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第一章
ちょっとお散歩
しおりを挟む騎士様に助けられた後、さすがに市場通りに戻ることは気が引けて、買い物を断念。離れた道を通って店まで戦利品を片手にのそのそと歩いた。
あれ?
店の前に誰かいる。
お客さんかな――って隊長さんだよ、あれ。
「隊長さん、こんにちは」
僕が近づいて声をかけると、隊長さんは待ってましたとばかりに、僕の肩をガシッと掴んで、僕はなぜか確保された。
「この前の薬のことなんだけどな、」
「え……な、何かあったんですか!?」
どうしよう。皆さんの事助けられるかと思って渡したのに、効果がなかったのかな……。
「外じゃなんだ、中に入っていいか?」
「ど、どうぞ」
も、もしかして、何か問題があって、僕今からぼこぼこにされたりするの?
人目につかないように中に?
そう考えて頭からサーっと血が引いた。
隊長さんを家の中に迎えながらも、僕は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
まあ、僕の脚だと一瞬で追い付かれるし、これ以上心証を悪くしないように実行には移さないけれど。
「………お前、なんか余計なこと考えてるだろ…」
「そっ、そそそそんなことありません!」
「あのな、俺がお前になんかするわけないだろうが」
「へ……」
本当に殴らない?
ボコボコにされたりしない?
よ、良かった。
隊長さんは僕の怯えっぷりに呆れたようで盛大に溜息をついた。
「あの薬ってなんか特別なもんはいってんのか?」
「えっと、基本的に回復薬と同じ材料ですけど……」
「いや、タダでもらってきたって言ったら上に怒られてよ……。すぐに言い値で払って来いって」
「そんな……必要ありません。あれはあの時隊長さんに差し上げたものですから」
「そういう訳にはいかないんだ。今すぐにでも売値決めてくれ、頼む」
隊長さんを怒れる上の人って…。
しかもこの切羽詰まってる感じ。隊長さんよりもっと大きくて凶暴な人なのかもしれない。
僕は容器代ぐらいもらえればいいと思ってるんだけど、安すぎる値段を付けると、隊長さんがボコボコにされるかも。う、怖い。
隊長さんの身を護るためにも真面目に答えておこう…。
「じゃあ、一つ30ルッツでどうですか?」
「30? 欲ってもんがないのか、お前は」
「回復薬より少し低い価格にする予定だったので」
「わかった、30ルッツな。それとな、あの薬作った事は絶対口外するなよ」
「――へ、どうしてですか?」
「いいから素直に聞いとけ。わかったな、絶対に言うなよ」
「……は、はい。言わなければいいんですよね」
「ああ、それでいい」
少し隊長さんにすごまれて、体が縮こまる。うん、本当に言わない方が良いみたい。絶対言わないよ。約束します。
隊長さんは肩の荷が落ちたように、ほっとした表情になって、僕の頭をポンポンと撫でた。
「じゃあ、また来るからな。そん時はよろしくな」
「はい、またお待ちしてますね」
***
お昼ご飯はお気に入りのパン屋さんの丸パンに、野菜とお肉を挟んだサンドイッチ。
どこで食べているかっていうと、外城壁の外。――そう、今日は街から出て散歩がてら薬草を採りにきてるんだ。今は魔物避けの薬を撒いてから、ゆっくり座って食事中。
王都には二重城壁があって、王宮と居住区と商業区は内城壁の内側に、内城壁と外城壁の間には主に農業区や畜産区がある。
外城壁があるからお店がこんな門の近くにあっても安心して住めるんだ。外城壁と城壁警備隊さん様様だよね。
ギルドに全部お願いすることもできるけれど、街のすぐ傍で採れるものは自分で採取して、節約してるんだ。たまに変わった薬草も生えてたりするから、それを見つけるのも楽しみなんだよね。
門番兵さんには心配されまくりなんだけどね…。さっきも毒薬と投げナイフ見せて通してもらったよ。いつものことだよ。別に傷ついたりしてないから。
それに、街のすぐ傍なら門番兵さんもいるから比較的安全。それに僕もナイフぐらいは使えるんだよ。小さな魔物だったら毒を使えば逃げる時間ぐらいは稼げるからね。僕も薬師の端くれだし、使えるものは使わないと。
ウレン草とクオーラ草は街道を少し入った草むらに群生してるし、そこにクダ草っていう解毒薬の材料とベルベルっていう根から毒が取れる花も混ざって生えてるんだ。可愛い名前なのに怖いよね。
はっ……ぶはっ!
うう、痛い。うわー、膝結構出血してる。
こんなところに木の根が、このこの!
そんな場合じゃなくて、すぐ治さないと。
ズボンの血が付いたところは切って燃やしちゃおう。半ズボンになるけどしょうがない。血の匂いで魔物を引き付けることがあるらしいからね。
よし完了!
…あっ、浄化魔法使えばよかった…。
もうズボン切っちゃったし、しょうがないよね…。はぁ。
さぁ、ちゃちゃっと採取して帰るぞー。
全部は採らないようにして。またいっぱい生えて来るようにね。
うん。こんなもんだね。袋にどっさり草草草草花木皮。の4袋分。いっぱい採れたし、満足満足。
こんな量持って帰れないよーってなるけど、僕には便利な無限収納魔道具っていう味方がいるから大丈夫。
これ、すごく高価な魔道具だからあんまり人には見せられないんだ。おじいちゃんの形見だから、僕が買ったわけじゃないんだけれど。
収納したいものを触ると、スポンと消えて魔道具の中に移動するんだよ。
一袋だけ残しておいて、ほかの袋は魔道具の中に、スポンと。――うん、すっきり。さすがに手ぶらだと怪しまれるからね。
これでお散歩は終わり。討伐隊が出た後は魔物の量も減るから、魔物や獣にも会わなかったし、よかったよかった。
「大丈夫だったか? 魔物に会わなかったか?」
行きにすっごく心配してくれた門番兵さんが僕の姿を見つけて、わざわざ詰所から出てきて声をかけてくれた。
「はい。討伐隊の皆さんのおかげで、魔物にも会わなかったですよ」
「そうか。それは良かった。今回のは結構な規模で行われたからな」
「安心して過ごせるのも兵士さん達のおかげです。いつもありがとうございます」
「いやぁ、坊主にそういってもらえると、仕事してる甲斐もあるってもんだな」
門番兵さんは鼻をポリポリと掻いた。ちょっと照れてるみたい。
門番兵さん達は隊長さんの教育のおかげ――なのかはわからないけど、とっても優しいよ。心配性の人が多いけど、おじいちゃんには頼れる人には頼っとけって言われてたから、色々とお言葉に甘えてるんだ。
それに、外は本当にいつ魔物が来るかわからなくて危ないんだ。僕みたいなのは用心に用心を重ねないと大変なことになるからね。
さ、晩御飯は久しぶりにお店で食べようかな。
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