拷問場の気高き乙女

ガイジ

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合成獣と支配者

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女を殴りたい……。赤子を泣かせたい……。血湧き肉躍る戦いがしたい……。退屈だぜ。
そんな欲望を巡らせながら老紳士の恰好に化けた悪魔、《殲滅の合成獣》は散歩をしていた。
葬式服の様な黒装束を揺らしながらふと思う。結局、聖騎士の噂は本当だったんだろうか。
噂の始まりは確か《人間処理場》の元から逃げ出した使い魔だった。その使い魔が《人間処理場》に、
『聖騎士と呼ばれる破壊神様と互角に戦える存在が現れた。破壊神様を助けてやってくれ』
とテレパシーで伝えた事だったそうだな。でも、《人間処理場》は自分を裏切った奴の言う事など蓋然性がないと決め、使い魔の話は無視した。真相は分からないままという訳だ。
これについて俺は使い魔が《人間処理場》を外に誘き出す為の罠で言った虚言という説が濃厚だと思うがな。なんてどうでもいい思考を巡らせていると、

「おっ?まさか生き残りか!?」

戦いが大好きな俺の中の獣が息を荒げている……!眼前でフリル、リボン等の装飾がなされたドレスを着た天使の様な子供が羽ばたいているのだ……!
何者なのかは分からないが、やっと獲物を見つけた事に興奮するのみだぜ……!

「生き残りという言い方は間違いです。私は貴方を倒す為に作られたある方の使い魔です」

俺を倒す為に作られたある方の使い魔……!?それは誰か使い魔を生む事が出来る存在が俺に戦いを挑んで来たという事か……!?まさか悪魔の裏切り……!?細かい事は分からないが、

「良いシチュエーションじゃないか……!衝動が抑えられないぜ……!具現……!《殲滅の合成獣》!!」

黒魔法が発動されたかの様に俺の周囲に禍々しい邪気が漂う。そして邪気は双頭のライオンの姿を形成した。
尚、背中には鴉の様な黒き羽が生えており不吉な雰囲気だぜ。残酷な時間の始まりを象徴してる様だな。

「あら、可愛らしい姿ですね。ふふ」

ああ?煽ってやがるのか?俺は煽りなんて歯牙にかけないからな。捕食準備を始めるか。

「《不吉の黒き翼》……!」

俺は翼を広げると黒き翼の断片が雨の様な速度で降り注ぐ。雨は数秒で止んだが、周囲に黒色の霧の様な邪気が少し漂う。とても心地が良いな。
でら、早速牙で攻撃しようか。俺の魔法は広範囲に攻撃出来る点は良いが、確実に敵を仕留める事は出来ない。牙で攻撃が一番確実性がある。
俺は烈火の如く天使の元へ向かう。
びびってるのか知らないが天使は動こうとしない。もらったな。俺は天使に飛びかかり、天使の腹に右頭の牙を突き刺す。

「きゃぁぁぁぁ!!何で……こんなに痛いの……」

少女の腹から血が溢れ出しドレスは赤く染まっていく……!少女の顔ばせも苦痛を体現した様な様だぜ……!やはり人を残酷の色で染めるのは気持ちいいぜ。
拷問道具で遊ぶ貴族の子供の様な笑みを両方の顔に浮かべる俺は右頭の牙を引き抜こうとすると――
身の毛がよだった……。少女の体内から炎が溢れ出したのだ……!

「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」

俺は悲鳴をあげるが炎は無慈悲に俺の口内を炎で犯す……!何が起こっているんだ……!?炎による痛みが俺を苦辛させる。だが苦しみに身を委ねては駄目だ……!
俺は苦痛に耐えつつ咄嗟に少女の腹から右頭の牙を抜いた。そして少女の五歩程後ろに下がる。更に、右頭の口を閉じ口内に酸素が入らない様にした。
口内の炎は徐々に弱体化していく。酸素が無い場所や薄い場所では炎は猛威を振るう事が出来ないという知識が役に立ったな。
そして腹から血を流す少女は地面に頽れた。ダメージはあるものの俺の勝利だ。……という安心感は一瞬で壊された。

「……お前等が今死んだ天使の親玉か?」

俺の十mくらい前方に白い鎧を纏った大天使の様な者と、ロリータドレスの天使が降臨していたのだ……。

「それは教えない……。だが、私はお前を殺しに来たという事は教えておこう……」

やはりそうだよな……。負傷している中での連戦は望ましく無い……。ここは背を向けた方がいいか?悪魔の肉体は時間の経過と共に回復するしな。
いや、趣味の殺し合いから逃げるなど俺のアイデンティティに反している。
後退などするつもりは無いな……!では、《文明を喰らう暴徒》で攻撃するしか選択肢はないな。負傷している状態で二人の敵の元へ飛び込むのは危険だ。遠距離攻撃をするしかないのだ。
また、あの魔法での攻撃は正確性がないが、今はそんな事抜かしている場合でもない。

「《文明を喰らう暴徒》!!」

魔法名を唱えると俺の右頭の口元に内臓の様に赤黒い小玉が出現する。小玉は少しずつ巨大化し風船程の大きさへ変化した。
そして内臓を圧縮し、円形にした様な玉は前方へ発射される――!?刹那、ありえない事が起こった。何故か玉が俺の一m程先で移動を停止したのだ……。まるで見えない壁に移動を阻害されたかの様に。
まずいぜ、玉が膨張し爆発の合図をしている……!逃げなければ――




《殲滅の合成獣》の一歩前で爆発が起こりどがぁぁぁぁぁ!!という衝撃音が響き渡ります……!悪魔は後方へ吹き飛びました!

「悪魔の目前に結界を作って悪魔を爆発に巻き込む作戦成功ですね!」

「ああ……。これで奴にかなりダメージが入った筈だな……。奴は恐らく起き上がれない程衰弱している……」

「では悪魔にとどめを刺しましょう!」

「ああ……。……!?どういう事だ……!?」

ネメジスさんは驚愕の声をあげました。どうしたのかと思いネメジスさんの方に頭を動かすと予想の範疇に無かった事が起こっていました……。ネメジスさんの手首、足首全て拘束具が付けられているのです……。
拘束具から垂れ下がる鎖の先端には大きな鉛の玉が付いています……。これではネメジスさんは動く事が出来ません……。平穏だった心に不協和音が流れ始めました……。これはもしや、

「他の悪魔が現れてネメジスさんを拘束する攻撃をネメジスさんにしたという事ですか……?いつの間に……」

「それしか考えられない……!戦いを始める前に再度《審判者の聖眼》で周囲に他の敵が居ないか調べておくべきだった……。私の詰めが甘かった……」

「ごもっともですわ。砂糖とミルクを大量に入れ、ホイップクリームを乗せたコーヒー並みに甘いですわね」

私達の背後から部下をストレスで自殺させる上司の様な高圧的な声が聞こえました。体を翻すとそこには貴族の様な黒猫の姿がありました。
黒猫は、黒いリボン、レース、ヘッドドレスなどが仕立て上げるお姫様の様なドレスを着ています。
悪魔と契約し闇に堕ちてしまったお姫様の様です。また、背中からは巨大な蝶の様な羽が生えていたり可憐な印象もあります。

「お前が私を拘束した悪魔だな……」

「ええ。私は拘束魔法の使い手、《高貴なる支配者》ですわ」

「こいつは私分析魔法を使った後にこの町に入って来た悪魔という事か……。だが、何故この町に来たんだ……?何故突然戦いに入って来たんだ……?」

「私は退屈しのぎに《殲滅の合成獣》様と談笑でもしようと思ってこの町の残骸に伺っていましたの。
そしたら彼が戦闘中だった上、劣勢の様に見えましたから助太刀をして差し上げたというだけの話ですわ。それはそうと、貴方達は何方ですの?」

「隣にいる人が大天使のネメジスさんで私は使い魔のサンティですよ……。貴女達悪魔を殺す旅をしているんです」

「ふうん。大天使なんて存在がいらっしゃるんですのね。存じませんでしたし、興味深いですわ。
それにしても素晴らしいシチュエーションですわね。このシチュエーションを私の世界観で語ると、愛しの王子様に会いに隣国へ行くお姫様……。
しかし、お姫様が隣国に到着すると王子様は暗殺されようとしていましたの……。それを見たお姫様は王子様を守る為に戦いへ身を投じるのですわ……!
国の陰謀が相手だろうとお姫様は屈しないのですわ……!きゃー!素敵ですわー!」

一人で滔々と空想を語る様に狂気しか覚えません……。また、枷が付けられた状態のネメジスさんに負ける訳がないと油断している様にも見て取れます……。

「頭のネジが八割程飛んでいそうだな……。この狂った悪魔の情報を分析するか……。《審判者の聖眼》……」

ネメジスさんの瞳は恒星の様に輝き、光は周囲に広がります。

「分析完了だ……。あの黒猫の様な敵の能力についてだが、攻撃力は低水準だが、耐久力、移動速度は高いようだ……。また、鎖を飛ばし、鎖に接触した者の四肢に破壊する事が出来ない枷を付ける魔法、《権力の具現》、
一時間に二度しか使えないという制限はあるが、自分の半径一キロ圏内で発動された魔法を全て無効化する魔法、《反逆者の処刑台》、
一時間に一度しか使えないが、半径一キロ圏内の全ての人間を自身の使い魔とする魔法、《弱者を統べる君主》、等が使えるみたいだ……。
更に《弱者を統べる君主》で生まれた使い魔は《人肉処理兵士》同様にテレパシーが使える……。他にも、《高貴なる支配者》は使い魔に絶対順守のテレパシーを伝えられるという特徴がある……」

「え……。今回はかなり危険なんじゃないですか……?敵の攻撃力が低いと言えど、ネメジスさんは拘束された状態ですよ……」

これから死ぬかもしれないという恐怖と緊張感で押し潰されてしまいそうです……。死刑直前の死刑囚の様な気分です……。

「いや、危険ではない……。私はこの拘束を解除する方法を知っている……」

「本当ですか……!?」

死刑は免れようとしています。

「何を仰るの?妄言かしら」

「黙れ……。今から拘束解除の方法を実行しよう……。《灰塵と化す愚者》……」

……唖然でした。ネメジスさんは自分の右手に向かって《灰塵と化す愚者》を放ったのです。凄まじい勢いの炎はネメジスさんの右手を轟々と包み込んでいきます……。

「何をなさっているの……?」

同じ行動を繰り返す認知症患者を見る様な異様な光景を見る目を向けながらの言葉でした……。異様に感じているのは私も同じです……。

「両手両足を破壊しようとしているんだよ……。私はお前の魔法によって両手両足に枷を付けられている……。ならば両手両足を魔法で破壊してしまえば自由になれるだろうが……!」

「嘘……!やめて下さい……。そんな事したらネメジスさんが死んでしまいます……!」

「いや、死んだりはしない……。前も言ったが大天使は体を損傷しようと自動回復する……四肢を失おうがいずれ生えてくる……」

でもネメジスさんは爪を剥がれている最中の様な表情でした……。

「ネメジスさん痛そうですよ……」

「確かに傷みを伴うがこれしか方法が無いんだよ……」

「…………」

私が無言になるとネメジスさんは左腕と両足に向かって《灰塵と化す愚者》を発動しました……。黒猫の悪魔はその光景に言葉を失うのみで、四肢破壊の妨害をしたりはしませんでした。
黒猫の悪魔は攻撃力が低いみたいですし、《反逆者の処刑台》も一時間に二度しか使えません。だから四肢破壊を止める事は不可能と分かっているんですかね……。
三十秒程経過すると両膝、両肘から下は完全に焼失していました……。藁人形の様な姿です……。こんな姿のネメジスさん見たくなかった……。

「これで自由だな……《灰塵と化す愚者》解除……」

炎が消えると鎧は溶化しかけておりどろどろとしている事が分かります……。ネメジスさんの両膝、両肘から血が吐き出される様にどばどばと放出されている事も顕になっています……。

「ほ、本当に死なないんですよね……?」

「ああ……」

「何で顔を崩さないんですか……?よく平常心を保っていられますね……」

「私はどれだけ辛い状況にあろうが醜態を晒したりしないと決めているんだ……」

「『どれだけ辛い状況にあろうが醜態を晒さない』……?まさか……!」

黒猫は驚喜しているように見えました。何か良い事に感づいたんですかね?

「攻撃を開始するか……」

「お待ち下さいまし。ネメジス様でしたっけ?貴方にお伺いしたい事がありますわ」

「何だ……?」
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