クール天狗の溺愛事情

緋村燐

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二章 人気者の先輩たち

相談と過去

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「絶対に風雅先輩美沙都ちゃんのこと好きだって!」

 帰り道、仁菜ちゃんと並んで歩きながら断言される。

 ゴミ捨てが遅くなったことでまずその理由を聞かれて一通り話したら、真っ先にそう言われた。


「まさか、そんなわけないよ」

「もう! 美沙都ちゃん鈍感すぎじゃない? そんな状況にまでなったならほぼ確実でしょう?」

 あくまでも否定するわたしに仁菜ちゃんはじれったい! とジタバタする。

 《感情の球》を見なくてもよくわかるほどの感情表現をする仁菜ちゃんに、ふふっと笑ってしまう。

 そうして和みつつ、わたしはポツリと答える。


「……だって、勘違いしたくないんだもん」

「どういうこと?」

 純粋な疑問に、わたしはためらいつつも話しだした。

***

 小学五年生のとき、クラスに転入生が来た。

 かっこよくて、明るい性格だった彼はすぐにクラスどころか学年で一番の人気者になった。

 たまたま最初に隣の席になったわたしは、何かと彼に可愛がられていたと思う。

 よく頭を撫でられたり、話しかけられたり。

 恋とまではならなかったけれど、まんざらでもない気分だった。

 そのせいで他の女子に詰め寄られたこともあったけど、助けてくれたし。


 ……ただ。


『小っちゃくてわんこみたいに思ってただけだよ。女の子として好きなわけじゃないって』

 助けてくれたとき、そう言われた。


 《感情の球》を見て、優しいオレンジ色をされることがよくあった。

 親しみを表す色。

 その色がたまに愛情を示す薄いピンク色が混ざっていたから、もしかしてって思ってた。


 でも、勘違いだったんだ。

 そのあと街で見かけたカップルや夫婦の《感情の球》を見てみて、本当に違っていたって気づいたの。

 異性への愛情はもっとピンクの色が濃くて、それでいて優しい色合いだった。


 勝手に感情を読み取って、読み間違えて、ショックを受けて……。

 恥ずかしかった。

 あんな勘違いはもうしたくなかった。


 それからはむやみに《感情の球》を見るのもやめて、読み間違えそうな色のときは明確な判断をしないようにした。

 よくよく考えたら人の感情を勝手に読み取るのも失礼だよねって思い直したし。


 だから、どうしても対応に困ったときしか《感情の球》を見ないようにしている。


 風雅先輩の気持ちも、勘違いしたくないから初めて会ったとき以来見ていない。

 ……きっと、風雅先輩もわたしを小動物扱いしてるだけ。

 自分に言い聞かせるようにそう思うのに、握られた手の体温を思い出すとキュッと胸が苦しくなるのはどうしてだろう。

 その答えも出してはいけない気がして、疑問のまま終わらせた。

***

「うーん……」

 一通り話を聞いた仁菜ちゃんは難しい顔をしてうなる。


「分かってはいるんだ。ただ、わたしが怖がっているだけだって」

 でもまた勘違いをしてしまうんじゃないかと思うと一歩が踏み出せないの、と告げる。


「一歩を踏み出すのが怖いとか言ってる時点でもう気持ちは決まってる気がするけれど……」

「え?」

 小さくつぶやかれてちゃんと聞こえなかった。

 でも聞き返しても仁菜ちゃんは「なんでもない」と首を振る。


「とにかく分かったよ。そういう状態ならあたしが色々言ってもどうしようもないだろうし。そのうち変化もあるでしょ」

 そう言ってこの話を終わらせた仁菜ちゃんは、「それで?」とうながしてくる。

「相談したいことはそれとはまた別なんでしょう? 昼休みに何があったの?」

 聞かれて思い出した。


 そうだよ!

 ある意味今はそっちの方が重要かもしれない。

 わたしは昼にあった日宮先輩とのやり取りを一気に話した。


「……嫁……?」

「そう! 第一嫁候補とか言われてわけわからないの! わたしの霊力が一番強いとか言い出すし……あり得ないでしょう!?」

「確かにサトリの霊力が強いってのは聞いたことないね」

「だよね!?」

 仁菜ちゃんの同意にわたしは力を得たように頷いた。


「あやかしの最上位ともいえる鬼の日宮先輩が間違えるとは思えないけど……でも流石になぁ……?」


 仁菜ちゃんはうんうん唸って何かつぶやいていたけれど、一番の問題はそこじゃないから気にせず相談を続ける。

「とにかくそういうことだから、明日以降学校で日宮先輩に会ったらどうすればいいと思う?」

 そう、何はともあれ一番どうにかしなきゃいけないのはそのことだ。


「あー……会ったら普通に『嫁』とか言われそうな雰囲気だもんね」

 困り笑顔でそう言った仁菜ちゃんは、「うーん」と少し考えて頷いた。

「うん、もう会わないように逃げ続けるしかないんじゃないかな?」

「やっぱりそれしかないのー?」

 これぞ! というような良い解決方法は思い浮かばず、わたしはうなだれるしかなかった。
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