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星空の下で
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実に居心地が悪い。まるで貧民街の飲食店に来たかの様な気分だ。周囲は洞窟の様に真っ暗で、足元は柔らかく生理的な気持ち悪さがある。
更に、空気の薄さが追い討ちをかける。限界に達したら一度ここから出て息継ぎをする羽目になりそうだ。嫌な場所だね。
「はあ……」
そんなデジールの胃袋の中で溜息を吐いた……。でも我慢しよう。ここに隠れていれば完璧な勝率を維持出来るからね。今回の対戦相手もデジールに勝つ事は不可能だろうし。
具体的に言うと、今回の対戦相手の戦闘能力はデジールより下回っている。また、何故か魔法を沢山使えるみたいだけれど、魔法を無効化出来るデジールの前では嘲笑ものだ。
というか、デジールに接近した魔法の力は全て無効化される。分析魔法はここに到達しない。だから敵は僕がここに居る事すら気付く事が出来ない。
再度確信したが勝てるね。この策の考案者の黒猫の悪魔には感謝の花でも送ってあげたいな。
それにしてあの対戦相手ミステリアスだよね。天界という未知の世界から来たなんて言っているし。彼についてもっと深く分析したいものだよ。
僕の狂眼は完璧な分析が出来る魔法ではないからなあ。分析対象が使用する魔法名等は分析出来ないし。
「おっ……?」
何かが流れて来る音が聞こえる。これは対戦相手の捕食が始まり、対戦相手の肉体が流れて来たという事か。今回の敵も弱かったね。大富豪で例えるとせいぜい五辺りだね。僕はジョーカーだが。ここから脱出しよう。
「《偽りの勝者》……!」
詠唱すると僕の胸の辺りに上面は作られていない黒色の箱が出現する。
黒色の箱は落下せず魔法で浮遊しているね。その箱の中に頭を入れようとすると僕はランプの精の様に箱に吸い込まれた。
そして僕は自宅の様に見慣れた殺し合いの会場に戻って来た。相変わらず歴史を刻んだ石造りの観客席は重みがあるね。
デジールはどこかな。デジールが対戦相手を血肉にしている様が見たいんだ。僕は周囲を見渡すと、
「……!!」
言葉が詰まった。まるでコロッセオの会場に自分の身内が現れた時の人間の様に……。デジールは対戦相手を食ってなどいなかったのだ……。
デジールは地面に置かれた透明な皿の様な物に溜まった血を飲んでいる。また、皿の近くには大天使のものと思わしい腕が転がっている。これは……!
「トリックを暴かれるとは道化師失格だなお前は……」
声の発生源である後ろに体を回すとそこには左腕を失った大天使と、恐慌する使い魔四人が飛行していた。
大天使の左腕から血が出ていないのは結界魔法を左腕の切断部分に貼り、出血を止めたからだろうね……。結界に左腕切断……してやられたな……。
「気付いたか……?私はお前がデジールの体内、それも一番物が入りやすい胃袋に潜伏していると悟った……。また、胃袋に血が流れてくればデジールは私を食べていると勘違いするだろうと考えた……。
だから私はデジールに血だけを飲ませたんだ……。《大天使の聖域》を使い受け皿を作成……。そして受け皿の元で左腕を切断……。左腕から溢れる血を皿に溜めるという流れでな……」
そこまでするとは思っていなかった……!彼は賭博師の血が流れた強敵である事は分かった。また、デジールの胃袋には血が滞積し隠れる事は出来なくなった。しかし、万事休してはいない。まだ手札はある――
「《偽りの勝者》!」
まさに刹那だった。僕は一瞬の内にボックスを出現、ボックスに体を投じ、移動場所を懇願という流れをクリアした。瞬間移動は開始した。危機は免れられたね。
あの対戦相手は知らないだろうが、僕はギャンブル中に行う行動は秒針が刻まれるのと同時レベルに出来るようにしているんだよ。はは。
またしても暗闇に包まれた場所に来た。今度は対戦相手の胃袋の中にやって来た訳だ。
では、最後の手札を使うとしよう。その手札とは少しずつ《偽りの勝者》による頭身縮小を解除、そして対戦相手の胃袋に収まらない程の大きさに戻れば対戦相手の胃袋は破裂する。
その様にして、対戦相手の体内を内側から破壊するんだ……!これをやると美しい僕に似合わない姿になってしまうからあまりやりたくはなかった……。
だが一番僕に似合わないのは敗北なんだよ……!珍しく緊迫している……。なんとか心を沈静させ、偽りの勝者を解除を念じようとすると、
「流水音……?」
音が何かが物凄い勢いで流れて来ている事を告げる。そして、足元に血が溜まり始めている事と、血の匂いが充満している事に気付いた。まさか、
「僕を胃袋の中で溺死させる為に血を大量に飲んでいるという事か!?」
今かなり焦燥している……。借金を賭博で返済しようとする愚か者の様にね……。だってここが血の海と化したら《偽りの勝者》
を僕自身に使いここを脱出する事もままならなくなるからだ。僕が箱の中に入るのよりも先に血が入ってしまうしね。僕自身を《偽りの勝者》の対象に出来なくなるんだよ……。
ここが血の海と化す前に脱出しようか。……いや、ここを脱出してその後はどうするんだ?僕がデジールやあの対戦相手に真っ向から戦いを挑んでも結果は敗北しかあり得ない。
それに僕の手札は既に尽きている……。僕の敗北は決しているか……。こうなってしまったのは相手を侮っていたからかな……。相手の事を正確に理解していれば僕が大得意な賭博を挑み、勝利していた筈なのに……。
こんな感覚を覚えたのは破壊神様と賭博をした時以来だ……。破壊神様はそれ程に才気があった。また、自分の前では魔法の発動を完全に禁止したり、用心深い方でもあった。だから賭博も強い訳だ。
でも、破壊神様は僕に圧勝したりはせず、接戦になるように戦ってくれるんだよね。またあの方と賭博をしたいな………………
月明かりが照らす闘技場の観客席付近にて、私は仰向けの状態で目を覚ました……。体を起こし、立ち上がると周囲に悪魔の姿はない事が分かる……。これは私がゲームに勝利したという事か……!だから私だけがここに戻って来たのだな……!
やったぞ……!暗い夜空に月が輝く様に陰鬱な私の心には喜びの感情が輝いていた……。感動に近い感覚を覚えていると、
「ネメジスさんっ!」
後ろから愛娘の様な声が聞こえ、声の主は私に抱きついてきた……。
「離れた場所で待機していろと言っただろ……」
私は後ろを向いてサンティに抱きついていた……。
「不安が精神病患者みたいに暴走していたんですよ……。ネメジスさんがなかなか帰ってこないから……」
「すまなかったな……。今回は特に厄介だったんだよ……。でも待機場所から動くのは辞めるんだ……。これはお前の安全の為だからな……」
「……分かりました。もう待機場所から動いたりしません。
そうだ、疲れたりしていませんか?ここで少し休むのはどうですか?」
私に気配りをしているのか……。大人っぽい面もあるんだな……。
「肉体は疲れていないが精神は疲弊している……。観客席に座り少し休もうか……」
私は観客席に座り私の右隣にサンティが座った……。星空の元会話が始まる……。
「さっきから気になっていたんですがネメジスさん……左腕どうしてしまったんですか……」
潤んだ瞳から心痛が伝わってくる……。
「悪魔との戦いで失ったんだ……。しかし、気にする事はない……。
大天使の体には少しづつ損傷した体を回復させる力が付いている……。一時間後くらいには治っているだろう……」
「それは良かったです。安心しました……。あ、それと、気がかりなんですがこれからもネメジスさんが悪魔と戦っている間はずっと会えないという事が続くんですか……?
悪魔を手早く倒す事が出来る強力な魔法はないんですか……?」
「すまないがそんな方法は無いな……」
後ろめたい気持ちにさせられた……。実は『そんな方法はない』という発言は嘘だ……。私は悪魔を早く倒す事に繋がる強力な魔法を使う事が出来る……。
だが、その事をサンティに隠匿している……。あの魔法は強力と言っても悪魔に魂を売る様な魔法だし隠しておきたいんだ……。すまないな……。
「無いんですね……。じゃあ他にも質問があります。ネメジスさんは体内に武器を収納する事が出来るそうですがどんな物でも体内に収納出来るんですか?」
「私の所持品や私の魔法で生まれた物であれば何でも体内にしまう事が出来る……。例えば、
《灰塵と化す愚者》で生成した炎だろうと体内に入れる事だって出来るぞ……。尚、体内で炎が消えたりはしない……。生成された時点での状態が維持される……」
「便利なんですね。あ、前から聞きたかったんですが、ネメジスさんは幻覚魔法を使えるんですよね。その幻覚魔法について詳しく教えてくれませんか?」
「幻覚魔法は《聖なる偶像》という魔法名だ……。効果は私の半径一キロ圏内に存在する生物の視点を改竄出来るという内容だ……。
例えば、お前の瞳には私が悪魔の姿で映るようにしたり出来る……。また、私が発動する魔法のエフェクトも邪悪なものに見える様にする事だって出来るな……。尚、この魔法は常時発動が可能なタイプの魔法だ……」
「敵を油断させる事にも使えますし強力ですね……!次は、」
この様にサンティの質問に答える形で会話は三十分程続いた……。月明かりの元である為か、会話中はロマンチックな気分だった……。
まるで祭りの終了後の夜に心許せる友達と二人きりになったかの様な気分だな……。
会場には私達しかおらず私達の会話を邪魔する者は一人も居ない……。とても心地良い時間だった……。私なんかがこんな良い思いをしていいのかと思うくらいにな……。
そして、会話する事が無くなると私達は羽を具現させ次の目的地へ向かい羽ばたいた……。楽しい夢から覚め現実へ向き合う様に……。
飛行を初めてからニ時間程が経過したでしょうか。目的地である焼失した町が見えてきました……。
家々は完全に焼け切った訳ではなく、家の骨組みや壁の一部等が所々に食べ残された様に残っています。そして今回も、
「《審判者の聖眼》……」
ネメジスさんは翼を動かしながら悪魔との戦闘準備を始めます。
「町を灰にした悪魔の能力の解析が出来た……。町を焼き尽くした悪魔は《殲滅の合成獣》という名前だ……。耐久力、攻撃力、移動速度はどれも高いみたいだな……。外見もライオンの様で強靭な雰囲気だ……」
何で悪魔達は私達の安息を直ぐに壊すんですか……。
「攻撃力は特に高く心臓を攻撃されたら命はないだろうな……。また、威力は大した事ないが、自分の半径三十m圏内の地面に紅蓮の炎を発生させる魔法、《侵略の黒き炎》や、
爆発する波動弾を飛ばす魔法、《文明を喰らう暴徒》等が使えるみたいだな……。この魔法には発動に少し時間がかかる、正確に狙いを定められないという面もあるが爆発の威力は絶大なようだ……。
更に、半径一キロ圏内の全生物の元に何か不吉な出来事を一つ呼び寄せる魔法、《不吉の黒翼》が使えるみたいだ……。尚、《不吉の黒翼》の発動者は不吉の対象外だ……」
「無事に勝利出来るんですか……?」
両親が戦争に行こうとしている子供の様に不安感を覚えています……。
「ああ……。今回は大いに勝算がある……。また、お前を悪魔から離れた場所で待機させる必要もなさそうだ……」
「え、本当ですか……?」
本当ならどれだけ喜ばしい事でしょうか。
「本当だ……。敵がどう行動するかが簡単に予想出来るからだ……。まず、《殲滅の合成獣》と戦いが始まったら奴は《不吉の黒き翼》を発動するだろうな……。
自分にとって有利な戦況を作れる魔法が備え付けられているのだから使わない手はない……。
そして質問だ……。サンティは《不吉の黒き翼》発動後敵はどの様な行動に出ると思うか……?」
えっと……。真っ先に魔法を使ってきそうですね。魔法は発動者を有利にするものばかりですし。……いや、今回は例外の様に思います。敵は《文明を喰らう暴徒》も、《侵略の黒き炎》も両方使って来ないかもしれません。
まず、《文明を喰らう暴徒》は狙いを正確に定められない上、発動に少し時間がかかるんですよね。
敵は素の攻撃力が高いのだからこんな使いにくい魔法を使う必要は無い気がします。
次に、《侵略の黒き炎》は周囲の地面から炎を発生させる魔法でしたよね。
でも具現した状態のネメジスさんは飛行している訳ですし、《侵略の黒き炎》を発生させた所で当たりません、だからこの魔法を発動する事も無意味です。
「直接攻撃してきそうですね」
「左様だ……。敵からしたら直接攻撃が一番無難だからな……。私はまず、体内に《灰塵と化す愚者》の炎を閉じ込めた捨て駒の使い魔を生成し、その使い魔を《殲滅の合成獣》の元へ向かわせる……。
そして敵が牙で攻撃して来たタイミングで使い魔に灰塵と化す愚者の炎を放出させる……。口の中に直接炎を入れ口内に激痛を与えるという攻撃方をする……。
《黒翼の不吉》の効果でこの作戦が失敗する可能性もあるだろうが、その時は別の捨て駒作戦を発動する……」
「……言いづらいですが、使い魔が捨て駒として動いてくれないと思いますよ……。特攻隊の様に扱われるのなんて嫌に決まっています……。
また、敵は凶暴な見た目をしているんですよね。それなら使い魔が逃げ出してしまう可能性だってありますよ……」
「ならば《聖なる偶像》を使えばいい……。使い魔目線では敵の容姿はライオンではなく子猫に見えるように設定しておこう……。
そうすれば使い魔が逃げる事は無いだろう……。更に、敵が子猫に見えている状態なら自分はこれから敵に殺されるという事に気付けないだろう……。自分が捨て駒になろうとしているという事にも気付けない訳だ……」
使い魔を騙すんですね……。懐疑の念が現れました。実は《安息の剥奪》の使い手を倒す方法をネメジスさんから知らされた時もこの感情はありました。
その時はネメジスに少し恐怖心があって言えませんでしたし黙っていましたが、今はネメジスさんに意見するべきかもしれませんを
「あの、それでいいんでしょうか……?使い魔を騙して捨て駒に使うって無慈悲過ぎますよ……。捨てられる使い魔の事も考えた方がいいですよ……」
「駒の気持ちなんて考えていては駄目だ……。駒をどう動かすのが最善かを考えるのみだ……」
冷酷にそう言う様は犯罪組織の幹部の様でした。私とネメジスさんに見えない壁を感じてしまいます……。
「言い忘れていたが、私はこの世界を滅ぼした原因である悪魔達を裁く事が何よりも優先的だと思っている……。その為には犠牲も仕方ないと思える……」
……反対意見は出ませんでした。悪魔達は恐らく大量に人を殺めたんでしょうし悪魔達を殺せば多くの怨嗟の声が収まりそうですね。
「それもそうかもしれませんね」
「分かってくれて良かった……」
「あ、それはそうと気になったんですが口内に炎を浴びせる作戦が成功した後はどう戦うんですか?」
「それはだな……」
更に、空気の薄さが追い討ちをかける。限界に達したら一度ここから出て息継ぎをする羽目になりそうだ。嫌な場所だね。
「はあ……」
そんなデジールの胃袋の中で溜息を吐いた……。でも我慢しよう。ここに隠れていれば完璧な勝率を維持出来るからね。今回の対戦相手もデジールに勝つ事は不可能だろうし。
具体的に言うと、今回の対戦相手の戦闘能力はデジールより下回っている。また、何故か魔法を沢山使えるみたいだけれど、魔法を無効化出来るデジールの前では嘲笑ものだ。
というか、デジールに接近した魔法の力は全て無効化される。分析魔法はここに到達しない。だから敵は僕がここに居る事すら気付く事が出来ない。
再度確信したが勝てるね。この策の考案者の黒猫の悪魔には感謝の花でも送ってあげたいな。
それにしてあの対戦相手ミステリアスだよね。天界という未知の世界から来たなんて言っているし。彼についてもっと深く分析したいものだよ。
僕の狂眼は完璧な分析が出来る魔法ではないからなあ。分析対象が使用する魔法名等は分析出来ないし。
「おっ……?」
何かが流れて来る音が聞こえる。これは対戦相手の捕食が始まり、対戦相手の肉体が流れて来たという事か。今回の敵も弱かったね。大富豪で例えるとせいぜい五辺りだね。僕はジョーカーだが。ここから脱出しよう。
「《偽りの勝者》……!」
詠唱すると僕の胸の辺りに上面は作られていない黒色の箱が出現する。
黒色の箱は落下せず魔法で浮遊しているね。その箱の中に頭を入れようとすると僕はランプの精の様に箱に吸い込まれた。
そして僕は自宅の様に見慣れた殺し合いの会場に戻って来た。相変わらず歴史を刻んだ石造りの観客席は重みがあるね。
デジールはどこかな。デジールが対戦相手を血肉にしている様が見たいんだ。僕は周囲を見渡すと、
「……!!」
言葉が詰まった。まるでコロッセオの会場に自分の身内が現れた時の人間の様に……。デジールは対戦相手を食ってなどいなかったのだ……。
デジールは地面に置かれた透明な皿の様な物に溜まった血を飲んでいる。また、皿の近くには大天使のものと思わしい腕が転がっている。これは……!
「トリックを暴かれるとは道化師失格だなお前は……」
声の発生源である後ろに体を回すとそこには左腕を失った大天使と、恐慌する使い魔四人が飛行していた。
大天使の左腕から血が出ていないのは結界魔法を左腕の切断部分に貼り、出血を止めたからだろうね……。結界に左腕切断……してやられたな……。
「気付いたか……?私はお前がデジールの体内、それも一番物が入りやすい胃袋に潜伏していると悟った……。また、胃袋に血が流れてくればデジールは私を食べていると勘違いするだろうと考えた……。
だから私はデジールに血だけを飲ませたんだ……。《大天使の聖域》を使い受け皿を作成……。そして受け皿の元で左腕を切断……。左腕から溢れる血を皿に溜めるという流れでな……」
そこまでするとは思っていなかった……!彼は賭博師の血が流れた強敵である事は分かった。また、デジールの胃袋には血が滞積し隠れる事は出来なくなった。しかし、万事休してはいない。まだ手札はある――
「《偽りの勝者》!」
まさに刹那だった。僕は一瞬の内にボックスを出現、ボックスに体を投じ、移動場所を懇願という流れをクリアした。瞬間移動は開始した。危機は免れられたね。
あの対戦相手は知らないだろうが、僕はギャンブル中に行う行動は秒針が刻まれるのと同時レベルに出来るようにしているんだよ。はは。
またしても暗闇に包まれた場所に来た。今度は対戦相手の胃袋の中にやって来た訳だ。
では、最後の手札を使うとしよう。その手札とは少しずつ《偽りの勝者》による頭身縮小を解除、そして対戦相手の胃袋に収まらない程の大きさに戻れば対戦相手の胃袋は破裂する。
その様にして、対戦相手の体内を内側から破壊するんだ……!これをやると美しい僕に似合わない姿になってしまうからあまりやりたくはなかった……。
だが一番僕に似合わないのは敗北なんだよ……!珍しく緊迫している……。なんとか心を沈静させ、偽りの勝者を解除を念じようとすると、
「流水音……?」
音が何かが物凄い勢いで流れて来ている事を告げる。そして、足元に血が溜まり始めている事と、血の匂いが充満している事に気付いた。まさか、
「僕を胃袋の中で溺死させる為に血を大量に飲んでいるという事か!?」
今かなり焦燥している……。借金を賭博で返済しようとする愚か者の様にね……。だってここが血の海と化したら《偽りの勝者》
を僕自身に使いここを脱出する事もままならなくなるからだ。僕が箱の中に入るのよりも先に血が入ってしまうしね。僕自身を《偽りの勝者》の対象に出来なくなるんだよ……。
ここが血の海と化す前に脱出しようか。……いや、ここを脱出してその後はどうするんだ?僕がデジールやあの対戦相手に真っ向から戦いを挑んでも結果は敗北しかあり得ない。
それに僕の手札は既に尽きている……。僕の敗北は決しているか……。こうなってしまったのは相手を侮っていたからかな……。相手の事を正確に理解していれば僕が大得意な賭博を挑み、勝利していた筈なのに……。
こんな感覚を覚えたのは破壊神様と賭博をした時以来だ……。破壊神様はそれ程に才気があった。また、自分の前では魔法の発動を完全に禁止したり、用心深い方でもあった。だから賭博も強い訳だ。
でも、破壊神様は僕に圧勝したりはせず、接戦になるように戦ってくれるんだよね。またあの方と賭博をしたいな………………
月明かりが照らす闘技場の観客席付近にて、私は仰向けの状態で目を覚ました……。体を起こし、立ち上がると周囲に悪魔の姿はない事が分かる……。これは私がゲームに勝利したという事か……!だから私だけがここに戻って来たのだな……!
やったぞ……!暗い夜空に月が輝く様に陰鬱な私の心には喜びの感情が輝いていた……。感動に近い感覚を覚えていると、
「ネメジスさんっ!」
後ろから愛娘の様な声が聞こえ、声の主は私に抱きついてきた……。
「離れた場所で待機していろと言っただろ……」
私は後ろを向いてサンティに抱きついていた……。
「不安が精神病患者みたいに暴走していたんですよ……。ネメジスさんがなかなか帰ってこないから……」
「すまなかったな……。今回は特に厄介だったんだよ……。でも待機場所から動くのは辞めるんだ……。これはお前の安全の為だからな……」
「……分かりました。もう待機場所から動いたりしません。
そうだ、疲れたりしていませんか?ここで少し休むのはどうですか?」
私に気配りをしているのか……。大人っぽい面もあるんだな……。
「肉体は疲れていないが精神は疲弊している……。観客席に座り少し休もうか……」
私は観客席に座り私の右隣にサンティが座った……。星空の元会話が始まる……。
「さっきから気になっていたんですがネメジスさん……左腕どうしてしまったんですか……」
潤んだ瞳から心痛が伝わってくる……。
「悪魔との戦いで失ったんだ……。しかし、気にする事はない……。
大天使の体には少しづつ損傷した体を回復させる力が付いている……。一時間後くらいには治っているだろう……」
「それは良かったです。安心しました……。あ、それと、気がかりなんですがこれからもネメジスさんが悪魔と戦っている間はずっと会えないという事が続くんですか……?
悪魔を手早く倒す事が出来る強力な魔法はないんですか……?」
「すまないがそんな方法は無いな……」
後ろめたい気持ちにさせられた……。実は『そんな方法はない』という発言は嘘だ……。私は悪魔を早く倒す事に繋がる強力な魔法を使う事が出来る……。
だが、その事をサンティに隠匿している……。あの魔法は強力と言っても悪魔に魂を売る様な魔法だし隠しておきたいんだ……。すまないな……。
「無いんですね……。じゃあ他にも質問があります。ネメジスさんは体内に武器を収納する事が出来るそうですがどんな物でも体内に収納出来るんですか?」
「私の所持品や私の魔法で生まれた物であれば何でも体内にしまう事が出来る……。例えば、
《灰塵と化す愚者》で生成した炎だろうと体内に入れる事だって出来るぞ……。尚、体内で炎が消えたりはしない……。生成された時点での状態が維持される……」
「便利なんですね。あ、前から聞きたかったんですが、ネメジスさんは幻覚魔法を使えるんですよね。その幻覚魔法について詳しく教えてくれませんか?」
「幻覚魔法は《聖なる偶像》という魔法名だ……。効果は私の半径一キロ圏内に存在する生物の視点を改竄出来るという内容だ……。
例えば、お前の瞳には私が悪魔の姿で映るようにしたり出来る……。また、私が発動する魔法のエフェクトも邪悪なものに見える様にする事だって出来るな……。尚、この魔法は常時発動が可能なタイプの魔法だ……」
「敵を油断させる事にも使えますし強力ですね……!次は、」
この様にサンティの質問に答える形で会話は三十分程続いた……。月明かりの元である為か、会話中はロマンチックな気分だった……。
まるで祭りの終了後の夜に心許せる友達と二人きりになったかの様な気分だな……。
会場には私達しかおらず私達の会話を邪魔する者は一人も居ない……。とても心地良い時間だった……。私なんかがこんな良い思いをしていいのかと思うくらいにな……。
そして、会話する事が無くなると私達は羽を具現させ次の目的地へ向かい羽ばたいた……。楽しい夢から覚め現実へ向き合う様に……。
飛行を初めてからニ時間程が経過したでしょうか。目的地である焼失した町が見えてきました……。
家々は完全に焼け切った訳ではなく、家の骨組みや壁の一部等が所々に食べ残された様に残っています。そして今回も、
「《審判者の聖眼》……」
ネメジスさんは翼を動かしながら悪魔との戦闘準備を始めます。
「町を灰にした悪魔の能力の解析が出来た……。町を焼き尽くした悪魔は《殲滅の合成獣》という名前だ……。耐久力、攻撃力、移動速度はどれも高いみたいだな……。外見もライオンの様で強靭な雰囲気だ……」
何で悪魔達は私達の安息を直ぐに壊すんですか……。
「攻撃力は特に高く心臓を攻撃されたら命はないだろうな……。また、威力は大した事ないが、自分の半径三十m圏内の地面に紅蓮の炎を発生させる魔法、《侵略の黒き炎》や、
爆発する波動弾を飛ばす魔法、《文明を喰らう暴徒》等が使えるみたいだな……。この魔法には発動に少し時間がかかる、正確に狙いを定められないという面もあるが爆発の威力は絶大なようだ……。
更に、半径一キロ圏内の全生物の元に何か不吉な出来事を一つ呼び寄せる魔法、《不吉の黒翼》が使えるみたいだ……。尚、《不吉の黒翼》の発動者は不吉の対象外だ……」
「無事に勝利出来るんですか……?」
両親が戦争に行こうとしている子供の様に不安感を覚えています……。
「ああ……。今回は大いに勝算がある……。また、お前を悪魔から離れた場所で待機させる必要もなさそうだ……」
「え、本当ですか……?」
本当ならどれだけ喜ばしい事でしょうか。
「本当だ……。敵がどう行動するかが簡単に予想出来るからだ……。まず、《殲滅の合成獣》と戦いが始まったら奴は《不吉の黒き翼》を発動するだろうな……。
自分にとって有利な戦況を作れる魔法が備え付けられているのだから使わない手はない……。
そして質問だ……。サンティは《不吉の黒き翼》発動後敵はどの様な行動に出ると思うか……?」
えっと……。真っ先に魔法を使ってきそうですね。魔法は発動者を有利にするものばかりですし。……いや、今回は例外の様に思います。敵は《文明を喰らう暴徒》も、《侵略の黒き炎》も両方使って来ないかもしれません。
まず、《文明を喰らう暴徒》は狙いを正確に定められない上、発動に少し時間がかかるんですよね。
敵は素の攻撃力が高いのだからこんな使いにくい魔法を使う必要は無い気がします。
次に、《侵略の黒き炎》は周囲の地面から炎を発生させる魔法でしたよね。
でも具現した状態のネメジスさんは飛行している訳ですし、《侵略の黒き炎》を発生させた所で当たりません、だからこの魔法を発動する事も無意味です。
「直接攻撃してきそうですね」
「左様だ……。敵からしたら直接攻撃が一番無難だからな……。私はまず、体内に《灰塵と化す愚者》の炎を閉じ込めた捨て駒の使い魔を生成し、その使い魔を《殲滅の合成獣》の元へ向かわせる……。
そして敵が牙で攻撃して来たタイミングで使い魔に灰塵と化す愚者の炎を放出させる……。口の中に直接炎を入れ口内に激痛を与えるという攻撃方をする……。
《黒翼の不吉》の効果でこの作戦が失敗する可能性もあるだろうが、その時は別の捨て駒作戦を発動する……」
「……言いづらいですが、使い魔が捨て駒として動いてくれないと思いますよ……。特攻隊の様に扱われるのなんて嫌に決まっています……。
また、敵は凶暴な見た目をしているんですよね。それなら使い魔が逃げ出してしまう可能性だってありますよ……」
「ならば《聖なる偶像》を使えばいい……。使い魔目線では敵の容姿はライオンではなく子猫に見えるように設定しておこう……。
そうすれば使い魔が逃げる事は無いだろう……。更に、敵が子猫に見えている状態なら自分はこれから敵に殺されるという事に気付けないだろう……。自分が捨て駒になろうとしているという事にも気付けない訳だ……」
使い魔を騙すんですね……。懐疑の念が現れました。実は《安息の剥奪》の使い手を倒す方法をネメジスさんから知らされた時もこの感情はありました。
その時はネメジスに少し恐怖心があって言えませんでしたし黙っていましたが、今はネメジスさんに意見するべきかもしれませんを
「あの、それでいいんでしょうか……?使い魔を騙して捨て駒に使うって無慈悲過ぎますよ……。捨てられる使い魔の事も考えた方がいいですよ……」
「駒の気持ちなんて考えていては駄目だ……。駒をどう動かすのが最善かを考えるのみだ……」
冷酷にそう言う様は犯罪組織の幹部の様でした。私とネメジスさんに見えない壁を感じてしまいます……。
「言い忘れていたが、私はこの世界を滅ぼした原因である悪魔達を裁く事が何よりも優先的だと思っている……。その為には犠牲も仕方ないと思える……」
……反対意見は出ませんでした。悪魔達は恐らく大量に人を殺めたんでしょうし悪魔達を殺せば多くの怨嗟の声が収まりそうですね。
「それもそうかもしれませんね」
「分かってくれて良かった……」
「あ、それはそうと気になったんですが口内に炎を浴びせる作戦が成功した後はどう戦うんですか?」
「それはだな……」
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江戸時代の知恵や人情と、未来の技術を融合させた悠介の捜査は、町人たちの信頼を得ていく。しかし、スマホの充電回復という仕組みの裏には、彼が江戸に転生した「本当の理由」が隠されていた…。
人情溢れる江戸の町で、現代の知識と謎のスマホが織りなす異色の時代劇ミステリー。
事件を解決するたびに深まる江戸の絆と、解けていくスマホの秘密――。
「充電ゼロ」が迫る中、悠介の運命はいかに?
新感覚エンターテインメント、ここに開幕!
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劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~
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F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。
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白鷺白夜は、日本の対異世界部隊トワイライトの訓練校ネクストの生徒として、日常と青春を謳歌していた。
小説家になろう、カクヨムにて同時投稿しています。
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魔法省魔道具研究員クロエ
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8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。
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エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。
人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。
大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。
本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。
小説家になろうにも掲載してます。
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古代エジプト
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バトル×ミステリー
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