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俺は結局性処理係
しおりを挟む謝らせると意気込んだものの、栗栖からの連絡はあれ以降ぱったり途切れてしまった。巻き込んだという罪悪感を持つ心が栗栖にもあったということだろうか。
「どういうことだよ!」
ぼんやり構内を歩いていれば、もめているような声が聞こえた。顔を向ければ、珍しく声を荒げている藤本の姿。
相手は誰だろうと、興味本位でこっそりと柱の陰から覗くと、藤本とは打って変わって顔に笑みを張り付けた栗栖がいた。藤本の問いに前髪を弄りながら気のない返事を返している。
「どうって言われても、あいつ逆らわないし、扱いやすいし」
「だからって——」
「なぁ、藤本。そう言うのはナシだって言わなかったか?」
栗栖は拳を握った藤本に近づき、耳元で何かを囁くと、藤本の肩を一つ叩いて、その場から立ち去っていった。
何か気まずい場面に遭遇してしまったらしい。息を潜めて柱に隠れていれば、通り過ぎたと思った藤本が俺を振り返った。バッチリと目が合う。
「聞いてたのか?」
「………ごめん。聞く気はなかったんだけど……」
「いや、丁度良かった。今の話、おまえの事だよ」
「…あ…あぁ…、うん……」
何となくそうじゃないかと予想していたことが的中してしまった。
逆らわないし、扱いやすい、ってことだよな。俺が。
「栗栖様の相手してるんだって?」
藤本は確信した口調でそう言う。きっと栗栖から聞いたんだろう。なら特に秘めておく必要はない。
まぁ、と軽く頷けば、藤本は俺の肩に腕を回すと慰めるようにトントンと叩いた。
「扱い酷いらしいな」
「ん……ちょっと……」
「気を落とすなよ。栗栖様は誰かを特別扱いしたりしないしな」
「わ、分かってるって。そんなの考えればわかることだし。本当は俺のことなんて放って置いて欲しい……」
「そうなのか? てっきり、相手されて喜んでるんじゃないかって思ってたのに。そうか、じゃあ、栗栖様に伝えといてやるよ」
「うぇ? あ、……そ、そうだな…」
いや、放って置いて欲しいってのは方便で……って、言えるわけないだろ!
ベータのクセして、突っ込まれて喜んでるとか、そんな風に思われたくない。
「大丈夫だって、栗栖様の相手は他にも何人かいるし、一人ぐらい減ったってどうってことないと思うぜ。俺はおまえが傷つく方が悲しい!」
「悲しい…?」
「俺だって色々見てきたんだぜ? 捨てられるヤツとかさ。おまえにはそうなって欲しくないっていうか」
「藤本……な、なんか、その、ありがと」
「おう! いいってことよ。んじゃなー」
藤本はいつものごとく、俺の背中をばしりと平手打ちしてから栗栖とは反対方向に駆けて行った。
藤本は俺の事を心配して栗栖に対して声を荒げてたってことか。藤本、めっちゃいい奴じゃね?
ただ、栗栖に俺のことを呼ぶなって言われるのは困る。いや、困らないんだけど、声がかからなくなるのは……やっぱり残念って言うか……。
それより、俺だけじゃないってこと。他に何人か栗栖の相手していること。そのことに俺は少しばかり傷ついていた。
「……分かってたけどさ……」
発情時に呼ばれて、少し……ほんの少しだけ、期待した気持ちがあったのは確か。でもそれはさっきの栗栖の発言で、砂粒ぐらいの期待は粉砕されてしまった。
「何がわかってたって?」
「うぎゃ!」
俺は唐突に耳元で発せられた声に飛び上がった。しかも、その声の正体は今しがた去って行ったと思った栗栖。驚くのも当たり前だ。
「な、ななななんでいるんだよ!」
「お前こそ気付かれてないと思ってんのかよ」
「え、」
「ま、いいや。ほら付き合えよ」
「えっえっ」
腕を捕らえられて逃げられるわけがない。栗栖の手を振りほどくなんてできるわけもなく、またタワーマンションまで連れ込まれることになった。
栗栖はそこら辺のラブホやら宿泊施設に入ろうとしない。潔癖なんだろう。
そして栗栖の辞書に罪悪感なんて言葉がなかったことを知る。
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