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三章 負の感情
止まらない心音
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「あ、あの! 風雅先輩!? ちょっと、待ってください!」
足早に歩く風雅先輩について行くのが少し大変で、一度止まって貰えるように声を掛ける。
「どうしたんですか? 突然送ってくれるなんて……」
戸惑いを言葉にすると、ずっと無言で歩いていた風雅先輩はハッとして歩く速度を緩めてくれた。
眉をハの字にして「悪い」とわたしの顔を見て言う。
「ちょっと、余裕なくしてた」
「え?」
つないでいる手も優しく握りなおし、いつもの優しい眼差しになった風雅先輩。
その途端、戸惑いばかりだったわたしの心に熱が灯る。
トクトクと、鼓動が早まった。
「なんか、さ。美沙都と那岐が付き合ってるみたいな噂が聞こえてきて……イライラしてたんだ」
「な!? つ、付き合ってないです!」
その噂がもう風雅先輩にまで聞こえているなんて。
誤解されたくなくてすぐに否定した。
「ああ。ただの噂だから、きっと違うだろうなってのは分かってたんだけど……でも、嫌だったんだ」
「え?」
どうして、嫌だったんですか?
その疑問は、声に出そうとしてやめた。
何かを期待している自分に気づいたから……。
そうして言葉を詰まらせている間にも風雅先輩は話しを続ける。
「そうしてイライラしていたところにさっきの日宮先輩だろ? 怒りを耐えるのが精一杯だった」
そのまま強引に引っ張ってきて悪かったな、と謝ってくれる。
「いえ、それは……大丈夫なんですけど……」
どうしてさっきの煉先輩に怒っていたんですか?
その疑問も、喉の奥で止まる。
聞いて、もし期待していたものとは違ったら?
違っていなくても、変な風に誤解してしまったら?
そんな思いが頭を過ぎる。
心は熱が灯って今もドキドキしているのに、その気持ちの行きつく先を確かめるのが怖い。
だから、そのための言葉が出てこなかった。
「それにしてもどうして日宮先輩に嫁なんて言われてたんだ? 日宮先輩は霊力の高い女子を探してるはずだろ?」
わたしが何も言えないでいると、その疑問を投げ掛けられる。
「それは……わたしにもどうしてなのか分からないんですけど……」
そのことに関しては未だに理由がハッキリしない。
わたしは眉尻を下げて昨日あったことを一通り話した。
***
「美沙都の霊力が高い……か」
「はい。わたしはサトリだし、力だって感情が見えるだけだし……そんなことあるわけないと思うんですけど……」
最終的には相談という形になって話を終える。
「日宮先輩は霊力とかあやかしの気配とか、そういうのを感じ取るのが得意みたいだから間違ってるとも思えないけど……」
そうつぶやいて風雅先輩はわたしをジッと見る。
見定められているような目に少し緊張したけれど、すぐに困り笑顔になったのでわたしも力を抜く。
「やっぱり俺には分からないな。俺は守るための戦闘とかに特化してるから……」
「そうなんですか?」
「ああ、元々カラス天狗は戦ったりする方が得意だし。山の神が霊力を与えてくれたのは守りの力を追加するためって感じだったし」
「へぇ……」
そういえばさっきも煉先輩は風雅先輩のことを山の神の護衛って言っていたっけ。
山の神を守る存在ってことなのかな?
「ってことで美沙都の霊力が本当に高いかどうかは分からないな」
と、少し申し訳なさそうに言った風雅先輩に、わたしは「いいえ」と首を横に振った。
「きっと煉先輩の勘違いですよ。わたしの力は人それぞれの色の《感情の球》がどんな色を帯びるかで感情の変化を読み取るだけのものです。読み間違えることもあるし、やっぱり普通のサトリよりも劣ってると思うし」
自分で改めて口にすると本当に使えない力だなぁって思う。
本来のサトリなら言葉で聞こえてくるから間違えるってこともないし。
読み間違えるなら意味がないよなぁって思っちゃう。
「……人それぞれの色の、《感情の球》?」
でも、わたしの言葉に風雅先輩は足を止めて何故か驚いた顔をする。
「美沙都だけが見えるっていう《感情の球》は、みんな色が違うのか?」
「え? はい。多分、その人の本質みたいなものだと思うんですけど……風雅先輩?」
本気で驚いているようで、風雅先輩は口元を片手で覆って何かを呟いていた。
「人の本質を見抜く力……そうか、美沙都は……」
つぶやいた後、見開かれていた目が改めてわたしを見て細められる。
いつもの優しい、甘さを含んだような微笑み。
それに喜びが加わったような笑顔に、わたしの鼓動は一気に早くなった。
「っ! え? あの、風雅先輩?」
「ん?」
ん? じゃなくて!
「あ、あのっ。どうしてそんな顔するんですか?」
「そんなって、どんな?」
不思議そうに聞いて来るのに、とろけるような甘い笑顔はそのままで……。
勘違いしそうになる。
ドキドキと早まる心臓が、体ぜんぶを熱くしてるみたいで……。
つないでいる手からその体温が伝わってしまいそうなほど。
「だ、だめですよ。そんな優しい笑顔向けられたら……勘違いしちゃいそうになります」
これ以上期待しそうになることは止めて欲しい。
そう伝えたはずなのに……。
「何を、勘違いするんだ?」
追及されてしまう。
「それは、その……」
わたしのことを好きだと勘違いしそうになる、なんて……流石に口には出来ないよ。
もごもごと答えられないでいると、フッと笑うような音が聞こえる。
「勘違いしても良いのに……」
「……え?」
落ちてきたつぶやきにちゃんと風雅先輩を見ると、そこにはやっぱり優しくて甘い笑顔。
今のは、どういう意味?
聞き返したくて、でも答えを聞くのも怖くて、言葉に出せない。
ただ、ドキドキする心臓だけが治まってくれない。
どうしようも出来なくてただ見つめ合っていると、風雅先輩の方がまたわたしの手を引いて歩き出した。
「……帰ろうか」
今度は初めから歩調を合わせてくれる。
そんな少しのことにもトクンと胸が優しく鳴って……。
「このままじゃ、俺送り狼になりそうだから」
「えっ!?」
笑って言うその言葉に、またどういう意味なのかって心臓がバクバクしてしまう。
そんな止まらない心音に振り回されながら、わたしは風雅先輩に家まで送って貰った。
足早に歩く風雅先輩について行くのが少し大変で、一度止まって貰えるように声を掛ける。
「どうしたんですか? 突然送ってくれるなんて……」
戸惑いを言葉にすると、ずっと無言で歩いていた風雅先輩はハッとして歩く速度を緩めてくれた。
眉をハの字にして「悪い」とわたしの顔を見て言う。
「ちょっと、余裕なくしてた」
「え?」
つないでいる手も優しく握りなおし、いつもの優しい眼差しになった風雅先輩。
その途端、戸惑いばかりだったわたしの心に熱が灯る。
トクトクと、鼓動が早まった。
「なんか、さ。美沙都と那岐が付き合ってるみたいな噂が聞こえてきて……イライラしてたんだ」
「な!? つ、付き合ってないです!」
その噂がもう風雅先輩にまで聞こえているなんて。
誤解されたくなくてすぐに否定した。
「ああ。ただの噂だから、きっと違うだろうなってのは分かってたんだけど……でも、嫌だったんだ」
「え?」
どうして、嫌だったんですか?
その疑問は、声に出そうとしてやめた。
何かを期待している自分に気づいたから……。
そうして言葉を詰まらせている間にも風雅先輩は話しを続ける。
「そうしてイライラしていたところにさっきの日宮先輩だろ? 怒りを耐えるのが精一杯だった」
そのまま強引に引っ張ってきて悪かったな、と謝ってくれる。
「いえ、それは……大丈夫なんですけど……」
どうしてさっきの煉先輩に怒っていたんですか?
その疑問も、喉の奥で止まる。
聞いて、もし期待していたものとは違ったら?
違っていなくても、変な風に誤解してしまったら?
そんな思いが頭を過ぎる。
心は熱が灯って今もドキドキしているのに、その気持ちの行きつく先を確かめるのが怖い。
だから、そのための言葉が出てこなかった。
「それにしてもどうして日宮先輩に嫁なんて言われてたんだ? 日宮先輩は霊力の高い女子を探してるはずだろ?」
わたしが何も言えないでいると、その疑問を投げ掛けられる。
「それは……わたしにもどうしてなのか分からないんですけど……」
そのことに関しては未だに理由がハッキリしない。
わたしは眉尻を下げて昨日あったことを一通り話した。
***
「美沙都の霊力が高い……か」
「はい。わたしはサトリだし、力だって感情が見えるだけだし……そんなことあるわけないと思うんですけど……」
最終的には相談という形になって話を終える。
「日宮先輩は霊力とかあやかしの気配とか、そういうのを感じ取るのが得意みたいだから間違ってるとも思えないけど……」
そうつぶやいて風雅先輩はわたしをジッと見る。
見定められているような目に少し緊張したけれど、すぐに困り笑顔になったのでわたしも力を抜く。
「やっぱり俺には分からないな。俺は守るための戦闘とかに特化してるから……」
「そうなんですか?」
「ああ、元々カラス天狗は戦ったりする方が得意だし。山の神が霊力を与えてくれたのは守りの力を追加するためって感じだったし」
「へぇ……」
そういえばさっきも煉先輩は風雅先輩のことを山の神の護衛って言っていたっけ。
山の神を守る存在ってことなのかな?
「ってことで美沙都の霊力が本当に高いかどうかは分からないな」
と、少し申し訳なさそうに言った風雅先輩に、わたしは「いいえ」と首を横に振った。
「きっと煉先輩の勘違いですよ。わたしの力は人それぞれの色の《感情の球》がどんな色を帯びるかで感情の変化を読み取るだけのものです。読み間違えることもあるし、やっぱり普通のサトリよりも劣ってると思うし」
自分で改めて口にすると本当に使えない力だなぁって思う。
本来のサトリなら言葉で聞こえてくるから間違えるってこともないし。
読み間違えるなら意味がないよなぁって思っちゃう。
「……人それぞれの色の、《感情の球》?」
でも、わたしの言葉に風雅先輩は足を止めて何故か驚いた顔をする。
「美沙都だけが見えるっていう《感情の球》は、みんな色が違うのか?」
「え? はい。多分、その人の本質みたいなものだと思うんですけど……風雅先輩?」
本気で驚いているようで、風雅先輩は口元を片手で覆って何かを呟いていた。
「人の本質を見抜く力……そうか、美沙都は……」
つぶやいた後、見開かれていた目が改めてわたしを見て細められる。
いつもの優しい、甘さを含んだような微笑み。
それに喜びが加わったような笑顔に、わたしの鼓動は一気に早くなった。
「っ! え? あの、風雅先輩?」
「ん?」
ん? じゃなくて!
「あ、あのっ。どうしてそんな顔するんですか?」
「そんなって、どんな?」
不思議そうに聞いて来るのに、とろけるような甘い笑顔はそのままで……。
勘違いしそうになる。
ドキドキと早まる心臓が、体ぜんぶを熱くしてるみたいで……。
つないでいる手からその体温が伝わってしまいそうなほど。
「だ、だめですよ。そんな優しい笑顔向けられたら……勘違いしちゃいそうになります」
これ以上期待しそうになることは止めて欲しい。
そう伝えたはずなのに……。
「何を、勘違いするんだ?」
追及されてしまう。
「それは、その……」
わたしのことを好きだと勘違いしそうになる、なんて……流石に口には出来ないよ。
もごもごと答えられないでいると、フッと笑うような音が聞こえる。
「勘違いしても良いのに……」
「……え?」
落ちてきたつぶやきにちゃんと風雅先輩を見ると、そこにはやっぱり優しくて甘い笑顔。
今のは、どういう意味?
聞き返したくて、でも答えを聞くのも怖くて、言葉に出せない。
ただ、ドキドキする心臓だけが治まってくれない。
どうしようも出来なくてただ見つめ合っていると、風雅先輩の方がまたわたしの手を引いて歩き出した。
「……帰ろうか」
今度は初めから歩調を合わせてくれる。
そんな少しのことにもトクンと胸が優しく鳴って……。
「このままじゃ、俺送り狼になりそうだから」
「えっ!?」
笑って言うその言葉に、またどういう意味なのかって心臓がバクバクしてしまう。
そんな止まらない心音に振り回されながら、わたしは風雅先輩に家まで送って貰った。
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