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具現する逆さ十字
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「ネメジス様、貴方は炎を放出する魔法、透明な結界を作る魔法、敵の情報を分析する魔法、使い魔を召喚する魔法等をお使いになりますのよね?」
「ああ……」
「他にはどの様な魔法が使えますの?」
「幻覚を見せる魔法が使えるな……」
ネメジスさんは冷や汗をかきつつそう回答します。なんだか奇異ですね。どうしたんでしょうか……。
「やはりそうですわよね……」
「あの、その質問には何の意味があるんですか?それにネメジスさん様子がおかしいですよ……」
「それは今分かりますわ。《反逆者の処刑台》発動ですわ……!」
黒猫の悪魔の背後にギロチンが付いた処刑台が出現しました。ギロチンの刃の部分から赤黒い血が全方向にタキオンの様な速度で放射されます……。血は私のドレスに付着しドレスに染みが出来始めます……。
「折角の華奢なドレスが台無しなんですが……。何ですかこの血は……。あとその処刑台も……」
「血、処刑台は魔法無効化魔法のエフェクトの様なものですわ。
エフェクトは徐々に消滅していきますしお気になさらず。それとネメジスとお呼びしていた人物の方をご覧下さいまし……!」
私はネメジスさんの方へまつ毛を向けると、
「え……!?何……?これは…………」
悪寒が全身を駆けました……。ネメジスさんが居た場所には大天使とはかけ離れた邪悪な神の様な生物がいました……。四肢が切断されたさっきまでのネメジスさんと同じ様な状態の邪神です。
その邪神は所々に神への冒涜の証である逆さ十字架が刻まれた漆黒の鎧を身に纏い、白骨化した翼を6つ生やし、頭に茨が絡んだ冠を冠しています。
また、冠にはには憎しみ、恨み等の花言葉を持つ黒き薔薇も不気味に装飾されています……。
理解が追いつきません……。あれは誰なんですか……?ネメジスさんはどこへ消えたんですか……?
「やはり貴方でしたのね……!破壊神デザストル様……!」
「どういう状況なんですか……?デザストルって誰……?」
「貴女がネメジスとお呼びしていた人物の正体は世界崩壊の黒幕という事ですわ」
え……?なに……それ……。黒猫の悪魔の妄言……?
「あら、妄言と勘ぐっていらっしゃる?今の私は至って真面目ですわよ。話を戻しますが、私達は破壊神様の幻覚魔法で破壊神様が大天使の姿に見える状態にされていましたの。
ですが、私が魔法無効化の魔法を発動した為、幻覚がとけて本来の姿が拝見出来るようになったという事ですわ」
「えっと……。じゃあつまりネメジスさんはずっと私に嘘を付いていたという事……?違いますよね……?」
私の心に絶望の足音が近づいています……。
「それはだな……」
「口籠るとはらしくないですわよ。念のためお聞きしますが貴方が破壊神デザストル様なんですのよね?」
「…………そうだ……」
……!!うそ……。
「私が破壊神デザストルだ……。私がこの悪魔達を生み出しこの世界を破壊させた黒幕なんだ……。大天使の話は嘘だ……。天界なんて場所も存在しない……。
出会う悪魔達とは初対面の様に接していたが、あれは演技だ……。悪魔達の事は最初から知り尽くしていた……」
弱々しく、悲観的な声色でした……。私の心は絶望の奈落に突き落とされます……。ずっと私を欺いていたなんて酷いですよ……。
それに悪魔達を生み世界を破壊させた事も最低としか思えません……。というか何故私を騙していたんですか……?
ネメジスさんは何故悪魔達を殺していたんですか……?悪魔は貴方が生んだんでしょうが……。
意味不明です……。この暗黒の世界で唯一の心の拠り所を失いました……。この世界に心の拠り所はありません。あるのは行き場のない絶望のみです。
「確信が持てて安心ですわ……!それに再び貴方にお会い出来て嬉しゅうございますわ。今でも貴方の事をお慕いしていますもの。
それに私は悪魔達の中でも特に貴方と深い仲でしたしね。このシチュエーションを私の世界観で語ると、隣国の王子様を殺そうとしていた兵士は幼少期を共にした生き別れのお兄様だった……。
10年の歳月を経て変わり果てた二人は邂逅する……!といった所かしら……!」
「相変わらずだな……」
「私は徹頭徹尾この性格でしてよ。……それはそうと、何故私達を騙していましたの?
何故私達悪魔と戦っていますの?責める気なんて微塵もありません。お答え下さいまし」
「それには色々と訳合がある……。これについては言いたくないな……」
隠し事をするんですか……。私は哀咽するのみです。
「それにしても何故こんなに悲痛なんだろうな……。いずれ嘘が暴かれる事は分かっていた……。
嘘が暴かれる覚悟は出来ていたつもりだった……。それなのに……、心が激痛を訴えるんだ……。虫歯に侵食され、穴だらけになった歯の様にな……」
涙を堪えるのに精一杯の様に見えます……。
「まあ……。何か私に出来ることは?」
「一人にしてほしいんだ……。私は今からある町へ行く……。追いかけないでくれ……」
「えっ……?折角再開出来たというのにもうお別れですの……?」
「ああ……。すまないな……」
四肢から滴滴と血を垂らすネメジスさんは上空へ飛行しました。この状況を黒猫の悪魔の世界観で語ると、
兄弟は再開は出来たものの兄弟の間には分厚い壁が出来ていました。だから、兄弟は再開出来たのに、一瞬で別れました。という感じですかね……。
ネメジスさんが飛び去ってから5分くらい気まずい沈黙が続きました。この5分の間に服に付着した血と処刑台は完全消滅しました。ですが、私も黒猫の悪魔もそんな事気にも止めていませんでした……。
ただ立ち尽くすのみです……。例えるなら両親が夜逃げし、義理の兄弟だけが取り残されたリビングの様な雰囲気でした……。
「貴女は私を攻撃しないんですの?」
口火を切ったのは黒猫の悪魔でした。
「はい……。私は戦いをした事ありませんし、どう攻撃したらいいのかも分からないんですよね……。それに、貴女を攻撃する気すら失せる様な精神状態なんですよ……」
私の心の中は黒雲で満ちていて、今にも悲しみの大嵐が起こりそうな有様でした。
「心中お察ししますわ……」
黒猫の悪魔はブラックダイヤモンドの様な瞳を下に向けています。
「それにしてもネメジスさんは何で私達を騙して自分は大天使だなんて嘘を吐いていたんですかね……」
「私は破壊神様は宗教の信者の様に洗脳をされていたのではないかと考えていますわ。さっきの破壊神様の様子は以前の破壊神様とは似ても似つかないご様子でしたわ。
だから、破壊神様は何方かに思考を改竄され自分は大天使であると根も葉もない事を言わされていた、また悪魔と戦わされていた、と考えていますの。憶測ですけどね」
「もしその考えが当たっていたとすればネメジスさんを洗脳した人は誰なんですか……?」
「それは不明ですわね。でも、明確にする方法はありますわ。破壊神様から直接聞き出せばいいんですの。
貴女が分析魔法で破壊神様の位置情報を特定、破壊神様を追いかければ可能ですわ。どの様にして破壊神様から情報を聞き出すかは私が考えますわ」
その言葉に拒否反応を覚えました……。
「貴女と協力するという事ですか……?血の雨を降らせる事に貢献した人には協力したくはありません。それにネメジスさんには失望しました……。もう会いたくないですよ……」
「私を拒絶するのはご勝手ですわ。ですが、軽率に失望なんて仰るのは辞めるべきですわ。
貴女は心の底から破壊神様を嫌いになりましたの?2度と破壊神様にお会い出来なくなったとしても後悔はありませんの?そういう事を思慮した上で仰って」
『心の底から嫌いになったか』ですって?心の底から嫌いになったと思いますよ……。ネメジスさんは世界崩壊の原因である破壊神と同一人物なんですもの……。
ネメジスさんは私に沢山構ってくれたり、抱きついてくれたりしてくれたりしましたが全部無下です……。あんな思い出……忘れて……、
「うっ……ぐすっ……」
気付くと私は涙腺を緩ませていました……。……薄々分かっていました。私はネメジスさんの事を心の底から嫌いになってなどいませんでした。
私の乙女心がまだネメジスさんの事が好きであると訴えているんです……。
「その血相から察しましたわ。やはり貴女もまだ破壊神様を愛していますのね」
同士を見つけた為か瞳は輝きを取り戻していました。
「はい……」
「やはり真の愛というものは愛の対象の悪い面を見た程度では変化しないものですわね。
愛の対象が悪人だろうと付いて行き、その道の果ては破滅であるなら共に破滅する。これが真の愛ですわ」
「破滅だなんて縁起でも無い事言わないで下さい……」
「単なる例えでしてよ。さて、これではっきりとしましたが私達は破壊神様を愛する同士ですわ。ならば行動を共にするしか選択肢はありませんことよ」
それは少し大袈裟なような……。でも、考えてみれば1人でネメジスさんを追跡するなんて孤独すぎて私には無理な気がします。それに、私と黒猫の悪魔は同じ意思を持つ同士である事は確かです。ならば、
「2人でネメジスさんを追跡しましょう」
「ええ……!破壊神様のご意思に反する事はをするのは不本意ですが、今回は特例という事にいたしましょう。
言い忘れていましたが私の名前はモアゼルですわ。よろしくお願いしますわ」
黒き支配者は自己紹介をし淑やかにお辞儀をしました。
「私はサンティです。よろしくお願いします」
私は答礼をします。
「では、まず周囲の生命反応を探知する魔法、《破壊者の邪眼》をお使いになって。あ、《破壊者の邪眼》とは破壊神様が《審判者の聖眼》とお呼びしていた魔法の真の魔法名ですわ」
魔法を使えと言われてどきっとしました……。だって、
「ごめんなさい。私、魔法を使った事が無いですし魔法の使い方が分からないんです」
「あらまあ。発動したい魔法が発動するよう念じれば発動しましてよ。魔法名を口に出すとやり易いですわ。
魔法名は正確に言わず、
自分で別の名前を付けたりしても問題ありませんわね。まあ、今は魔法名を崩して言ったりする必要は無いかしらね」
「なるほど……」
私は《破壊者の邪眼》が発動するよう念願しました。そして、
「《破壊者の邪眼》……!」
そう口に出すと周囲に影の様な波動が秀逸に放たれます。するとレーダーの様なものが目先に見えました……!
まるで架空の戦闘機の操縦室に居る様です……!またレーダーの上方向に一つ移動を続ける生命反応がある事が分かります……!
これがネメジスさんですね。更に、ネメジスさんと私達の距離は1キロ程であると脳が何故か理解しています。これが魔法の力なんですね。
「ネメジスさんの位置が分かりました」
「上出来でしてよ。破壊神様を追尾しましょう」
「ええ」
私は空へ舞い、ネメジスさんが居る方向へ飛行を始めました。黒猫の悪魔は私を追う様に飛行します。羽を羽ばたかせながら少し不思議な事を見つけました。
「なんだか不思議ですよね。私は天使なのに《破壊者の邪眼》なんて魔法を使うって」
「あら何を仰るの。今の貴女は堕天使の様なご容姿をしていますわよ」
「えっ……?」
「確かに破壊神様の幻覚魔法が無効化される前は清楚な天使の様な装いでしたわね。
ですが、それは幻覚でそう見えていただけの話ですわ。というかお気付きで無かったんですのね」
負の感情の牢獄に閉じ込められていて気付きませんでした。また、自分がどの様な姿をしているのかはっきり分からない事が不気味に感じます……。
「今の私ってどんな姿をしているんですか……?」
「一言で言い表すなら黒いドレスを着た堕天使ですわ。ドレスは闇を纏った色のコルセット、ボンネット、リボン、ティアードスカートなどで構成されており、至る所に黒い薔薇が装飾されていますわ。
また、ボンネットには黒兎のお飾りが付いていますわね。羽は鴉の様ですわ。不浄な稚気を感じさせる素敵なお姿でしてよ」
「ありがとうございます……」
頬が薔薇色に染まりました。不浄はちょっと嫌ですが。
「あ、そういえば破壊神だった頃のネメジスさんはどんな人だったんですか?」
「人の心が無い様に冷徹で、常に何かを思考している頭脳的な方でしたわね……。冷酷で、敵国の侵略の事ばかり考えている帝王の様な雰囲気ですわ……」
かつての恋人との思い出を語る様な口ぶりでした。
「あと、破壊神様は悪魔達に自分の情報をお話ししない方でしたが、私にだけは自分の情報をお話してくれたりする一面もありましたのよ」
好かれていたんですかね。羨ましい……。
「モアゼルさんが本当に羨ましいです……。ネメジスさんの心の奥深くまで知っている所だとか……」
「ふふ。私は社交的な淑女ですから当然ですわ」
それから私はモアゼルさんの口から語られる様々な知見を楽しみました。内容は浄化計画の事とか、神話の事とか、邪眼の事とかです。
邪眼は本来、人間達の位置情報を掴む為の魔法である為、詳細な情報分析の効果は無いんだそうです。
また、ネメジスさんは悪魔達を完全洗脳したり、半径500メートル圏内に隕石を大量に落下させる事が出来る杖を持っていたんだとか。
でも、その杖の事を知った悪魔達が自分達は洗脳されているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまった為、破壊を余儀なくされたそうですがね。
ネメジスさんの位置情報を確認しながらネメジスさんを追跡していると、ネメジスさんは人の反応が沢山感知出来る場所で移動を辞めた事が分かりました。
恐らくネメジスさんが羽を下ろした場所はネメジスさんが最終目的地と言っていた人が賑わう謎の町でしょうね。
黒猫の悪魔にこの事を話すと『そんな町本当にあるんですの』と疑われましたが、この事はネメジスさんから聞いた情報と伝えるとすんなり信じてくれました。
それから10分ほど経過するとその町が見えて来ました。
「あら……。あれが貴女が仰っていた破壊神様の最終目的地の町ですのね。
それにしても奇妙ですわ……。あの町は以前と全く別の様相をしていますもの……。まるであの町だけ異世界と化したかの様な……」
モアゼルさんはチープな木製の家々が並ぶ謎の田舎町に
私も得体の知れない不気味さを感じています。あの町は一体何なのでしょうか……。
「ああ……」
「他にはどの様な魔法が使えますの?」
「幻覚を見せる魔法が使えるな……」
ネメジスさんは冷や汗をかきつつそう回答します。なんだか奇異ですね。どうしたんでしょうか……。
「やはりそうですわよね……」
「あの、その質問には何の意味があるんですか?それにネメジスさん様子がおかしいですよ……」
「それは今分かりますわ。《反逆者の処刑台》発動ですわ……!」
黒猫の悪魔の背後にギロチンが付いた処刑台が出現しました。ギロチンの刃の部分から赤黒い血が全方向にタキオンの様な速度で放射されます……。血は私のドレスに付着しドレスに染みが出来始めます……。
「折角の華奢なドレスが台無しなんですが……。何ですかこの血は……。あとその処刑台も……」
「血、処刑台は魔法無効化魔法のエフェクトの様なものですわ。
エフェクトは徐々に消滅していきますしお気になさらず。それとネメジスとお呼びしていた人物の方をご覧下さいまし……!」
私はネメジスさんの方へまつ毛を向けると、
「え……!?何……?これは…………」
悪寒が全身を駆けました……。ネメジスさんが居た場所には大天使とはかけ離れた邪悪な神の様な生物がいました……。四肢が切断されたさっきまでのネメジスさんと同じ様な状態の邪神です。
その邪神は所々に神への冒涜の証である逆さ十字架が刻まれた漆黒の鎧を身に纏い、白骨化した翼を6つ生やし、頭に茨が絡んだ冠を冠しています。
また、冠にはには憎しみ、恨み等の花言葉を持つ黒き薔薇も不気味に装飾されています……。
理解が追いつきません……。あれは誰なんですか……?ネメジスさんはどこへ消えたんですか……?
「やはり貴方でしたのね……!破壊神デザストル様……!」
「どういう状況なんですか……?デザストルって誰……?」
「貴女がネメジスとお呼びしていた人物の正体は世界崩壊の黒幕という事ですわ」
え……?なに……それ……。黒猫の悪魔の妄言……?
「あら、妄言と勘ぐっていらっしゃる?今の私は至って真面目ですわよ。話を戻しますが、私達は破壊神様の幻覚魔法で破壊神様が大天使の姿に見える状態にされていましたの。
ですが、私が魔法無効化の魔法を発動した為、幻覚がとけて本来の姿が拝見出来るようになったという事ですわ」
「えっと……。じゃあつまりネメジスさんはずっと私に嘘を付いていたという事……?違いますよね……?」
私の心に絶望の足音が近づいています……。
「それはだな……」
「口籠るとはらしくないですわよ。念のためお聞きしますが貴方が破壊神デザストル様なんですのよね?」
「…………そうだ……」
……!!うそ……。
「私が破壊神デザストルだ……。私がこの悪魔達を生み出しこの世界を破壊させた黒幕なんだ……。大天使の話は嘘だ……。天界なんて場所も存在しない……。
出会う悪魔達とは初対面の様に接していたが、あれは演技だ……。悪魔達の事は最初から知り尽くしていた……」
弱々しく、悲観的な声色でした……。私の心は絶望の奈落に突き落とされます……。ずっと私を欺いていたなんて酷いですよ……。
それに悪魔達を生み世界を破壊させた事も最低としか思えません……。というか何故私を騙していたんですか……?
ネメジスさんは何故悪魔達を殺していたんですか……?悪魔は貴方が生んだんでしょうが……。
意味不明です……。この暗黒の世界で唯一の心の拠り所を失いました……。この世界に心の拠り所はありません。あるのは行き場のない絶望のみです。
「確信が持てて安心ですわ……!それに再び貴方にお会い出来て嬉しゅうございますわ。今でも貴方の事をお慕いしていますもの。
それに私は悪魔達の中でも特に貴方と深い仲でしたしね。このシチュエーションを私の世界観で語ると、隣国の王子様を殺そうとしていた兵士は幼少期を共にした生き別れのお兄様だった……。
10年の歳月を経て変わり果てた二人は邂逅する……!といった所かしら……!」
「相変わらずだな……」
「私は徹頭徹尾この性格でしてよ。……それはそうと、何故私達を騙していましたの?
何故私達悪魔と戦っていますの?責める気なんて微塵もありません。お答え下さいまし」
「それには色々と訳合がある……。これについては言いたくないな……」
隠し事をするんですか……。私は哀咽するのみです。
「それにしても何故こんなに悲痛なんだろうな……。いずれ嘘が暴かれる事は分かっていた……。
嘘が暴かれる覚悟は出来ていたつもりだった……。それなのに……、心が激痛を訴えるんだ……。虫歯に侵食され、穴だらけになった歯の様にな……」
涙を堪えるのに精一杯の様に見えます……。
「まあ……。何か私に出来ることは?」
「一人にしてほしいんだ……。私は今からある町へ行く……。追いかけないでくれ……」
「えっ……?折角再開出来たというのにもうお別れですの……?」
「ああ……。すまないな……」
四肢から滴滴と血を垂らすネメジスさんは上空へ飛行しました。この状況を黒猫の悪魔の世界観で語ると、
兄弟は再開は出来たものの兄弟の間には分厚い壁が出来ていました。だから、兄弟は再開出来たのに、一瞬で別れました。という感じですかね……。
ネメジスさんが飛び去ってから5分くらい気まずい沈黙が続きました。この5分の間に服に付着した血と処刑台は完全消滅しました。ですが、私も黒猫の悪魔もそんな事気にも止めていませんでした……。
ただ立ち尽くすのみです……。例えるなら両親が夜逃げし、義理の兄弟だけが取り残されたリビングの様な雰囲気でした……。
「貴女は私を攻撃しないんですの?」
口火を切ったのは黒猫の悪魔でした。
「はい……。私は戦いをした事ありませんし、どう攻撃したらいいのかも分からないんですよね……。それに、貴女を攻撃する気すら失せる様な精神状態なんですよ……」
私の心の中は黒雲で満ちていて、今にも悲しみの大嵐が起こりそうな有様でした。
「心中お察ししますわ……」
黒猫の悪魔はブラックダイヤモンドの様な瞳を下に向けています。
「それにしてもネメジスさんは何で私達を騙して自分は大天使だなんて嘘を吐いていたんですかね……」
「私は破壊神様は宗教の信者の様に洗脳をされていたのではないかと考えていますわ。さっきの破壊神様の様子は以前の破壊神様とは似ても似つかないご様子でしたわ。
だから、破壊神様は何方かに思考を改竄され自分は大天使であると根も葉もない事を言わされていた、また悪魔と戦わされていた、と考えていますの。憶測ですけどね」
「もしその考えが当たっていたとすればネメジスさんを洗脳した人は誰なんですか……?」
「それは不明ですわね。でも、明確にする方法はありますわ。破壊神様から直接聞き出せばいいんですの。
貴女が分析魔法で破壊神様の位置情報を特定、破壊神様を追いかければ可能ですわ。どの様にして破壊神様から情報を聞き出すかは私が考えますわ」
その言葉に拒否反応を覚えました……。
「貴女と協力するという事ですか……?血の雨を降らせる事に貢献した人には協力したくはありません。それにネメジスさんには失望しました……。もう会いたくないですよ……」
「私を拒絶するのはご勝手ですわ。ですが、軽率に失望なんて仰るのは辞めるべきですわ。
貴女は心の底から破壊神様を嫌いになりましたの?2度と破壊神様にお会い出来なくなったとしても後悔はありませんの?そういう事を思慮した上で仰って」
『心の底から嫌いになったか』ですって?心の底から嫌いになったと思いますよ……。ネメジスさんは世界崩壊の原因である破壊神と同一人物なんですもの……。
ネメジスさんは私に沢山構ってくれたり、抱きついてくれたりしてくれたりしましたが全部無下です……。あんな思い出……忘れて……、
「うっ……ぐすっ……」
気付くと私は涙腺を緩ませていました……。……薄々分かっていました。私はネメジスさんの事を心の底から嫌いになってなどいませんでした。
私の乙女心がまだネメジスさんの事が好きであると訴えているんです……。
「その血相から察しましたわ。やはり貴女もまだ破壊神様を愛していますのね」
同士を見つけた為か瞳は輝きを取り戻していました。
「はい……」
「やはり真の愛というものは愛の対象の悪い面を見た程度では変化しないものですわね。
愛の対象が悪人だろうと付いて行き、その道の果ては破滅であるなら共に破滅する。これが真の愛ですわ」
「破滅だなんて縁起でも無い事言わないで下さい……」
「単なる例えでしてよ。さて、これではっきりとしましたが私達は破壊神様を愛する同士ですわ。ならば行動を共にするしか選択肢はありませんことよ」
それは少し大袈裟なような……。でも、考えてみれば1人でネメジスさんを追跡するなんて孤独すぎて私には無理な気がします。それに、私と黒猫の悪魔は同じ意思を持つ同士である事は確かです。ならば、
「2人でネメジスさんを追跡しましょう」
「ええ……!破壊神様のご意思に反する事はをするのは不本意ですが、今回は特例という事にいたしましょう。
言い忘れていましたが私の名前はモアゼルですわ。よろしくお願いしますわ」
黒き支配者は自己紹介をし淑やかにお辞儀をしました。
「私はサンティです。よろしくお願いします」
私は答礼をします。
「では、まず周囲の生命反応を探知する魔法、《破壊者の邪眼》をお使いになって。あ、《破壊者の邪眼》とは破壊神様が《審判者の聖眼》とお呼びしていた魔法の真の魔法名ですわ」
魔法を使えと言われてどきっとしました……。だって、
「ごめんなさい。私、魔法を使った事が無いですし魔法の使い方が分からないんです」
「あらまあ。発動したい魔法が発動するよう念じれば発動しましてよ。魔法名を口に出すとやり易いですわ。
魔法名は正確に言わず、
自分で別の名前を付けたりしても問題ありませんわね。まあ、今は魔法名を崩して言ったりする必要は無いかしらね」
「なるほど……」
私は《破壊者の邪眼》が発動するよう念願しました。そして、
「《破壊者の邪眼》……!」
そう口に出すと周囲に影の様な波動が秀逸に放たれます。するとレーダーの様なものが目先に見えました……!
まるで架空の戦闘機の操縦室に居る様です……!またレーダーの上方向に一つ移動を続ける生命反応がある事が分かります……!
これがネメジスさんですね。更に、ネメジスさんと私達の距離は1キロ程であると脳が何故か理解しています。これが魔法の力なんですね。
「ネメジスさんの位置が分かりました」
「上出来でしてよ。破壊神様を追尾しましょう」
「ええ」
私は空へ舞い、ネメジスさんが居る方向へ飛行を始めました。黒猫の悪魔は私を追う様に飛行します。羽を羽ばたかせながら少し不思議な事を見つけました。
「なんだか不思議ですよね。私は天使なのに《破壊者の邪眼》なんて魔法を使うって」
「あら何を仰るの。今の貴女は堕天使の様なご容姿をしていますわよ」
「えっ……?」
「確かに破壊神様の幻覚魔法が無効化される前は清楚な天使の様な装いでしたわね。
ですが、それは幻覚でそう見えていただけの話ですわ。というかお気付きで無かったんですのね」
負の感情の牢獄に閉じ込められていて気付きませんでした。また、自分がどの様な姿をしているのかはっきり分からない事が不気味に感じます……。
「今の私ってどんな姿をしているんですか……?」
「一言で言い表すなら黒いドレスを着た堕天使ですわ。ドレスは闇を纏った色のコルセット、ボンネット、リボン、ティアードスカートなどで構成されており、至る所に黒い薔薇が装飾されていますわ。
また、ボンネットには黒兎のお飾りが付いていますわね。羽は鴉の様ですわ。不浄な稚気を感じさせる素敵なお姿でしてよ」
「ありがとうございます……」
頬が薔薇色に染まりました。不浄はちょっと嫌ですが。
「あ、そういえば破壊神だった頃のネメジスさんはどんな人だったんですか?」
「人の心が無い様に冷徹で、常に何かを思考している頭脳的な方でしたわね……。冷酷で、敵国の侵略の事ばかり考えている帝王の様な雰囲気ですわ……」
かつての恋人との思い出を語る様な口ぶりでした。
「あと、破壊神様は悪魔達に自分の情報をお話ししない方でしたが、私にだけは自分の情報をお話してくれたりする一面もありましたのよ」
好かれていたんですかね。羨ましい……。
「モアゼルさんが本当に羨ましいです……。ネメジスさんの心の奥深くまで知っている所だとか……」
「ふふ。私は社交的な淑女ですから当然ですわ」
それから私はモアゼルさんの口から語られる様々な知見を楽しみました。内容は浄化計画の事とか、神話の事とか、邪眼の事とかです。
邪眼は本来、人間達の位置情報を掴む為の魔法である為、詳細な情報分析の効果は無いんだそうです。
また、ネメジスさんは悪魔達を完全洗脳したり、半径500メートル圏内に隕石を大量に落下させる事が出来る杖を持っていたんだとか。
でも、その杖の事を知った悪魔達が自分達は洗脳されているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまった為、破壊を余儀なくされたそうですがね。
ネメジスさんの位置情報を確認しながらネメジスさんを追跡していると、ネメジスさんは人の反応が沢山感知出来る場所で移動を辞めた事が分かりました。
恐らくネメジスさんが羽を下ろした場所はネメジスさんが最終目的地と言っていた人が賑わう謎の町でしょうね。
黒猫の悪魔にこの事を話すと『そんな町本当にあるんですの』と疑われましたが、この事はネメジスさんから聞いた情報と伝えるとすんなり信じてくれました。
それから10分ほど経過するとその町が見えて来ました。
「あら……。あれが貴女が仰っていた破壊神様の最終目的地の町ですのね。
それにしても奇妙ですわ……。あの町は以前と全く別の様相をしていますもの……。まるであの町だけ異世界と化したかの様な……」
モアゼルさんはチープな木製の家々が並ぶ謎の田舎町に
私も得体の知れない不気味さを感じています。あの町は一体何なのでしょうか……。
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だが、事件を解決するたびに「ミッション、クリア」の文字が表示され、充電が回復するのだ。
充電が切れれば、スマホはただの“板切れ”になる。
悠介は、この謎の仕様とともに、江戸の町で次々と巻き起こる事件に挑むことになる。
盗難、騒動、陰謀。
江戸時代の知恵や人情と、未来の技術を融合させた悠介の捜査は、町人たちの信頼を得ていく。しかし、スマホの充電回復という仕組みの裏には、彼が江戸に転生した「本当の理由」が隠されていた…。
人情溢れる江戸の町で、現代の知識と謎のスマホが織りなす異色の時代劇ミステリー。
事件を解決するたびに深まる江戸の絆と、解けていくスマホの秘密――。
「充電ゼロ」が迫る中、悠介の運命はいかに?
新感覚エンターテインメント、ここに開幕!
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