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本編
じゅーご
しおりを挟む「ん……」
眩しくて、目を開けると、ちょうど顔に朝日が当たってた。
んー、こんなに日あたり良かったっけ。
しかもなんか何かが焼けてるイイ匂い。コーヒーの香りもする。ザ・朝の薫りってかんじ。
それで……、えっと……、このベッド、僕の部屋のじゃない!
むくっと起き上がって部屋を見渡すと、昨夜の情事が思い起こされる。夢を見てたみたいだったけど、腰の怠さで現実だったんだってわかった。
激しかったもんね。昇天しまくったし、大和先輩のケモノ感もテクニックもやばかったし。はぁ、ホント気持ちよかった…。これから困っちゃうよ。先輩のアレなしで生きていけるか心配。
それも困るんだけど……、これが夢じゃないってことは、僕、先輩に好きって言っちゃったってことだよね? ポイされる可能性もあるってことだよね。うわぁ…どうしよう。
なかったことにしてもらえるかなぁ。脅されたから嘘ついた、って通じるかなぁ。
「一ノ瀬、おきたか」
「っ!」
い、いつの間に背後に?
毎度の事、驚かさないでよ…。ちっちゃい心臓、本当に潰れちゃうから。しかも名前呼ばれると喜びでゾクゾクしちゃう。ファーストネームで呼ばれたら失神するね。ま、二千パーセントないけどねー。
平静を保って、冷静に。いつもの感じで。
「おはよー、先輩」
満面の笑みで振り返ったら、「おう」って声かけられながら、頭撫でられた…。
く、クラクラする。このままベッドに倒れそう。
「飯食うか」
「えっ、」
どういうこと? どういうこと?
朝ご飯、先輩と一緒に食べれるってこと!?
きゃーッ、なにそれ。昨日に引き続き、この待遇どうよ!
「もしかして、大和先輩が作った、とか?」
「ああ。簡単なものだけどな。どうする、食べるか?」
「手料理?! すっごーい! 食べる食べる!」
本日、最高! 昨日のミルクぶっかけ事件もさっぱり忘れちゃうよね。あ、ホントの牛乳だからね。卑猥な方のミルクじゃないから。先輩のならぶっかけられたいけど、ちょっとマニアックかなぁ。
ちゃんと服着てるけど、僕の制服どうなったんだろう。
ちょっと待って。
えっと、この今僕が着てる服って誰の? これって、せ、せ、せせ先輩の服だったりする!? 彼シャツとか言うやつか!
でも下はちゃんと穿いてる。中学のジャージっぽい。そっかそっか、あの時今の僕ぐらいだったよね、先輩。
……って、誰が着せたの? …わかってる、一人しかいないことぐらい。うわぁ…、こんな朝っぱらから先輩のお服様を汚すなんてしたくないけど、鼻血吹きそう、ホント。
「服まで着せてくれたんだぁ」
「おまえが全く起きなかったからな。風呂に入れたついでだ」
…………なにそれコワい。
天変地異の予感?
先輩に体洗われてたとか、この世で何が起きてもおかしくないよね。
しかも、僕の恥ずかしいところもばっちり見られちゃったってことだよね…。今更だけどさ。
「ありがとぉ。なんか迷惑かけちゃってごめんね、先輩」
「気にしなくていい。ほら、早く来い、飯が冷める」
は、ハイ! 出来立てほやほやアツアツの先輩の手料理! 頂きます!
けど、僕はベッドから降りようとして、腰の奥の方の鈍痛に悶えた。痛いけど我慢我慢。いつもと違って幸せな痛みだし、このぐらい平気だもん。今は先輩の手料理を!
「痛むのか?」
先輩が横に座ってきて、僕の顔をまじまじと見つめた。ち、近い…。
それから、肩を抱くみたいにして…、こめかみにキス!? えっとぉ、僕まだ夢の中なのかなぁ。そしたら手料理食べれるとか頷けるし。
「悪い。昨日は調子に乗りすぎた」
「んー? 何ともないよ? 僕激しいの好きだしー。すっごい気持ちよかったし。――ね、早く先輩の手料理食べたいなぁ」
恥ずかしすぎるから、ささっと先輩の腕から抜け出して、素っ気なく装いながらパーティションの向こうにあるリビングダイニングに。
ホント無理だって、あんなのされたら本気になって離れられなくなっちゃう。
「わぁすごい先輩。ホントに料理するんだぁ」
「こっちに座れ」
「はぁい!」
凄いよ凄いよ! こんな感激することないよぉ。
サラダとトーストとベーコンと目玉焼き。それからコーヒー。
これ作ってる先輩の後姿見てたかったー。もっと早く起きれてさえいれば…。惜しいことした。
向かいに座った先輩が手をつけたのを見てから、僕も感謝いっぱいに頂きますをして、先輩の分のサラダをよそった。ううー、幸せ過ぎる。今、天に召されても大丈夫。
「自分で作ったりしないのか?」
「うーん。僕はしないなぁ。今まで実家暮らしだったし、ここでも食堂で十分だし」
ここで料理得意でーす、とか言えたらよかったんだけどさ、無理無理。食べる専門ですから。あ、でも、流石に目玉焼きは作れるよー。
厚切りベーコンにとろーり半熟の黄身が幸せ!
トーストにバターが染みて、ちょっとしっとりちょっとカリっと超絶妙なバランス!
「うまそうに食べるな」
んんん? 先輩の目が……ちょっと目尻が少し垂れて、涙袋が膨らんで、目が細くなってる。こ、これって笑ってる…?
うっそ。やばい。こんな笑顔見れるとか…。すごい顔が熱い気がするんだけど、大丈夫かな。顔赤くなってないかな。
「そ、そう? 食べるの好きなんだよねー」
「食べに来るか、週末」
……は? なんか言いました?
「土日は基本自炊だ。一人分も二人分も一緒だからな。おまえがそうして美味そうに食べてくれるなら作り甲斐もある」
夢かなー、やっぱり。
僕はひっそり自分の太ももを抓ってみた。……痛かった。
夢じゃないんだ…。どうしよう。先輩、どうしちゃったんだろう。熱でもあるのかな。
こんなチャンスを断るなんて僕にできるわけがない、フンっ!
「いいのー? ホントに?」
「嫌なら誘わないだろ」
「……なら、食べにこよっかなぁ。…えっとぉ、じゃぁ、僕はエッチで頑張って奉仕することにするね!」
うん、それが良い。名案だね! うっしゃー、燃える! 今日からフェラのやり方でも研究しよっかなぁ。先輩に先越されちゃったけど、次は僕がヤる! フェラテクで先輩をアンアン言わせちゃる!
「……無理してそんなことしなくていい」
「えー、でも、先輩とはエッチなお付き合いしてるだけだし、他にお礼の方法、何かある?」
返事なし…。
先に食べ終わった先輩が食器を下げに立ってしまった。僕もそれに続いて、食器を洗う。その間無言。
えっと、なんか問題発言しちゃったかなぁ。
洗い物を済ませて手を拭く。
ふわっと先輩の香りがしたと思ったら、筋肉質な胸板と腕に囲い込まれ…てた。
良く状況が呑み込めないんだけど。こ、ここって先輩の腕の中…。心臓が…心臓がおかしくなりそう。
バクバク脈打つ音を聞かれたくなくて、大和先輩の胸を軽く押して体を離した。先輩も素直に僕を解放してくれる。けど、先輩の顔を見られなかった。多分顔が真っ赤で人に見せられるようなものじゃなくなってるから。
「一ノ瀬…、今までの事、謝らせて欲しい」
「え…?」
「おまえを酷く扱って、傷つけて、……本当にすまなかった」
せ、先輩が謝ってる…っ!
信じられない。どうしたんだろう、ホント。
だから、昨日あんなに気持ちいいセックスしてくれたのかな。
…嬉しい。僕の事、少しでも考えててくれたんだ。
「…べ、別に酷くされたことなんてなかったし…」
「そうやって、全部隠すのか…? 行為の後に動けなくなってたことも、制裁を受けていたことも…」
え、どうして知ってるの? 動けなくなったのは保健室の隣でした時だけ…。それを見られてたってこと? う、どうしよう…。華居センセと絡んでるの見られてたりしないよね…?
「……隠してたわけじゃないよ? でも、先輩にそれ言っちゃうと、セフレ以上になっちゃうかなーって」
頼ったりするのってタブーだって思ってたし、先輩もそれを望んでなかったから、あんな感じだったんだよね。
「セフレ以上の関係になれば、俺を頼ってくれるか?」
「え…と、」
「何もかも隠して、自分だけで抱えようとするおまえの力になりたいと、そう思った。……それに、他の奴がおまえを抱いてると思うだけで、冷静でいられなくなる」
それって…、
「――好きなんだ、一ノ瀬。いつからかおまえのことが気になって仕方なかった。昨日のおまえを見て一層おまえを守りたいと思った。おまえのことが好きなんだとはっきりと気付いた。ひどい抱き方をしておいて、言えることじゃないが…、一ノ瀬が赦すと言ってくれるのなら、傍にいさせて欲しい」
……好き?
大和先輩が僕を好きって? どうして? 好きな人がいるんじゃなかったの?
本当に? 本当に僕の事…。部屋に泊めてくれたのも、ご飯食べに来るか誘ってくれたのも、僕を好きになってくれたから?
どうしよう。こんな、こんな…。
胸がじんわりと熱くなる。肩に置かれた先輩の手が温かさに目が潤んでくる。その温かさを信じて僕は恐る恐る顔を上げた。
先輩の迷いのない眼差し。気圧されるほど男前で真っ直ぐな感情。
あ……、凄いデジャヴ。
そう感じた瞬間、高揚した心が芯からスッと冷えていくようだった。
そっか、そういう事か。最近多いと思ったら、そういう事だったんだ。
先輩もそうなんだね。
「………そういうの、いいから」
僕は満面の笑みで返した。
「…一ノ瀬?」
「えっとぉ、先輩と僕ってセフレでしかないし、それ以上って言われても困るんだぁ。ごめんね、先輩が本気になっちゃうなんて思わなくて」
「昨日、言ったことは…」
「何か言ったっけ? ――あ、アレ? 好きだからって。あぁー、やっぱりそれで勘違いしちゃったんだ。先輩とエッチするのが好きだからって意味だったんだけどなぁ。はぁあ、先輩のおっきいから好きだったのに、残念。僕、そういう縛られるの嫌いだから、セフレ解消っていうことで、よろしくね、先輩」
一気に言って、じゃあね、って僕は先輩の顔を見ないように、横を通り過ぎた。つもりだったけど、手を取られて、抱き寄せられる。
どうして? どうして?
「一ノ瀬、そんな話俺は信じない、俺は認めない」
先輩のゆがみのない言葉。そして先輩の腕の中は温かくて、ずっといたくなってしまう。でも、これはただの狂言でしかない。信じてしまったら、きっと…。
強く抱きしめてくる腕から身を捩って脱出する。腕は掴まれたままだったけれど。痛いぐらいに握られて、痕が残りそうだなってぼんやりと思った。
「…お願いされたんでしょ? あいつに。僕に好きって言えって」
「何のことだ…?」
「嘘つかなくていいよ? みんなそうだから。……みんな、みんな…すぐに僕から離れて…あいつのとこに行っちゃうんだよね」
「一ノ瀬?」
あんなふうに大和先輩にまで……。
あぁ、ヤダな。こんなみじめなの。
最悪。
「離して、先輩」
「離さない。おまえが何を疑ってるか知らないが――」
「気持ち悪いの! 触られるの気持ち悪いから、離してって言ってるの…っ!」
僕が先輩に対して言える、最大限の侮辱の言葉だった。
一瞬怯んだように手の力が弱まって、僕はその手を振り払って、靴も履かずに部屋を出た。
走って走って、
何も考えずに走った。
誰もいない部屋に戻って、ドアを閉めて、鍵かけて。そこに蹲った。
「……っ……ひっ……、ぅ……」
どうしたらいいの?
あんなふうに大和先輩にまで目を逸らされたら…、僕はどうしたらいいの…?
あの人のこと、嫌いになればいい?
嫌いになれば、これ以上傷つかなくて済む?
でも、どうやって?
ねぇ、どうやったらあの人を嫌いになれるの?
ねえ…
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