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一、自由 後
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「シーナ?」
フィデルと昼食を食べているというのに、僕の思考は宙を彷徨っていたらしい。
「あ……ご、ごめんね」
「どうした? 疲れているのか?」
「そ、そんなことないよ」
「ならいいんだが」
フィデルが心配そうに窺ってくるけれど、僕は「大丈夫」とフィデルに笑みで返した。
「そうだ、今度休みを取れることになった。少し郊外に出て、久しぶりに綺麗な空気を吸いに行こう」
「旅行ってこと?」
「ああ。五日ほどどこかの町に泊まろうかと思う」
「本当? ゆっくりできるんだ。王都の空気には慣れないから嬉しい」
「俺も似たようなものだ。たまに田舎が恋しくなる」
「フィデルも?」
「何年、あの小さな村に住んでたと思ってるんだ?」
「ふふ、そんなにすぐに抜けるはずないか。まだまだ流行にも乗れないからね」
「流行なんて気にしてたのか? シーナは流行物を身につけなくても、十分に魅力的だ。実は俺の仲間内で人気がある」
「えっ、人気!?」
「ああ、前にパーティーに行っただろう? その時、シーナを褒められた。慎ましい美人だとも言われたな。本当にシーナは俺の自慢だよ」
「フィデル……」
僕に向けられた笑顔は柔らかく、僕の事を全く疑ってもいない純粋なものだった。それなのに、僕はこんなにも……。
肌を駆け上がる不快感。
昨夜訪れた男は朝までこの家に居座り、僕を何度も組み敷いた。いつもであれば、フィデルが帰ってくる前にすべてを片付け、男に触られた記憶も胸の奥底にしまい込んでいるのに、今日は十分な時間を確保できなかった。
男の手が体を這う感覚が蘇り、吐き気を催す。胃の内容物がせり上がってきそうで、僕は口を塞いだ。
「シーナ? どうした? やはりどこか悪いのか?」
「どう、かな……。ちょっと食欲がないから、先にごちそうさまするね」
「……ああ。横になっていた方がいい」
「うん。そうする。ありがとう、フィデル」
立ち上がって食器を片付けようとすれば、フィデルがそれを制した。
「俺がする」
「……ありがとう」
笑みを作って歩き出すけれど、足元がふらつく。本当に熱でもあるのかもしれない。
ぼんやりとあの男が寝ていたベッドで寝なければいけないのか、と憂鬱を感じていた時、誰かの手が僕の腕を掴んだ。
「――っ」
ゾワリ、と全身が嫌悪感に包まれ、僕はその手を払い除けた。
「……シーナ?」
隣で発せられた戸惑いを含む声にハッとする。その手は僕を支えようとしてくれたフィデルのものだったのだ。そうだ、彼以外いるはずがないのに。僕は何を……。
「ご、ごめん……僕、びっくりして……」
「……いや、いいんだ。声をかけなかった俺が悪い」
「そんな……」
「気にしなくていい。ほら、部屋まで行こう」
「大丈夫、一人で行けるから……」
どこまでも優しいフィデルの顔を見られなかった。俯いて、フィデルの手をやんわりと剥がし、振り向かずに部屋に向かった。
部屋に入れば、僕は一直線にベッドへ転がり、布団を頭からかぶった。もう、限界かもしれない。僕の心は今にもへしゃげてしまいそうだった。
その夜、案の定発熱し、フィデルにまたしても迷惑をかけることになってしまった。
「明日、休みをもらった。今度の旅行は少し延期になるが、シーナの体が心配だからな」
「ごめんね、フィデル……ごめんね……」
「おまえは何も悪くないだろう。気にしなくていい。俺が傍にいたいんだ」
フィデルはそう言ってくれるけれど、僕は心の中で何度も何度も謝った。僕の髪を撫でるフィデルの手が温かくて、涙が止まらなかった。
†
「……っ……ぅ、や……」
耐えられず声が漏れる。どれだけ体が辛くても、熱が長引いていたとしても、男の言うことを聞かなければいけない。断ることは許されないのだ。体を支えることもできず、触りたくもない男の腹に手をついている自分が惨めだった。
「熱がある時にヤるのもいいな。中が熱くて絡んできやがる」
男は舌なめずりしながら、僕の腰を掴んでは突き上げてくる。
暴力的ともいえる抽挿で埋め込まれる男のモノ。もう沢山だと思っていたのに、奥を穿たれた瞬間、背筋に痺れが走った。それは本当に唐突だった。
「……っ!」
体が無意識に震える。それは男に突かれる度に断続的にやって来て僕を襲った。
熱のせいかもしれない。神経がおかしくなっているのかもしれない。僕は必死でそれを追いやろうと首を振った。
信じたくなかった。この男に犯されて、こんな感覚を得てしまうなんて。
「っ、っ」
歯を食いしばって、体を固くして耐えようとしても、一度生まれてしまった感覚を消すのは容易ではなかった。
僕の変化に目敏く気付いた男は、髪を掴んで無理矢理僕を上に向かせる。その拍子に喘ぎ声が漏れた。
「まさか、感じてんのか?」
「ぁっ、……ちが……っ……」
「締め付けてくると思えば、感じてんのかよ。こりゃたまんねぇなぁ! 婚約者様のベッドの上で犯されて感じてんのか!」
「……ぅ、や……やめてっ……」
「やめられるかよ」
男の上から逃げようとする僕をベッドに押さえつけ、足を割って強引に宛てがってくる。男のモノを容易に呑み込んでしまう自分の体に絶望しながらも、ただ受け入れるしかなかった。
「いやぁ! ぁ、あっ」
「嫌じゃないだろ? キモチイイんだろ? キモチイイですって言えよ!」
男は僕の反応を面白がるように、緩急をつけて腰を叩きつけてくる。衝撃と共に目の前がチカチカと白く光った。
「……ぅ、うう、あ、いゃ……っ……」
内臓を擦るそれがフィデルのものならいいのに。仄かにフィデルの香りがするシーツを掴んだ。
「ほら、言え」
「ぃや……っ」
「自分の立場、忘れてないよなぁ?」
「……っ」
ニタニタと見下ろしてくる男。何度も見た光景。これはずっと続くの?
この男からもう逃げられない?
この苦しみから逃れられない?
僕はずっとこのまま……ずっと?
……楽になりたい。
楽になってしまいたい。
もう、何も考えたくない。
もう何も……――。
「……きもち、いい……」
その言葉を口にしたとたん、何かが決壊した。涙が溢れ、止まらなくなった。
「ははは! 婚約者様に聞かせてやりてぇなぁ? おまえが他の男のチンポで気持ちよくなるビッチだってなぁ!」
何とでも言えばいい。
擦られ、穿たれ、快感が沸き起こる。その度にふわりと鼻を擽るフィデルの残り香。
そうだ、フィデルだと思えばいい。フィデルだと……。
「……ん、ぁ……きも、ちっ……ぁあ……」
フィデル、フィデル。
僕を嗤う男の声はもう聞えなくなっていた。熱が高くなり始めていたのかもしれない。男をフィデルだと思い込むのは容易だった。
自ら腰を揺らめかせて、快感を貪り、苦しみを塗りつぶした。
「あ、ぁ……ん、あっ……いいっ……」
中を往来する熱にただ夢中になった。全ての思考を放棄することがこんなに楽だなんて。朦朧とする中で、僕は笑みすら浮かべていたかもしれない。
しかし、その罰が当たったのだ。フィデルを裏切った罰が。
「――そういうことか」
傍らで呟かれたかと思われるほど、その声は鮮明に聞こえた。
時が止まったのかと思った。
そして、じわりじわりと思考が動き出す。
僕は何をしていた? 今、僕は何をしていた?
瞼を開けば、目の前にはフィデルとは似ても似つかない男。
「……フィ、デル……?」
半身を起こし、部屋の入り口を見れば、フィデルが力なく立ちすくんでいた。紛れもない、僕が愛する人だった。
見られた。
見られた。
この男との行為を。男に感じている姿を。
「出番の日を替えてもらったが、必要なかったみたいだな」
これは違う。違う。そう言いたくても、声が出なかった。喉が引き攣って、一言も発せられなかった。
「すまないが、ここは俺の家だ。するなら余所でしてくれないか。一刻後に戻る。それまでに、出て行ってくれ」
フィデルは感情を押し殺し、淡々とそう告げた。それは、はっきりと別れを告げる言葉だった。
僕は去っていく背中を見送るしかなかった。引き留める権利なんてなかった。
「……ぁ、ぁ」
全身が震え、呼吸が乱れる。負の感情が入り乱れ、悲しいのかさえも分からなかった。
「あーあ、可哀想になぁ。まぁ、俺の知ったこっちゃねぇが」
動きを止めていた男が僕を押し倒し、何もなかったかのように動きを再開させる。
「や……」
男の下から抜け出そうとするけれど、押さえつけられ、奥まで捻じり込まれた。
「いやぁ!」
触れられたくない一心で叫んだ瞬間、目の前に火花が散った。頭の中がぐらりと揺れた気がした。
「俺がイクまで大人しくしてろ」
手を上げたことのなかった男が僕を殴ったのだと気付いたのは、男が事を終わらせ、身なりを整えて出て行った後だった。
「バラしてもいいぜ? ただフィデルは何て思うかねぇ?」
と、僕の口を完全に封じてから。
それからどうしたのか、どう歩いたのか、自分でも記憶になかった。
気が付けば数人の男に囲まれ、古い家屋の中に引きずり込まれた。笑い声が響く中、服が裂かれ、男たちの手が体を這う。声を出そうものなら、頬を打たれ、口の中に性器を押し込まれた。
先ほどまで男が入っていた孔に男たちのモノが否応なく捩じ込まれ、代わる代わる僕の内部を擦った。
「ひ、ぁ……ぅぐっ」
僕が声を上げる度に、複数の男の笑い声が聞こえる。中に熱を感じたかと思えば、また違うものが中を埋めた。意識が白み、朦朧とする中で腹の中を行き来するモノの存在だけを感じる。
それが気持ちよく感じた。意識が飛ぶごとに、ふわりと恐怖が薄れていく。心に平穏が訪れたかのようだった。
だって、僕はあの家には戻れないのだから。
もう、フィデルを偽らなくていい。
もう、フィデルに罪悪感を抱かなくていい。
もう、何も考えなくていい。
――その時、僕は自由になれた。
フィデルと昼食を食べているというのに、僕の思考は宙を彷徨っていたらしい。
「あ……ご、ごめんね」
「どうした? 疲れているのか?」
「そ、そんなことないよ」
「ならいいんだが」
フィデルが心配そうに窺ってくるけれど、僕は「大丈夫」とフィデルに笑みで返した。
「そうだ、今度休みを取れることになった。少し郊外に出て、久しぶりに綺麗な空気を吸いに行こう」
「旅行ってこと?」
「ああ。五日ほどどこかの町に泊まろうかと思う」
「本当? ゆっくりできるんだ。王都の空気には慣れないから嬉しい」
「俺も似たようなものだ。たまに田舎が恋しくなる」
「フィデルも?」
「何年、あの小さな村に住んでたと思ってるんだ?」
「ふふ、そんなにすぐに抜けるはずないか。まだまだ流行にも乗れないからね」
「流行なんて気にしてたのか? シーナは流行物を身につけなくても、十分に魅力的だ。実は俺の仲間内で人気がある」
「えっ、人気!?」
「ああ、前にパーティーに行っただろう? その時、シーナを褒められた。慎ましい美人だとも言われたな。本当にシーナは俺の自慢だよ」
「フィデル……」
僕に向けられた笑顔は柔らかく、僕の事を全く疑ってもいない純粋なものだった。それなのに、僕はこんなにも……。
肌を駆け上がる不快感。
昨夜訪れた男は朝までこの家に居座り、僕を何度も組み敷いた。いつもであれば、フィデルが帰ってくる前にすべてを片付け、男に触られた記憶も胸の奥底にしまい込んでいるのに、今日は十分な時間を確保できなかった。
男の手が体を這う感覚が蘇り、吐き気を催す。胃の内容物がせり上がってきそうで、僕は口を塞いだ。
「シーナ? どうした? やはりどこか悪いのか?」
「どう、かな……。ちょっと食欲がないから、先にごちそうさまするね」
「……ああ。横になっていた方がいい」
「うん。そうする。ありがとう、フィデル」
立ち上がって食器を片付けようとすれば、フィデルがそれを制した。
「俺がする」
「……ありがとう」
笑みを作って歩き出すけれど、足元がふらつく。本当に熱でもあるのかもしれない。
ぼんやりとあの男が寝ていたベッドで寝なければいけないのか、と憂鬱を感じていた時、誰かの手が僕の腕を掴んだ。
「――っ」
ゾワリ、と全身が嫌悪感に包まれ、僕はその手を払い除けた。
「……シーナ?」
隣で発せられた戸惑いを含む声にハッとする。その手は僕を支えようとしてくれたフィデルのものだったのだ。そうだ、彼以外いるはずがないのに。僕は何を……。
「ご、ごめん……僕、びっくりして……」
「……いや、いいんだ。声をかけなかった俺が悪い」
「そんな……」
「気にしなくていい。ほら、部屋まで行こう」
「大丈夫、一人で行けるから……」
どこまでも優しいフィデルの顔を見られなかった。俯いて、フィデルの手をやんわりと剥がし、振り向かずに部屋に向かった。
部屋に入れば、僕は一直線にベッドへ転がり、布団を頭からかぶった。もう、限界かもしれない。僕の心は今にもへしゃげてしまいそうだった。
その夜、案の定発熱し、フィデルにまたしても迷惑をかけることになってしまった。
「明日、休みをもらった。今度の旅行は少し延期になるが、シーナの体が心配だからな」
「ごめんね、フィデル……ごめんね……」
「おまえは何も悪くないだろう。気にしなくていい。俺が傍にいたいんだ」
フィデルはそう言ってくれるけれど、僕は心の中で何度も何度も謝った。僕の髪を撫でるフィデルの手が温かくて、涙が止まらなかった。
†
「……っ……ぅ、や……」
耐えられず声が漏れる。どれだけ体が辛くても、熱が長引いていたとしても、男の言うことを聞かなければいけない。断ることは許されないのだ。体を支えることもできず、触りたくもない男の腹に手をついている自分が惨めだった。
「熱がある時にヤるのもいいな。中が熱くて絡んできやがる」
男は舌なめずりしながら、僕の腰を掴んでは突き上げてくる。
暴力的ともいえる抽挿で埋め込まれる男のモノ。もう沢山だと思っていたのに、奥を穿たれた瞬間、背筋に痺れが走った。それは本当に唐突だった。
「……っ!」
体が無意識に震える。それは男に突かれる度に断続的にやって来て僕を襲った。
熱のせいかもしれない。神経がおかしくなっているのかもしれない。僕は必死でそれを追いやろうと首を振った。
信じたくなかった。この男に犯されて、こんな感覚を得てしまうなんて。
「っ、っ」
歯を食いしばって、体を固くして耐えようとしても、一度生まれてしまった感覚を消すのは容易ではなかった。
僕の変化に目敏く気付いた男は、髪を掴んで無理矢理僕を上に向かせる。その拍子に喘ぎ声が漏れた。
「まさか、感じてんのか?」
「ぁっ、……ちが……っ……」
「締め付けてくると思えば、感じてんのかよ。こりゃたまんねぇなぁ! 婚約者様のベッドの上で犯されて感じてんのか!」
「……ぅ、や……やめてっ……」
「やめられるかよ」
男の上から逃げようとする僕をベッドに押さえつけ、足を割って強引に宛てがってくる。男のモノを容易に呑み込んでしまう自分の体に絶望しながらも、ただ受け入れるしかなかった。
「いやぁ! ぁ、あっ」
「嫌じゃないだろ? キモチイイんだろ? キモチイイですって言えよ!」
男は僕の反応を面白がるように、緩急をつけて腰を叩きつけてくる。衝撃と共に目の前がチカチカと白く光った。
「……ぅ、うう、あ、いゃ……っ……」
内臓を擦るそれがフィデルのものならいいのに。仄かにフィデルの香りがするシーツを掴んだ。
「ほら、言え」
「ぃや……っ」
「自分の立場、忘れてないよなぁ?」
「……っ」
ニタニタと見下ろしてくる男。何度も見た光景。これはずっと続くの?
この男からもう逃げられない?
この苦しみから逃れられない?
僕はずっとこのまま……ずっと?
……楽になりたい。
楽になってしまいたい。
もう、何も考えたくない。
もう何も……――。
「……きもち、いい……」
その言葉を口にしたとたん、何かが決壊した。涙が溢れ、止まらなくなった。
「ははは! 婚約者様に聞かせてやりてぇなぁ? おまえが他の男のチンポで気持ちよくなるビッチだってなぁ!」
何とでも言えばいい。
擦られ、穿たれ、快感が沸き起こる。その度にふわりと鼻を擽るフィデルの残り香。
そうだ、フィデルだと思えばいい。フィデルだと……。
「……ん、ぁ……きも、ちっ……ぁあ……」
フィデル、フィデル。
僕を嗤う男の声はもう聞えなくなっていた。熱が高くなり始めていたのかもしれない。男をフィデルだと思い込むのは容易だった。
自ら腰を揺らめかせて、快感を貪り、苦しみを塗りつぶした。
「あ、ぁ……ん、あっ……いいっ……」
中を往来する熱にただ夢中になった。全ての思考を放棄することがこんなに楽だなんて。朦朧とする中で、僕は笑みすら浮かべていたかもしれない。
しかし、その罰が当たったのだ。フィデルを裏切った罰が。
「――そういうことか」
傍らで呟かれたかと思われるほど、その声は鮮明に聞こえた。
時が止まったのかと思った。
そして、じわりじわりと思考が動き出す。
僕は何をしていた? 今、僕は何をしていた?
瞼を開けば、目の前にはフィデルとは似ても似つかない男。
「……フィ、デル……?」
半身を起こし、部屋の入り口を見れば、フィデルが力なく立ちすくんでいた。紛れもない、僕が愛する人だった。
見られた。
見られた。
この男との行為を。男に感じている姿を。
「出番の日を替えてもらったが、必要なかったみたいだな」
これは違う。違う。そう言いたくても、声が出なかった。喉が引き攣って、一言も発せられなかった。
「すまないが、ここは俺の家だ。するなら余所でしてくれないか。一刻後に戻る。それまでに、出て行ってくれ」
フィデルは感情を押し殺し、淡々とそう告げた。それは、はっきりと別れを告げる言葉だった。
僕は去っていく背中を見送るしかなかった。引き留める権利なんてなかった。
「……ぁ、ぁ」
全身が震え、呼吸が乱れる。負の感情が入り乱れ、悲しいのかさえも分からなかった。
「あーあ、可哀想になぁ。まぁ、俺の知ったこっちゃねぇが」
動きを止めていた男が僕を押し倒し、何もなかったかのように動きを再開させる。
「や……」
男の下から抜け出そうとするけれど、押さえつけられ、奥まで捻じり込まれた。
「いやぁ!」
触れられたくない一心で叫んだ瞬間、目の前に火花が散った。頭の中がぐらりと揺れた気がした。
「俺がイクまで大人しくしてろ」
手を上げたことのなかった男が僕を殴ったのだと気付いたのは、男が事を終わらせ、身なりを整えて出て行った後だった。
「バラしてもいいぜ? ただフィデルは何て思うかねぇ?」
と、僕の口を完全に封じてから。
それからどうしたのか、どう歩いたのか、自分でも記憶になかった。
気が付けば数人の男に囲まれ、古い家屋の中に引きずり込まれた。笑い声が響く中、服が裂かれ、男たちの手が体を這う。声を出そうものなら、頬を打たれ、口の中に性器を押し込まれた。
先ほどまで男が入っていた孔に男たちのモノが否応なく捩じ込まれ、代わる代わる僕の内部を擦った。
「ひ、ぁ……ぅぐっ」
僕が声を上げる度に、複数の男の笑い声が聞こえる。中に熱を感じたかと思えば、また違うものが中を埋めた。意識が白み、朦朧とする中で腹の中を行き来するモノの存在だけを感じる。
それが気持ちよく感じた。意識が飛ぶごとに、ふわりと恐怖が薄れていく。心に平穏が訪れたかのようだった。
だって、僕はあの家には戻れないのだから。
もう、フィデルを偽らなくていい。
もう、フィデルに罪悪感を抱かなくていい。
もう、何も考えなくていい。
――その時、僕は自由になれた。
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