蝶と共に

珈琲きの子

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第一部 第一章

プロローグ

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「今日はこいつな。彼女とヤルにも童貞だと恥ずかしいんだとよ」

 珍しく声をかけられた。
 タカシに連れられてきた男に視線を向けた。そいつは学校で何度か顔を見たことのある同級生。

 タカシが立ち去った、無音の俺の部屋。
 俺は立ち尽くしているその童貞野郎のベルトに手をかけ前を開けると、緊張で縮こまった性器を持ち上げ、口に含んだ。

 

 
『俺と付き合って欲しい』

 タカシは言った。
 
 あれほど嬉しいと思った瞬間はなかった。
 ずっと誰にも打ち明けられない恋心をタカシに抱いていたから。

 何度か体を重ねた。

 セックスは痛いものだった。全く気持ちいいものじゃなかった。後ろで気持ちよくなれるなんて幻想だった。

 けれど、タカシが俺に突っ込んで息を弾ませて腰を振るのが嬉しかった。中だしされるのは苦痛だったけれど、俺で気持ちよくなってくれたと思うと、幸せだった。

 
 数回の行為の後の怠さと痛さに耐えていると、タカシが部屋に誰かを招き入れた。
 

 その時から、この『遊び』は始まった。


 タカシに見られながら、数人の男に犯され、写真とビデオを撮られた。


 それ以来、タカシは誰かを連れて来ては、そいつを置いて部屋を去る。
 それは無言の命令。

 俺は売られてる。
 金のやり取りを何度か見たことがある。 

 断ることなんてできない。

 一言でも否定する言葉を発すれば、待っているのは立ち上がれなくなるほどの暴力。

 そして、俺の犯されている写真をちらつかせながら、タカシは言う。


『愛してるよ、リョウ』






 童貞野郎は本当に三擦り半で終了したため、体が楽だった。今日は晩飯の品数を増やすか、と、そんなことを考えられる程度に。
 母子家庭である俺の家では、家事は俺の仕事だ。

 携帯が振動し、着信を告げる。

 見たことのない電話番号を不審に思いながらも、受話ボタンを押して耳に当てた。



 ―――なんで、こうなるんだろう。



 俺は橋の欄干に座り、足をブラブラと動かした。
 もちろん下には昨日の雨の所為で水かさが増した川。

 
 聞かされたのは、母の死。
 交通事故だった。即死だった。


 飛び込むのはやっぱり怖い。
 死にたいと思っても、体が竦む。


 ひらりと、目の前に蝶が飛んできた。
 

 ああ、こいつについて行けばいいのか。

 
 俺はそれを追うようにその濁流に身を投げた。


 
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