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月を狩る者狩られる者
~嫉妬~①
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図書室で資料をじっくり読んでいたら、いつの間にかお昼を過ぎていた。
朔夜、先に来ちゃってるかな?
ちゃんと約束はしてないし、朔夜が勝手に決めただけだけど、私は言われていた通り喫茶店に向かう。
だって仕方ないでしょう?
帰る場所は朔夜のところしか無いんだから。
朔夜にそう仕向けられたと思うと、怒りに似た気持ちがわいてくる。
でもどうしようもない。
頼みだった協会は全くあてにならなかったし。
「結局は自分次第ってことか……」
はぁ……と思わずため息が漏れた。
でも……。
「でも、朔夜がいたからあの事件任せて貰えたのよね……」
それを思うとかなり複雑な心境になる。
いや、そこら辺のこと考えるのはもうよそう……。
考えたって仕方ない。
とにかく、朔夜と合流したらこの事件の事を話して協力して貰わないと。
素直に協力してくれるかどうかはわからないけど、佐久間さんにあれほど念を押されたのだから伝えない訳にはいかない。
「……でも、無理そうだよね」
眉間に軽くしわを寄せ、蔑む様に見下ろしてくる朔夜の顔が浮かぶ。
その顔で、きっと「何故俺がそんなことしなきゃならないんだ?」とか言いそう。
朔夜とは会ってまだ数日しか経っていないけれど、あの俺様で唯我独尊気味の性格は結構分かりやすい。
分かりたくは無いけれど、分かりやすい。
朔夜がどんな反応をするか想像してしまうと、段々話したくなくなってきた。
佐久間さんには悪いけれど、朔夜に内緒で一人で調査を初めてしまおうかと思ってしまう。
「って、そういうわけにもいかないか……」
仮にも協会本部の部長の指示だ。
逆らう訳にはいかない。
「はぁ~……」
今度は重く長いため息を吐きながら、私は朔夜が待っているであろう喫茶店にゆっくり足を進めた。
***
喫茶店が見えてきて、朔夜の姿を探す。
朔夜は遠目からでも目立つからすぐに見つかった。
テラスの方にいるから良く見える。
でも、そこに居たのは朔夜だけじゃなかった。
朔夜の向かいに、美女が座っていたのだ。
二人は楽しそうに歓談している。
私は、五メートルほど離れたところで立ち止まり、その様子をただただ見ていた。
美男美女でお似合いの二人。
絵になる風景。
ねえ朔夜、その人は誰?
今一番言いたいセリフ。
そして、今一番言いたくないセリフ。
何故なら、そのセリフに乗せようとしている感情に気付きたくなかったから。
小さく芽吹いたこの感情は、まるで小さな竜巻のように私の心をかき乱そうとしている。
私は突っ立ったまま、それを抑えようとしていたけれど……。
視線の先の朔夜が、美女の頬に指先で触れた。
顔の線を伝って、顎を持ち上げる。
その親指が、唇をなぞった。
「……っ!」
もう、見ていられなかった。
胸が苦しい。
息がちゃんと吸えない。
苦しくて、涙がにじんだ。
私はその激しい感情に耐えきれなくて、その場を離れようとする。
なのに……。
「あっれ~? 君どうしたの? 泣きそうな顔してるよ~。俺が慰めてあげようか?」
嫌に明るい声が目の前に立ち塞がった。
知らない男性。
その軽そうな風貌と口調でナンパだと分かる。
何でこんな時にナンパが……。
「どいて、私今すぐここから離れたいの」
苦い顔をして突っぱねた。
まともに相手なんかしてられない。
「そっか~じゃあ何処行く?」
私の言葉を聞いてないのか、それとも聞いていたのに無視したのか。
ナンパ男はそう言って私の肩を抱いてきた。
なにこのナンパ。しつこい!
「離してよ!」
朔夜がこっちに気付いちゃうじゃない!
気付いていないか確認しようと、横目で朔夜の方を見る。
すると朔夜は、気付いて居ないどころかむしろこっちに近づいて来ているところだった。
わー来た!
「ちょっ、本当に離して」
「ん? 何、あの男から逃げてんの?」
ナンパ男が私の視線の先を見て、察して言った。
「あーもう、そうよ!」
私はもうやけっぱちで叫ぶ。
今はナンパ男の事より、朔夜の顔を見たくない気持ちの方が強かった。
「じゃあついて来いよ。撒いてやる」
「へ? はあ⁉」
私の返事も聞かずにナンパ男は私の手を引いて走る。
引っ張られて転びそうになった。
転ばないためには一緒に走るしかなくて、私は仕方なくナンパ男について行った。
「望!」
後ろで朔夜の声が聞こえたけど、私は振り返りもせず無視した。
ずっと手を引かれて走って、ずいぶんと入り込んだ場所で止まる。
私は息を整えながらナンパ男に言った。
「とりあえずは、ありがとう……でももういいから。手、離して」
「それはダメだね。あんたをある人のところまで連れて行かなきゃならない」
ナンパ男はそう言うと、私を引き寄せ抱き上げた。
「なっ⁉ ちょっと!」
抗議しようとしたら、顔が近づいて来る。
「何をっ……⁉」
キスされると思った。
でもナンパ男は私の顔を逸れ、首筋にその顔を埋めた。
「触り心地良さそうな肌してるぜ。あの人のモノじゃなかったら今すぐ抱いてやるのに」
耳元で囁かれ、首筋に息がかかる。
熱い吐息は、私に恐怖を覚えさせた。
朔夜、先に来ちゃってるかな?
ちゃんと約束はしてないし、朔夜が勝手に決めただけだけど、私は言われていた通り喫茶店に向かう。
だって仕方ないでしょう?
帰る場所は朔夜のところしか無いんだから。
朔夜にそう仕向けられたと思うと、怒りに似た気持ちがわいてくる。
でもどうしようもない。
頼みだった協会は全くあてにならなかったし。
「結局は自分次第ってことか……」
はぁ……と思わずため息が漏れた。
でも……。
「でも、朔夜がいたからあの事件任せて貰えたのよね……」
それを思うとかなり複雑な心境になる。
いや、そこら辺のこと考えるのはもうよそう……。
考えたって仕方ない。
とにかく、朔夜と合流したらこの事件の事を話して協力して貰わないと。
素直に協力してくれるかどうかはわからないけど、佐久間さんにあれほど念を押されたのだから伝えない訳にはいかない。
「……でも、無理そうだよね」
眉間に軽くしわを寄せ、蔑む様に見下ろしてくる朔夜の顔が浮かぶ。
その顔で、きっと「何故俺がそんなことしなきゃならないんだ?」とか言いそう。
朔夜とは会ってまだ数日しか経っていないけれど、あの俺様で唯我独尊気味の性格は結構分かりやすい。
分かりたくは無いけれど、分かりやすい。
朔夜がどんな反応をするか想像してしまうと、段々話したくなくなってきた。
佐久間さんには悪いけれど、朔夜に内緒で一人で調査を初めてしまおうかと思ってしまう。
「って、そういうわけにもいかないか……」
仮にも協会本部の部長の指示だ。
逆らう訳にはいかない。
「はぁ~……」
今度は重く長いため息を吐きながら、私は朔夜が待っているであろう喫茶店にゆっくり足を進めた。
***
喫茶店が見えてきて、朔夜の姿を探す。
朔夜は遠目からでも目立つからすぐに見つかった。
テラスの方にいるから良く見える。
でも、そこに居たのは朔夜だけじゃなかった。
朔夜の向かいに、美女が座っていたのだ。
二人は楽しそうに歓談している。
私は、五メートルほど離れたところで立ち止まり、その様子をただただ見ていた。
美男美女でお似合いの二人。
絵になる風景。
ねえ朔夜、その人は誰?
今一番言いたいセリフ。
そして、今一番言いたくないセリフ。
何故なら、そのセリフに乗せようとしている感情に気付きたくなかったから。
小さく芽吹いたこの感情は、まるで小さな竜巻のように私の心をかき乱そうとしている。
私は突っ立ったまま、それを抑えようとしていたけれど……。
視線の先の朔夜が、美女の頬に指先で触れた。
顔の線を伝って、顎を持ち上げる。
その親指が、唇をなぞった。
「……っ!」
もう、見ていられなかった。
胸が苦しい。
息がちゃんと吸えない。
苦しくて、涙がにじんだ。
私はその激しい感情に耐えきれなくて、その場を離れようとする。
なのに……。
「あっれ~? 君どうしたの? 泣きそうな顔してるよ~。俺が慰めてあげようか?」
嫌に明るい声が目の前に立ち塞がった。
知らない男性。
その軽そうな風貌と口調でナンパだと分かる。
何でこんな時にナンパが……。
「どいて、私今すぐここから離れたいの」
苦い顔をして突っぱねた。
まともに相手なんかしてられない。
「そっか~じゃあ何処行く?」
私の言葉を聞いてないのか、それとも聞いていたのに無視したのか。
ナンパ男はそう言って私の肩を抱いてきた。
なにこのナンパ。しつこい!
「離してよ!」
朔夜がこっちに気付いちゃうじゃない!
気付いていないか確認しようと、横目で朔夜の方を見る。
すると朔夜は、気付いて居ないどころかむしろこっちに近づいて来ているところだった。
わー来た!
「ちょっ、本当に離して」
「ん? 何、あの男から逃げてんの?」
ナンパ男が私の視線の先を見て、察して言った。
「あーもう、そうよ!」
私はもうやけっぱちで叫ぶ。
今はナンパ男の事より、朔夜の顔を見たくない気持ちの方が強かった。
「じゃあついて来いよ。撒いてやる」
「へ? はあ⁉」
私の返事も聞かずにナンパ男は私の手を引いて走る。
引っ張られて転びそうになった。
転ばないためには一緒に走るしかなくて、私は仕方なくナンパ男について行った。
「望!」
後ろで朔夜の声が聞こえたけど、私は振り返りもせず無視した。
ずっと手を引かれて走って、ずいぶんと入り込んだ場所で止まる。
私は息を整えながらナンパ男に言った。
「とりあえずは、ありがとう……でももういいから。手、離して」
「それはダメだね。あんたをある人のところまで連れて行かなきゃならない」
ナンパ男はそう言うと、私を引き寄せ抱き上げた。
「なっ⁉ ちょっと!」
抗議しようとしたら、顔が近づいて来る。
「何をっ……⁉」
キスされると思った。
でもナンパ男は私の顔を逸れ、首筋にその顔を埋めた。
「触り心地良さそうな肌してるぜ。あの人のモノじゃなかったら今すぐ抱いてやるのに」
耳元で囁かれ、首筋に息がかかる。
熱い吐息は、私に恐怖を覚えさせた。
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