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妖精さん、禁所へ向かう
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真野 翔は困惑していた。気づけば見知らぬ場所。初めて見る肌色の老人。
(ここは……!? だ、誰……)
困惑するも、目の前の薄緑の肌色をした老人に名前を尋ねられたため、一旦思考を中断した。そして、自身の名を応えようとした瞬間、頭に浮かんだのは別の名前だった。
セイツという名前は自分に馴染み、違和感もなかった。その後に気づいたのだが、自分も目の前の老人と一緒の肌色になっていた。というより、同じ人種? のようだった。それに気づいたものの、特に動揺はしなかった。セイツ自身、なぜかこの状況に慣れ始めていた。
その理由はーー
(……名前以外を思い出せない……どうしてなんだ?)
記憶と知識は別である。セイツは自身の名前と地球に住んでいた、という事以外は記憶から欠落していた。思い出そうと思考すると、靄がかかったように記憶が塞がれる。
(まあ、なるようになるかな……)
そう適当に納得した。
セイツはセンスイに言われるがままその後をついていく。
センスイと言うこの老人。背はセイツより小さいが、背中の羽で少し浮きながら移動しているため、むしろセイツより高い位置に頭がある。
(なんで僕には羽がないんだろ? 羽無しって言う何かのせいなんだろうか)
そんなことを考えながらセンスイの後に続いて歩いていたセイツだが、ふと視線を感じ首を動かした。すると、センスイと同じ妖精種の子供たちらしき人影がチラホラとこちらをーーセイツを注視していた。
(へぇー……妖精ってどの子も似たような姿だけど、髪型と顔はそれぞれ似てるだけでだいぶ違うし、服は統一されてるのかな……ん?)
そこまで考えが至ってからセイツは気づいた。
そういえば僕は服を着ていないじゃないか、と。
「~~!!」
意識すると途端に恥ずかしくなるセイツ。出来るだけ体の前面は隠したいという気持ちが強く出てしまい、センスイの背中に体を寄せてしまう。
「?」
それをセンスイは謎の圧力で感じていたが、自身の住居に近づいていたためとりあえずセイツを招き入れた。
「ここ、本当にどこなんだろ」
センスイがいなくなり、一人になったセイツ。そうして冷静になって考える余裕が出てきたセイツは木の切り株に座り、腕を組む。
……考えられるのは拉致。どこか外国に拉致されたショックで記憶喪失になった可能性。
「だとしても、この肌色の証明にはならないよなぁ」
自身の腕を見つめながら考えを口にした。
自分の体が他の妖精種と似たようなものだったため、そもそも身体が元の人と違うという問題が浮上した。
「……妖精なんて空想の生き物、地球にいないはず……」
そうなると必然的に浮かぶのはーー
「別世界……ってことなんだろうか。いや、だけどまさかそんな……」
頭で否定しても、今の状況がそれを肯定していた。その判断材料の一つがセイツの体である。そしてもう一つ。
「この服……布、じゃないよね。手触りはサラサラだけど、見た感じ……植物繊維?」
セイツは服に対して詳しくはないが、こんな物は地球にはなかったと断言した。
「羽で浮かんでる時点で普通の人間じゃないよなぁ。……妖精、かぁ」
いまいち実感がないが、現実を受け止めるしかなかった。セイツは一つ息を吐き、リラックスし始めた。
「……さっきから気になってたけどこれ、多分ベッドかな?」
目の前にある長方形の家具らしきものが先程から気になるセイツ。というのも、体が疲れを感じ始めていたためだった。
「ここに寝ててもいいのかな。いや、けどなぁ……」
うーん、と唸り首をひねるがーー
「まぁ、センスイさんもゆっくりしていけ、みたいなこと言ってたし、いつ戻ってくるかわからないから寝て待つのもアリかな?」
そういいながらセイツはベッドに横たわった。少々図々しいが、セイツは気にしないことにしたようだった。疲れているのだ。
「お~フカフカだなぁ。これはゆっくり休めそう……だなぁ……」
数分後、セイツは見事なほどに寝息を立て始めた。
☆
センスイが戻ってきたのは、およそ二時間ほど経ってからだった。静かに寝息を立てて自分の寝床に寝ているセイツを見て苦笑し、センスイは切り株に座って持ってきた本を読み始めた。
そうして何刻か経った頃ーー
「……ん、あれ。……ってそうだ! 母さん!なんで起こしてくれなかっ……たん」
「おう小僧。やっと起きたか? 寝ぼけとるようじゃな」
飛び起きたセイツはすぐにセンスイの顔を見て現状を思い出し、そして赤面した。
「さて寝起きで悪いがの、ちとワシについてきてもらって構わんか? 案内したい場所があるんじゃ」
センスイはそのセイツの様子に苦笑しながらそう言った。
「今度は何処へ?」
「一族の封所じゃ。それでお前さんのことだがーー実はな、書庫に行って母の仔と羽無しの関連性について色々と調べたんじゃが……」
真剣な声音にセイツは息を飲んで耳を傾けた。
「なーんもわからんかったわ、ウハハハ!」
「……あ、はは」
センスイは豪快に笑い飛ばした。つい、セイツは乾いた笑いが出る。
(なんというか……期待して損した、みたいな気持ちだ)
なんとも言えない気持ちがセイツの中で渦巻いたが、それも一瞬。すぐに顔を引き締め、歩いていくセンスイに続く。
「ここじゃ。長い間手入れされておらんから、気をつけて入るんじゃぞ」
「ここが……禁所?」
目の前に建っている建物は、所謂一軒家。だが、一言で言うと、異様である。
ーー妖精の住居はセンスイのように木の洞か、太い木の枝の上に葉で作る……というのが基本形だ。だが、セイツの目の前に建っているソレは、近代的に見える建造物だった。
(アニメとか漫画で見たことあるな。西洋系の……建物かな?)
その石造りの建造物を一目見た瞬間、セイツは立ち止まり腕を組んで思案していた。
それを側から見ていたセンスイは訝しげな顔をしてから禁所の扉に向かった。
「はてさて、この鍵で……よし、開いたわい。ほれ小僧、いつまでも突っ立っとらんでこっちゃこい」
「こんな建物もあるなら文明的にはかなり進んで……ぁ。ちょ、ちょっと考え事をあはは」
「母の仔の考えることはワシにはわからんわい。ほれ、入るぞい」
センスイは先導するように扉を開けて入っていった。そのあとに慌てて続いたのはもちろんセイツである。
(ここは……!? だ、誰……)
困惑するも、目の前の薄緑の肌色をした老人に名前を尋ねられたため、一旦思考を中断した。そして、自身の名を応えようとした瞬間、頭に浮かんだのは別の名前だった。
セイツという名前は自分に馴染み、違和感もなかった。その後に気づいたのだが、自分も目の前の老人と一緒の肌色になっていた。というより、同じ人種? のようだった。それに気づいたものの、特に動揺はしなかった。セイツ自身、なぜかこの状況に慣れ始めていた。
その理由はーー
(……名前以外を思い出せない……どうしてなんだ?)
記憶と知識は別である。セイツは自身の名前と地球に住んでいた、という事以外は記憶から欠落していた。思い出そうと思考すると、靄がかかったように記憶が塞がれる。
(まあ、なるようになるかな……)
そう適当に納得した。
セイツはセンスイに言われるがままその後をついていく。
センスイと言うこの老人。背はセイツより小さいが、背中の羽で少し浮きながら移動しているため、むしろセイツより高い位置に頭がある。
(なんで僕には羽がないんだろ? 羽無しって言う何かのせいなんだろうか)
そんなことを考えながらセンスイの後に続いて歩いていたセイツだが、ふと視線を感じ首を動かした。すると、センスイと同じ妖精種の子供たちらしき人影がチラホラとこちらをーーセイツを注視していた。
(へぇー……妖精ってどの子も似たような姿だけど、髪型と顔はそれぞれ似てるだけでだいぶ違うし、服は統一されてるのかな……ん?)
そこまで考えが至ってからセイツは気づいた。
そういえば僕は服を着ていないじゃないか、と。
「~~!!」
意識すると途端に恥ずかしくなるセイツ。出来るだけ体の前面は隠したいという気持ちが強く出てしまい、センスイの背中に体を寄せてしまう。
「?」
それをセンスイは謎の圧力で感じていたが、自身の住居に近づいていたためとりあえずセイツを招き入れた。
「ここ、本当にどこなんだろ」
センスイがいなくなり、一人になったセイツ。そうして冷静になって考える余裕が出てきたセイツは木の切り株に座り、腕を組む。
……考えられるのは拉致。どこか外国に拉致されたショックで記憶喪失になった可能性。
「だとしても、この肌色の証明にはならないよなぁ」
自身の腕を見つめながら考えを口にした。
自分の体が他の妖精種と似たようなものだったため、そもそも身体が元の人と違うという問題が浮上した。
「……妖精なんて空想の生き物、地球にいないはず……」
そうなると必然的に浮かぶのはーー
「別世界……ってことなんだろうか。いや、だけどまさかそんな……」
頭で否定しても、今の状況がそれを肯定していた。その判断材料の一つがセイツの体である。そしてもう一つ。
「この服……布、じゃないよね。手触りはサラサラだけど、見た感じ……植物繊維?」
セイツは服に対して詳しくはないが、こんな物は地球にはなかったと断言した。
「羽で浮かんでる時点で普通の人間じゃないよなぁ。……妖精、かぁ」
いまいち実感がないが、現実を受け止めるしかなかった。セイツは一つ息を吐き、リラックスし始めた。
「……さっきから気になってたけどこれ、多分ベッドかな?」
目の前にある長方形の家具らしきものが先程から気になるセイツ。というのも、体が疲れを感じ始めていたためだった。
「ここに寝ててもいいのかな。いや、けどなぁ……」
うーん、と唸り首をひねるがーー
「まぁ、センスイさんもゆっくりしていけ、みたいなこと言ってたし、いつ戻ってくるかわからないから寝て待つのもアリかな?」
そういいながらセイツはベッドに横たわった。少々図々しいが、セイツは気にしないことにしたようだった。疲れているのだ。
「お~フカフカだなぁ。これはゆっくり休めそう……だなぁ……」
数分後、セイツは見事なほどに寝息を立て始めた。
☆
センスイが戻ってきたのは、およそ二時間ほど経ってからだった。静かに寝息を立てて自分の寝床に寝ているセイツを見て苦笑し、センスイは切り株に座って持ってきた本を読み始めた。
そうして何刻か経った頃ーー
「……ん、あれ。……ってそうだ! 母さん!なんで起こしてくれなかっ……たん」
「おう小僧。やっと起きたか? 寝ぼけとるようじゃな」
飛び起きたセイツはすぐにセンスイの顔を見て現状を思い出し、そして赤面した。
「さて寝起きで悪いがの、ちとワシについてきてもらって構わんか? 案内したい場所があるんじゃ」
センスイはそのセイツの様子に苦笑しながらそう言った。
「今度は何処へ?」
「一族の封所じゃ。それでお前さんのことだがーー実はな、書庫に行って母の仔と羽無しの関連性について色々と調べたんじゃが……」
真剣な声音にセイツは息を飲んで耳を傾けた。
「なーんもわからんかったわ、ウハハハ!」
「……あ、はは」
センスイは豪快に笑い飛ばした。つい、セイツは乾いた笑いが出る。
(なんというか……期待して損した、みたいな気持ちだ)
なんとも言えない気持ちがセイツの中で渦巻いたが、それも一瞬。すぐに顔を引き締め、歩いていくセンスイに続く。
「ここじゃ。長い間手入れされておらんから、気をつけて入るんじゃぞ」
「ここが……禁所?」
目の前に建っている建物は、所謂一軒家。だが、一言で言うと、異様である。
ーー妖精の住居はセンスイのように木の洞か、太い木の枝の上に葉で作る……というのが基本形だ。だが、セイツの目の前に建っているソレは、近代的に見える建造物だった。
(アニメとか漫画で見たことあるな。西洋系の……建物かな?)
その石造りの建造物を一目見た瞬間、セイツは立ち止まり腕を組んで思案していた。
それを側から見ていたセンスイは訝しげな顔をしてから禁所の扉に向かった。
「はてさて、この鍵で……よし、開いたわい。ほれ小僧、いつまでも突っ立っとらんでこっちゃこい」
「こんな建物もあるなら文明的にはかなり進んで……ぁ。ちょ、ちょっと考え事をあはは」
「母の仔の考えることはワシにはわからんわい。ほれ、入るぞい」
センスイは先導するように扉を開けて入っていった。そのあとに慌てて続いたのはもちろんセイツである。
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