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四章 山の神の娘
周囲の反応①
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うだうだしてるから苦しいのよ。
どっちにしろ諦められないんだから、1回当たって砕けてきなさい!
そう無茶ぶりをしてお母さんは学校へ行くわたしを見送った。
これ、今日告白しないで帰ったらどうなるんだろう?
告白出来るかわからない分、そっちの方が気がかりだった。
なのに、家の外に出たらその風雅先輩がいるものだからもうどうしたらいいのか分からない状態。
「おはよう、美沙都」
頭の中は混乱しているのに、優しい春風のようなその笑顔に胸はトクンと鳴る。
「お、おはようございます、風雅先輩」
トクトクと高鳴る鼓動を感じながら、何とか挨拶を返した。
「……えっと、どうしたんですか? 朝から」
「それはもちろん美沙都の護衛だよ。みんなにも山の神の娘だって知られてしまったからな。基本的にはそばにいるつもりだ」
護衛という言葉に、使命のために来てくれたんだと分かってちょっと苦しくなる。
朝から会えて嬉しいのと、使命のためにそばにいると言われて苦しいのと。
どう表現したらいいのか分からない感情が胸に広がった。
「……ありがとうございます」
とりあえずお礼を口にすると、嬉しそうに甘く微笑まれる。
「穂高さまが目覚める前に知れ渡ってしまったから大変だろうけど、ちゃんと守るから」
「……はい」
その言葉でやっぱり風雅先輩は全部知っていたんだなって分かった。
わたしが山の神の娘だってことも、もっと前から気づいていたみたいだし……。
もしかしてはじめから気づいてたのかな?
ツキン、と小さく胸が痛む。
だとしたらこの優しい微笑みも、わたしだからじゃなくて守る対象だから。
大事な使命だから向けられているだけなのかも。
そんな思いに苦しくなる。
お母さんには自信を持てって言われたし、昨日はもう少し自信を持っていいのかもって思ったけれど……。
でも、その自信を持ち続けるのは簡単じゃなかったみたい。
だって、諦められなくても当たって砕けるのは怖いもん。
自然とうつむくわたしの頭に、風雅先輩はポンと優しく手を乗せた。
「どうした? 怖いか?」
大丈夫だとでも言うように頭を撫でる風雅先輩。
わたしはその手にやっぱりキュンとしながら、「いいえ」と答える。
好きだから、使命だけで守られるのは辛い。
そう言えれば良いんだけれど、言えなくて別のことを口にした。
「いつも守ってもらって、申し訳ないなって……」
「何だ、そんなこと。気にする必要はないぞ?」
頭を撫でていた手が、うつむいていたわたしの頬をスルッと撫でて離れる。
顔を上げると、とても……とても甘ったるい笑顔があった。
「俺は守るべき相手が美紗都で嬉しいから」
「え……?」
ドキン、と心臓が大きく跳ねる。
それはつまり、わたしだから嬉しいってこと?
ドキドキと早まる鼓動。
「あの、それって……」
こりずに期待してしまうわたしは、今の言葉がどう言う意味か確かめようとした。
自信、持っていいの?
でも。
ガラッとお隣の玄関のドアが開く音が聞こえ、丁度仁菜ちゃんが外に出てきてしまう。
そのまま仁菜ちゃんの前で風雅先輩に確かめるのは恥ずかしくて言葉を呑み込んでしまった。
「あ、おはよう仁菜ちゃん」
代わりに仁菜ちゃんに朝の挨拶をする。
「っ!」
途端、息を呑む仁菜ちゃん。
「お、おはようございます!」
……あれ? なんで敬語?
「あのっ、今まで馴れ馴れしくしててごめんなさい。美沙都ちゃんが……じゃなくて、美沙都さまが山の神の娘だって知らなかったから……」
「ちょっ、ちょっと待って?」
もしかして、山の神の娘だから態度を変えなきゃないとか思ってるの?
山の神の娘だからって、わたしはわたしなのに。
ちゃんとそれを伝えようとしたけれど、仁菜ちゃんはもう一度「すみませんでした」と謝ると走って先に行ってしまった。
「……美沙都、大丈夫か……?」
呆然とするわたしに、風雅先輩が心配そうに声を掛けてくれる。
ポケットの中からコタちゃんも「キー……」と顔を出していた。
「……大丈夫、です」
何とかそう口にしたけれど、心臓は嫌な感じにドクドク鳴っていた。
風雅先輩の気持ちを確かめるのも大事だけれど、仁菜ちゃんのことも放っておけない。
早く学校に行って、仁菜ちゃんとちゃんと話さなきゃ!
***
学校が近づくにつれて違和感が増してくる。
いつもと違う。
何だか凄く注目されている気がする。
校舎に入ると、周囲との距離も短くなったからヒソヒソと話されている声も聞こえてきた。
「あの子が山の神の娘? 本当なの?」
「娘がいたなんて聞いたことないんだけど」
「でも木霊が断言してたよ?」
「それに滝柳くんが今もそばにいるし……」
どうやら山の神の娘と知られてしまったからみたい。
お母さんから話も聞いて、山の神がわたしのお父さんだってことは確かみたいだけど……。
でもわたし自身は今までと何も変わらないのに。
そんな思いは教室に行って風雅先輩と別れるともっと強くなった。
『おはようございます!』
教室内にいたほとんどの人がわたしを見て緊張した様子で一斉に挨拶をしてくる。
しかも。
「鞄席までお持ちします」
席なんてすぐそこなのに。
「今日は少し暑いですね。扇ぎましょうか?」
そこまでしなくていいのに。
昨日までは普通のクラスメートだったのに、今日はまるで従者か何かみたい。
やだ、泣きそう……。
それでも泣いたって仕方ないし、ちゃんと話して分かってもらわなきゃって思ってた。
でも……。
「あ、美紗都さま。どうぞお席に」
かしこまった仁菜ちゃんがわたしの椅子を引くのを見て、堪えきれなくなった。
「うっ……ふえぇぇ……」
「ええ!? 泣いちゃったよ!?」
「そんな、何か気に入らないことでもありましたか?」
驚く仁菜ちゃんと慌てるみんな。
ちゃんと話をしようと思っていたのが台無しだよ。
でもこうなってしまったら、涙と一緒に吐き出さずにはいられなかった。
「みんなおかしいよぉ……ひっく……わたしは、なにも変わらないのにっ」
「ご、ごめん美紗都ちゃん! 謝るから、泣かないで?」
みんなが戸惑う中、仁菜ちゃんが真っ先に普段の調子で謝ってくれた。
でも、そのことに逆に安心したわたしはなおさら涙が止まらなくなる。
「ふっ……そういう、いつもの感じがいいよぉ~」
そのままわんわん小さな子供の様に泣いて、最終的にはみんなが『ごめんなさい』と謝りいつものように接すると約束してくれた。
ちゃんと話をするっていうのは出来なかったけれど、みんなが分かってくれたから結果オーライってやつなのかな?
って、思っていたんだけど……。
朝の会で先生が教室に入って教壇に立つと、表情を引き締めてわたしを見た。
「あーその。……美紗都さま、恐縮ですが――」
かしこまった物言いに先生も!? と思った矢先。
「せんせー」
お調子者の河内くんが手をあげて立ち上がる。
「そういうかしこまった言い方すると瀬里泣いちゃいますよー」
「んなっ!?」
それ言うの!?
「は? 泣くのか?」
しかも先生、それをわたしに確認しないで!
「えっと……その……」
いくら何でももう泣かないけれど、ここで泣きませんって言ったらかしこまった話し方のままになるかもしれないし……。
「う……はい……。なので、いつも通りでお願いします……」
「そ、そうか。分かった」
うわーん、恥ずかしくて泣きそうだよぉ!
しかもこのやり取りが広まったのか、かしこまって接するとわたしが泣いてしまうってことで周囲の様子も普段通りに戻って行った。
でもこんなおさまり方は不本意で……。
ううぅ……泣くんじゃなかった……。
ちょっと……いや、かなり後悔した。
どっちにしろ諦められないんだから、1回当たって砕けてきなさい!
そう無茶ぶりをしてお母さんは学校へ行くわたしを見送った。
これ、今日告白しないで帰ったらどうなるんだろう?
告白出来るかわからない分、そっちの方が気がかりだった。
なのに、家の外に出たらその風雅先輩がいるものだからもうどうしたらいいのか分からない状態。
「おはよう、美沙都」
頭の中は混乱しているのに、優しい春風のようなその笑顔に胸はトクンと鳴る。
「お、おはようございます、風雅先輩」
トクトクと高鳴る鼓動を感じながら、何とか挨拶を返した。
「……えっと、どうしたんですか? 朝から」
「それはもちろん美沙都の護衛だよ。みんなにも山の神の娘だって知られてしまったからな。基本的にはそばにいるつもりだ」
護衛という言葉に、使命のために来てくれたんだと分かってちょっと苦しくなる。
朝から会えて嬉しいのと、使命のためにそばにいると言われて苦しいのと。
どう表現したらいいのか分からない感情が胸に広がった。
「……ありがとうございます」
とりあえずお礼を口にすると、嬉しそうに甘く微笑まれる。
「穂高さまが目覚める前に知れ渡ってしまったから大変だろうけど、ちゃんと守るから」
「……はい」
その言葉でやっぱり風雅先輩は全部知っていたんだなって分かった。
わたしが山の神の娘だってことも、もっと前から気づいていたみたいだし……。
もしかしてはじめから気づいてたのかな?
ツキン、と小さく胸が痛む。
だとしたらこの優しい微笑みも、わたしだからじゃなくて守る対象だから。
大事な使命だから向けられているだけなのかも。
そんな思いに苦しくなる。
お母さんには自信を持てって言われたし、昨日はもう少し自信を持っていいのかもって思ったけれど……。
でも、その自信を持ち続けるのは簡単じゃなかったみたい。
だって、諦められなくても当たって砕けるのは怖いもん。
自然とうつむくわたしの頭に、風雅先輩はポンと優しく手を乗せた。
「どうした? 怖いか?」
大丈夫だとでも言うように頭を撫でる風雅先輩。
わたしはその手にやっぱりキュンとしながら、「いいえ」と答える。
好きだから、使命だけで守られるのは辛い。
そう言えれば良いんだけれど、言えなくて別のことを口にした。
「いつも守ってもらって、申し訳ないなって……」
「何だ、そんなこと。気にする必要はないぞ?」
頭を撫でていた手が、うつむいていたわたしの頬をスルッと撫でて離れる。
顔を上げると、とても……とても甘ったるい笑顔があった。
「俺は守るべき相手が美紗都で嬉しいから」
「え……?」
ドキン、と心臓が大きく跳ねる。
それはつまり、わたしだから嬉しいってこと?
ドキドキと早まる鼓動。
「あの、それって……」
こりずに期待してしまうわたしは、今の言葉がどう言う意味か確かめようとした。
自信、持っていいの?
でも。
ガラッとお隣の玄関のドアが開く音が聞こえ、丁度仁菜ちゃんが外に出てきてしまう。
そのまま仁菜ちゃんの前で風雅先輩に確かめるのは恥ずかしくて言葉を呑み込んでしまった。
「あ、おはよう仁菜ちゃん」
代わりに仁菜ちゃんに朝の挨拶をする。
「っ!」
途端、息を呑む仁菜ちゃん。
「お、おはようございます!」
……あれ? なんで敬語?
「あのっ、今まで馴れ馴れしくしててごめんなさい。美沙都ちゃんが……じゃなくて、美沙都さまが山の神の娘だって知らなかったから……」
「ちょっ、ちょっと待って?」
もしかして、山の神の娘だから態度を変えなきゃないとか思ってるの?
山の神の娘だからって、わたしはわたしなのに。
ちゃんとそれを伝えようとしたけれど、仁菜ちゃんはもう一度「すみませんでした」と謝ると走って先に行ってしまった。
「……美沙都、大丈夫か……?」
呆然とするわたしに、風雅先輩が心配そうに声を掛けてくれる。
ポケットの中からコタちゃんも「キー……」と顔を出していた。
「……大丈夫、です」
何とかそう口にしたけれど、心臓は嫌な感じにドクドク鳴っていた。
風雅先輩の気持ちを確かめるのも大事だけれど、仁菜ちゃんのことも放っておけない。
早く学校に行って、仁菜ちゃんとちゃんと話さなきゃ!
***
学校が近づくにつれて違和感が増してくる。
いつもと違う。
何だか凄く注目されている気がする。
校舎に入ると、周囲との距離も短くなったからヒソヒソと話されている声も聞こえてきた。
「あの子が山の神の娘? 本当なの?」
「娘がいたなんて聞いたことないんだけど」
「でも木霊が断言してたよ?」
「それに滝柳くんが今もそばにいるし……」
どうやら山の神の娘と知られてしまったからみたい。
お母さんから話も聞いて、山の神がわたしのお父さんだってことは確かみたいだけど……。
でもわたし自身は今までと何も変わらないのに。
そんな思いは教室に行って風雅先輩と別れるともっと強くなった。
『おはようございます!』
教室内にいたほとんどの人がわたしを見て緊張した様子で一斉に挨拶をしてくる。
しかも。
「鞄席までお持ちします」
席なんてすぐそこなのに。
「今日は少し暑いですね。扇ぎましょうか?」
そこまでしなくていいのに。
昨日までは普通のクラスメートだったのに、今日はまるで従者か何かみたい。
やだ、泣きそう……。
それでも泣いたって仕方ないし、ちゃんと話して分かってもらわなきゃって思ってた。
でも……。
「あ、美紗都さま。どうぞお席に」
かしこまった仁菜ちゃんがわたしの椅子を引くのを見て、堪えきれなくなった。
「うっ……ふえぇぇ……」
「ええ!? 泣いちゃったよ!?」
「そんな、何か気に入らないことでもありましたか?」
驚く仁菜ちゃんと慌てるみんな。
ちゃんと話をしようと思っていたのが台無しだよ。
でもこうなってしまったら、涙と一緒に吐き出さずにはいられなかった。
「みんなおかしいよぉ……ひっく……わたしは、なにも変わらないのにっ」
「ご、ごめん美紗都ちゃん! 謝るから、泣かないで?」
みんなが戸惑う中、仁菜ちゃんが真っ先に普段の調子で謝ってくれた。
でも、そのことに逆に安心したわたしはなおさら涙が止まらなくなる。
「ふっ……そういう、いつもの感じがいいよぉ~」
そのままわんわん小さな子供の様に泣いて、最終的にはみんなが『ごめんなさい』と謝りいつものように接すると約束してくれた。
ちゃんと話をするっていうのは出来なかったけれど、みんなが分かってくれたから結果オーライってやつなのかな?
って、思っていたんだけど……。
朝の会で先生が教室に入って教壇に立つと、表情を引き締めてわたしを見た。
「あーその。……美紗都さま、恐縮ですが――」
かしこまった物言いに先生も!? と思った矢先。
「せんせー」
お調子者の河内くんが手をあげて立ち上がる。
「そういうかしこまった言い方すると瀬里泣いちゃいますよー」
「んなっ!?」
それ言うの!?
「は? 泣くのか?」
しかも先生、それをわたしに確認しないで!
「えっと……その……」
いくら何でももう泣かないけれど、ここで泣きませんって言ったらかしこまった話し方のままになるかもしれないし……。
「う……はい……。なので、いつも通りでお願いします……」
「そ、そうか。分かった」
うわーん、恥ずかしくて泣きそうだよぉ!
しかもこのやり取りが広まったのか、かしこまって接するとわたしが泣いてしまうってことで周囲の様子も普段通りに戻って行った。
でもこんなおさまり方は不本意で……。
ううぅ……泣くんじゃなかった……。
ちょっと……いや、かなり後悔した。
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