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20 眠るように死んでしまえばいいのに

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 私は部屋に入り、癖でスマホを取り出す。いつもならここで、ラインで「ただいま」だとかやり取りをするのだが、この先もうカズ君とする事はないのだろう。

 何もすることがないと、ついつい彼のことを考えてしまう。とりあえず、夕飯を作って気を紛らわせようと思ったが、いつも作った料理をカズ君に写真で見せていた事を思い出す。

 駄目だ……もう生活の中に彼とのやり取りが染み付いている……これを払拭するにはさっさとこの町から離れる他ない……

 次の場所は決めずに、近いうちにこの部屋を出ていこう。いつもなら家具とかを引っ越し業者に頼んで次の街へ行くのだが、必要なものだけ持って、あとはここに置いていこうか。

 ダメだな……と、私は自分がヤケになっている事に気付く。とりあえず、落ち着け。夕飯でも食べて冷静になろう。

 私は手際よく夕飯の支度をして、食べて、片付け、そして布団の上で横になった。何もすることがないのでスマホで動画を見たりするが、これといって面白い物がない。いや、動画に集中できないというべきか……とにかくソワソワして落ち着かなかった。

 このソワソワする感じは何だろう?どこからくるものだろう?カズ君と別れたから?それとも刑事に目をつけられているから?依頼者の事もあるが……原因はどれだろう……

 自分の事なのに、自分の気持ちがわからない。少し早いが……お風呂に入るとするか、そしてリラックスしよう。そしたらこの気持ちも少しはマシになっているかもしれない。

 私は服と下着を脱ぎ、浴室へ入る。そこで気付く。まだ風呂を沸かしていない……何やってんだ……私は真っ裸のまま浴槽に水を入れ、水位が上がるのをジッと眺めていた。その間、何も考えないようにするが、色々な事が頭の中を駆け巡る。

 私はブルっと身体を震わせた。日が暮れ、さすがに裸で浴室にいるのは健康によろしくない。私はもう一度下着と服を着て、その恰好で浴槽に水が溜まるのを待った。そして点火をして、湯を沸かす。

 よし、入るか。と湯に足を入れようと思ったが、今度は服を着ている事を忘れていた。おいおい、さっきから私は何をやっているんだ……どんだけテンパってんだよ……あぁもう……風呂に入ってさっさと寝よう……

 私はいつもより短めで風呂から上がり、パジャマに着替える。そしてスマホを見るが、カズ君からは何も連絡がない事にちょっと寂しい気持ちになった。カズ君は今どんな気持ちなのだろう?彼の事だから、色々と難しく考えているのかもしれない。意外とキッパリ諦めていたりするのかな?

 私は布団の中に入り、目を閉じる。真っ暗な視界の中、あれこれと考えてなかなか寝付けない。そうだ。楽しい事を考えよう。今までで楽しかった思い出……記憶……何があったっけ?私の人生、何があったっけ?

 何が……

 あぁ……そうだ。幼馴染を亡くすまでは、それなりに楽しい思い出はあった。だけどそれから……私の人生には常に闇が付きまとうようになったのだ。闇とか中二病みたいだな……

 あぁ……このまま、朝目覚めなければいいのに……眠るように死んでしまえばいいのに……こんなどうしようもない自分なんて……こんな……

 意識が遠のき、あ、これは眠れそうだ、と思ってから眠りに落ちるまでのほんの僅かな隙間に、一瞬だけカズ君の姿が思い浮かんだ。

 あぁ……そうだ……

 カズ君といると、楽しかったな……

 こうして、私は深い眠りの中へ足を踏み込んだのであった。
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