3 / 9
妖精さん、日記を読み始める
しおりを挟む
その家の中はとても埃っぽく、そして乱雑に置かれていたのは本。まるで本が木のように高く積み上げられており圧巻の一言だった。
「わぁ……」
「ふむ? 本棚もあらんとは……机と椅子はあるようじゃが……」
セイツは声をあげ、センスイは小屋の中をキョロキョロと観察していた。
さながら木の森と化しているこの一室。木の雨戸で閉められている窓の近くには古ぼけた机と椅子の一式が置かれているが、それ以外に家具は見当たらなかった。
「あっ……センスイさん」
「木材が固まって開きにくいのぅ……うん?なんじゃ小僧」
センスイは「埃っぽくて適わん」と小さく呟き、窓の雨戸に手をかけていたが、セイツに呼ばれ一旦行動を中断する。
「えっと、なんでぼくはここに?」
「おうおう、言うのを忘れとったな! ーー代々の母の仔が現れたらここへ案内するよう村で決まっておるんじゃよ」
(こんな小屋へ? どうしてだろう)
「……ココがどんな場所か聞いても?」
そう尋ねるとセンスイは顎に手をやり、「うーむ」と唸り始めた。その様子にセイツは不安そうな顔になるが、それを見たセンスイは慌てる。
「す、すまんの。ワシにもこの場所がどんな意味を持つのかわからんのじゃ。口伝で伝わっとるだけじゃからなぁ。詳しくはわからん。……わからんが、口伝で伝わっとるのは、母の仔がこの小屋で何か大きなことを『成し遂げる』ということだけじゃ!」
その剣幕に少し仰け反ってしまったセイツだが、センスイの最後の言葉に考えがいく。
(大きなことを……成し遂げる? 僕が? はは……)
「ははは……」
なぜが乾いた笑いが起きる。なぜ起きるのかはわからないが、セイツは笑う。
それを見たセンスイは目をキョトンとさせ、咳払いをした。
「ゴホン。まあとりあえずここが小僧の住む場所じゃ。なにかを成す前に、まずはこの小屋の中身をマシにせんとな……」
「……そう、ですね」
広がっているのは本、本、本。寝るための寝具もなければ灯をつけるランタンもない。非常に不便な場所と言えるだろう。それに関してはセイツも同意する。
「じゃあワシは生活に必要なものを用意してくるから、小僧はこの小屋に散らばっとる本を整理しといてくれ」
「は、はい。外に運び出しましょうか?」
「いんや。とりあえず本棚を持ってくるから、綺麗に部屋の端っこに並べとくだけで大丈夫じゃ」
「わかりました」
その返事を聞いたあとセンスイはゆっくりとしたスピードで禁所をあとにした。
残されたセイツは「……よし!」と一つ気合を入れ作業に取り掛かった。
「それにしても数が多いなぁ。……僕より前の母の仔だった人たちはこの小屋で一体なにをしてたんだろう……」
乱雑に積まれていた本を部屋の端っこに並べ始め、二列ほどの本の山が立っていた。
「よっ……と」
セイツは本を効率よく運ぶために、一度に4つの本を体と腕で支えながら抱え運ぶと言う手段を取っていた。だが、いかんせんセイツの体格は良くない。そんなことを続けていたら疲労でバランスを崩し、
「っとと……とと!? わぁ!」
こうなる。
(あっちゃぁ……積み終わってた本まで巻きこんじゃった)
端っこに積まれていた本の山はその身を崩し、最初に来た当初より乱雑に散らばってしまった。
「はぁ……」
一つ溜息を吐き、セイツは床に座り込み足を組んだ。
「ちょっと疲れたから休憩してから、またやろう」
そう自分に言い聞かし、リラックスしはじめた。……そうするととても暇になる。
「…………」
何気なく散らばっていた本の一つを手に取り、その古ぼけた本を開き目を通す。ーー正直、読めるとは思っていない。だが、手持ち無沙汰である。
(まぁ読めないだろうけど、どんな文字が書いてあるかくらいなら見てようかな)
そう思っていた。だがーー
「ーー新神歴508年ソムの月。私は人族となにやら奇妙な魔具を見つけた。人族はまだ息がある……!?」
セイツは目を見張り、本に書かれている文字を凝視した。
(なん……で? 見た感じ日本語じゃない。けど、読める……?)
試しに他のページも確認したが、しっかりと読むことができた。
「やっぱり読める…………この本、日記か」
本を閉じ、表紙に書かれていたのは『日々の記録byクライツ』と言う明らかにこの小屋にいた住人の残したものだった。
そこからは鬼気迫る雰囲気を纏いながら、一心不乱にセイツは本を読み始める。今まで苦労して積んだ本の山も自らの手で崩し、読書に集中しはじめた。
「わぁ……」
「ふむ? 本棚もあらんとは……机と椅子はあるようじゃが……」
セイツは声をあげ、センスイは小屋の中をキョロキョロと観察していた。
さながら木の森と化しているこの一室。木の雨戸で閉められている窓の近くには古ぼけた机と椅子の一式が置かれているが、それ以外に家具は見当たらなかった。
「あっ……センスイさん」
「木材が固まって開きにくいのぅ……うん?なんじゃ小僧」
センスイは「埃っぽくて適わん」と小さく呟き、窓の雨戸に手をかけていたが、セイツに呼ばれ一旦行動を中断する。
「えっと、なんでぼくはここに?」
「おうおう、言うのを忘れとったな! ーー代々の母の仔が現れたらここへ案内するよう村で決まっておるんじゃよ」
(こんな小屋へ? どうしてだろう)
「……ココがどんな場所か聞いても?」
そう尋ねるとセンスイは顎に手をやり、「うーむ」と唸り始めた。その様子にセイツは不安そうな顔になるが、それを見たセンスイは慌てる。
「す、すまんの。ワシにもこの場所がどんな意味を持つのかわからんのじゃ。口伝で伝わっとるだけじゃからなぁ。詳しくはわからん。……わからんが、口伝で伝わっとるのは、母の仔がこの小屋で何か大きなことを『成し遂げる』ということだけじゃ!」
その剣幕に少し仰け反ってしまったセイツだが、センスイの最後の言葉に考えがいく。
(大きなことを……成し遂げる? 僕が? はは……)
「ははは……」
なぜが乾いた笑いが起きる。なぜ起きるのかはわからないが、セイツは笑う。
それを見たセンスイは目をキョトンとさせ、咳払いをした。
「ゴホン。まあとりあえずここが小僧の住む場所じゃ。なにかを成す前に、まずはこの小屋の中身をマシにせんとな……」
「……そう、ですね」
広がっているのは本、本、本。寝るための寝具もなければ灯をつけるランタンもない。非常に不便な場所と言えるだろう。それに関してはセイツも同意する。
「じゃあワシは生活に必要なものを用意してくるから、小僧はこの小屋に散らばっとる本を整理しといてくれ」
「は、はい。外に運び出しましょうか?」
「いんや。とりあえず本棚を持ってくるから、綺麗に部屋の端っこに並べとくだけで大丈夫じゃ」
「わかりました」
その返事を聞いたあとセンスイはゆっくりとしたスピードで禁所をあとにした。
残されたセイツは「……よし!」と一つ気合を入れ作業に取り掛かった。
「それにしても数が多いなぁ。……僕より前の母の仔だった人たちはこの小屋で一体なにをしてたんだろう……」
乱雑に積まれていた本を部屋の端っこに並べ始め、二列ほどの本の山が立っていた。
「よっ……と」
セイツは本を効率よく運ぶために、一度に4つの本を体と腕で支えながら抱え運ぶと言う手段を取っていた。だが、いかんせんセイツの体格は良くない。そんなことを続けていたら疲労でバランスを崩し、
「っとと……とと!? わぁ!」
こうなる。
(あっちゃぁ……積み終わってた本まで巻きこんじゃった)
端っこに積まれていた本の山はその身を崩し、最初に来た当初より乱雑に散らばってしまった。
「はぁ……」
一つ溜息を吐き、セイツは床に座り込み足を組んだ。
「ちょっと疲れたから休憩してから、またやろう」
そう自分に言い聞かし、リラックスしはじめた。……そうするととても暇になる。
「…………」
何気なく散らばっていた本の一つを手に取り、その古ぼけた本を開き目を通す。ーー正直、読めるとは思っていない。だが、手持ち無沙汰である。
(まぁ読めないだろうけど、どんな文字が書いてあるかくらいなら見てようかな)
そう思っていた。だがーー
「ーー新神歴508年ソムの月。私は人族となにやら奇妙な魔具を見つけた。人族はまだ息がある……!?」
セイツは目を見張り、本に書かれている文字を凝視した。
(なん……で? 見た感じ日本語じゃない。けど、読める……?)
試しに他のページも確認したが、しっかりと読むことができた。
「やっぱり読める…………この本、日記か」
本を閉じ、表紙に書かれていたのは『日々の記録byクライツ』と言う明らかにこの小屋にいた住人の残したものだった。
そこからは鬼気迫る雰囲気を纏いながら、一心不乱にセイツは本を読み始める。今まで苦労して積んだ本の山も自らの手で崩し、読書に集中しはじめた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~
こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。
世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。
強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。
しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。
過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。
~
皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)>
このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。
ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。
※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜
ガトー
ファンタジー
まさに社畜!
内海達也(うつみたつや)26歳は
年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに
正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。
夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。
ほんの思いつきで
〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟
を計画するも〝旧友全員〟に断られる。
意地になり、1人寂しく山を登る達也。
しかし、彼は知らなかった。
〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。
>>>
小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。
〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。
修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる