僕って一途だから

珈琲きの子

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本編

じゅー

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寮の部屋から宗ちゃんの私物が消えてから、宗ちゃんは教室に来なくなった。
なんでかっていうのは、次の日の朝、横山君が教えてくれた。

「宗が生徒会入りとかありえないよなー」
「…え、」
「あれ? 一ノ瀬知らなかった?」

生徒会?

「まあ、人気投票で上位に食い込んでたし、来年には確実に入るなって噂はあったからな。ちょっと頭が伴わないし、俺は生徒会入りはないと思ってたんだけどな」
「…宗ちゃんってそんなに人気だったの?」
「まぁな。高校入ってから特にかな。元気少年だったのが何となく憂いを帯びてきて、影ができてきたのがいいとか聞いた。…でも薄情だな、あいつも。同室の一ノ瀬に一言もなしだったんだろ?」
「急に決まったんじゃないの? 僕、昨日ずっとヒノちゃんといたからきっと言う時間なかったんだよ」
「そうだよな…。俺も今朝人づてに聞いたし。なんか新しく入った槙野まきのが早く慣れるように同学年の宗を入れたらしくてさ。ホントに急だよなぁ」

槙野って、唯人のことなんだけど、嫌な予感しかしない。
宗ちゃんが昨日何も言わずにいなくなったことといい…。

「そっかぁ。なら仕方ないよね」
「ま、生徒会入ったって、特に何が変わるわけでもないし、今までと一緒に飯は食えるって」
「…うん」

そうだといいな、っていう僕の淡い期待は昼ご飯の時にあっさり裏切られた。
二階の特別席で唯人を囲むように獅々田先輩、五条先輩、宗ちゃん、それから他の生徒会の人がいて、皆笑って…。
ああ、こんな風景、昔見てたなって、ブルー入っちゃった。ヤだよね、ホント。
唯人が何も着けてないバーション見たのかな。先輩たちも宗ちゃんも。そりゃ、コロッといっちゃうよね。なんてったって、天使だし。潤んだ目で上目遣いされちゃったら、もう逆らえないんだって。僕もしてみよっかなぁ…。性格に合わな過ぎて、やったらやったで即刻リバースしちゃいそうだけど。

宗ちゃんと偶然目が合っても苦い顔で逸らされて、さすがに僕もちょっと凹んだ…。
すごい心配そうな顔で横山君とヒノちゃんに顔を覗かれちゃった。そりゃそうだよねー。

「宗となんかあった?」
「ん? 別に」
「別にって感じじゃないだろ。部屋移動することも言ってなかったのも…」

告白されて振ったら、部屋からいなくなったとか言えないし。宗ちゃんを唯人に取られたとか言えないし。

「……あー、んーと、ちょっとしたケンカ、かな」
「ケンカ? 宗君と?」
「まぁ、そんな感じ」
「それにしてもあれは酷いだろ。本当に何考えてるんだ、あいつ」
「でも、僕の所為なんだよね…。宗ちゃんのこと傷つけるようなこと言っちゃったし」

まあ、振って、宗ちゃんの心を傷つけたことには変わりない。
でもさ、そんなの、仕方ないよね? 
僕はあの時どうすればよかったの? どうすれば友達でいてくれたの?

「アズが傷つけることなんてあるの? それこそ信じられないけど…」
「まぁ、何があったか分からないけど、手伝えることがあったら言ってくれよな。俺も力になるから。俺も宗にちょっと声かけてみるし」
「僕も頼ってくれていいからね」

二人に肩を叩かれながら、いつもの特等席に着いた。
横山君もヒノちゃんも優しいなぁ。
でも、これ以上、無理かなぁ。人と関わりたくないんだもん。

「大丈夫、大丈夫。僕からちゃーんと宗ちゃんに謝りに行くし。横山君もヒノちゃんも心配しなくて大丈夫だよー」 

得意の満面の笑みで返しといた。二人とも納得いってなさそうだけど。ま、しょうがないよね。


で、


僕は先輩を追いかけるストーカー生活に戻ったよー!
だってぇ、やっぱり、これが楽って気付いたんだもん。
気を使わなくていいし、最初から一人ならもう誰も離れていかないし。

だから、今までみたいに休み時間は外。
昼休みは食堂の特等席。
放課後は先輩のストーカーでぇす。てへ。

たまーにストーカーしてる時にヒノちゃんと出くわすけどね。ちょっとした癒しだよ。妄想してぐふぐふ言ってる時以外は。

そして、ただいま柱に隠れて、風紀指導室の窓から見える大和先輩の姿に目を凝らし中。風紀委員の中では先輩は比較的穏やかな顔してるんだよね。心許せる仲間って感じなのかなぁ。

でも今日は眉間にシワ寄ってる。生徒会の人たちが風紀指導室にいるからだと思う。あのインテリ副会長とデカワンコ書記と唯人。なにしてるんだろうなぁ。やっぱりあんまり仲良くないのかな。

ホント言うと、大和先輩には唯人と関わり合いにならないで欲しい。けど、唯人の件で風紀も大変だったって聞くし、接触してるんだろうなぁ。僕よりも唯人の方が先輩といる時間が長かったりして…。はぁ、ショック。
大和先輩まで唯人のハーレムに入っちゃったら、もう僕、無理かも。



――バシャン


え?
なんか水音…。しかも衝撃があったけど…。
嘘…。僕、水も滴る…。

振り返ったら、駆けていく生徒二人の後姿が見えた。

「なんで…?」

制裁もう収まったんじゃなかったの? ここのところ、あの二人に掠りもしてないんだけど。
何考えてんの? ホント。
って、これ牛乳入ってんじゃん。時間おいてる奴。最悪。
ま、口に入れられるものなだけマシか…。

近くに手洗い場あったね。
そこで流すか。
くっそー、せっかく大和先輩ウォッチングタイムだったのに!

「はぁ、なんなの?」

僕は溜息吐きまくりで、蛇口全開にして頭を流した。節水なんて知ーらない。
制服もびちゃびちゃだけど、もういいや。明日土曜だし、クリーニング願いすればいいし。宗ちゃんに言い訳しなくていいのって、すっごい楽。

「おい」

ん? 誰か呼んだ? 

「こんなところで何してる」

って、え、え、え、大和先輩の声!? さっきまで風紀指導室の中にいたよね!?
見られた。やばい。こんな現場。最悪。
落ち着け―、落ち着けー。

顔を上げて、恐る恐る振り返ったら、やっぱり大和先輩だった。
今日も男のフェロモン全開だね。

「あー、大和先輩だぁ。先輩こそ、こんなとこで何してるのー?」

…………。
あのー。返事は? この沈黙なに? しかもめっちゃ睨まれてるんだけど…。
あれ? 睨んでないのかなぁ。よくわかんないや。
元々眼光鋭いから、目の表情わかりにくんだよねぇ。

「センパイ?」
「いつからだ。いつから制裁受けてた」
「えー、別に制裁じゃないよ? ちょーっと水浴びしたかった……だけ、かな」

先輩が蛇口閉じると同時に僕の手首をがっちり掴んで、引っ張った。

「え、ちょっと? せんぱーい?」
「黙ってついてこい」

はい。黙ってついて行きます。

さすが先輩。誰も通らない道知ってるねー。でもさ、どこ行くっての? こんな水も滴る貧相なの連れて。
グイグイ引っ張られてるけど、案外痛くない。歩幅、合わせてくれてる? 
ヤダ、先輩優しー。
掴まれてる手が幸せ過ぎるし、今日は手首洗わないことに決めた。死守する。

結局、学園内にある高級マンションまで連れて行かれて、オートロックのエントランスをさらっと通る大和先輩。
………。
えっとぉ。
ここって特別寮、デスヨネー。
なんで僕ここに入ってるんでしょうかね…。

エレベーターで五階に上がって、そのまま廊下を突き当りまで。

「入れ」
「え、…」
「俺の部屋だ。シャワー浴びろ」

あ、そういうことかぁ。シャワー貸してくれるんだ。先輩の部屋だって、うわぁ、どうしよう。
いいの? 入っちゃって、いいの? って、一歩入っちゃったー!

「早くしろ」
「はぁーい」

記念の第一歩目を堪能してると、背中をグイグイ押されて部屋に入らされる。
特別寮だけあって、部屋も広い。一般寮の二人部屋をぶち抜いて繋げたぐらい広さがありそう。僕は一般寮の部屋の広さで十分だけどね。
特別寮には、生徒会役員と他の委員の委員長、副委員長が入ってるんだって。
浴室も広いし、扱いの違いが歴然。これだけ潔いと逆に好感が持てるよね。

脱衣所で先輩に制服を剥ぎ取られて、ポイって浴室に入れられる。
色気もくそもない。悲しい。ちょっとはさ、なんかこうね、しっぽりな……ないな。ナイナイ。

牛乳くさくなってる全身を、先輩のシャンプー、リンスと石鹸借りて洗う。手首は残して…。………ちょっと待て。もしかしなくても、先輩と同じ匂いになれるってこと?
やべ、鼻血出そう。
この匂いこの匂い。先輩の匂いだー。はぁ、芳しかぁ。クンカクンカしとく。

タオル置いとく、って声が聞こえて、一瞬で現実に戻ったよ。
危ない危ない。このままお風呂に籠城するところだったよ。

ささっと泡流して、ささっと体拭いて完了!
えーっと、服は?

「せんぱーい。シャワーありがとー。でさ、制服どこ?」

浴室のドアから顔だけだして、廊下から見えるリビングに向かって声をかけた。
僕の声に反応して、こっちに向かって歩いてくる先輩。…手ぶらで。
控えめに開けてたドアをがっつり開けられて、先輩が無言で脱衣所に入ってくる。
腰にタオル巻いてて良かったー。僕の可愛いムスコちゃん見られるとこだった。

急に先輩が僕の手を取った。
そして僕を壁に押し付けて、僕の顔の横に手をついた。

……なんだろう、この状況…。

ものすごく近くに大和先輩の精悍な顔があって、セックスしてる時に先輩に触れられるよりもドキドキした。心臓破裂しそう。

「獅々田や五条と寝たのか」

意外過ぎる質問に僕は一瞬何を言われたか理解できなかった。

えっと、なんて答えるのが良いの?
二人と寝たって言えば、僕の遊び人度合いはあがるかな。

「ね、寝た」

その瞬間、大和先輩の目に狂気が宿って、その恐ろしさに僕は嘘を吐くのはやめようと思った。

「――って言ったらどうなるの?」
「……あいつらには絶対近づくなよ」

宗ちゃんと同じようなこと言うなぁ…。
ま、そんな心配はもういらないけどね。

「なんで? 誰と寝ようと勝手でしょ? 僕、気持ちいいこと好きだし、あの二人、エッチ上手そうだし、今度お願いしようかな…」

また大和先輩の目が猛禽類のような鋭い光を宿した。
そうだよねー、嘘ついちゃダメだよねー。

「……なーんて。親衛隊の子たちの邪魔したら悪いし、そんなことしないって」
「気持ちよければいいのか?」
「え、」 
「どうなんだ?」
「……よければいい、っていう訳でもないけど、やっぱり気持ちいいのが良いかな…?」

質問の意図がわからなくて、最後は首を傾げながら答えてしまった。

「そうか」

大和先輩はそういうや否や僕の膝を掬いあげるように抱え上げ、僕を姫抱きにした。
え、姫、姫抱き!? なに、なに、何が起きたの!?

「ここなら声抑えなくていいからな。いつもよりでかい声で喘いでいいぞ」
「……どういう……わっ…」

ぼふっと僕の部屋のベッドより一回りも二回りも大きく、明らかに上質なマットレスの上に落とされ、先輩が僕に跨ってくる。
もっとお姫様抱っこ堪能したかった…って、な、なんか怖いんですけど。

「せ、先輩?」

えーっと、僕、生まれたままの姿なんですけど。
しかも先輩まで服脱ぎ始めて…。
え、大和先輩の、は、裸!?
どうしようどうしようどうしよう!
脱ぎ方まで、かっこいいよぉ。

僕は先輩の豪快な脱ぎ方にキュンキュンクラクラした。
しかも素肌が、素肌が…! 程よく焼けた、筋肉美…!
気痩せするのか、気痩せするのか、大和よ。 
完璧なシックスパックと胸筋が豪快で超美麗。
もううっとりだよ。うっとり。
うはっ、触りたい、触りたぁい。

大和先輩は笑みを口元にうっすら浮かべて、ボルテージ上がって来た僕にこう言った。



「望み通り、気持ちよくしてやる」



えっとぉ…、
僕、何か変なスイッチ、押しちゃった…?
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