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愚か者は嫌い
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遠い木の上からすべて見ていた赤ずきんは、不愉快そうに指先をかじりました。
「……ね?」
彼女を抱きかかえて高い梢に登っていた黒狼は、腕の中の彼女を見下ろします。
「あんな奴を飼い慣らそうなんて、無茶だよ。何度かこっそり逃がしたけれど、どの女の子も必死であいつの元に戻ろうとするんだ」
「魔力酔いよ」
腕の中のバスケットを抱えなおして、赤ずきんはため息をつきました。
「あの女の子、見かけ通りに八つにもならないと思う。魔女は弱いほど初潮が早くって、そのぶん魔力に耐性がないの。幼いうちに魔女として目覚めてしまった子にとっては濃い魔術は麻薬よりもタチが悪く酔わせて、依存性も強い……。いっそ、ふつうの人間として育ててあげれば良かったのに」
親が欲張った結果なのでしょう。
女王にはなれなくとも、女王に気に入られれば出世の道がありますから。
「……怒ってる?」
「……いいえ。破れて奴隷となるのは弱い者の自業自得。あいつらが魔女のことを何も解っていないことも、自業自得だわ。魔女を、ただの性器の付属品として使うなんて、ね」
赤ずきんは優しく微笑んで見せたのに、なぜか黒狼はよりいっそうおびえたような表情をしました。
「やっぱり怒ってるよね!」
「女王陛下が最初に狩った黄金の狼は、森の王としてふさわしく、強く美しくて優しかったそうなの。……いま、初めて気が付いた。いくら魔力に溢れた金狼であっても、わたし――傲慢な愚か者は嫌いなの」
確かに金の狼は強いのだろう。魔女を奴隷とできるぐらいには。
赤ずきんは黒狼のたくましい腕からするりと抜け出して、太い枝の上に自分自身の足で降り立ちました。
真っ赤なマントが風になびき、それに隠された黄金の髪や陶器のごとき素肌が沈みつつある陽光にさらされました。幼さが残る顔立ち。遠くを見つめる若葉色の瞳は明るく、その表情は芯の強さを感じさせます。黒狼が思わず見とれるほど、彼女は誇り高く美しかったのです。
「わたしが欲しい強さは、破壊する強さじゃない。他人が造り上げたものを台無しにするだけだなんて、赤ん坊にだって出来るもの」
「……欲しいのは……なに?」
少女は片目をつぶった。
「教えてあげないわ、弱虫の狼さん。気をつけてお逃げなさい」
そのまま枝を蹴って、笑顔のまま赤ずきんは後ろ向きに飛び落ちていきました。
「!」
「……ね?」
彼女を抱きかかえて高い梢に登っていた黒狼は、腕の中の彼女を見下ろします。
「あんな奴を飼い慣らそうなんて、無茶だよ。何度かこっそり逃がしたけれど、どの女の子も必死であいつの元に戻ろうとするんだ」
「魔力酔いよ」
腕の中のバスケットを抱えなおして、赤ずきんはため息をつきました。
「あの女の子、見かけ通りに八つにもならないと思う。魔女は弱いほど初潮が早くって、そのぶん魔力に耐性がないの。幼いうちに魔女として目覚めてしまった子にとっては濃い魔術は麻薬よりもタチが悪く酔わせて、依存性も強い……。いっそ、ふつうの人間として育ててあげれば良かったのに」
親が欲張った結果なのでしょう。
女王にはなれなくとも、女王に気に入られれば出世の道がありますから。
「……怒ってる?」
「……いいえ。破れて奴隷となるのは弱い者の自業自得。あいつらが魔女のことを何も解っていないことも、自業自得だわ。魔女を、ただの性器の付属品として使うなんて、ね」
赤ずきんは優しく微笑んで見せたのに、なぜか黒狼はよりいっそうおびえたような表情をしました。
「やっぱり怒ってるよね!」
「女王陛下が最初に狩った黄金の狼は、森の王としてふさわしく、強く美しくて優しかったそうなの。……いま、初めて気が付いた。いくら魔力に溢れた金狼であっても、わたし――傲慢な愚か者は嫌いなの」
確かに金の狼は強いのだろう。魔女を奴隷とできるぐらいには。
赤ずきんは黒狼のたくましい腕からするりと抜け出して、太い枝の上に自分自身の足で降り立ちました。
真っ赤なマントが風になびき、それに隠された黄金の髪や陶器のごとき素肌が沈みつつある陽光にさらされました。幼さが残る顔立ち。遠くを見つめる若葉色の瞳は明るく、その表情は芯の強さを感じさせます。黒狼が思わず見とれるほど、彼女は誇り高く美しかったのです。
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「……欲しいのは……なに?」
少女は片目をつぶった。
「教えてあげないわ、弱虫の狼さん。気をつけてお逃げなさい」
そのまま枝を蹴って、笑顔のまま赤ずきんは後ろ向きに飛び落ちていきました。
「!」
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