月を狩る者狩られる者

緋村燐

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月を狩る者狩られる者

~共生~

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「私、ちょっと出掛けたいんだけど」
 ココアを飲みながらさりげなく言う。

「どこにだ?」
 その質問の返答には少し迷ったけれど、別に場所は知られても平気なので素直に答える。

「ハンター協会本部。色々とやることがあるの」
 朔夜のことをどうにか対処してもらうつもりなのを知られない様に、ココアを飲みごまかした。

 朔夜はすぐには何も言わず、私がココアを飲みほしたころ嘲笑あざわらう。

「協会に俺をどうにかしてくれと頼み込むつもりか?」
「……」

 私は引きつる口元をカップで隠す。
 何でバレるの?

「バレないとでも思ったか?」
 まるで心を読んでいるかの様にタイミングが良い。

「俺は人生経験豊富だからな。ちょっとした仕草で分かるさ」
「……」

 ぐうの音も出ないかった。

 どうしよう……これじゃあ邪魔されちゃうじゃない。

「……まあいい、頼めばいいさ」

 邪魔をされると思っていた私は、思いもよらない朔夜の言葉にキョトンとした。

「え? いいの?」
「別に構わないさ。無駄なことは分かりきっているからな」
「……何で無駄なのよ」

 実行に移る前に無駄と断言され、出鼻をくじかれた気分だ。

「……俺が他の吸血鬼とは違うことくらいもう分かっているな?」
 私は昨晩の朔夜を思い出し首肯する。

「俺が本気を出せば協会なんか簡単に潰せる。それをしないのはただ単にその必要がないからだ」
 私は朔夜の話を黙って聞いていたが、信じられない気持ちでいっぱいだった。

 確かにタダ者ではないと思っていたけれど、吸血鬼の脅威となっているはずのハンター協会を簡単に潰せる程とは思ってなかった。
 朔夜が嘘を言っているとしか思えなかったけれど、彼を見たところそんな様子は全くない。

「もし協会が俺のゲームの邪魔をするというなら、俺は容赦無く協会を潰す」
「だから協会は私一人の為だけにそんな危険は犯さないってこと?」
「そうだ。一人より大勢を取るのが上の者の判断だからな」

 確かに朔夜の言う通りだった。
 ただ、朔夜が本当にそれだけの力を持っていればの話だが。

 私はまだ信じられなかった。
 だから疑いの眼差しで見ていたんだろう。朔夜が呆れたようにため息をつき話す。

「そんなに疑うのなら実際に頼んでみればいい」
「……そうするわ。それに他にもやることがあるのは本当だもの」
「そうか。じゃあとりあえず今日はここで大人しくしていろ」
「へ?」

 すぐにでも行く気満々だった私は、朔夜の指示に間抜けな声で答えた。

「当然だろう? それともお前、その格好で外に出るつもりか?」

 そう言われて思い出した。
 そうだった、私の服は全部朔夜が捨てたから着るものが無いんだ。

「これから買ってきてやるから、お前は今日はここにいて協会に行くのは明日にしておけ」
「……分かった……」

 仕方がない。
 服を買うためにも外に出なきゃならないから、全部朔夜に任せるしかない。

 ……いや、ちょっと待って。

「……ちなみにどんな服買ってくるつもりなの?」

 さっそく買いに行こうと外出の準備をしている朔夜に聞いた。
 何だか嫌な予感がする。

「心配するな。ちゃんと良い服を買ってきてやる」
「や、質じゃなくてデザインの話」
「デザイン?……そうだな、欲情的なものがいいな。肌の露出が多いやつだ」

 嫌な予感的中ー!

 私は心の中で叫び、即座に頼み込む。

「普通のにして!」
「普通の? お前が持っていたようなやつか?」
「そう!」

 そういうものであれば言う事はない。

「じゃあ却下だ。俺が何でお前の服を捨てたと思ってる」
「うぐっ……」

 そういえば地味だとか言ってたっけ。
 でもだからって欲情的なのなんか着れないよ!

「で、でも……」

 何とか、もう少し普通のを買ってきて貰おうと思って、反論しようとした私。
 でも朔夜は反論すら許してはくれなかった。

「もう何も言うな。お前が何を言っても、俺の好みが変わることはない」
「そんな!」

 私の叫びは無視され、朔夜はベッドルームを出ていく。
 ベッドの上で呆然と固まっている私の耳に、玄関のドアが閉まる音が僅かに聞こえてきた。

 こんな調子で、私と朔の同棲生活が始まったのだった……。
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