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クライツの日記2

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新神歴 暦508年 ソムの月

彼の看病のため私は通い続けた。未だ動けぬ彼のため住処を整え、食料与え、治療を施した。その甲斐あってか、ロンドは私に心を開いてくれている。どうやら最初に警戒していた原因は妖精にあるようだった。人の世では妖精は邪悪な種族として広まっているらしい。何故そんなことになっているんだ? 残念だが、原因はわからない。 他にも聞きたいことはあったが、ロンドは疲れている。今日はここまでにしよう。

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新神暦508年 ソムの月

 今日はいつもの事を済ませてからロンドに質問を開始した。まず私が問うたのはロンドの所有する 機械仕掛けの騎士ギアットという魔具についてだ。性能、用途、稼働時間、製造方法など。あらゆる事を聞いた。そして、歓喜した。これだ、コレが……私が村に伝えるべき事なのだ、と。良いことが聞けたと思った私はいつもより多めのパンと肉を渡した。喜ばれて何よりだ。しかし、人族のサイズで焼くパンは苦労するな。もっと大きい作業所を私が設計するか。

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新神暦508年 ランの月

ロンドの怪我の具合が大分よくなったようだ。……本当は治癒魔法が使えればよかったのだが、私には使えないし、村の者をここへ連れてくるのはいい案とは思えなかった。だが、怪我が治ってきてよかったと思う。だが、まだまだ治りきってはいない。とはいえ、動くことはできるようだ。今日は私が作った粗末な簡易住居をロンドが作り直していた。その巨大な魔具を使ってだ。戦うだけではなく、汎用性もある。是非ともコレを……。

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新神暦508年 ランの月

今日はロンドと一緒に機械仕掛けの騎士ギアットの中に乗り込んだ。乗せて欲しいと頼んだら、快諾してくれた。一つ疑問に思っていた、中から外の光景の確認方法だったが、どうやら中から一部外が見える……どういった技術なのかわからないが、魔具の内部にある薄い膜?に外の景色を映しているようだった。……やっぱり『俺』は頭が良くないらしい。しかし、とんでもない技術なのはわかった。今日はここまでにしよう。興奮で眠れなくなりそうだ。

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新神暦508年 ヲの月

 ……ロンドは病に侵されていた。それも治癒が不可能なくらい深刻な病だ。聞けば、この地で掛かったのではなく、持病らしい。それが件の怪我のせいで悪化していたようだ。彼の元へ訪ねて来ていた私は驚愕と悲しみ、そして自分への怒りが湧いた。ロンドを安静にさせ、今日は帰った。その時、彼の顔が哀しみに染まっていたような気がするが、当たり前か。

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新神暦508年 ヲの月

 今日は嬉しいことがあった。ロンドが私に機械仕掛けの騎士ギアットの詳しい製造方法と素材、注意点や操縦方法を教えてくれた。驚いたことに、彼は戦闘要員だけでなく、作り手でもあったのだ。だが、それを伝えられた俺は嬉しくもあり、複雑な気持ちにもなった。だが、教えてくれるのなら、学ぼう。それが、彼の為になるのなら。

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新神暦509年 リの月

 ……そろそろ彼は限界だった。もう喋るはことすらおろか、動くこともできなくなってしまった。だが、私は通うのをやめない。彼は、私の友人だ。家族だ。そして、師だ。

 彼の最期の望みを聞いてしまった。だが、そんなことが許されるのか……?
私には正しいのかわからない。だが、彼がーーロンドが求めるのなら。

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新神暦510年 ヲの月

 彼が死んでから一年と少しか。私は彼の望み通り、魔具ーー機械仕掛けの騎士ギアットと彼の体の融合製造を開始している。

その身を腐らせないよう、村にある秘伝の薬草を使い彼の体を保護した。その後、私は作業を開始する為山にある洞窟を改造し、作業場とした。

 彼の最期の望みは「自分の長年の愛機と一緒になりたい」。喋れない口に一絞りの力を込めて呟かれたその言葉を私はしっかりと受け止めた。……ならば、成そう。どれだけ時が経とうとも、私が人になれなくとも。かならず果たしてみせる。

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新神暦600年 なんの月だったか、もう忘れた。

 ここ数十年は自ら狩に出かけ生活していた。その一方で彼と魔具の融合だが……あと一歩なのだ。『ロンド』を『機械仕掛けの騎士ギアット』にすることは出来た。だが、動かない。

 魔具の中心になる魔核も、この一帯では最強の魔物の核を使った。魔力も修行をし、増やした。操縦技術も練度はあるはずだ。だが、なぜか動かない。なぜなんだ。なぜ……。


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新神暦600年

 原因がわかった。……元々の機械仕掛けの騎士ギアットの魔核を調べて分かったのだ。

 あれは、禁忌だ。

 生きた生物を、魔核に溶かして初めて完成するのだ。それも、同族を。そうしなければ反応しない。言うなれば、人核と呼ぶべきか。あれは魂を現世に存在させていると言っても過言ではない。……しかし、それしか方法がないのであれば、私は覚悟を決める。


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新神暦600年

 私の家は昔と変わっていなかった。外見は少し劣化してボロくなっていたが、中は整理され、掃除もされていた。恐らく、あの娘だろう。この場にはいないが、日記には記しておこう。

 ありがとう。マーツェ。
 今行くぞ、ロンド。

 出来ればこの日記のような本が残ることを祈る。
 まだ見ぬ俺の後輩よ。ここらで一番高い山の麓に、『ソレ』はあるだろう。完成してなかったら、許せ。

結局、村には何も伝えることは出来なかった。後世には俺のことはどう伝わるのか、不安だな。

ーーもしソレが完成していたら、それで世界を旅してくれ。……実を言うと、俺の夢は世界を……ーーーー。
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