4 / 4
私は安心して、胸が暖かくなります(最終話)
しおりを挟む
私とアーク様の婚約は、政略的なものではありません。
小さな頃から家ぐるみの付き合いで、仲が良かったのです。家柄もちょうどよく、理想的な関係でした。
けれど彼と結婚しないとなれば、貴族令嬢として、結婚しないという選択肢はありません。
私は新たに婚約者候補との顔合わせを行いました。
アーク様は今でも再婚約の打診を行ってきます。浮気の現場をつかまれた彼が呆然としている間に、婚約を破棄して本当に良かったです。
何度も何度も愛をささやかれるたび、私の心はいっそう冷えていきました。
彼には申し訳ないことをしているのかもしれません。ですが、どうしても受け付けないのです。気持ちが悪いのです。
それにどんな愛の言葉も、嘘だとわかっていればいるだけ虚しいものです。
「あの……初顔合わせの場で、このような話は申し訳ないのですけれど、グラッド様は浮気についてはどうお考えなのですか?」
「えっ?」
初対面に近いこの場で聞くことではなかったでしょう。
それでも私にとって、それは譲れないことになっていました。
「そう……ですね。私は婚約相手も決まらず、この年になってしまったもので」
「そんな。とても良い成績をお納めなので、相手を選んでいたとお聞きしています」
「はは、言い訳ですよ。良い成績をとれば、お話をたくさんいただくのが普通です」
「それはそうかもしれませんけれど……」
グラッド様の身分はそれほど高くありません。
それでいて良い成績を取り、将来を期待されていたので、相手を選びにくかったのは想像がつきます。
王子の補佐となることが決まり、私に恋愛関係にあった婚約を解消したという瑕疵がなければ、この婚約話も持ち上がらなかったでしょう。
「どうにも私は気が利かないようで、女性にはあまり好かれません。見目もよくありませんし」
「……わかりませんわ。私にはとても素敵な方に思えます」
「……ありがとうございます」
グラッド様は照れたようにつっかえてから、にこりとお笑いになりました。
お世辞ではなく素敵な方だと思います。
確かに、燃えるような恋をされるタイプではないかもしれません。けれど力の抜けるような安心感があります。
私はもう恋はしたくありません。
だから、他の女性方とは違うものを求めているのかもしれません。
「仕事においてはそれなりの自信もありますが、女性に対しては全く自信がないのです。このような私と結婚してくださる、このような私を認めてくださった方を裏切るというのは、自分を裏切るも同じと考えております」
「まあ」
まるで哲学を論じるように言うので、私はつい笑ってしまいました。
「レティンシア嬢はどうなのですか?」
「私は……お恥ずかしながら、もう恋はこりごりだと思っているのです。ですから、信頼できる方と家族になりたいと希望しています」
私の答えもずいぶん甘さのないものでした。
グラッド様はにこりと笑って、そうですか、とうなずきました。
「では我々にとりあえずの問題はなさそうですね。お話をすすめても良いでしょうか?」
「はい、ぜひ。こちらこそ、私のようなものですが、よろしくお願いいたします」
そうして夫婦となった私達は、情熱的な感情はないけれど、穏やかな家庭を築きました。
本当に、甘いこととは無縁ですが、グラッドの顔を見ているだけで私は安心して、胸が暖かくなります。
あまり見ないでくれと恥ずかしがる彼の顔も、なんだか可愛いのです。
友人に言わせると「じゅうぶん甘いじゃないの」だそうです。どうなのでしょう?
結婚式には招待していないアーク様も来てくださったのですが、なんだか騒動になり、追い出されてしまったようです。
それから、なんでも冒険者になったとか?
下町の方と仲の良いアーク様でしたから、その方がよいのでしょうね。
小さな頃から家ぐるみの付き合いで、仲が良かったのです。家柄もちょうどよく、理想的な関係でした。
けれど彼と結婚しないとなれば、貴族令嬢として、結婚しないという選択肢はありません。
私は新たに婚約者候補との顔合わせを行いました。
アーク様は今でも再婚約の打診を行ってきます。浮気の現場をつかまれた彼が呆然としている間に、婚約を破棄して本当に良かったです。
何度も何度も愛をささやかれるたび、私の心はいっそう冷えていきました。
彼には申し訳ないことをしているのかもしれません。ですが、どうしても受け付けないのです。気持ちが悪いのです。
それにどんな愛の言葉も、嘘だとわかっていればいるだけ虚しいものです。
「あの……初顔合わせの場で、このような話は申し訳ないのですけれど、グラッド様は浮気についてはどうお考えなのですか?」
「えっ?」
初対面に近いこの場で聞くことではなかったでしょう。
それでも私にとって、それは譲れないことになっていました。
「そう……ですね。私は婚約相手も決まらず、この年になってしまったもので」
「そんな。とても良い成績をお納めなので、相手を選んでいたとお聞きしています」
「はは、言い訳ですよ。良い成績をとれば、お話をたくさんいただくのが普通です」
「それはそうかもしれませんけれど……」
グラッド様の身分はそれほど高くありません。
それでいて良い成績を取り、将来を期待されていたので、相手を選びにくかったのは想像がつきます。
王子の補佐となることが決まり、私に恋愛関係にあった婚約を解消したという瑕疵がなければ、この婚約話も持ち上がらなかったでしょう。
「どうにも私は気が利かないようで、女性にはあまり好かれません。見目もよくありませんし」
「……わかりませんわ。私にはとても素敵な方に思えます」
「……ありがとうございます」
グラッド様は照れたようにつっかえてから、にこりとお笑いになりました。
お世辞ではなく素敵な方だと思います。
確かに、燃えるような恋をされるタイプではないかもしれません。けれど力の抜けるような安心感があります。
私はもう恋はしたくありません。
だから、他の女性方とは違うものを求めているのかもしれません。
「仕事においてはそれなりの自信もありますが、女性に対しては全く自信がないのです。このような私と結婚してくださる、このような私を認めてくださった方を裏切るというのは、自分を裏切るも同じと考えております」
「まあ」
まるで哲学を論じるように言うので、私はつい笑ってしまいました。
「レティンシア嬢はどうなのですか?」
「私は……お恥ずかしながら、もう恋はこりごりだと思っているのです。ですから、信頼できる方と家族になりたいと希望しています」
私の答えもずいぶん甘さのないものでした。
グラッド様はにこりと笑って、そうですか、とうなずきました。
「では我々にとりあえずの問題はなさそうですね。お話をすすめても良いでしょうか?」
「はい、ぜひ。こちらこそ、私のようなものですが、よろしくお願いいたします」
そうして夫婦となった私達は、情熱的な感情はないけれど、穏やかな家庭を築きました。
本当に、甘いこととは無縁ですが、グラッドの顔を見ているだけで私は安心して、胸が暖かくなります。
あまり見ないでくれと恥ずかしがる彼の顔も、なんだか可愛いのです。
友人に言わせると「じゅうぶん甘いじゃないの」だそうです。どうなのでしょう?
結婚式には招待していないアーク様も来てくださったのですが、なんだか騒動になり、追い出されてしまったようです。
それから、なんでも冒険者になったとか?
下町の方と仲の良いアーク様でしたから、その方がよいのでしょうね。
726
お気に入りに追加
247
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
振られたあとに優しくされても困ります
菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
【完結】本当に私と結婚したいの?
横居花琉
恋愛
ウィリアム王子には公爵令嬢のセシリアという婚約者がいたが、彼はパメラという令嬢にご執心だった。
王命による婚約なのにセシリアとの結婚に乗り気でないことは明らかだった。
困ったセシリアは王妃に相談することにした。
彼女は彼の運命の人
豆狸
恋愛
「デホタに謝ってくれ、エマ」
「なにをでしょう?」
「この数ヶ月、デホタに嫌がらせをしていたことだ」
「謝ってくだされば、アタシは恨んだりしません」
「デホタは優しいな」
「私がデホタ様に嫌がらせをしてたんですって。あなた、知っていた?」
「存じませんでしたが、それは不可能でしょう」
番(つがい)はいりません
にいるず
恋愛
私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。
本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる