1 / 1
「お前を愛することはない」と言った夫がざまぁされて、イケメンの弟君に変わっていました!?
しおりを挟む
「お前を愛することはない。私が愛するのはただひとり、あの女神のようなルシャータだけだ。たとえお前がどんな汚らわしい手段を取ろうと、この私の心も体も、」
「そこまでです、兄上」
「なっ!?」
初夜の場です。
まるで演劇のように旦那様が語っていたかと思えば、扉を開けて旦那様の弟君が入ってきました。
わあ。
本格的に演劇です。おかしいです。私はいつの間に演劇場に来ていたのでしょう。
「妻を守り、次代を繋ぐこと。貴族の男としての義務を果たさないあなたは、我がロイへベルン家の当主にふさわしくない」
「お、弟が何を生意気な。この女こそが私の妻にふさわしくないのだ。私が愛するのはルシャータのみ!」
「ええ、ルシャータはたしかにあなたにふさわしい女性だ。しかし、ロイへベルンの当主の妻にはふさわしくない。ご一緒にふさわしい場所をお探しください、兄上」
「何を! ルシャータほど愛らしく、心の清い女はいない!」
「だが平民だ。平民を愛することを否定はしない。平民も貴族も同じ人間。だからこそ、血統を持ってしか、我々は彼らを統べる理屈を持ち合わせていない」
旦那さまと弟君は、それぞれ信じるもののために語り合いを始めました。ああ、なんて朗々と響く声なのでしょうか。
それぞれに譲れないものがある。熱い。熱いですわ。
「あなたは貴族であること、ロイへベルンの次代当主であることを放棄し、愛を選んだ。それだけのこと。さあ、出立のご準備を」
「何を……っ、父上が、父上が黙っていないぞ!」
「父上でしたら、さきほどまで私と共に、あなたの演説を聞いておられました。ついに諦めることを選択したようです」
「はっ……? な、な、に」
「当主の選んだ結婚相手を拒絶したのです。大事に育てた息子を切り捨てざるをえなくなった父上の気持ちを、お察しください、せめて」
「う、嘘だっ! 父上が僕を見捨てるはずがない! 父上が怒っているなら謝る、父上は許してくれるはずだ、やめろ、おまえたち、やめろーー!」
弟君の指示に従って、従僕たちが旦那様を連れ去っていきました。
そして弟君はどこか悲しげにため息をつき、私を見ました。
「……お恥ずかしいところをお見せしました。申し訳ありません。ただ、夫が代わる可能性があることは、あなたのお父上にも話を通して……おや?」
弟君……ええと、お名前はなんとおっしゃるのでしたかしら。
イケメンです。
ああ、役者さんですもの、それは、そうね。
「……そういえば、勧められるまま飲んでいらっしゃいましたね。お酒はあまり、得意ではない?」
「ひゃい……」
私はふらふらするのを我慢しながら、なんとか言葉を発しました。
いえ、返事というより鳴き声だったかもしれません。だってイケメンの顔が近すぎると思うのです。
演劇にしてもおかしいです。
もしかして、これって夢なのでしょうか。夢かもしれません。眠い……そうなの、次々にお酒を進めてくるものだから、祝いの席で断るのも申し訳なくて……。
「では、本日はこのままお休みください」
「んん……」
そうします。
ふわふわして、とても眠いの。
______________________
「ふぁ……っ、えぇええええ!?」
ぐっすりと寝た私は目を覚まして驚きました。
そうだ、私、結婚したのでした。そして昨夜は初夜だったのです。つまり隣には夫となったかたがいらっしゃるのですが。
「え、え、別の方……? いったい……」
私ったらまさか夫を間違えてしまったのでしょうか。
なんてこと、全く覚えていないのですが、そんなの前代未聞だというのはわかります。どうしましょう、いったい、どうしたら。
間違いじゃないですよね?
間違いなく間違いですよね。私の旦那様、こんなにイケメンじゃなかったはずですよね。ていうかこの人、確か。
「おはようございます」
「あ、はいっ、おはようございます」
「色々とありましたが、私があなたの夫となります。どうぞよろしくお願いします」
「えっ? そう……なのですね。あの、申し訳ありません、アレン様ですよね、旦那様の弟君の……」
「はい。……昨夜のことはご記憶に?」
「………………申し訳ありません、覚えておりません」
「そうですか」
呆れられたのではないかと思いましたが、アレン様は微笑んで教えてくれました。
「実は、兄には思う人がおり、その方と結ばれることになりました。あなたのことと、ロイへベルンの後継は私に任せるとのことでした。無責任な兄で申し訳ありませんが……」
「いえ、そうだったのですね。そちら様がご納得のことでしたら、私は問題ありません。さほど交流もありませんでしたので」
こう言ってしまうと何ですが、ほとんど初対面で嫁ぐ気持ちでした。変更されたと言われても、私としては嬉しいとも嫌とも思えません。
……いえ、正直アレン様のほうがお顔が好みなのですが、むしろお顔がよすぎてちょっと落ち着かない感じです。これ、慣れるんでしょうか。
「そうですか、よかったです。私としてはぜひあなたと交流していきたい、できるならば愛し合いたいと考えています」
「愛……っ、は、はい」
どきどきしますが、夫婦になるのなら、きっとそれが正しいのですね。いくら政略的な結婚でも、夫婦になるのに、最初から愛さないぞと決める人なんていないでしょう。
「まずは好きなこと、嫌いなこと、お互い話し合って、経験していけたらと思います」
「はい。……ふつつかな妻ですが、どうぞよろしくお願いします」
「そこまでです、兄上」
「なっ!?」
初夜の場です。
まるで演劇のように旦那様が語っていたかと思えば、扉を開けて旦那様の弟君が入ってきました。
わあ。
本格的に演劇です。おかしいです。私はいつの間に演劇場に来ていたのでしょう。
「妻を守り、次代を繋ぐこと。貴族の男としての義務を果たさないあなたは、我がロイへベルン家の当主にふさわしくない」
「お、弟が何を生意気な。この女こそが私の妻にふさわしくないのだ。私が愛するのはルシャータのみ!」
「ええ、ルシャータはたしかにあなたにふさわしい女性だ。しかし、ロイへベルンの当主の妻にはふさわしくない。ご一緒にふさわしい場所をお探しください、兄上」
「何を! ルシャータほど愛らしく、心の清い女はいない!」
「だが平民だ。平民を愛することを否定はしない。平民も貴族も同じ人間。だからこそ、血統を持ってしか、我々は彼らを統べる理屈を持ち合わせていない」
旦那さまと弟君は、それぞれ信じるもののために語り合いを始めました。ああ、なんて朗々と響く声なのでしょうか。
それぞれに譲れないものがある。熱い。熱いですわ。
「あなたは貴族であること、ロイへベルンの次代当主であることを放棄し、愛を選んだ。それだけのこと。さあ、出立のご準備を」
「何を……っ、父上が、父上が黙っていないぞ!」
「父上でしたら、さきほどまで私と共に、あなたの演説を聞いておられました。ついに諦めることを選択したようです」
「はっ……? な、な、に」
「当主の選んだ結婚相手を拒絶したのです。大事に育てた息子を切り捨てざるをえなくなった父上の気持ちを、お察しください、せめて」
「う、嘘だっ! 父上が僕を見捨てるはずがない! 父上が怒っているなら謝る、父上は許してくれるはずだ、やめろ、おまえたち、やめろーー!」
弟君の指示に従って、従僕たちが旦那様を連れ去っていきました。
そして弟君はどこか悲しげにため息をつき、私を見ました。
「……お恥ずかしいところをお見せしました。申し訳ありません。ただ、夫が代わる可能性があることは、あなたのお父上にも話を通して……おや?」
弟君……ええと、お名前はなんとおっしゃるのでしたかしら。
イケメンです。
ああ、役者さんですもの、それは、そうね。
「……そういえば、勧められるまま飲んでいらっしゃいましたね。お酒はあまり、得意ではない?」
「ひゃい……」
私はふらふらするのを我慢しながら、なんとか言葉を発しました。
いえ、返事というより鳴き声だったかもしれません。だってイケメンの顔が近すぎると思うのです。
演劇にしてもおかしいです。
もしかして、これって夢なのでしょうか。夢かもしれません。眠い……そうなの、次々にお酒を進めてくるものだから、祝いの席で断るのも申し訳なくて……。
「では、本日はこのままお休みください」
「んん……」
そうします。
ふわふわして、とても眠いの。
______________________
「ふぁ……っ、えぇええええ!?」
ぐっすりと寝た私は目を覚まして驚きました。
そうだ、私、結婚したのでした。そして昨夜は初夜だったのです。つまり隣には夫となったかたがいらっしゃるのですが。
「え、え、別の方……? いったい……」
私ったらまさか夫を間違えてしまったのでしょうか。
なんてこと、全く覚えていないのですが、そんなの前代未聞だというのはわかります。どうしましょう、いったい、どうしたら。
間違いじゃないですよね?
間違いなく間違いですよね。私の旦那様、こんなにイケメンじゃなかったはずですよね。ていうかこの人、確か。
「おはようございます」
「あ、はいっ、おはようございます」
「色々とありましたが、私があなたの夫となります。どうぞよろしくお願いします」
「えっ? そう……なのですね。あの、申し訳ありません、アレン様ですよね、旦那様の弟君の……」
「はい。……昨夜のことはご記憶に?」
「………………申し訳ありません、覚えておりません」
「そうですか」
呆れられたのではないかと思いましたが、アレン様は微笑んで教えてくれました。
「実は、兄には思う人がおり、その方と結ばれることになりました。あなたのことと、ロイへベルンの後継は私に任せるとのことでした。無責任な兄で申し訳ありませんが……」
「いえ、そうだったのですね。そちら様がご納得のことでしたら、私は問題ありません。さほど交流もありませんでしたので」
こう言ってしまうと何ですが、ほとんど初対面で嫁ぐ気持ちでした。変更されたと言われても、私としては嬉しいとも嫌とも思えません。
……いえ、正直アレン様のほうがお顔が好みなのですが、むしろお顔がよすぎてちょっと落ち着かない感じです。これ、慣れるんでしょうか。
「そうですか、よかったです。私としてはぜひあなたと交流していきたい、できるならば愛し合いたいと考えています」
「愛……っ、は、はい」
どきどきしますが、夫婦になるのなら、きっとそれが正しいのですね。いくら政略的な結婚でも、夫婦になるのに、最初から愛さないぞと決める人なんていないでしょう。
「まずは好きなこと、嫌いなこと、お互い話し合って、経験していけたらと思います」
「はい。……ふつつかな妻ですが、どうぞよろしくお願いします」
665
お気に入りに追加
68
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。
裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))
彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました
Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。
どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も…
これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない…
そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが…
5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。
よろしくお願いしますm(__)m
(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる
青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。
ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。
Hotランキング21位(10/28 60,362pt 12:18時点)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる