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本編
にじゅーご
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「そろそろいいんじゃね?」
口の中を埋めていたものが引き抜かれて、ベッドの上に放り投げられるように倒される。
「ほら、自分で挿れて、腰振れよ。お客様にサービスしなきゃなぁ?」
ピアス男が嫌な笑いを張り付けて僕を見下ろした。一人がベッドの上に乗り上げて横に座り、鼻息荒く僕を跨がせようとする。その男の股間にあるモノは完全に勃っていて、少なくとも僕に欲情してるみたいだった。
その状況に、背中にぞわりって悪寒が走る。
キモチワルイ。
大和先輩以外に触れられるのってこんなに不快なんだ…。
いくらお金が必要だからって、…できないよ…。
僕が生きてる意味なんてないのかもしれない。そんな僕が大和先輩だけって望んじゃだめ? そう望むことってワガママになっちゃうかな?
「…いや…」
普通に声に出したはずなのに、実際に出たのは僕もびっくりするぐらい小さな声。
でも僕を観察してたピアス男に届くのには充分な大きさだった。
「は?」と一気に機嫌のメーターがマイナスに振れたピアス男に髪の毛を掴まれて、煙草のヤニ臭い息がかかるぐらいに顔を近づけられる。
「おまえさぁ、立場わかってんの?」
「……でも…、できない…から…」
「あのな? 生きてる価値のないおまえに、金払ってやろうっていってんの、な? ………あー、それとも、そういうのが趣味?」
眉間にしわを寄せていたのが一転、何かを思いついたように口端を持ち上げた。
「いいよ? ついでにビデオ撮って売ろっか。ちゃんとそれも借金の返済に回してやるから、安心しろよ」
なに…?
意味が分からずにピアス男が離れていくのを見つめていると、腕を捕られてベッドに引き倒される。ベッドに押さえつけられて、強制的に足を開かされて、その間にさっきの男が割入ってくる。
あの時の記憶がフラッシュバックする。
誰も助けてくれない。声を上げても誰にも聞こえない。
今までみたいに諦めたら楽だって。助けが来ると思ってるより、もう来ないって諦めてしまう方が楽だって。
何をされるか分からなくて、ただ身を固くしてた。もしかしたらこのままナイフで刺されて殺されるのかもって考えて、ナイフが皮膚に触れる度に恐怖して、次に来るかもしれない痛みに竦んで…。
でも…大和先輩が来てくれた。
僕は諦めてたのに、あの人は来てくれたんだ。
――だからって…、
だからって、今も期待するなんておかしいよね…。
助けて欲しいなんて、言える立場じゃないのに。
でも……でも、
大和先輩…、
「…たすけて…」
僕の言葉に上に圧し掛かってくる男がニタリと笑うのをみて、僕は目を閉じた。
やっぱり…、期待するなんて、間違ってるよね。
もう…ってあきらめた瞬間、耳にしたことのない何かが破壊される音が聞こえて、その場の空気が一変した。
目を開けて視界に飛び込んできたのは、僕のヒーロー。
――夢、……なのかな。
こんな都合のいい夢見ちゃうなんて…。
でも大和先輩の声がする。大好きな少し低めの心地のいい声。
ああ、大和先輩がいるんだ。
夢じゃないんだ…。信じられない。
周りの音なんて聞こえなくて、周りの人なんて見えなくなって、ただただその人の存在だけがそこに輝いてるみたいだった。
僕とは違う、未来があって、価値のある人。
その人が僕を振り返った。痛いくらいに真っ直ぐな眼差しで。
待って…、どうしよう。
こんな姿…、こんな気持ち悪い姿、先輩このひとに見せられないよ…。
どうしよう。
早く、早く帰ってもらわないと。
いつもみたいに、しなきゃ。いつもみたいにすれば、先輩もきっと呆れて帰ってくれるから。
「……なんで、…きたの…。…もう、こないで、って…」
なに、この声。どうして震えるの…?
もっとはっきり言わないと…。
「一ノ瀬」
ベッドが軋む音がして、ふわりと先輩の香りが鼻を掠める。それと同時に強く引き寄せられる。
温かい場所。温かくて、もうここから出たくないって思ってしまう場所。
「もう、大丈夫だ。――もう、大丈夫だからな」
本当に、本当に先輩なんだ。先輩が来てくれたんだ。
僕は…、僕は…。
「気付いてやれなくて、すまなかった…」
先輩…?
「おまえは俺に礼をしに来てくれたのに、……本当にすまなかった」
先輩、僕の事思い出してくれたの…? 僕の事気付いてくれたの?
一気に押し寄せてくる、安堵感と幸福感。
泣いたら、いけないのに。
重い奴って、面倒くさい奴って思われちゃう。
なのに、僕の脳はどうして言うこと聞いてくれないの?
「アズサ、ずっとおまえの傍にいる。何と言われようが、離さないからな、絶対に」
そんなの、そんなの言わないでよ…。
先輩に言われたら、信じたくなっちゃう。
でも、今だけ…、
今だけでいいから、信じさせて…。
口の中を埋めていたものが引き抜かれて、ベッドの上に放り投げられるように倒される。
「ほら、自分で挿れて、腰振れよ。お客様にサービスしなきゃなぁ?」
ピアス男が嫌な笑いを張り付けて僕を見下ろした。一人がベッドの上に乗り上げて横に座り、鼻息荒く僕を跨がせようとする。その男の股間にあるモノは完全に勃っていて、少なくとも僕に欲情してるみたいだった。
その状況に、背中にぞわりって悪寒が走る。
キモチワルイ。
大和先輩以外に触れられるのってこんなに不快なんだ…。
いくらお金が必要だからって、…できないよ…。
僕が生きてる意味なんてないのかもしれない。そんな僕が大和先輩だけって望んじゃだめ? そう望むことってワガママになっちゃうかな?
「…いや…」
普通に声に出したはずなのに、実際に出たのは僕もびっくりするぐらい小さな声。
でも僕を観察してたピアス男に届くのには充分な大きさだった。
「は?」と一気に機嫌のメーターがマイナスに振れたピアス男に髪の毛を掴まれて、煙草のヤニ臭い息がかかるぐらいに顔を近づけられる。
「おまえさぁ、立場わかってんの?」
「……でも…、できない…から…」
「あのな? 生きてる価値のないおまえに、金払ってやろうっていってんの、な? ………あー、それとも、そういうのが趣味?」
眉間にしわを寄せていたのが一転、何かを思いついたように口端を持ち上げた。
「いいよ? ついでにビデオ撮って売ろっか。ちゃんとそれも借金の返済に回してやるから、安心しろよ」
なに…?
意味が分からずにピアス男が離れていくのを見つめていると、腕を捕られてベッドに引き倒される。ベッドに押さえつけられて、強制的に足を開かされて、その間にさっきの男が割入ってくる。
あの時の記憶がフラッシュバックする。
誰も助けてくれない。声を上げても誰にも聞こえない。
今までみたいに諦めたら楽だって。助けが来ると思ってるより、もう来ないって諦めてしまう方が楽だって。
何をされるか分からなくて、ただ身を固くしてた。もしかしたらこのままナイフで刺されて殺されるのかもって考えて、ナイフが皮膚に触れる度に恐怖して、次に来るかもしれない痛みに竦んで…。
でも…大和先輩が来てくれた。
僕は諦めてたのに、あの人は来てくれたんだ。
――だからって…、
だからって、今も期待するなんておかしいよね…。
助けて欲しいなんて、言える立場じゃないのに。
でも……でも、
大和先輩…、
「…たすけて…」
僕の言葉に上に圧し掛かってくる男がニタリと笑うのをみて、僕は目を閉じた。
やっぱり…、期待するなんて、間違ってるよね。
もう…ってあきらめた瞬間、耳にしたことのない何かが破壊される音が聞こえて、その場の空気が一変した。
目を開けて視界に飛び込んできたのは、僕のヒーロー。
――夢、……なのかな。
こんな都合のいい夢見ちゃうなんて…。
でも大和先輩の声がする。大好きな少し低めの心地のいい声。
ああ、大和先輩がいるんだ。
夢じゃないんだ…。信じられない。
周りの音なんて聞こえなくて、周りの人なんて見えなくなって、ただただその人の存在だけがそこに輝いてるみたいだった。
僕とは違う、未来があって、価値のある人。
その人が僕を振り返った。痛いくらいに真っ直ぐな眼差しで。
待って…、どうしよう。
こんな姿…、こんな気持ち悪い姿、先輩このひとに見せられないよ…。
どうしよう。
早く、早く帰ってもらわないと。
いつもみたいに、しなきゃ。いつもみたいにすれば、先輩もきっと呆れて帰ってくれるから。
「……なんで、…きたの…。…もう、こないで、って…」
なに、この声。どうして震えるの…?
もっとはっきり言わないと…。
「一ノ瀬」
ベッドが軋む音がして、ふわりと先輩の香りが鼻を掠める。それと同時に強く引き寄せられる。
温かい場所。温かくて、もうここから出たくないって思ってしまう場所。
「もう、大丈夫だ。――もう、大丈夫だからな」
本当に、本当に先輩なんだ。先輩が来てくれたんだ。
僕は…、僕は…。
「気付いてやれなくて、すまなかった…」
先輩…?
「おまえは俺に礼をしに来てくれたのに、……本当にすまなかった」
先輩、僕の事思い出してくれたの…? 僕の事気付いてくれたの?
一気に押し寄せてくる、安堵感と幸福感。
泣いたら、いけないのに。
重い奴って、面倒くさい奴って思われちゃう。
なのに、僕の脳はどうして言うこと聞いてくれないの?
「アズサ、ずっとおまえの傍にいる。何と言われようが、離さないからな、絶対に」
そんなの、そんなの言わないでよ…。
先輩に言われたら、信じたくなっちゃう。
でも、今だけ…、
今だけでいいから、信じさせて…。
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