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妖精さん、日記を読み始める

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その家の中はとても埃っぽく、そして乱雑に置かれていたのは本。まるで本が木のように高く積み上げられており圧巻の一言だった。

「わぁ……」
「ふむ? 本棚もあらんとは……机と椅子はあるようじゃが……」

 セイツは声をあげ、センスイは小屋の中をキョロキョロと観察していた。
 さながら木の森と化しているこの一室。木の雨戸で閉められている窓の近くには古ぼけた机と椅子の一式が置かれているが、それ以外に家具は見当たらなかった。

 「あっ……センスイさん」
「木材が固まって開きにくいのぅ……うん?なんじゃ小僧」

 センスイは「埃っぽくて適わん」と小さく呟き、窓の雨戸に手をかけていたが、セイツに呼ばれ一旦行動を中断する。

 「えっと、なんでぼくはここに?」
「おうおう、言うのを忘れとったな! ーー代々の母の仔が現れたらここへ案内するよう村で決まっておるんじゃよ」

  (こんな小屋へ? どうしてだろう)
 
「……ココがどんな場所か聞いても?」

 そう尋ねるとセンスイは顎に手をやり、「うーむ」と唸り始めた。その様子にセイツは不安そうな顔になるが、それを見たセンスイは慌てる。

「す、すまんの。ワシにもこの場所がどんな意味を持つのかわからんのじゃ。口伝で伝わっとるだけじゃからなぁ。詳しくはわからん。……わからんが、口伝で伝わっとるのは、母の仔がこの小屋で何か大きなことを『成し遂げる』ということだけじゃ!」

 その剣幕に少し仰け反ってしまったセイツだが、センスイの最後の言葉に考えがいく。

 (大きなことを……成し遂げる? 僕が? はは……)

 「ははは……」

 なぜが乾いた笑いが起きる。なぜ起きるのかはわからないが、セイツは笑う。
 それを見たセンスイは目をキョトンとさせ、咳払いをした。

「ゴホン。まあとりあえずここが小僧の住む場所じゃ。なにかを成す前に、まずはこの小屋の中身をマシにせんとな……」
「……そう、ですね」

 広がっているのは本、本、本。寝るための寝具もなければ灯をつけるランタンもない。非常に不便な場所と言えるだろう。それに関してはセイツも同意する。

 
 「じゃあワシは生活に必要なものを用意してくるから、小僧はこの小屋に散らばっとる本を整理しといてくれ」
「は、はい。外に運び出しましょうか?」
「いんや。とりあえず本棚を持ってくるから、綺麗に部屋の端っこに並べとくだけで大丈夫じゃ」
「わかりました」

 その返事を聞いたあとセンスイはゆっくりとしたスピードで禁所をあとにした。
残されたセイツは「……よし!」と一つ気合を入れ作業に取り掛かった。


「それにしても数が多いなぁ。……僕より前の母の仔だった人たちはこの小屋で一体なにをしてたんだろう……」

 乱雑に積まれていた本を部屋の端っこに並べ始め、二列ほどの本の山が立っていた。

 「よっ……と」

 セイツは本を効率よく運ぶために、一度に4つの本を体と腕で支えながら抱え運ぶと言う手段を取っていた。だが、いかんせんセイツの体格は良くない。そんなことを続けていたら疲労でバランスを崩し、

「っとと……とと!? わぁ!」

 こうなる。

 (あっちゃぁ……積み終わってた本まで巻きこんじゃった)

 端っこに積まれていた本の山はその身を崩し、最初に来た当初より乱雑に散らばってしまった。

「はぁ……」

 一つ溜息を吐き、セイツは床に座り込み足を組んだ。

 「ちょっと疲れたから休憩してから、またやろう」

 そう自分に言い聞かし、リラックスしはじめた。……そうするととても暇になる。

 「…………」

 何気なく散らばっていた本の一つを手に取り、その古ぼけた本を開き目を通す。ーー正直、読めるとは思っていない。だが、手持ち無沙汰である。

 (まぁ読めないだろうけど、どんな文字が書いてあるかくらいなら見てようかな)

 そう思っていた。だがーー

「ーー新神歴508年ソムの月。私は人族となにやら奇妙な魔具を見つけた。人族はまだ息がある……!?」

 セイツは目を見張り、本に書かれている文字を凝視した。

 (なん……で? 見た感じ日本語じゃない。けど、読める……?)

 試しに他のページも確認したが、しっかりと読むことができた。

 「やっぱり読める…………この本、日記か」

 本を閉じ、表紙に書かれていたのは『日々の記録byクライツ』と言う明らかにこの小屋にいた住人の残したものだった。

 そこからは鬼気迫る雰囲気を纏いながら、一心不乱にセイツは本を読み始める。今まで苦労して積んだ本の山も自らの手で崩し、読書に集中しはじめた。
 
 
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