【R18】溺愛×悪役令嬢 reboot

月極まろん

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◆弟の提案◆

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 四番目の婚約者について教えてくれないまま、婚約者たちは両親に挨拶だけして帰宅してしまった。
「ロジィ!」
「寝る準備をして寝室で待っていてよ、姉上」
 遊ばれているような気がする。



 そして、同じように寝間着を着た彼が部屋に持ってきたのは、ホットミルクだった。
 懐かしい……。
 母親をなくした彼がこの家に引き取られた時に、不安で夜中に泣いていたので、こっそりと台所を使ってミルクを温めたのだ。
 前世の記憶が目覚めたばかりで、ゲームの中での情報も足りなくて、彼の母親をみすみす死なせてしまったことに負い目があった。
 それからもときおり泣いてしがみついてきた幼い子供が、こんなにしっかりした優しい少年に育つなんて……。
 少女のような顔立ちではあるけれど、いつまでも泣き虫で弱々しいわけではない。彼の整った顔立ちは少年から青年へと変化していく最中のものだった。
「ありがとう、ロジィ……」

 温かな湯気がたちのぼるカップにくちをつける。
「あら、蜂蜜をかえたの?」
「……うん、いろいろな種類を売っている店があってね」
 採取する花によって蜂蜜の濃さも味も変化する。いつもとは違う香草のような味わいをほんのりと感じた。

「それで、四番目の婚約者のことだけど」
 口火を切ったのは彼からだった。
「もちろん、ニコだよ。ぼくはニコを姉上の婚約者に推薦する」
「……なぜ? わたくしにはもう三人も婚約者がいるのに、彼がどうして求婚してきたのかあなたは知っているの?」
「うーん、あいつはああ見えて野心家だからね」
 知ってる。
 国の端にある海軍将軍の息子である彼は、この学園にいるあいだに自分たちの影響力を強めたいと願っている。
 ゲームでリリィに出会うのは偶然だが、かなり早いうちに彼女の素性に気が付いて、王女と親しくなろうと近づいていくのだ。
 そして、彼女のセンスの良さや容姿と心根の美しさ、優しさに気が付き、逃れようもないほど惹かれていく。
 攻略が難しいせいか、バッドエンドらしいバッドエンドもないキャラクターだ。
 ルートはふたつあるけれど、荒くれ男だらけの海軍に嫁ぐか(通称筋肉エンド)、ヒロインが女王となって海軍を引き立てるかのどちらかだ。
 しかし、王女ではなく公爵令嬢ローザと婚姻して、彼に返せる物が自分ローザにあるだろうか……。
「公爵家と縁ができることは、ニコにとっても悪くないんだよ姉上。ぼくの感謝も手に入るわけだし」
 感謝?
 弟の声が遠ざかる。
 思考がぼんやりとした雲に包まれていく。
「眠いなら、寝台に入りなよ。おやすみなさい、姉上」
「そうね……おやすみなさいロジィ……」
 彼が、ふたつのカップが乗ったトレイを片付けるのを眺めながら、のろのろとベッドへ移動していく。
 愛する、可愛い弟。
 ドアが閉まった音がした。



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