浮気されて黙っているわけがありません、婚約は解消します!

kieiku

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浮気されて黙っているわけがありません、婚約は解消します!

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「ちょっと! どういうこと!?」

 私はずかずかと進み出て、婚約者のシアンの前に立った。
 ここは学園の中庭だ。それも端っこの、木々が茂ってどこからも見えなくなっている場所。

 普通なら人も入らないような場所だけど、私は知ってた。いつも読書に使っているから。

(ていうかこの場所、私があなたに教えてあげたのよね!?)

 そんな秘密の場所を女との逢瀬に使うなんて!

「きゃあっ」

 浮気相手の女はわざとらしい悲鳴をあげて、シアンの後ろに隠れた。そしてじっと私を見てる。
 怖がってなんてないじゃない。
 むしろ勝ち誇ってるの?

 まあ、いいわ。あなたに興味なんてないし。
 問題はこのクソ婚約者の方よ!

「君こそどういうつもりなんだ。いいところだったのに」
「はあっ!?」
「そのつもりでこの場所を教えてくれたんだろう?」
「そんなわけないじゃない、頭フットーしてるの?」

 ついつい素が漏れてしまった。
 でも許されるわよね。こんな相手に慎み深くしてる場合じゃないもの。

「そうだったのかい? それじゃ、驚かせてしまったんだね。でも落ち着いて。心配することはないよ。君とは必ず結婚するんだから」

 私はついつい唖然と、口を開いて婚約者を見た。

「何を言ってるの?」
「もともと政略結婚だろう。愛なんてないんだ。君も愛人をつくるといいよ。僕は楽しい生活ができれば、自分の子供にあとを継がせたい気持ちもないしね」
「ほんと、クソじゃない」

 私はドン引きしたが、シアンの後ろにいる女も少し引きつった顔だ。
 自分が愛人になって跡継ぎを生むつもりだったのかしら?
 だったらあなたがこのクソ男と結婚しなさいよ。

「政略結婚だからって、何してもいいわけないじゃない。むしろ政略なんだから、相手を蔑ろにするのは貴族失格でしょ。婚約は破棄してもらうわ」
「はは、別にいいよ。慰謝料を払ってもらえば」
「不貞したのはそっちでしょ!」
「でも、不貞について婚約誓約書に書いてあったかい? ないよね? 僕はちゃんと確認したけど、君はちゃんと読んだかな?」

 嫌味ったらしい。
 確かに不貞をしたら婚約破棄、なんて書いてない。この婚約は家と家とのつながりを求めたものだからだ。
 でも逆に、私の不貞は婚約破棄事由になってる。托卵されたらたまらないってことなんだろうけど、腹が立つわ!

「ええ、読んだわ。不貞じゃ婚約破棄は無理ってね。だから今のうちにそっちから婚約解消した方がいいわよ」
「何を言ってるんだか。そんなことするわけがないだろう。君の家の事業に乗っかって、悠々自適に暮らす予定なんだからね」
「そう? じゃ、仕方ないわね。あなたが刃物恐怖症なことは、明日には教室中に知れ渡っているでしょうよ」
「がっ!?」

 シアンが愕然としたのも当然だ。この国では、すべての貴族は有事には剣をとって王家を守らなければならない。
 それができないものは侮蔑の対象になるのだ。

「な、な、なぜっ、いや、そんな」
「なぜ知ってるかって? 政略なのだもの。相手の弱味くらい握っておくに決まっているじゃないの」

 私とシアンは愛し合った婚約ではないのだから。
 もしものときに手綱を握らなければならない。これは両親からも言われていることだ。

「否定してもいいのよ? 剣を持たされたらすぐバレちゃうでしょうけど」

 貴族たちは噂に敏感だ。
 剣を握れないなんて噂が流れたら、それを払拭しようとするのが当然なのだ。しようとしないってことは……と思われる。

「や、やめてくれ……っ」
「じゃあ、婚約を解消してくれる?」
「それは……」
「新しい婚約者なら心配することないわよ。ほら、あなたの秘密を知った、一蓮托生の女性がいるじゃない?」

「ヒッ」

 引きつった声をあげたのは、浮気相手の女だ。
 残念だけど、あなたも逃してあげないわ。

「ほら、急いで躾けておかないといけないわ。秘密を絶対にばらさないように。ふふっ、もちろん私を口封じするのは無理よ。お父様とお母様だって知ってるんだから」

 青ざめたシアンが浮気女の腕をつかんだ。

「だ、黙っていてくれ!」
「誰にも言わないわ、だからっ……離して!」

「まあ、シアンったら、そんな頼む必要なんてないわよ。だって彼女は男爵家でしょう? いくらでも圧力をかけて口封じできるわ。それより、黙っていてほしいって言うべき人が他にいるんじゃないかしら?」
「……た、頼む、許してくれ、リシュリーナ」

 私は微笑んだ。

「残念だけど、秘密を公開するか、婚約を解消するか、どちらかなの。ね、婚約を解消してくれるでしょう?」
「……」
「じゃないと、いますぐ声をあげて話してしまいたいわ!」
「やめてくれ! 悪かった、僕が悪かったから、許してくれ!」

 ついに泣き出しながらもシアンは、女の手を離さない。仲のいいこと。お似合いの夫婦ね。
 いいわよ、私は婚約解消さえしてくれれば、誰も得しない秘密を話す理由なんてないのだから。

「さ、早く言ってちょうだい。婚約を解消するって」
「婚約を……っ解消する、からぁ……」

 ぐすっ、と泣きながらシアンは言った。うん、それでいいのよ。
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