クール天狗の溺愛事情

緋村燐

文字の大きさ
上 下
9 / 26
二章 人気者の先輩たち

相談と過去

しおりを挟む
「絶対に風雅先輩美沙都ちゃんのこと好きだって!」

 帰り道、仁菜ちゃんと並んで歩きながら断言される。

 ゴミ捨てが遅くなったことでまずその理由を聞かれて一通り話したら、真っ先にそう言われた。


「まさか、そんなわけないよ」

「もう! 美沙都ちゃん鈍感すぎじゃない? そんな状況にまでなったならほぼ確実でしょう?」

 あくまでも否定するわたしに仁菜ちゃんはじれったい! とジタバタする。

 《感情の球》を見なくてもよくわかるほどの感情表現をする仁菜ちゃんに、ふふっと笑ってしまう。

 そうして和みつつ、わたしはポツリと答える。


「……だって、勘違いしたくないんだもん」

「どういうこと?」

 純粋な疑問に、わたしはためらいつつも話しだした。

***

 小学五年生のとき、クラスに転入生が来た。

 かっこよくて、明るい性格だった彼はすぐにクラスどころか学年で一番の人気者になった。

 たまたま最初に隣の席になったわたしは、何かと彼に可愛がられていたと思う。

 よく頭を撫でられたり、話しかけられたり。

 恋とまではならなかったけれど、まんざらでもない気分だった。

 そのせいで他の女子に詰め寄られたこともあったけど、助けてくれたし。


 ……ただ。


『小っちゃくてわんこみたいに思ってただけだよ。女の子として好きなわけじゃないって』

 助けてくれたとき、そう言われた。


 《感情の球》を見て、優しいオレンジ色をされることがよくあった。

 親しみを表す色。

 その色がたまに愛情を示す薄いピンク色が混ざっていたから、もしかしてって思ってた。


 でも、勘違いだったんだ。

 そのあと街で見かけたカップルや夫婦の《感情の球》を見てみて、本当に違っていたって気づいたの。

 異性への愛情はもっとピンクの色が濃くて、それでいて優しい色合いだった。


 勝手に感情を読み取って、読み間違えて、ショックを受けて……。

 恥ずかしかった。

 あんな勘違いはもうしたくなかった。


 それからはむやみに《感情の球》を見るのもやめて、読み間違えそうな色のときは明確な判断をしないようにした。

 よくよく考えたら人の感情を勝手に読み取るのも失礼だよねって思い直したし。


 だから、どうしても対応に困ったときしか《感情の球》を見ないようにしている。


 風雅先輩の気持ちも、勘違いしたくないから初めて会ったとき以来見ていない。

 ……きっと、風雅先輩もわたしを小動物扱いしてるだけ。

 自分に言い聞かせるようにそう思うのに、握られた手の体温を思い出すとキュッと胸が苦しくなるのはどうしてだろう。

 その答えも出してはいけない気がして、疑問のまま終わらせた。

***

「うーん……」

 一通り話を聞いた仁菜ちゃんは難しい顔をしてうなる。


「分かってはいるんだ。ただ、わたしが怖がっているだけだって」

 でもまた勘違いをしてしまうんじゃないかと思うと一歩が踏み出せないの、と告げる。


「一歩を踏み出すのが怖いとか言ってる時点でもう気持ちは決まってる気がするけれど……」

「え?」

 小さくつぶやかれてちゃんと聞こえなかった。

 でも聞き返しても仁菜ちゃんは「なんでもない」と首を振る。


「とにかく分かったよ。そういう状態ならあたしが色々言ってもどうしようもないだろうし。そのうち変化もあるでしょ」

 そう言ってこの話を終わらせた仁菜ちゃんは、「それで?」とうながしてくる。

「相談したいことはそれとはまた別なんでしょう? 昼休みに何があったの?」

 聞かれて思い出した。


 そうだよ!

 ある意味今はそっちの方が重要かもしれない。

 わたしは昼にあった日宮先輩とのやり取りを一気に話した。


「……嫁……?」

「そう! 第一嫁候補とか言われてわけわからないの! わたしの霊力が一番強いとか言い出すし……あり得ないでしょう!?」

「確かにサトリの霊力が強いってのは聞いたことないね」

「だよね!?」

 仁菜ちゃんの同意にわたしは力を得たように頷いた。


「あやかしの最上位ともいえる鬼の日宮先輩が間違えるとは思えないけど……でも流石になぁ……?」


 仁菜ちゃんはうんうん唸って何かつぶやいていたけれど、一番の問題はそこじゃないから気にせず相談を続ける。

「とにかくそういうことだから、明日以降学校で日宮先輩に会ったらどうすればいいと思う?」

 そう、何はともあれ一番どうにかしなきゃいけないのはそのことだ。


「あー……会ったら普通に『嫁』とか言われそうな雰囲気だもんね」

 困り笑顔でそう言った仁菜ちゃんは、「うーん」と少し考えて頷いた。

「うん、もう会わないように逃げ続けるしかないんじゃないかな?」

「やっぱりそれしかないのー?」

 これぞ! というような良い解決方法は思い浮かばず、わたしはうなだれるしかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

ハンナと先生 南の国へ行く

マツノポンティ さくら
児童書・童話
10歳のハンナは、同じ街に住むジョン先生に動物の言葉を教わりました。ハンナは先生と一緒に南の国へ行き、そこで先生のお手伝いをしたり、小鳥の友達を助けたりします。しかしハンナたちが訪れた鳥の王国には何か秘密がありそうです。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

拳法家 ウーミンリン

モモンとパパン
児童書・童話
この作品はフィクションです。 中国の誰も寄りつかない洞窟に、拳法家 ウーミンリンは一人 必殺拳の 習得にはげんでいました。 ミンリンには、絶対に倒さなければならない相手がいました。 その名は、ベイチェンホという男でした。 はたして、ミンリンはチェンホを倒すことができたのでしょうか?

ちびりゅうの ひみつきち

関谷俊博
児童書・童話
ともくんと ちびりゅうの ひみつきち づくりが はじまりました。 カエデの いちばん したの きのえだに にほんの ひもと わりばしで ちびりゅうの ブランコを つくりました。 ちびりゅうは ともくんの かたから とびたつと さっそく ブランコを こぎはじめました。 「がお がお」 ちびりゅうは とても たのしそうです。

処理中です...