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一時の休息
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~~~ 商業区 宿屋『カッパーコート』
『INN』の看板が掲げられたレンガ作りの3階建ての店舗の一階
入口の正面には受付用のカウンターがあり、受付への導線を挟むようにして宿泊者用の食事場が設けられている
大小様々なテーブルには肉、魚料理、そして新鮮な野菜が並べられ多くの宿泊客が食事をとっていた
全身を煤で汚している職人達がビールを片手に乾杯を、鎧や剣で武装している熟練の冒険者達は魔族討伐の話に花を咲かせているのをよそ目に、部屋の隅で笑い声を響かせるカタリナの姿があった
「いやー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久々だね」
カタリナがテーブルに肘をつき、手で口を押さえながら笑いを堪えている
「やめろカタリナ、また思い出す...くくっ」
「そうですよカタリナさん...ぷっ」
ミカドもカタリナに釣られて口がニヤけ、ディエネは俯きながら吹き出してしまうのを必死に耐えている
「皆殿も全然違ってたでござるからな!?」
3人が笑いを堪える中、ツバキだけが不服そうな顔をしていた
~~~(遡ること2時間前の) グロリアス城前 広場 ~~~
「ミカド殿~ディエネ殿~」
「二人ともお疲れ様」
「おっす」
「お待たせしたしました」
集合場所としていた城の前に集まった四人
「お疲れさま~、宿はすぐそこに取っておいたよ」
ミカドとディエネの合流を確認すると
カタリナは宿がある方を指さし歩き出した
「あーちょっと待ってくれカタリナ、面白い話を聞いたんだ。俺らの石像がこの広場にあるらしい」
ミカドは昼間ツアーガイドが言っていたことを思い出していた
「へぇ、確かにそれは興味あるね」
「気になるでござるな」
カタリナとツバキも興味津々といった表情を浮かべる
「あ、あれじゃないでしょうか」
ディエネが人だかりを指さした
その指の先、日も落ち始め、少し薄暗くなった広場の中央には4つの石像が置かれていた
「お~、おぉ?これが俺か?」
石像の下、説明の書かれた石碑に『ミカド=スメラギ」と書かれているのを確認するミカド
たしかに名前は同じだが、そこには自分よりはるかにガタイの良い、髭面のおじさんの姿があった
「なかなか老けてるね...ミカドくん」
「ムキムキでござるな...」
「全く似てないですね...」
4人は腕を組みながらうーんと首をかしげる
「んで隣はディエネか?これ」
ミカドの隣には所謂ビキニアーマーと呼ばれる形の防具を身に着けた女性の像が立っていた
こちらもはるかにガタイの良い女性で、腹筋は見事に6つに割れており、身の丈はあろう大盾を掲げている
「なかなか強そうなディエネだね...」
「ムキムキでござるな...」
「盾の解釈が物理なんですね...」
4人はまたうーんと首をかしげる
「隣のカタリナは分かりやすいね、割と似てる気がする」
ディエネの隣にはドラゴンの角が誇張された女性の像が立っていた
顔に多少野性味を感じる点と、こちらも筋肉が誇張されている点が大きく
実物と違ったが、ミカドとディエネに比べればかなりマシな方だった
「えー、似てるかなこれ?」
「ムキムキでござるな...」
「私よりマシな気がします...」
カタリナはうーんと首をかしげているが
残りの3人はどこか納得した表情をしていた
「...で、最後のこれは誰だ?」
恐らくツバキの像が置かれているであろうそこには
彼女の影も形もない、かなり年老いたお爺さんの像が立っていた
3人は無言で像を見上げ
目線を石碑の説明に落とすと、『ツバキ=カザマチ』と書かれていることを確認して頷いた
「あれー?拙者の像がないでござるな」
わざとらしく挙動不審になるツバキ
「くっ...いやこれはなんというか...」
「んっ...まぁ確かに剣術は極めてそうですね...」
「ぷっ...服装は一番似てるな...」
残りの三人は俯いて笑いを堪えている
「いや拙者、そもそも女なんでござるが!!」
ツバキの迫真のツッコミで、三人は同時に噴き出した
~~~時は戻り商業区 宿屋『カッパーコート』
「いや~、お爺さんのつぶらな瞳がまだ頭に残ってるよ」
「とはいえ収穫だったな、俺らは普通に名乗っても見た目が違いすぎて全くバレなそうだ。特にツバキ」
むーと言いながらミカドを睨むツバキ
「そんなことより情報共有と作戦会議でござろう!?」
「これも作戦の一環だぞ、暫く俺らの素性は隠すことにしたからな」
「なら私は偽名を用意しておこうかな、ツバキよりは似てたし」
カタリナが皮肉を口にしたことでツバキの睨み先がミカドからカタリナに変わった
「あー偽名か、そういや俺はミカド=ライオネルって名乗ったんだった」
「「ライオネル!?」」
「はい、人に名乗る機会があったので夫婦という設定で乗り切ったんですよね」
「いやきょう––––「「夫婦!?」」」
妙にどや顔になっているディエネ
「へ、へぇ~~~。なら私はカタリナ=スメラギって名乗ろうかな」
頬をぴくぴくさせながらカタリナが偽名を考えた
「拙者もツバキ=スメラギにするでござる」
ピキッと場の空気が凍り付くのを感じる
(これ既視感あるぞ...)
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「いぇ~い、スメラギゲット~」
カタリナは満足そうな顔になった
「ズルいでござるぞ!!最初はグーって言ってたのに!!」
「ドラゴンは学習する生き物なんだ」
ちっちっちと人差し指を振るカタリナは
駄々をこねるツバキをスルーし、ミカドに話しかける
「それで、次はどうする感じかな?試験は2日あるんだろう?その間私達で何かやっておこうか」
「それなんですが、カタリナさん達にお願いしたいことがあったんですよね」
椅子でジタバタしだしたツバキをスルーして切り出したディエネに合わせてミカドも頷いた
「新魔術と冒険者ランクについて調査を頼みたい」
「新魔術、、、なるほど通信魔術とか?」
「話が早くて助かる。500年でかなり新魔術が増えてるっぽいからな。魔力の特性上、理論的に不可能と思っていた通信魔術がもしかしたら生まれているかもしれない」
なるほどぉっとカタリナは指を弾く
「確かにそれがあったらリスキルの情報戦はほぼ勝確だね」
「とはいえ、その線は薄いと思ってる。まぁ今より便利なコミュニケーション術があればいいなー程度だな」
「工業区でスクロール作成やってた魔術師にでも聞いてみるでござるか」
落ち着いたのかツバキも会話に入ってきた
「あー色々あったね、あとは図書館とかも寄ってみようか」
「決まりでござるな、それでもう一つの冒険者ランクっていうのはなんでござるか?」
ミカドはウィンから聞いた冒険者ランクについて説明した
「──────ってことだ。この二つ名持ちってのがもしかしたら俺らと同じくらい強いかもしれない」
「へぇ、星ってそういう意味だったのか、けっこう上位の冒険者だったんだね」
お、知ってるのかという表情を見せるミカド
「そういえば物凄く強そうな女性が居ましたよね、あの案内役の。あの方ってランクはどれくらいだったのでしょうか」
ディエネは広場で喧嘩を収めたミリアを思い出していた
「たしかに、彼女が☆とかなら二つ名はけっこう脅威かもな」
「拙者達が出会った☆はそこまで覇気は感じなかったでござるな」
「だねー、上級魔族ぐらいかな?強さ的に」
「まぁ二つ名レベルは敵になるとやっかいそうだからこっちも調査を頼む」
「合点承知之介」
「おっけー」
タイミングを見計らったかのようにミカド達のテーブルに料理が運ばれてきた
「はい、お待ちど~」
店員の顔が隠れる程の大鍋が中央に1つと
ふっくらと焼けたパン人数分置かれてゆく
鍋の中には濃厚な香り立つ白いスープが入っており
赤や緑の色をした野菜やお肉が見え隠れしていた
「美味しそうなシチューですね」
ディエネは目を閉じてうっとりとした表情で鍋の臭いを嗅いでいる
「俺らは引き続きグローリア試験の合格が目標だな、下級魔族なら問題ないだろう」
「普通にやったら目立っちゃいそうですね」
「まぁ多少目立つ分にはいいんじゃない?どうせ英傑だとはバレないよ」
ちぎったパンをシチューにつけ、ぱくりと食べると
カタリナは意味ありげにツバキの方をみて口を押さえた
「逆にそこそこ目立っておかないと落ちるかもな...まぁ様子見ながらだな」
「分かりました」
「お二人も冷める前に食べたほうがいいでござるよ~」
作戦会議を終えた4人は料理を楽しむのであった
『INN』の看板が掲げられたレンガ作りの3階建ての店舗の一階
入口の正面には受付用のカウンターがあり、受付への導線を挟むようにして宿泊者用の食事場が設けられている
大小様々なテーブルには肉、魚料理、そして新鮮な野菜が並べられ多くの宿泊客が食事をとっていた
全身を煤で汚している職人達がビールを片手に乾杯を、鎧や剣で武装している熟練の冒険者達は魔族討伐の話に花を咲かせているのをよそ目に、部屋の隅で笑い声を響かせるカタリナの姿があった
「いやー、笑った笑った。こんなに笑ったのは久々だね」
カタリナがテーブルに肘をつき、手で口を押さえながら笑いを堪えている
「やめろカタリナ、また思い出す...くくっ」
「そうですよカタリナさん...ぷっ」
ミカドもカタリナに釣られて口がニヤけ、ディエネは俯きながら吹き出してしまうのを必死に耐えている
「皆殿も全然違ってたでござるからな!?」
3人が笑いを堪える中、ツバキだけが不服そうな顔をしていた
~~~(遡ること2時間前の) グロリアス城前 広場 ~~~
「ミカド殿~ディエネ殿~」
「二人ともお疲れ様」
「おっす」
「お待たせしたしました」
集合場所としていた城の前に集まった四人
「お疲れさま~、宿はすぐそこに取っておいたよ」
ミカドとディエネの合流を確認すると
カタリナは宿がある方を指さし歩き出した
「あーちょっと待ってくれカタリナ、面白い話を聞いたんだ。俺らの石像がこの広場にあるらしい」
ミカドは昼間ツアーガイドが言っていたことを思い出していた
「へぇ、確かにそれは興味あるね」
「気になるでござるな」
カタリナとツバキも興味津々といった表情を浮かべる
「あ、あれじゃないでしょうか」
ディエネが人だかりを指さした
その指の先、日も落ち始め、少し薄暗くなった広場の中央には4つの石像が置かれていた
「お~、おぉ?これが俺か?」
石像の下、説明の書かれた石碑に『ミカド=スメラギ」と書かれているのを確認するミカド
たしかに名前は同じだが、そこには自分よりはるかにガタイの良い、髭面のおじさんの姿があった
「なかなか老けてるね...ミカドくん」
「ムキムキでござるな...」
「全く似てないですね...」
4人は腕を組みながらうーんと首をかしげる
「んで隣はディエネか?これ」
ミカドの隣には所謂ビキニアーマーと呼ばれる形の防具を身に着けた女性の像が立っていた
こちらもはるかにガタイの良い女性で、腹筋は見事に6つに割れており、身の丈はあろう大盾を掲げている
「なかなか強そうなディエネだね...」
「ムキムキでござるな...」
「盾の解釈が物理なんですね...」
4人はまたうーんと首をかしげる
「隣のカタリナは分かりやすいね、割と似てる気がする」
ディエネの隣にはドラゴンの角が誇張された女性の像が立っていた
顔に多少野性味を感じる点と、こちらも筋肉が誇張されている点が大きく
実物と違ったが、ミカドとディエネに比べればかなりマシな方だった
「えー、似てるかなこれ?」
「ムキムキでござるな...」
「私よりマシな気がします...」
カタリナはうーんと首をかしげているが
残りの3人はどこか納得した表情をしていた
「...で、最後のこれは誰だ?」
恐らくツバキの像が置かれているであろうそこには
彼女の影も形もない、かなり年老いたお爺さんの像が立っていた
3人は無言で像を見上げ
目線を石碑の説明に落とすと、『ツバキ=カザマチ』と書かれていることを確認して頷いた
「あれー?拙者の像がないでござるな」
わざとらしく挙動不審になるツバキ
「くっ...いやこれはなんというか...」
「んっ...まぁ確かに剣術は極めてそうですね...」
「ぷっ...服装は一番似てるな...」
残りの三人は俯いて笑いを堪えている
「いや拙者、そもそも女なんでござるが!!」
ツバキの迫真のツッコミで、三人は同時に噴き出した
~~~時は戻り商業区 宿屋『カッパーコート』
「いや~、お爺さんのつぶらな瞳がまだ頭に残ってるよ」
「とはいえ収穫だったな、俺らは普通に名乗っても見た目が違いすぎて全くバレなそうだ。特にツバキ」
むーと言いながらミカドを睨むツバキ
「そんなことより情報共有と作戦会議でござろう!?」
「これも作戦の一環だぞ、暫く俺らの素性は隠すことにしたからな」
「なら私は偽名を用意しておこうかな、ツバキよりは似てたし」
カタリナが皮肉を口にしたことでツバキの睨み先がミカドからカタリナに変わった
「あー偽名か、そういや俺はミカド=ライオネルって名乗ったんだった」
「「ライオネル!?」」
「はい、人に名乗る機会があったので夫婦という設定で乗り切ったんですよね」
「いやきょう––––「「夫婦!?」」」
妙にどや顔になっているディエネ
「へ、へぇ~~~。なら私はカタリナ=スメラギって名乗ろうかな」
頬をぴくぴくさせながらカタリナが偽名を考えた
「拙者もツバキ=スメラギにするでござる」
ピキッと場の空気が凍り付くのを感じる
(これ既視感あるぞ...)
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
「いぇ~い、スメラギゲット~」
カタリナは満足そうな顔になった
「ズルいでござるぞ!!最初はグーって言ってたのに!!」
「ドラゴンは学習する生き物なんだ」
ちっちっちと人差し指を振るカタリナは
駄々をこねるツバキをスルーし、ミカドに話しかける
「それで、次はどうする感じかな?試験は2日あるんだろう?その間私達で何かやっておこうか」
「それなんですが、カタリナさん達にお願いしたいことがあったんですよね」
椅子でジタバタしだしたツバキをスルーして切り出したディエネに合わせてミカドも頷いた
「新魔術と冒険者ランクについて調査を頼みたい」
「新魔術、、、なるほど通信魔術とか?」
「話が早くて助かる。500年でかなり新魔術が増えてるっぽいからな。魔力の特性上、理論的に不可能と思っていた通信魔術がもしかしたら生まれているかもしれない」
なるほどぉっとカタリナは指を弾く
「確かにそれがあったらリスキルの情報戦はほぼ勝確だね」
「とはいえ、その線は薄いと思ってる。まぁ今より便利なコミュニケーション術があればいいなー程度だな」
「工業区でスクロール作成やってた魔術師にでも聞いてみるでござるか」
落ち着いたのかツバキも会話に入ってきた
「あー色々あったね、あとは図書館とかも寄ってみようか」
「決まりでござるな、それでもう一つの冒険者ランクっていうのはなんでござるか?」
ミカドはウィンから聞いた冒険者ランクについて説明した
「──────ってことだ。この二つ名持ちってのがもしかしたら俺らと同じくらい強いかもしれない」
「へぇ、星ってそういう意味だったのか、けっこう上位の冒険者だったんだね」
お、知ってるのかという表情を見せるミカド
「そういえば物凄く強そうな女性が居ましたよね、あの案内役の。あの方ってランクはどれくらいだったのでしょうか」
ディエネは広場で喧嘩を収めたミリアを思い出していた
「たしかに、彼女が☆とかなら二つ名はけっこう脅威かもな」
「拙者達が出会った☆はそこまで覇気は感じなかったでござるな」
「だねー、上級魔族ぐらいかな?強さ的に」
「まぁ二つ名レベルは敵になるとやっかいそうだからこっちも調査を頼む」
「合点承知之介」
「おっけー」
タイミングを見計らったかのようにミカド達のテーブルに料理が運ばれてきた
「はい、お待ちど~」
店員の顔が隠れる程の大鍋が中央に1つと
ふっくらと焼けたパン人数分置かれてゆく
鍋の中には濃厚な香り立つ白いスープが入っており
赤や緑の色をした野菜やお肉が見え隠れしていた
「美味しそうなシチューですね」
ディエネは目を閉じてうっとりとした表情で鍋の臭いを嗅いでいる
「俺らは引き続きグローリア試験の合格が目標だな、下級魔族なら問題ないだろう」
「普通にやったら目立っちゃいそうですね」
「まぁ多少目立つ分にはいいんじゃない?どうせ英傑だとはバレないよ」
ちぎったパンをシチューにつけ、ぱくりと食べると
カタリナは意味ありげにツバキの方をみて口を押さえた
「逆にそこそこ目立っておかないと落ちるかもな...まぁ様子見ながらだな」
「分かりました」
「お二人も冷める前に食べたほうがいいでござるよ~」
作戦会議を終えた4人は料理を楽しむのであった
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