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一章 あやかしの里
素敵な出会い②
しおりを挟む「わぁ!」
夕日に照らされた北妖の里を見渡して、感動した。
山に囲まれた、広がる田畑。
高いビルなんてない、開けた自然。
その一面が橙色に染まっている。
空から見渡すなんてなかなか出来ることじゃない。
景色に見惚れていると、風雅先輩が顔を寄せて聞いてきた。
「で? 美沙都の家はどこだ?」
「っ!」
すぐ近く、耳元で質問されてまたドキドキしてしまう。
風の音が強いから、それくらい近くないと聞こえないんだろうけれど……。
し、心臓に悪いよぉ!
口から心臓が出てきちゃうんじゃないかって思うくらいのドキドキを何とか抑えて、わたしは自分の家を探す。
土地勘がないから見つけられるか心配だったけれど、仁菜ちゃんの家の赤い屋根とわたしの家の青い屋根が並んでいるのは思っていたより目立っていてすぐに見つけられた。
「あっちの、青い屋根の家です。赤い屋根の隣の」
「……あそこか」
そうつぶやきが聞こえて、風雅先輩はわたしの家の方に飛んでいく。
高い所を飛ぶのはちょっと怖かったけれど、風雅先輩にしっかり抱きかかえられていたから安心感みたいなのもあった。
ドキドキしてしまうから、やっぱり心臓には悪かったけれど。
***
バサッと、ひときわ大きく翼をはためかせて風雅先輩はわたしを家の前におろしてくれる。
「ここであってたか?」
「はい。ありがとうございました」
まさか飛んでいくとは思わなかったけれど、歩くより早く帰ってこれた。
あんまり遅くなるとお母さんたちに心配かけちゃうし、これで良かったのかも。
「あ、美沙都ちゃん!?」
仁菜ちゃんの声が聞こえて見ると、丁度外に出てきたところだったのかすぐ近くに来てくれた。
「良かった、美沙都ちゃんのお母さんがちょっと遅いなって心配してたから。あたしもお手伝い終わったし、探しに行こうかと思って出てきたところだったんだよ?」
「そうなの? ごめんね。ありがとう」
謝罪とお礼を口にすると、仁菜ちゃんは恐る恐る風雅先輩に視線を向ける。
「……それで、なんで滝柳先輩と一緒なの?」
「あ、仁菜ちゃん風雅先輩のこと知ってるんだ?」
「そりゃあ有名だし……っていうか名前で呼んでるの!?」
何だかすごくビックリされたけれど、とりあえず簡単に山で迷ったことと風雅先輩に助けてもらったことを説明した。
「はぁ~……それで飛んで送ってもらった、と……」
話を聞いた仁菜ちゃんは驚いてそのままちょっと黙ってしまった。
「大丈夫そうだな」
話が一区切りついたところで風雅先輩がそう声をかけてくれる。
わたしは彼に向き直り、改めてお礼を言った。
「本当にありがとうございました」
「いや、俺も人間の街の話聞かせてもらって楽しかったし」
なんて話をしていると、わたしの手の中から木霊が抜け出してまたスルスルと肩に移動した。
「あ、そうだ。この子連れてきちゃいましたね……どうしよう?」
今から帰しに行くとなると暗くなるし、何よりまた迷ったら困る。
「いいよ、俺が帰しておく。ほら、おいで」
そう言って風雅先輩が手を差し出したけれど、木霊は行きたくないとでも言うかのようにわたしの顔の方にすり寄る。
「どうしたの? 山に帰らないの?」
聞くと、そのまま頬にスリスリされた。
う~ん、本当にかわいい!
思わずわたしもスリスリすると、フッと風雅先輩にまた笑われてしまう。
「よっぽど気に入られたんだな。まあ、とりあえずしばらくは一緒にいさせてやってくれ」
「いいんですか? でも世話とか……何食べるんでしょう?」
「コイツも帰りたくなさそうだしな。木霊は山の神の霊力を直接吸収して生きてるから特に何も食べなくて大丈夫だよ」
「そうなんですか……」
驚きとともに感心していると、風雅先輩がまたわたしの頭にポンッと手を乗せる。
「じゃあ、また学校でな」
「はい、ありがとうございました!」
そうして別れの言葉を交わしあうと、風雅先輩はまた飛んで帰って行った。
しばらくその姿を見ていたけれど、ハッとした仁菜ちゃんに掴みかかられる。
「美沙都ちゃん! どういうこと? 滝柳先輩と何があったの!?」
仁菜ちゃんの勢いにビックリしつつも、わたしはもう少し詳しく話した。
「滝柳先輩があんな風に笑うところはじめて見たよ」
すると呆然としたように驚いた仁菜ちゃんに風雅先輩のことを教えられる。
小学生のころからクールで、男友達と話しているときくらいしか笑ったところもあまり見たことがないんだそうだ。
それにあやかしとしても特別で、生まれる前から山の神様に直接霊力を与えられたとかで他のあやかしよりも強いんだって。
そんな風雅先輩はやっぱり女子に大人気。
クールなところもカッコイイって告白した人もたくさんいるとか。
でもことごとく玉砕。
そんな風雅先輩にあんな風に微笑まれて、しかもお姫様抱っこで一緒に空を飛んだとか知られたら……。
「ちょっと、マズイかな?」
「ちょっとどころじゃないと思うよ?」
「あ、ははは……」
笑って誤魔化しながらも、秘密にしようって言う仁菜ちゃんの言葉にうなずいたのだった。
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