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◆その夜……◆
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婚約式のダンスで、エドアルド、チェリオ、カルミネと、三人の婚約者たちと踊ってみせたローザは、なぜか、続いて踊った従兄のヴィクトルに求婚され、さらに踊ったニコにも「四番目のフィアンセにしていただけませんか?」と問われた。
愛らしい顔立ちと素直な言動のニコのことを、嫌いなわけではない。
しかし、婚約者を増やすつもりはないのだ。そもそも、エドアルド以外になぜ新しい婚約者が出来たのか、自分でもよく分かってはいない。最近では、ひとりとしか婚約しない令嬢も多いのだから。
音楽の中、微笑みを残して立ち去っていくニコの背を見送りながら、ローザは途方に暮れた。義弟にそっくりの容姿だけど、彼の言動はいまひとつ読めない。
「どうなさいました、ローザさま。難しいお顔をなさって」
リリィの声に、振り返る。
ゲームの中では五人と婚約するルートもあるヒロインだ。彼女はどう思って――。
目をばちくりさせてしまう。
「リリィ、いつのまに着替えましたの?」
つい先ほどまでは、彼女に似合う淡い紫色のドレスを着て踊っていたはずだ。それが今は、まるでエドアルドのような凛々しい貴公子めいた男装をしている。
こうして見ると、髪の色こそ金と銀でちがうが、とてもよく似ていた。
「似合いますでしょう」
「ええ、とても素敵ですわ」
「これでしたら、わたしと踊れますわよね?」
手を差し出してきたので、ローザは手を滑り込ませる。
踊る間はふたりの世界だ。音楽が鳴っているのと、互いに邪魔にならない距離をとるために、会話はあまり外へと漏れない。……そのはずだが。
「ヴィクトルとニコは、ローザさまに求婚しましたね。どうなさいますか?」
たくみな騎士のステップでリードしながら問われて、ローザは驚いた。
「リリィはなにか聞いてましたの?」
ゲームの流れなら攻略対象のさまざまな秘密を知り、親しい関係として愚痴を聞いたりすることもあるけれど、このリリィがふたりとそんなに親しくなっているとは気付かなかった。
そもそもリリィはゲームと違って書記ではなく運動部の代表になっているからニコとあまり接点が無いし、ヴィクトルは運動部の代表ではなく、なぜか文化部の代表になっている。
しかしゲーム本編では、この時期はまだ彼女が王女だとは分かっていない。
その影響でヴィクトルとニコが求婚してくることを知ったのだろうか。
と思考を巡らせるローザと踊りながら、リリィはあっさりと肩をすくめた。
「読唇術ですわ」
「……ええっと」
「実家で習いましたの」
そういえば、赤ん坊の彼女を育てたのは、地方都市の大きな薬問屋――という形の領主の諜報機関だ。リリィのステータスの高さや文武両道なところは、すべてそれで説明されていた。
ゲームのファンには『ヒロインが忍者』とも言われていた。
そんなチートヒロインは、当たり前のように頷いた。
「まあ、そろそろ求婚するのだろうとは、思っていましたわ。……ローザさまはどうなさいますの?」
「どうと言われましても……。そういった意識で彼らを見てはおりませんでしたので」
「それは、カルミネのことも、でいらっしゃいますわよね?」
「……それは、そうですけれども」
まさか彼と婚約するとは思わなかった。
素敵な男性だとは思っていたけれども、それは推しを愛でるような気持ちであり、自分の婚約者になるとは――彼に抱かれるとは思わなかったのだ。
そう思うと頬が熱くなる。
「ローザさまの婚約者の枠はあとふたつ。受け入れるかどうかは他の婚約者によりますけれど……。よく考えなさってくださいね」
音楽が終わり、ローザとリリィは足を止めた。
柔らかな笑みを浮かべながらこちらに向かってくる婚約者たちが見える。
魅力的で素敵な、自分と結ばれる男性たちが。
愛らしい顔立ちと素直な言動のニコのことを、嫌いなわけではない。
しかし、婚約者を増やすつもりはないのだ。そもそも、エドアルド以外になぜ新しい婚約者が出来たのか、自分でもよく分かってはいない。最近では、ひとりとしか婚約しない令嬢も多いのだから。
音楽の中、微笑みを残して立ち去っていくニコの背を見送りながら、ローザは途方に暮れた。義弟にそっくりの容姿だけど、彼の言動はいまひとつ読めない。
「どうなさいました、ローザさま。難しいお顔をなさって」
リリィの声に、振り返る。
ゲームの中では五人と婚約するルートもあるヒロインだ。彼女はどう思って――。
目をばちくりさせてしまう。
「リリィ、いつのまに着替えましたの?」
つい先ほどまでは、彼女に似合う淡い紫色のドレスを着て踊っていたはずだ。それが今は、まるでエドアルドのような凛々しい貴公子めいた男装をしている。
こうして見ると、髪の色こそ金と銀でちがうが、とてもよく似ていた。
「似合いますでしょう」
「ええ、とても素敵ですわ」
「これでしたら、わたしと踊れますわよね?」
手を差し出してきたので、ローザは手を滑り込ませる。
踊る間はふたりの世界だ。音楽が鳴っているのと、互いに邪魔にならない距離をとるために、会話はあまり外へと漏れない。……そのはずだが。
「ヴィクトルとニコは、ローザさまに求婚しましたね。どうなさいますか?」
たくみな騎士のステップでリードしながら問われて、ローザは驚いた。
「リリィはなにか聞いてましたの?」
ゲームの流れなら攻略対象のさまざまな秘密を知り、親しい関係として愚痴を聞いたりすることもあるけれど、このリリィがふたりとそんなに親しくなっているとは気付かなかった。
そもそもリリィはゲームと違って書記ではなく運動部の代表になっているからニコとあまり接点が無いし、ヴィクトルは運動部の代表ではなく、なぜか文化部の代表になっている。
しかしゲーム本編では、この時期はまだ彼女が王女だとは分かっていない。
その影響でヴィクトルとニコが求婚してくることを知ったのだろうか。
と思考を巡らせるローザと踊りながら、リリィはあっさりと肩をすくめた。
「読唇術ですわ」
「……ええっと」
「実家で習いましたの」
そういえば、赤ん坊の彼女を育てたのは、地方都市の大きな薬問屋――という形の領主の諜報機関だ。リリィのステータスの高さや文武両道なところは、すべてそれで説明されていた。
ゲームのファンには『ヒロインが忍者』とも言われていた。
そんなチートヒロインは、当たり前のように頷いた。
「まあ、そろそろ求婚するのだろうとは、思っていましたわ。……ローザさまはどうなさいますの?」
「どうと言われましても……。そういった意識で彼らを見てはおりませんでしたので」
「それは、カルミネのことも、でいらっしゃいますわよね?」
「……それは、そうですけれども」
まさか彼と婚約するとは思わなかった。
素敵な男性だとは思っていたけれども、それは推しを愛でるような気持ちであり、自分の婚約者になるとは――彼に抱かれるとは思わなかったのだ。
そう思うと頬が熱くなる。
「ローザさまの婚約者の枠はあとふたつ。受け入れるかどうかは他の婚約者によりますけれど……。よく考えなさってくださいね」
音楽が終わり、ローザとリリィは足を止めた。
柔らかな笑みを浮かべながらこちらに向かってくる婚約者たちが見える。
魅力的で素敵な、自分と結ばれる男性たちが。
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