないよ! 竜哉も柊も喧嘩はやめて、ね? 仲直りしよう?」
「ヒカル。こんな平然と人を陥れようとしてくる奴と仲良くなんてできない。わかるだろう?」
「竜哉…」
竜ちゃんは優しい笑顔でヒカル君を諭すように語り掛けている。
でも僕は信じられなかった。
——柊さんが人を陥れる?
そんなわけない。僕は柊さんが嘘をつかないって知ってるから。
「柊さんは嘘なんて吐かないよ…っ!」
僕は自分が出せる一番大きな声で叫んだ。柊さんがそんな人だと思われたくなかった。
「竜ちゃんとするとすごく痛かったのに、柊さんはセックスは気持ちいいものなんだって、本当のこと教えてくれた! 僕の顔、すごく不細工だけど、柊さんは顔を出していいって、自信を持っていいって言ってくれた! そんな柊さんが人を陥れるようなことしないよ…!」
一気に声を発したせいで、息切れが起こる。肩を上下させて、肺に必死に空気を取り入れた。
すると隣で、ぷ、と柊さんが噴き出した。それから、あはは、と声を上げて笑い始める。
「柊さん…?」
「碧、ホント、おまえサイコーだわ」
「え…?」
ヒカル君も、周りにいた双子とか眼鏡の人もどうしてか目が点になっている。多分僕の表現は間違っていないと思う。
けれど、それとは反対に柊さんはどうしてかお腹を抱えている。
この対極な光景が僕にはよく理解できなかった。
隣でひぃひぃと息も苦しそうに笑っている柊さんに恐る恐る声をかけると、「わり」と息の合間に短く発した柊さんにきゅっと腰を引き寄せられ、ぴったりと体が引っ付く。
「はぁ、笑える…。な? わかるだろ? 碧は自分が酷い顔してるって思っててよ、俺が教えるまで北條としてた行為がセックスだってことも知らなかった。しかも北條が好きだと思い込まされてた。…ま、おまえらが信じようが信じまいが俺はどっちでもいい。俺は碧を信じてる。それだけでいい」
「そ、それ本当に…? 竜哉、どういうこと? ねぇ、ホントなの?!」
「黙れ! 俺がそんなことするはずないだろう。そんな奴の——」
「なあ、碧の今の顔を見て、周りはどう思うだろうな? 北條」
ふん、と柊さんは竜ちゃんを鼻で嗤った。それから周りの面々を見渡してから、行くぞ、と僕の背中をそっと押して、歩くように促した。
一歩踏み出せば、その場の停止していたような時間が動き出し、急に騒がしくなる。
背後で竜ちゃんを責めるような声が聞こえてきたけれど、柊さんは立ち止まらずに前を向いていた。僕がその横顔を見上げていると、柊さんはふと視線を僕に落として、優しく目を細めた。
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