僕って一途だから

珈琲きの子

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本編

にじゅー

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結局、風邪うつるといけないからって、差し入れを受け取って追い出すみたいな形になっちゃった。
 もう僕、最低な人間だと思う。
 せっかく来てくれたのに何もできないし、心からありがとうって思えない。どうせっていう考えが染みついちゃって、ダメなんだよね…。
 それに、ヒノちゃんと横山君の二人には学校を辞めるって言えなくて、今までのお礼ができるかもわからない状態で…。
 ホント、僕、どうなるんだろう。

 夜も全然寝れなくて、暗い中一人でぼんやりしてると、マイナス思考になっちゃって困るよね。あの一ノ瀬の屋敷での生活を思い出して、あそこに戻れば何とかなるって、切れそうな糸を死守してるけど、気を抜くと心の中が不安で埋め尽くされそうになる。

 そんな中でも、やっぱり大和先輩が僕の光だったりする。

 消灯前にまた僕の部屋まで来てくれて、「大丈夫か」「ちゃんと飯食ったか」って声をかけてくれた。もうね、声聞くだけで嬉しい。扉の向こうにいるって考えるだけで、それだけで心が少し元気になるんだもん。
 大和先輩がどんな意図があってここに来てるのかなんてどうでもいいんだ。ここにいる時は大和先輩は僕の事を考えてくれてるから。面倒だと思われてても、本当は嫌われてても、僕に声をかけてくれてるから。

 僕、結構病んでる感じ…? 



 ◇



 翌朝、最後のあがき、と思って、制服着てドアを開けようとしたけど、やっぱり無理だった。
 そのまま昼過ぎまでボーっとしてて、やっと何かお腹に入れとかないとって、昨日持ってきてくれた総菜をレンジで温めながら、くるくると回るテーブルをただ眺めた。
 レンジだって頑張って物を温めてるのに、総菜でさえ誰かのお腹を満たすっていう役割があるのに、自分でご飯も買いに行けない、何の役にも立たない情けない僕。
 僕って…、――あ、ダメダメ。こういう思考は頂けない。

 ふるふると頭を振ってると、「ピ」と認証音が鳴って、それと同時にカチリと廊下とつながるドアのカギが開いた。突然の事にワタワタしながら、レンジの中のものを放って、急いで自室のドアノブに手をかけた。
 大和先輩かも、と思うと心は踊るけど、顔を合わせるのは絶対イヤだから逃げるに限る。
 ドアを施錠しようとした瞬間、リビング側から強い力でドアノブを引かれて、僕までそのまま引っ張られた。

 顔を上げて、視界に飛び込んできたのは大和先輩でもなく、風紀委員でもなさそうな、全く知らない怖そうな人、数名だった。

「逃げるとか、酷くない?」
「へぇ、こいつ?」

 口々に何か言ってたけど、耳を右から左に通り抜けて、全然頭に入ってこない。
 なんでこの人達が僕の部屋のカードキーを持ってるのか、なんで僕の自室にずかずかと入り込んできているのか、全く意味が分からなくて、混乱して立ち尽くしてしまった。
 これがダメだった。
 悪い予感がして、逃げなきゃ、と思った瞬間に突き飛ばされて、その勢いのまま床に転がった。

「お客様が来たなら、ちゃんとご挨拶しなきゃな?」

 上半身を起こすと、髪を掴まれて顔を強引に上げさせられる。
 なんで、なんで、って僕の頭の中はその言葉でいっぱいで、状況を把握することもままならなかった。

 部屋から逃げ出したいとドアの方にちらりと視線だけ向けると、ドアに凭れてる人が嫌な笑いを浮かべた。あの時と同じように、もう逃げられないって、僕に思い知らせるみたいに。
 心臓がバクバク言って、呼吸が浅くなって、しゃがみ込んでるのに足が竦む。

「やりすぎんなよ。怖がってるだろーが」
「ホントホント。めっちゃ震えちゃって」
「こうしてみると結構可愛い顔してんじゃん」

 髪を掴んでた人に、よそ見してんじゃねーよ、とグイっと髪を引っ張られて上を向かされ、耳介が取れて落ちそうなほどピアスを付けた一番おっかなそうな人に顔を覗き込まれた。怖い、怖い。

「は、離してよ…。僕が…何したっていうの?」

 精一杯の強がり。なにか言わないと、正気を保ってられない感じだったから。

「自分の置かれてる状況分かる?」

 ピアスの人は僕の耳元で言い聞かせるみたいに話し出した。外見に似合わず、優しく穏やかな声で。

「別に俺ら、おまえに暴力振るったり、ゴーカンするとか考えてないんだわ。これから合意の下で行われるわけ。だから、言ったろ? お客様だって。わかるカナ?」

 お客様? なにそれ。
 全くこの人の考えが分からない。

「結構借金あるみたいじゃん。で、その返済を手伝ってやってくれって言われてんの」
「そうそう、親にも見捨てられて、引き籠ってるおまえに愛の手を、って」
「俺らの事満足させられたら、金額弾むけど、どーする?」

 借金の返済…。なんでその事この人達が知ってるの? 堤さんからお願いされたってこと? どうして?

 しかも体を売れってことなんだよね…、これって。
 そんなの……。

「そんなの、しない…。…ちゃんと、働いて返すから…」
「へぇ? 働けんの? 引きこもりなんだろ? 生活費あんの? 誰か出してもらえる当てあんの?」

 矢継ぎ早に疑問を投げかけられて、僕は詰まった。

 父という後ろ盾がなくなって、丸裸で放りだされたみたいなものなのに、そんなのあるわけがない。
 そんなこと…、そんなこと僕が一番良く分かってる。どれだけ冷たくされても、邪険に扱われても、生活が保障されてた今までとは違うって。

 考えないようにしてた。何とかなるって、そう思わないと、誤魔化しておかないと、僕は――。

「それともさ、年寄りに頼るの?」

 あぁ。
 とどめの一撃ってホントにあるんだね。 

「………お願いします」

 俯いて僕は声を振り絞って出した。

「ん?」
「……僕を、買って下さい。…お願いします…」

 僕の言葉を聞いたそのピアスの人のにんまりとした満足げな笑みが目に焼き付いて離れなかった。



 目の前に差し出された萎えたままの性器を持ち上げた。他人のソコなんて触ったこともないし、どんな力加減で持っていいかも分からないから、慎重に。
 ゆっくりと手で扱くと、徐々に硬さを増してくるソレに複雑な心境になる。

 部屋にいる全員の視線が集中しているような気がして、息をするのが困難なぐらいに緊張する。AVに出てる人って皆に見られながらしてるとか、ある意味すごいよね。

 口に入れるべきものではなさそうなソレをそろっと唇で咥えた。舌で舐めてみるけど、やり方が分からない。なんとなくしてみるけど、一向に気持ちよくはなってないみたい。

「くそヘタクソ。やる気あんの?」

 あるわけない。
 って、心の中で悪態をついてるのがバレたのか、頭を掴まれて、顔を下生えに擦りつけられるみたいに押し付けられた。もちろん性器の先端がガンガン喉にあたってえずくことになったけど。

「口閉じて、舌使え」

 頭を固定されたまま、ピアスの人が自分本位で腰を動かしてくるから、苦しいし、ちゃんとできてるかも分からないし、されるがままに喉を犯された。ディープスロートがこんなに苦しいなんて思わないよ。オエってなっても止めてくれないんだもん。
 しかも一度目からセーエキ飲めって言われて、難易度高すぎ。

「お客様の垂れてるぞ。大事に舐めとけよ」

 次の人には顔射されて、一瞬呆然となった。なにされたのか分からなかった。生暖かいものが頬を垂れてくる感覚が気持ち悪くてたまらない。
 言われるままに口周りに垂れてきたの舐めたら、嗤われて…。

「うわぁ。マジ舐めてる、こいつ。金のためってか」

 どうしたら良かったの? 舐めなくて良かったの?

「親子そろって天職かもなぁ」

 親子? 僕の本当の親? 体売ってるの?
 何かがガラガラと音を立てて崩れてる。頭が、おかしくなりそう。

 ――本当はこんなことしたくないのに。

 服脱げって言われて、裸になって、自分で後ろを解しながら、同時にフェラ。
 今からこの人達に突っ込まれるんだ。
 自分で望んで。
 お金が欲しいから。


 僕、なにしてるんだろ。


 ――僕、何のために生きてるの? 









 
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